勇者会議8
「あっ! そういえば、もう一つ気になることがあるんですが!」
シルヴァが何かを思い出したように口を開いた。
「色欲賢者のメアリーさんって、転移ポイントが全大陸にあるんですよねー。」
『……は?』
勇者会議の場が、一瞬静まり返った。
「はっ!? なんだそれ!?」
最初に声を上げたのは、強欲の勇者だった。
「全大陸に転移ポイントがあるだと!?」
「便利すぎじゃない! その気になれば、エキドナは全大陸に行けるってことよね!?」
『待って、今さらっと凄い情報が出てこなかった?』
『全大陸に転移できるの!?』
『それ、普通に国家レベルの機密じゃないのか?』
『メアリーちゃん、何者なんだよ……』
『いや、色欲賢者なのは知ってるけどさ!』
「マジかよ! おい、傲慢に来いって言えよ!」
傲慢の勇者が、身を乗り出してシルヴァに詰め寄った。
「なんで俺たちの大陸には来ないんだ!? 来られるなら、さっさと来いって伝えろ!」
「ええっ!? そ、そんなことを僕に言われましても……」
シルヴァは困ったように眉を下げた。
「そもそも、今回の強欲大陸への訪問は、エキドナのメンバーとその知り合いが一緒に旅行していた、という話だったと思いますよ。僕も詳しい経緯をすべて把握しているわけではありませんから」
「旅行だと!?」
強欲の勇者が目を見開いた。
「全大陸に転移できる奴らが、旅行気分で大陸を渡り歩いてるってことか!?」
「いや、そこまでは言っていませんよ……」
「でも、強欲大陸には来たんだろう!?」
「それはそうですが……」
シルヴァが言葉を濁すと、傲慢の勇者が勢いよく机を叩いた。
「だったら、なおさら俺のところにも来いって話だろうが!」
「……それはもう、本人に直接お願いしてください」
シルヴァは苦笑しながら答えた。
そのやり取りを聞いていた嫉妬の勇者キシリアが、ふと眉をひそめる。
「……ちょっと待ちなさいよ」
彼女はシルヴァへ鋭い視線を向けた。
「それって、つまり……メアリーが転移できるなら、エキドナの連中も他の大陸に簡単に出入りできる可能性があるってことでしょう?」
「可能性としては、そうなりますね。ただし、転移ポイントの詳しい仕組みや、誰がどこまで利用できるのかについては、僕もすべてを知っているわけではありません」
「……マジかよ」
傲慢の勇者が、今度は少しだけ声を落とした。
「それ、普通に不法入国じゃない!!」
嫉妬の勇者が叫んだ。
『そこに気づいたかw』
『確かに入国手続きどうなってるんだ?』
『旅行って言っても転移で国境越えは草』
『各国の入国管理、仕事してる?』
『いや、そもそも転移ポイントがあること自体、知られてないのでは?』
「ちょ、ちょっと待て! 俺はまだ不法入国なんてしてねえぞ!」
傲慢の勇者が、なぜか自分のことのように反論した。
「あなたの話はしてないわよ!」
「だったら、なんで俺を見るんだよ!?」
「今、一番大声を出していたからでしょうが!」
嫉妬の勇者と傲慢の勇者が言い合いを始める。
シルヴァは二人を見ながら、困ったように頬をかいた。
「ええと……少なくとも、僕が強欲大陸にいたときは、エキドナの皆さんも普通に行動していましたよ。僕自身も、普段は勇者協会の仕事をしていますし、今回の件が何か問題になるとは聞いていませんが……」
「普通に行動していたから問題ない、とはならないでしょう!?」
「そ、そうですね……」
キシリアの勢いに、シルヴァは素直に頷いた。
『シルヴァさん、板挟みでかわいそうw』
『本人も全部把握してるわけじゃないんだな』
『エキドナ、行動範囲が広すぎる』
『転移できるからって何でも許されるわけじゃないぞw』
それまで黙って話を聞いていた憤怒の勇者が、小さく息を吐いた。
「……転移できることと、自由に入国してよいことは別の話だろう」
「そうね。そこは各国の法や取り決め次第でしょうね」
キシリアは腕を組んだ。
「でも、全大陸に転移ポイントがあるなんて、今まで聞いたこともないわ。そんなものが本当に存在するなら、エキドナの活動範囲は私たちが考えていたより、ずっと広いことになるじゃない」
「……まあ、そういうことになるかもしれませんね」
シルヴァは慎重に答えた。
「ただ、僕から確実に言えるのは、メアリーさんに転移ポイントがあるということだけです。エキドナの皆さんが、どこへでも自由に行けるのかどうかまでは、断言できません」
「うぐっ……。そうよね。まだ確認も取れていないのに、決めつけるわけにはいかないわね」
キシリアは悔しそうに唇を尖らせた。
だが、すぐに何かを思いついたように顔を上げる。
「……ねえ、シルヴァ。今度エキドナの誰かに会ったら、うちの大陸にも遊びに来るように伝えておきなさいよ!」
「えっ、僕がですか!?」
「そうよ! 傲慢のところだけじゃなくて、嫉妬の大陸にも来なさいってね!」
「いや、ですから、僕に言われても……!」
『キシリア様、さっきまで不法入国って怒ってませんでした?』
『来てほしいのか来てほしくないのか、どっちなんだw』
『結局、エキドナに興味津々じゃん』
『傲慢も嫉妬も、まずは正式に招待状を出したら?』
「う、うるさいわね! これは情報収集よ! どんな技術を持っているのか、直接確かめる必要があるでしょう!?」
キシリアは配信画面に向かって言い返した。
「おい、憤怒! お前も何か言えよ!」
「……俺は別に、来るなら来ればいいと思っている」
「よし! じゃあ、エキドナに来るよう伝えておけ!」
「……なぜ俺が?」
「お前、さっきから落ち着いてるだろ!」
「……意味が分からん」
勇者会議は、いつの間にかエキドナへの招待を誰が伝えるかという話にすり替わっていた。
ただ一つ、全員の認識が変わったことがある。
エキドナは、彼らが把握しているよりもはるかに広い範囲で活動しているのかもしれない。
そして、その活動範囲を支えているのが、まだ詳しく知られていないメアリーの転移能力だとすれば――。
『エキドナ、いったい何をどこまでできるんだ……』
『次は転移の仕組みについて説明してほしい』
『いや、説明したら余計に混乱しそうw』
配信画面に流れるコメントを眺めながら、シルヴァは小さく苦笑した。
「……今度、メアリーさんに確認してみますね。ただ、来るかどうかは本人たち次第ですよ」
「よし! 絶対に来させろよ!」
「だから、僕に決定権はありませんってば!」
シルヴァの悲鳴が、勇者会議の会場に響き渡った。




