勇者会議9
「それについては、転移そのものはしていますが、強欲王都への訪問手続きは、怠惰の王女殿下であるエレノア様が行っていますわね」
アナスイが、思い出したように口を挟んだ。
「ですので、正式な訪問として扱われているようですわ。不法入国というわけではありませんの」
『あ、ちゃんと手続きしてたんだ』
『王女殿下が手続きしてるのかよ!』
『転移で来るのに入国手続きは普通にするんだw』
『怠惰の王女、仕事してるなあ』
『いや、王女が直接手続きしてる時点で規模がおかしいだろw』
「なんだ、ちゃんと手続きしてたのか……」
傲慢の勇者は、少しだけ残念そうな顔をした。
「不法入国じゃないっつーことか」
「ええ。少なくとも、今回の強欲王都への訪問については、そういう扱いのようですわね」
アナスイは優雅に頷いた。
しかし、嫉妬の勇者キシリアは納得した様子もなく、机に両手をついた。
「いやいやいや! そういう問題じゃないでしょう!?」
「えっ、まだ何かあるんですか?」
シルヴァが戸惑いながら尋ねる。
「転移してる時点で今さらよ! ズルいわ!」
『結局そこかwww』
『正式な手続きしててもズルい判定なの草』
『移動時間ゼロみたいなものだもんな』
『普通の勇者は船や馬車で移動してるんですが!?』
『キシリア様、羨ましいだけでは?』
「べ、別に羨ましくなんかないわよ!」
キシリアは即座に反論した。
「ただ、全大陸に転移ポイントがあるなんて、明らかに移動の自由度が違いすぎるでしょう!? こっちは大陸を移動するだけでも、日程を組んで、移動手段を確保して、いろいろ準備しなきゃいけないのよ!?」
「それは……確かにそうですね」
シルヴァも、そこは否定できなかった。
「僕も強欲大陸で活動するときは、移動のことも考えて予定を組んでいますから。転移で移動できるのは、非常に便利だと思います」
「ほら! 本人も認めてるじゃない!」
「いえ、便利だという話をしただけですよ!?」
「同じことでしょうが!」
キシリアは勢いよくシルヴァを指差した。
その横で、傲慢の勇者も腕を組み、深刻そうな顔をしている。
「……つまり、エキドナの連中は、他の大陸に行こうと思えば、俺たちが移動に費やしている時間を大幅に短縮できるわけか」
「転移ポイントの仕組みや利用条件にもよるでしょうけれど、可能性はありますね」
シルヴァが慎重に答えた。
「くそっ! ますます羨ましいじゃねえか!」
「あんた、羨ましいって言ってるじゃない!」
「うるせえ! お前だってズルいって言ってただろ!」
「私は情報収集の観点から問題点を指摘しているのよ!」
『便利なのは認めるんだw』
『情報収集という名の羨望』
『エキドナ、また知らないところで勇者たちの常識を破壊してる』
『アナスイさん、さらっと説明しただけなのに大騒ぎになってるw』
アナスイは騒ぎを眺めながら、口元に手を添えて微笑んだ。
「ふふっ。ですが、転移できるからといって、どこへでも無断で入ってよいというわけではありませんわ。今回のように、必要な手続きはきちんと行っているようですもの」
「それは分かってるわよ!」
キシリアは即答した。
「分かってるけど、ズルいものはズルいの!」
「……その理屈は、少々強引ではありませんこと?」
「うるさいわね! 便利なものを便利だと言って何が悪いのよ!」
「便利だと認めているじゃねえか!」
「傲慢、あなたは黙ってなさい!」
「なんで俺だけ怒られるんだよ!?」
勇者会議の会場に、再び言い争う声が響いた。
その様子を見ながら、憤怒の勇者がぽつりと呟く。
「……転移の利便性については理解した。だが、結局のところ、俺たちにできるのは正式に招待することくらいだろう」
「そうね……」
キシリアは少し考え込んだあと、シルヴァへ視線を戻した。
「じゃあ、やっぱりエキドナの誰かに会ったら、嫉妬の大陸にも来るように伝えておきなさい!」
「ですから、僕に決定権はありませんってば!」
『話が一周して戻ってきたw』
『まず招待状を用意しような』
『キシリア様、エキドナに来てほしくて仕方ない説』
『次は嫉妬大陸への旅行配信かな?』
「来てほしいわけじゃないわよ! ただ、他の大陸で何をしているのか、こちらでも把握しておく必要があるでしょう!?」
「はいはい。情報収集ですわね」
アナスイが楽しそうに相槌を打つ。
「アナスイ! あなた、絶対に面白がってるでしょう!?」
「さて、何のことでしょう?」
アナスイは涼しい顔で微笑んだ。
こうして、エキドナの転移能力を巡る騒ぎは、正式な訪問手続きが行われていたという説明によって、ひとまず不法入国疑惑だけは解消された。
ただし、転移によって大陸間を移動できるという事実への衝撃は、誰にも消せそうになかった。
『不法入国じゃない。でもズルい』
『今日の勇者会議、エキドナの便利さを再確認する会になってるw』
『次に何が出てくるのか、もう怖いんだが』
配信画面には、そんなコメントが次々と流れていた。




