勇者会議5
「それで、エキドナはこれから何かしようってのか? まだよく分かんねぇんだが!」
傲慢が腕を組み、苛立ったように声を上げた。
「装備を作るだの、転移で大陸を行き来するだの、話を聞けば聞くほど何を目指してる組織なのか分からなくなるんだよ!」
「そ、そうよ! 例えば新製品とか! 何か売り出す予定はないの!?」
嫉妬も勢いよく身を乗り出した。
どうやら彼女としては、エキドナが今後どのような活動をするのか、具体的な話が聞きたいらしい。
「新製品というわけではないんですが……」
シルヴァは少し考えてから答えた。
「すでに量産体制に入っているものなら、エアバイクですかね」
「……エアバイク?」
傲慢が眉をひそめた。
「なんだそりゃ?」
「あーーっ! 傲慢、知らないの!? 私、知ってるわ!」
嫉妬が待ってましたとばかりに声を上げた。
「空飛ぶ魔道具よ! 乗り物で、空を飛べるの!」
「空飛ぶだと!?」
傲慢が目を見開いた。
「マジかよ!?」
「ええ。金貨五枚で販売する予定の乗り物ですね」
シルヴァは平然と説明した。
「現在は量産の準備が進んでいて、販売に向けて生産体制を整えているところです」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 空を飛ぶ乗り物が金貨五枚!?」
嫉妬が思わず聞き返した。
「それって、特別な貴族や大商人しか買えないような、とんでもない値段じゃないの!?」
「いえ、エキドナとしては、できるだけ多くの人に使ってもらいたいと考えているようですよ」
「できるだけ多くの人にって……」
傲慢は呆然とした表情でシルヴァを見た。
「お前ら、空を飛ぶ乗り物を売り出そうとしてんのか……?」
「そういうことになりますね」
「しかも量産体制に入っているだと!?」
傲慢の声が一段と大きくなる。
配信画面には、視聴者たちの驚きのコメントが次々と流れ始めた。
『待て待て、空を飛ぶ乗り物を売るの!?』
『エアバイクって名前からして、もう何が何だかwww』
『金貨五枚……普通の人には大金だろうけど、空を飛べるなら話が変わってくるな』
『いや、金貨五枚で空飛べるって聞いたら値段の感覚バグるわw』
『量産ってことは、一台だけの試作品じゃないのか!』
『試作品を作るのと、何台も作って売るのじゃ全然違うぞ』
『エキドナ、装備を作るだけじゃなくて商品も売るのか』
『これ、移動手段が根本から変わるんじゃないか?』
『嫉妬は知ってたのかwww』
『そこに食いつくの、いかにも嫉妬だなw』
『空を飛ぶ魔道具自体は分かる。でも一般向けに売るってのが分からん』
『他大陸から見たら、十分とんでもない話なんだよなぁ』
「ま、待て待て! そんなもんが市場に出回ったら、いろいろ変わるだろうが!」
傲慢は机に身を乗り出した。
「そもそも、誰でも乗れるのか? どれくらいの高さまで飛べる? 速度は? 魔力はどれくらい必要なんだ!? 安全性はどうなってる!?」
「傲慢、急に質問が増えたわね……」
嫉妬が半ば呆れたように呟く。
「当たり前だろうが! 空を飛ぶ乗り物だぞ!? そんなものが金貨五枚で売られるって話を聞かされて、気にならないわけがあるか!」
傲慢は興奮した様子でシルヴァを見つめた。
「それで!? いつ販売するんだ!?」
「そこは、エキドナ側で調整している段階ですね。僕も販売時期の詳細までは把握していません」
「なんだよ、そこは知らねぇのか!」
「僕は販売担当ではありませんからね」
シルヴァは苦笑した。
「ただ、すでに量産体制に入っている以上、計画そのものはかなり具体的に進んでいると思いますよ」
「……なるほどね」
嫉妬は腕を組み、考え込んだ。
「つまり、エキドナは勇者に装備を配っているだけじゃない。新しい技術を形にして、一般向けの商品として売り出そうとしているわけね」
「ええ。少なくとも、エアバイクについてはそうですね」
シルヴァが頷く。
「僕としても、発明家の立場から興味深い計画だと思っています。空を飛ぶ乗り物が広く普及すれば、人々の暮らしや物流にも影響が出るでしょうから」
「物流まで変わるってのか……」
傲慢は呟き、しばらく黙り込んだ。
つい先ほどまで、エキドナは勇者に装備を与えるだけの組織なのではないかと考えていた。
ところが、話を聞けば聞くほど、その活動範囲は広がっていく。
技術を開発し、人工モンスターを使って生産体制を整え、空飛ぶ乗り物を量産し、一般向けに販売する。
それは単なる勇者支援組織という枠には収まらない活動だった。
『エキドナの事業規模、想像以上だな』
『勇者の装備を作ってると思ったら、次は一般向けの乗り物かよw』
『技術開発から量産、販売までやるのか……』
『金貨五枚なら、頑張れば手が届く人もいそう』
『いや、買えたとしても維持や修理はどうなるんだ?』
『そういう部分まで考えてるなら、本当に世の中が変わりそうだな』
『販売が始まったら絶対話題になるだろ』
『まだほかにも計画がありそうで怖い』
『傲慢、さっきまで文句言ってたのに質問止まらなくなってて草』
『気になるのは分かる。俺だって性能を聞きたいw』
「……ほかにも、何か売り出す予定があるの?」
嫉妬が尋ねた。
「今後については、僕からは何とも言えませんね。大型飛空艇の計画も進んでいますし、エキドナはほかにも技術開発をしていますから」
「大型飛空艇?」
傲慢が聞き返す。
シルヴァは、しまったというように一瞬だけ口を閉じた。
「……ああ、そうか。まだ詳しく話していませんでしたね」
「ちょっと待て! 今度は何を作る気だ!?」
傲慢の声が、再び会議場に響き渡った。
嫉妬も身を乗り出し、目を輝かせている。
「ねえ、シルヴァ! その大型飛空艇って何なの!? そっちも商品なの!?」
「いえ、そちらは……」
シルヴァは説明すべき範囲を考えながら、言葉を選んだ。
エキドナの計画は、まだまだ一つの会議で説明しきれるものではなさそうだった。




