勇者会議2
「ああん? なんだ憤怒! お前もエキドナびいきでもしてんのか!?」
傲慢は、突然口を開いたジークフリートを睨みつけた。
それまで黙って話を聞いていた憤怒が、ここにきて自分を無能呼ばわりしたのだ。黙っていられるはずもなかった。
しかし、ジークフリートは傲慢の剣幕にも動じなかった。
「お前は配信を見ていないのか?」
「ああ!?」
「あれほどの力を見せられて、どうしてそこまで大きな口を叩けるのだ?」
ジークフリートの声は静かだった。
だからこそ、その言葉には妙な重みがあった。
傲慢は一瞬だけ言葉に詰まったものの、すぐに鼻を鳴らした。
「はん! あんなもん、装備の差じゃねぇのか? そこの二人も特別な支援をもらってんだろ?」
そう言って、アナスイとシルヴァを顎で示す。
「いい装備を与えられて、強力な道具まで用意してもらえば、普段以上の力だって出せるだろうが!」
アナスイは小さく息をついた。
シルヴァも困ったように眉を下げる。
確かに、二人がエキドナから装備や支援を受けているのは事実だ。しかし、それだけで説明できるような話ではなかった。
「……はぁ」
ジークフリートは、深々とため息をついた。
「もういい……好きにせよ……」
「おい、待て! まだ話は終わってねぇぞ!」
傲慢が食い下がる。
しかし、ジークフリートはもう傲慢を見ようともせず、背もたれに身を預けた。
これ以上、何を説明しても無駄だと判断したらしい。
会議場には、なんとも言えない空気が漂っていた。
『憤怒、呆れてるじゃんwww』
『配信を見てたら、装備だけの問題じゃないって分かりそうなものだけどな』
『いや、あの映像を見て装備の差で片づけるのは無理があるだろw』
『傲慢、一回ちゃんと配信を見直してこいwww』
『憤怒がずっと黙ってたの、こういうことか……』
『「もういい……好きにせよ……」←完全に見限ってて草』
『憤怒、普段しゃべらないぶん一言が重いんだよな』
『傲慢だけ話が通じてないの、ある意味すごいw』
コメント欄も、傲慢の態度に呆れたような反応で埋まっていく。
「……さて」
アナスイは、軽く咳払いをした。
「お話が途中になってしまいましたわね。では、改めて本題に戻りましょう」
「そうですね。まだ確認しておくべきことがありますから」
シルヴァも頷いた。
傲慢はまだ不満そうにしていたが、ひとまず口を閉じた。
アナスイは集まった勇者たちを見渡し、落ち着いた声で続ける。
「リゼット様は正式な怠惰の勇者です。しかし、百年間もその事実を知らされず、勇者協会からの要請を受けて活動してきたわけでもありません。今後、協会がどのような対応を取るにしても、その事情を踏まえる必要がありますわ」
「僕もそう思います。リゼット様ご本人が、勇者協会の仕事を引き受けるつもりがあるのか。それとも、エキドナとして独自に活動する方針なのか。そこを混同してはいけません」
シルヴァが補足した。
「配信でのお話を聞く限り、怠惰の大陸で何か起きれば、エキドナとして動く可能性はあります。しかし、それは勇者協会の指示に従って活動するという意味ではありませんからね」
「つまり、協会としては、リゼット様に何かを要求する前に、まず自分たちがどう対応すべきかを考えなければならない、ということですわ」
アナスイはそう締めくくった。
今度こそ、会議場の面々も真剣な表情で耳を傾けていた。
賢者リゼットが正式な怠惰の勇者だったこと。
その事実を、本人も協会も知らないまま百年が過ぎていたこと。
そして、彼女はすでにエキドナという組織を率いていること。
今回の配信は、勇者たちにとって、それらを改めて考えるきっかけになったのだった。




