飛空艇計画3
# 第3話「大型飛空艇計画――料金と運営方針」
大型飛空艇の設備について、ひと通りの案がまとまってきた。
展望ラウンジに、雲海を眺められるプール、空中植物園。さらに小型飛空艇やエアカー、エアバイクのための設備まで、夢のような案が次々と出てきた。
しかし、どれだけ素晴らしい設備を考えても、それをどう運営するのか決めなければ計画は先に進まない。
ゲンナイは机に肘をつき、集まった面々を見渡した。
「よし。設備の話はだいぶ固まってきたな。次は料金と運営方法だ。せっかく作るんだから、みんなが楽しめて、無理なく続けられる形にしようぜ」
「まずは営業日を決めるべきだな。俺は、通常の宿泊営業とライブの日は分けて考えたほうがいいと思うぜ」
グレタがそう言うと、ニコラがのんびりとうなずいた。
「通常営業は週に1回で、ライブは月に2回なんだよね~。それ以外の日は、私たちが自由に使えるんだね~」
「そういうことだ。毎日一般客を受け入れる必要はねえからな」
「なるほど。一般向けの営業日を限定すれば、スタッフの配置も調整しやすそうですね」
シルヴァは説明を聞きながら、落ち着いた様子で意見を述べた。これまでの経緯をすべて知っているわけではないため、まずはゲンナイたちの説明を聞き、必要な部分を確認していく。
「通常の宿泊営業は、1回につき金貨2枚。滞在時間はおよそ36時間。食事も料金に含める予定だ」
「金貨2枚で36時間か~。食事も込みなら、わかりやすい料金だね~」
「部屋は一般客用が50室。それとは別にエキドナのメンバー用が10室だ。全部で60室だが、一般客が使えるのは50室だけだぜ」
「全部同じグレードのお部屋にするんですよね? それなら、料金も統一できますし、予約の管理も簡単になりそうです」
カトリーヌの確認に、ゲンナイはうなずいた。
「そうだ。部屋によって値段を変えるつもりはねえ。誰が泊まっても、同じ条件で楽しめるようにする」
「いいと思います! 部屋選びで悩まなくて済みますし、初めてのお客さんにも説明しやすいです!」
ナナリーが元気よく賛成する。
「それで、ライブの日はどうするんですか? 宿泊とは別の料金になるんですよね?」
「ライブの日は日帰りだ。13時から21時までの8時間。そのうち2時間がライブで、残りの6時間は船の中で自由に過ごしてもらう」
「ライブ以外の時間も、いろいろ遊べるんですね~」
「そうだ。プールも温泉も植物園も、基本料金に含める。ライブだけ見て帰るんじゃなくて、船そのものを楽しんでもらうんだよ」
「それなら、ライブに参加するお客様も、時間いっぱい楽しめそうですわね。せっかく特別な場所へ来るのですもの。思い出に残る1日にしたいですわ」
アナスイも楽しそうに微笑んだ。サービスや娯楽の面から、どのような体験を提供できるか考えている。
「料金は銀貨10枚を予定している。一般的な世界でいうライブの入場料を想定した額だな」
「銀貨10枚ですか。ライブだけでなく、船内の施設も利用できるなら、料金の内容は伝わりやすいですね」
シルヴァがそう答えたところで、マドカが料金の話に反応した。
「えっ、ちょっと待って! 通常の宿泊が金貨2枚で、ライブが銀貨10枚……ってことは、私たちも払うの!?」
ゲンナイが怪訝そうに顔を向ける。
「あ? 何言ってんだ、お前」
「だって料金を決めてるじゃん! 私たちが使うときも、その料金なの!?」
「バカね、私たちがお金を払ってどうするのよ。自分たちで作る船なのよ?」
リゼットが呆れたように返した。
「あっ! そっか! そうだよね! よかったぁ……!」
マドカはほっと胸をなで下ろした。
公爵令嬢とは思えないほど庶民的な反応だった。
「ただし、エキドナに所属しているバイトや、外部から雇ったスタッフは別よ。あの人たちは船の所有者じゃないんだから、利用するなら料金を払ってもらうわ」
「なるほど……。メンバーとしての利用と、仕事として参加することは、別に考えるわけですね」
