勇者会議6
「あなた達も配信を見ていたら分かるかもしれませんが、エキドナが強欲大陸に来ましたよね?」
シルヴァが、ふと思い出したように話を切り出した。
「ああ、そういえばそうだったな。あれもエアバイクの販売に関係してるのか?」
傲慢が尋ねると、シルヴァは首を横に振った。
「いえ、あれは大型飛空艇の素材探しだったんですよ。そのついでに、強欲ダンジョンを完全制覇してしまったというわけです」
「……は?」
傲慢の顔が固まった。
「いや、待て。今、何て言った?」
「大型飛空艇の素材探しです。そのついでに、僕が攻略に行き詰まっていた強欲ダンジョンまで攻略されたんですよ」
シルヴァは苦笑しながら答えた。
「まぁ、そういうことですね」
「ついでで!?」
傲慢が思わず声を裏返らせた。
「素材探しのついでに完全制覇だと!?」
「俺も見ていたな・・・あれは面白かったな・・・!」
憤怒が、珍しく楽しそうに口を挟んだ。
「強欲ダンジョンの攻略配信だろう? 次々と突破していくから、見ていて飽きなかったな」
「お前も見てたのかよ!」
「配信を見て感想を言っただけだが?」
「いや、そうだけどよ……!」
傲慢は反論しかけて、言葉を詰まらせた。
嫉妬も腕を組み、呆れたように息を吐く。
「まぁ、私も見てたけど……あれは異常よ。あんなの、普通の冒険者じゃ無理よ!」
「……結構見てらっしゃるのね?」
アナスイがにこりと微笑んだ。
「なっ!?」
嫉妬の肩がびくりと跳ねる。
「ち、違うわよ! あくまでも情報収集の一環よ! エキドナが何をしているのか調べていただけなんだから! 勘違いしないでよね!」
「そうですか」
「その顔、絶対信じてないでしょ!?」
「いえ、何も申し上げておりませんわ」
アナスイは優雅に微笑んだままだった。
配信画面にも、さっそく視聴者たちのコメントが流れる。
『嫉妬、また配信見てたのかw』
『情報収集(大ファン)』
『本人の前で「普通の冒険者じゃ無理」って言うの、なかなか容赦ないなw』
『強欲ダンジョンをついで扱いするなwww』
『攻略に詰まってた本人の前で言うの草』
『でも実際、あの攻略はすごかった』
『他大陸のダンジョン事情は知らんけど、あれが普通じゃないのは分かる』
『怠惰の大陸だと、ああいう配信を見慣れてる人もいるんだろうな』
『いや、怠惰民でも全員が見てるわけじゃないぞw』
「そ、それで! 大型飛空艇ってのは何なんだよ!」
傲慢が話を戻すように声を上げた。
「エアバイクとは別の乗り物なのか?」
「そうですねー。大型ホテルと考えてください」
シルヴァが説明を始める。
「バカンスに来たような気分を味わえる場所、といったところでしょうか。空を飛びながら、宿泊や食事、娯楽を楽しめる施設を作ろうとしているんです」
「大型ホテル……?」
傲慢が怪訝そうに眉を寄せる。
「飛空艇の中にホテルを作るってことか?」
「ええ。まだ準備中ですけれど、内容については話しても構いませんわ」
アナスイが補足した。
「お、おもしろそうじゃない! どんなものなのよ!?」
嫉妬が身を乗り出す。
先ほどまでエキドナの実態を探ろうとしていた彼女は、いつの間にか説明を聞くことに夢中になっていた。
「そうですね……。まずは、トライアングルって知ってます?」
「し、知ってるわよ!」
嫉妬が即答した。
「音楽グループでしょ!? それくらい知ってるわ!」
「ええ。トライアングルは月に一回、その飛空艇に設ける劇場でライブをする予定なんです」
「月に一回、飛空艇の中でライブ……!?」
傲慢が呆然と呟いた。
『トライアングルのライブまであるの!?』
『空を飛ぶ船に劇場を作る時点でもうすごいんだがw』
『月一なら、ライブ目当てで乗る人もいそうだな』
『移動するだけじゃなく、そこに行くこと自体が目的になるのか』
『エキドナ、娯楽に本気出しすぎだろw』
「それだけではありませんわ」
アナスイは指を折りながら、予定されている施設を挙げていく。
「飛空艇の中には植物園を設ける予定ですし、コボルトや猫、小竜たちと触れ合える動物園も考えておりますわ」
「動物園まであるのかよ!?」
「ええ。それからレストランに、カジノ、温泉、プールもありますの」
「温泉とプール!?」
嫉妬が思わず声を上げた。
「ちょっと待って! 空を飛ぶ船の中に温泉とプールを作るってこと!?」
「その予定ですわね」
「水って重いんじゃないの!?」
「そこは技術陣が検討しておりますわ。もちろん、船体の重量や安全性も考えなければなりませんもの」
アナスイは落ち着いて答えた。
しかし、説明はまだ終わらない。
「それから、モンバトやヒロバトで対戦して楽しめる会場も設ける予定ですわ」
「モンバトとヒロバトの会場まで!?」
傲慢が机に手をついた。
「おい、ちょっと待て! それ、どれだけでかい船を作るつもりなんだ!?」
「最初に考えていた規模よりは、大きくなりそうですわね」
「最初はどれくらいだったんだよ!」
「百人ほどが乗れる飛空艇を考えていたそうですわ」
「それで収まるわけねぇだろうが!」
傲慢の叫びが会議場に響き渡った。
配信画面にも、驚きのコメントが次々と流れ始める。
