人工モンスター
# 大型飛空艇計画――人工モンスターの開発
大型飛空艇の建造計画が進むなか、次に取りかかることになったのは、建造や運営を支える人工モンスターの開発だった。
飛空艇そのものは、まだ設計段階にある。
しかし、完成してから人手や設備の不足に気づいたのでは遅い。建造作業を効率化するためにも、今のうちから必要な人工モンスターを用意しておく必要があった。
「まずは建設用を大量に作るぞ。細かい調整は、実際に使いながらやればいい」
ゲンナイの言葉に、グレタが頷いた。
「そうだな。最初から完璧なものを一体作るより、数を揃えたほうがいい。技術班が命令を出して、作業を分担させればいいわけだ」
「建造、資材の運搬、設備の取り付け、完成後の整備まで~。用途ごとに分けて考えておくとよさそうだね~」
ニコラも、ゆったりとした口調で続けた。
既存のモンスターを活用できる部分も多い。ダンジョンには、鎧だけの姿をしたモンスターもいる。能力が合うなら、建造作業や警備、設備の保守などに利用できるだろう。
必要な作業を洗い出し、足りない能力だけを新たに開発する。それが、今回の基本方針だった。
さっそくゲンナイは、建設作業を補助する人工モンスターの試作に取りかかった。
工房の床に魔法陣が浮かび上がり、素材が集まっていく。やがて、鎧を思わせる姿のモンスターが組み上がった。
「よし、起動するぞ」
魔力が流れ込むと、人工モンスターがゆっくりと動き出した。
その様子を、初めて見るメンバーたちが見守る。
「素材から、こんなものが生まれるのですね……。僕にも詳しいことは分かりませんが、生き物のように動くというのは、少々不思議ですね」
シルヴァが感心したように呟いた。
「本当に動いてますわね……。見た目は鎧そのものですけれど」
アナスイも興味深そうに眺めている。
「こ、これが人工モンスター……?」
メアリーはアナスイの後ろから顔を覗かせた。人工モンスターがこちらを向くと、思わず身を隠す。しかし、すぐに好奇心が勝ったのか、再びそっと顔を出した。
「これがたくさんいたら、飛空艇を作るのも早くなりそうですね!」
「そういうことだ。こいつはまだ試作品だがな。技術班の指示に従って作業できるようにして、必要な数を揃えていく」
ゲンナイは満足そうに頷いた。
建設用の人工モンスターを確保できれば、次は飛空艇の中で働く存在だ。
大型飛空艇は、ただ人を運ぶだけの乗り物ではない。宿泊施設や飲食店、娯楽施設を備えた、空の上のリゾートになる予定なのだ。
当然、掃除や案内、客室の準備といった日常的な仕事も大量に発生する。
「そういえば、掃除をするモンスターも欲しいよね!」
マドカが思い出したように声を上げた。
「地球にルンバっていう掃除ロボットがあったでしょ? あれみたいに、勝手に床を掃除してくれるやつ!」
「ああ、ああいうのか」
ゲンナイは、すぐに話を理解した。
同じ地球の出身なのだから、説明に時間をかける必要はない。
「でも、普通のルンバだと床だけだよね。せっかくなら、壁とか天井にも浮いていって掃除できるのがいいな!」
「なるほどな。三次元的に動けるようにして、床も壁も天井も掃除させるわけか」
「そうそう! 窓も掃除できたら便利だと思う!」
「いいじゃねえか。素材に合わせて掃除方法を変えられるようにすれば、窓を傷つける心配も減るな」
グレタが腕を組みながら意見を出す。
「床ならブラシ、窓なら柔らかいパッドという感じかな~。汚れを見つけたら、そこだけ念入りに掃除できるとよさそうだね~」
「人が近くにいたら避ける機能も必要だね! お客さんにぶつかったら大変だよ!」
ニコラとナナリーも、次々と案を出した。
「掃除が終わった場所や、まだ終わっていない場所も報告できるようにしておくか。そうすれば、清掃状況を確認するのも楽になる」
ゲンナイは皆の意見を聞きながら、設計を進めていった。
やがて工房に現れたのは、円盤状の浮遊型掃除ロボットだった。
底面には床用のブラシ、側面には壁面用の清掃具が取り付けられ、窓などを掃除するための柔らかいパッドも備えている。
起動すると、機体は音もなく浮き上がった。
床を滑るように移動し、壁際まで来ると、そのまま上昇する。壁を掃除しながら天井へと移り、今度は天井に沿って進んでいった。
窓の前では、表面の材質を確認するように動きを変え、柔らかなパッドで丁寧に汚れを拭き取っていく。
「わあ! 本当に壁も天井も掃除してる!」
マドカが嬉しそうに声を上げた。
「これなら、普段は手が届きにくいところも任せられそうです!」
