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落内円は落ちている  作者: 七風


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勇者会議10

「……というか、強欲王都とゴールを繋いだのよね?」


 嫉妬の勇者キシリアが、ふと思い出したように顔を上げた。


「だったら、色欲にも繋げばいいじゃない!」


『おお?』

『確かに、転移魔法陣があれば大陸間の移動が楽になるな』

『キシリア様、急に話が具体的になったw』

『さっきまでズルいって怒ってた人とは思えない』


「ああ、それですか」


 アナスイは、特に驚いた様子もなく頷いた。


「確かに、強欲王都からゴールへの転移魔法陣は開通していますわ。ただ、あれは単純にエキドナが魔法陣を設置した、というだけの話ではありませんの」


「え? どういうことよ?」


「まず、怠惰側の許可をエレノア王女殿下が取られています。そのうえで、正式にエキドナへ依頼があり、それから強欲と怠惰の両国間で契約を結んだ、という流れですわ」


「……は?」


 キシリアの表情が固まった。


「ちょ、ちょっと待ちなさい。つまり、王女殿下が許可して、国から正式に依頼して、両国で契約まで結んだってこと?」


「ええ。そういうことですわね」


「じゃあ、私がエキドナに頼んで、色欲にも繋いでもらうっていうのは……?」


「難しいでしょうね。国同士の取り決めが必要になりますもの。個人で『うちにも繋いでくださいな』とお願いして、どうにかなる話ではありませんわ」


「そ、そんな……」


 キシリアは肩を落とした。


『そりゃそうだw』

『個人のお願いで国際転移網が増設されたら怖いわw』

『技術の問題だけじゃなくて外交の問題なのか』

『王女殿下の許可が必要なのね』


「まあ、確かにそうよね……」


 キシリアは渋々納得したように頷いた。


 そこへ、憤怒の勇者が静かに口を開いた。


「……当然だろう。大陸間を直接繋ぐということは、移動を便利にするだけの話ではない。正式な許可もなく設置すれば、他国から侵入される危険性も生じる」


「そ、そうか……!」


 傲慢の勇者が目を見開いた。


「転移魔法陣があれば、船で長い時間をかけて移動しなくても、いきなり王都に来られるってことだもんな。許可もなくそんなもんを設置されたら、いつ侵略されるか分からねえってわけかよ!」


「そういう可能性もある、ということですわね」


 アナスイは落ち着いた口調で続けた。


「もちろん、実際の危険性は魔法陣の仕組みや利用条件にもよりますわ。ただ、国境を越える移動手段を新しく設ける以上、国同士で管理方法を決めておく必要があるのでしょうね」