『ホテルに劇場、植物園、動物園!?』
『温泉とプールまで空に持っていくのかw』
『もう船というより空飛ぶリゾートじゃん!』
『モンバトとヒロバトの会場まであるのか』
『百人乗りの予定だったって、絶対足りないだろw』
『最初の百人乗り案から、どこまで膨らんだんだよw』
『ライブ見て、動物と遊んで、温泉入って泊まる……?』
『怠惰民ならこういう娯楽施設も見慣れてるのか?』
『いや、飛空艇に全部詰め込むのは怠惰民でも普通じゃないと思うぞw』
『ついでにダンジョン完全制覇した組織が作るリゾート、規模がおかしい』
「さらに、エアバイクを使ったアトラクションも考えておりますわ」
アナスイが続けた。
「飛空艇からエアバイクで空へ飛び出して、景色を楽しんだり、決められたコースを飛んだりできるようにする案もありますの」
「飛空艇から飛び出す!?」
嫉妬は思わず椅子から立ち上がった。
「ちょっと待ちなさいよ! 空飛ぶ乗り物を売るだけじゃなくて、飛空艇から乗って遊べるようにもするってこと!?」
「ええ。もちろん、安全に発進や帰還ができる設備を整える必要がありますけれど」
「……それはすごいものだな」
憤怒も感心したように呟いた。
「エアバイクを単なる移動手段で終わらせず、娯楽にも使うのか」
『エアバイクの試乗も兼ねて遊べるのか!』
『コース飛行は面白そうだけど、操作を間違えたら怖いなw』
『安全設備をちゃんと作ってくれwww』
『でも、空から景色を眺められるのは魅力的だな』
『販売用とアトラクション用で、使い方も変わりそうだ』
「そして、宿泊用の客室も五十室ほど用意する予定ですわ」
「ご、五十室!?」
傲慢が目を見開いた。
「五十室もあるのかよ! それ、本当に飛空艇なのか!?」
「ですから、大型飛空艇ですのよ」
「いや、そういう問題じゃねぇ!」
傲慢は頭を抱えた。
「ライブができて、植物園があって、動物園があって、レストラン、カジノ、温泉、プール、対戦会場、エアバイクのアトラクション、それに客室が五十室……!?」
指を折って数えようとしたものの、途中で諦めたらしい。
「な、なんなのよそれ!」
嫉妬も、もはや呆然とするしかなかった。
「エキドナって、いったい何を目指してる組織なのよ!? 勇者の支援をして、空飛ぶ乗り物を量産して、今度は空飛ぶホテルまで作るって……!」
「空を飛ぶホテルというより、空の上で遊んだり泊まったりできるリゾート施設ですね」
シルヴァが穏やかに訂正した。
「細かい違いなんてどうでもいいわよ!」
「そうですか?」
「そうよ!」
嫉妬は即座に言い返した。
『空飛ぶホテルと空中リゾート、どっちも規模がおかしいw』
『トライアングルのライブに行って、そのまま温泉入って泊まれるのか』
『動物園でコボルトや小竜と触れ合えるのいいな』
『エアバイクのアトラクション、普通に乗ってみたい』
『ライブ目的で来たのに温泉と動物園から出られなくなる人いそうw』
『まだ準備中なのに、聞いてるだけで楽しそう』
『これ全部作るのか……エキドナの技術力どうなってるんだ』
『施設を作るだけじゃなく、運営する人手も必要だよな?』
『完成したら、予約を取るのも大変そうだ』
傲慢はしばらく黙り込んでいたが、やがてゆっくりと顔を上げた。
「……つまり、お前らは強欲ダンジョンを攻略したついでに素材を集めて、その素材でこんなもんを作ろうとしてるわけか?」
「はい。そういう経緯ですね」
シルヴァが頷いた。
「もちろん、まだ計画段階の設備もあります。全部が確定しているわけではありませんよ」
「……ついで、ねぇ」
傲慢は複雑そうな顔をした。
次に作ろうとしているのは、娯楽施設を満載した巨大な飛空艇だった。
「……もう、何から突っ込めばいいのか分からねぇよ」
「わたくしも、最初に計画を聞いたときは驚きましたわ」
アナスイが微笑んだ。
「でも、せっかく作るのであれば、乗った方々に心から楽しんでいただける場所にしたいですものね」
「……そりゃ、完成したら楽しそうだけどさ」
嫉妬は小さく呟いた。
そして、はっと何かを思い出したように顔を上げる。
「……ねえ。その飛空艇って、一般の人でも乗れるのよね?」
「ええ。一般向けの営業も予定しておりますわ」
「……ふうん」
嫉妬は、何でもないことのように座り直した。
しかし、その視線は明らかに期待に満ちていた。
『嫉妬、絶対乗りたいだろw』
『情報収集の一環で乗るんですね、分かります』
『完成したら勇者会議で感想を聞かせてほしい』
『いや、その前に傲慢が予約しそうw』
『憤怒もさっきから楽しそうだし、みんな乗りたいんじゃないか?』
『会議で計画を聞かされてるだけなのに、こっちまで行きたくなってきたw』
「……おい、俺はまだ乗るなんて言ってねぇぞ!」
傲慢が配信画面へ向かって叫ぶ。
だが、その顔には、先ほどまでのエキドナに対する疑念とは違う感情が浮かんでいた。
警戒と困惑。そして、隠しきれない好奇心。
エキドナが何をしようとしているのか、少しずつ分かってきた。
ただし、その全貌を理解するには、まだまだ説明が足りなかった。