ナナリーも目を輝かせている。
浮遊型掃除ロボットは、ひと通りの動作を終えると、皆の前に戻ってきた。
『指定範囲の清掃を終了しました。追加の清掃範囲を指定してください』
「おお、報告までできるのか」
「いい感じだな。あとは材質ごとの動作と、安全機能を詰めていけばいい」
グレタが頷き、ゲンナイも満足そうに笑った。
「こいつも、まずは試作だ。調整を終えたら量産する。飛空艇の中をいつも綺麗に保てるようにしておくぞ」
掃除のような単純作業を任せられるだけでも、運営に必要な人手は大きく減らせるはずだった。
だが、飛空艇で必要になる仕事は掃除だけではない。
客室のベッドメイク、洗濯、料理の配膳、宿泊客の案内。そうした仕事には、人間のような姿をした存在のほうが向いている場合もある。
「次は、家事や接客を担当するオートマタだな」
ゲンナイが新たな設計図を広げた。
「人間に見える姿にするんですの?」
アナスイが尋ねた。
「そうだ。外見は人間に近づける。中身は機械と魔法の仕組みで動かすがな」
ゲンナイが素材を組み合わせていくと、やがて一体のオートマタが姿を現した。
顔立ちも、髪も、肌も、遠目には人間と見分けがつかない。関節の動きも自然で、立っている姿だけなら、本物の人間がそこにいるようだった。
「おはようございます。本日のご用件をお聞かせください」
オートマタが穏やかな声で話しかけた。
「人間に見えますわね……」
アナスイは、顔を近づけてじっくりと観察した。
「これが機械だとは、言われなければ分からないかもしれませんね」
シルヴァも驚いた様子だった。
「本当に人間じゃないんですか!?」
メアリーが思わず尋ねる。
「はい。私は接客および家事補助を目的として製作されたオートマタです」
返事まで自然だった。
「内部には人工筋肉や機械部品、魔法による制御機構を組み込んである。基本的な会話もできるし、指示された仕事を順番にこなすこともできるぞ」
「それなら、お客さんの案内もできそうね」
リゼットがオートマタを眺めながら言った。
「ちょっと試してみましょう。客室まで案内してちょうだい」
「承知しました。こちらへどうぞ」
オートマタが歩き出す。
リゼットは数歩進んだところで、ふと思いついたように立ち止まった。
「やっぱり疲れたわ。座りたいから、椅子を用意して」
「承知しました」
オートマタは近くの椅子を持ってきて、リゼットの前に置いた。
「……まあ、間違ってはいないわね」
リゼットは椅子に腰掛けた。
「でも、こういうときに『お飲み物はいかがですか』とか、『少し休まれますか』とか、気を利かせて聞けるかどうかは別の話よ。人間なら、相手の様子を見て判断することもあるでしょう?」
「そうだな。基本的な受け答えや決められた仕事はできるが、複雑な要求を理解したり、相手の気持ちを正確に察したりするのは難しい。曖昧な指示なら、具体的に何をすればいいか聞き返すようにしておく必要がある」
「ご要望の内容を、より具体的にお伝えください」
オートマタが、リゼットに向かって丁寧に告げた。
「ほら、こういうところね。簡単な仕事なら十分でしょうけど、難しい接客まで全部任せるのは無理そうね」
「その辺りは人間のスタッフと使い分けるしかないな。複雑な相談や特別な要望は、人間に引き継ぐようにしておけばいい」
「それでも、客室の掃除やベッドメイク、洗濯、配膳なんかを任せられるだけで助かるだろうな」
グレタの言葉に、ゲンナイも頷いた。
オートマタは、あらかじめ設定した手順を守る作業が得意だ。反対に、予想外の事態や細かな気配りが必要な仕事は、人間のスタッフが担当したほうが確実だろう。
「ねえ、ゲンナイ! メイド服とか執事服を着せることもできるの?」
ナナリーが尋ねた。
「もちろんだ。普通の服を着せればいい。制服を用意しておけば、役割も見分けやすくなるだろう」
「それなら、メイドさんや執事さんみたいにできるんですね!」
ナナリーはすっかり乗り気になった。
「見た目も自然ですし、宿泊施設の雰囲気にも合いそうですわね」
アナスイも満足そうに頷く。
「よし。次は実際に家事をさせてみるぞ。洗濯、配膳、ベッドメイク。それぞれの作業を試して、どこまで任せられるか確認する」
ゲンナイは設計図に新たな項目を書き加えた。
建造を支える人工モンスター。床も壁も天井も掃除する浮遊型ロボット。そして、人間の姿で客を迎えるオートマタ。
大型飛空艇は、まだ設計段階にある。
それでも、空の上で人々が快適に過ごせるようにするための準備は、少しずつ形になり始めていた。