「なるほどな……。便利だから繋げればいい、って単純な話じゃないのか」


 傲慢の勇者も、今度は素直に頷いた。


『憤怒、珍しくまともな説明をしてる』

『いや、普段からまともだろw』

『便利な交通網であると同時に、安全保障の問題でもあるわけだ』

『エキドナの技術力だけでは決められないんだな』


「……でも!」


 キシリアは、何かを思いついたように再び身を乗り出した。


「それなら、色欲の国から怠惰に正式に相談すればいいんでしょう? 国同士で話を進めれば、可能性はあるわよね?」


「可能性だけなら、あるのではありませんか?」


 アナスイは微笑んだ。


「ただし、両国が合意できるかどうかは別の話ですわ。転移魔法陣を設置する費用もありますし、設置後の管理や通行料の扱いも決めなければなりませんもの」


「費用……」


 キシリアはぴたりと動きを止めた。


 そして、ゆっくりとアナスイを見た。


「……それで、費用はどのくらいなのよ?」


「五万金貨らしいですわね」


「ごっ……!?」


 キシリアが絶句した。


「五万金貨!?」


 傲慢の勇者まで、思わず大声を上げる。


『五万金貨!?』

『急に国家予算の話になったw』

『個人でどうにかできる金額じゃないな』

『キシリア様、さっきまでの勢いが消えたぞ』


「ちょ、ちょっと待って! 五万金貨って、そんなにするの!?」


「大陸間を直接繋ぐ魔法陣ですもの。それくらいは必要になるのでしょうね」


 アナスイは涼しい顔で答えた。


「ですが、強欲と怠惰は船で移動すると一か月はかかりますもの。両国を行き来する商人や旅行者にとっては、大きな時間短縮になりますわね」


「一か月が一瞬になるのか……」


 傲慢の勇者が唸る。


「そりゃ便利だろうけどよ……。五万金貨か……」


「そして、通行料は一回につき金貨一枚。通行料は、通った先の国が徴収する仕組みらしいですわ」


「……ん?」


 キシリアが顔を上げた。


「今、通行料って言った?」


「ええ。魔法陣を利用するたびに、金貨一枚ですわね」


「一回通るごとに、金貨一枚……?」


 キシリアは指を折り始めた。


「百人なら百金貨。千人なら千金貨。一万人なら一万金貨……」


「そうなりますわね」


「五万人が利用すれば、五万金貨……!」


 キシリアの目が、みるみる輝き始めた。


「つまり、五万人が利用した時点で、設置費用の元が取れるってことじゃない!」


『計算が早いw』

『さっきまで五万金貨に絶句してたのにw』

『商売の話になった途端、元気になる嫉妬様』

『ただし維持費とか管理費もあるのでは?』


「ええ。ただし、実際には魔法陣の維持管理費や運営費も考える必要があるでしょうね。通行料がそのまま全額利益になるとは限りませんわ」


 アナスイが補足すると、キシリアは一瞬だけ考え込んだ。


「……それでもよ!」


 すぐに顔を上げ、力強く言い放つ。


「一度設置してしまえば、その後は通行する人がいる限り、継続的に収入が入ってくるってことでしょう!? しかも、船で一か月もかかる距離を短縮できるなら、利用したい人は大勢いるはずよ!」


「確かに、商人にとっては魅力的だろうな」


 傲慢の勇者も頷いた。


「移動にかかる時間が減れば、その分だけ商売も早く回せる。商品を運ぶ時間も短縮できるし、人の往来も増えるかもしれねえ」


「そういうことですわね。通行料による収入だけでなく、交易や人の交流が活発になる可能性もありますわ」


 アナスイは穏やかに微笑んだ。


「もっとも、どの程度の利用者が見込めるかは、実際に運用してみなければ分かりませんけれど」


『移動時間の短縮だけでも経済効果は大きそう』

『一か月の船旅がなくなるなら、商人は喜ぶだろうな』

『通行料だけじゃなくて交易も活発になる可能性があるのか』

『これは国同士で検討する価値はありそう』


「……なるほどね」


 キシリアは腕を組み、真剣な顔で考え込んだ。


「ただ便利だから欲しい、というだけじゃ駄目なのね。国同士で許可を取って、費用を用意して、通行料や安全管理についても決める必要がある……」


「そういうことですわ」


「……よし!」


 キシリアは勢いよく立ち上がった。


「色欲の国に戻ったら、まずは上層部に相談してみるわ! 大陸間の転移魔法陣について、正式に検討する価値があるって!」


「おお、ようやく真面目な話になったな!」


 傲慢の勇者が感心したように声を上げた。


「ただし、導入が決まったわけではありませんわよ?」


「分かってるわよ! まずは相談するだけ!」


 キシリアはきっぱりと言い切った。


 その表情には、先ほどまでの悔しさとは違う、明確な目的が浮かんでいた。


 エキドナの転移魔法陣は、単に遠くへ移動するための便利な道具ではない。


 国同士の合意があれば、人や物の流れを大きく変える可能性を持つ設備なのだ。


 そして、その設置費用を回収できるだけの利用者が集まるなら、通行料は長期的な収入源にもなり得る。


『今日の勇者会議、いつの間にか国際交通網の検討会になってるw』

『最初は不法入国疑惑だったのに、経済効果の話になったぞ』

『エキドナの技術、便利すぎると国の政策まで変わりそうだな』

『次はどの国が動くんだろう……』


 配信画面に流れるコメントを見ながら、アナスイは楽しそうに微笑んだ。


「ふふっ。もし本当に話が進むのでしたら、今度は国同士での正式な相談になりますわね」


「ええ。……そのときは、ぜひエキドナにも正式に依頼してちょうだい!」


 キシリアは、今度こそ勢いよく宣言した。


 ただし、五万金貨という初期費用を誰が負担するのか。


 そして、色欲と怠惰の両国が本当に合意できるのか。


 そこから先は、まだ何一つ決まっていなかった。

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