シルヴァが確認すると、リゼットは軽く肩をすくめた。
「そういうことよ。私たちが使うための船でもあるけれど、他の人に楽しんでもらう場所でもあるんだから、そこは分けて考えなさいな」
「まぁ他の一般のエキドナで働いてる奴は使った分は給料から差し引く形にする」
「なるほど~。自分がどれくらい使ったか、わかりやすいね~」
「ただし、施設の利用料は別だ。正式なエキドナメンバーはエアカーやエアバイクも無料で使えるようにする。せっかく作るんだから、そこまでいちいち金を取る必要はねえだろ」
「食事やカジノの遊び代は、自分で払うんですよね?」
カトリーヌの問いに、グレタが答える。
「そうだ。食事は自分で好きなもんを選ぶ。カジノも遊びたい奴が遊んで、その分を払えばいい。基本の施設は自由に使えて、個人的な出費は自分持ちってことだな」
「そうだね! 僕はね! その分け方がいいと思うんだ! 基本の楽しみはみんなに開放して、本人が望んで使うサービスは自分で選ぶ! そのほうが利用する側にもわかりやすいからね!」
エジソンが勢いよく賛成した。
「ライブの日の食事は、通常営業より豪華にする予定だ。特別な日だからな。ただし、料理は基本料金に含めず、食べたいものを選んで払ってもらう」
「それなら、豪華なコース料理も用意したいですわね。ライブの前にゆっくり食事を楽しむのも、素敵な時間になると思いますわ」
アナスイが楽しそうに提案する。
「料理人も必要だな。俺たちだけで全部やろうとするのは無理がある」
「そこは一流ホテルで働いている人たちを雇えばいいんじゃねえか。料理も接客も、専門の人間に任せたほうがいい」
グレタの意見に、ゲンナイもうなずいた。
「ただ、毎日船に乗って働いてもらう必要はねえ。営業日やライブの日に来てもらう、バイトみたいな形でいいだろ」
「必要な日に必要な人材を集めるのがいいと思うんだ! 人工モンスターが基本的な仕事を担えるなら、人間のスタッフには接客や料理といった専門分野で力を発揮してもらえるからね!」
「それなら、働く人たちにとっても都合がよさそうですね。普段の仕事を続けながら、こちらの営業日に参加することもできるでしょうし」
シルヴァも賛同した。
「もちろん、スタッフにはきちんと給料を払うんだ。食事も無料で用意する。気持ちよく働いてもらわなきゃな」
ゲンナイは、あくまで楽しめる場所を作ることが目的だと考えていた。
儲けを最大化するために人件費を削るのではなく、人工魔物で対応できる部分は任せ、人間には人間だからこそできる仕事を担ってもらう。そうすることで、質の高いサービスを提供できるはずだった。
「そういえば、船を動かすための燃料はどうするんだ?」
グレタの質問に、ゲンナイが答える前にリゼットが口を開いた。
「燃料なんて必要ないわよ。魔力供給核で動かすんだから」
「そうだね!魔力供給核で必要な動力を確保できるなら、通常の燃料を運び込む手間もいらないと思うんだ! 船の運用方法としても合理的だよ!」
「魔力供給核の管理はリゼットに任せる。そこが安定していれば、船の運用もしやすくなるからな」
「ええ。そこは任せてちょうだい。……それに、使わない日はインベントリにしまっておけばいいんだから、いつまでも港に置いておく必要もないわ」
「ええっ!? 船ごとしまえるんですか!?」
それまで黙って話を聞いていたメアリーが、思わず声を上げた。
15歳のメアリーにとって、目の前で話し合われている計画は驚くことばかりだった。
そもそも、こんな巨大な飛空艇を建造する計画が進んでいること自体、今回初めて聞かされたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! 大型飛空艇を作るんですよね!? しかも、ライブを開いたり、お客さんを泊めたりするんですよね!? 私、そんな計画があるなんて聞いてなかったんですけど!」
「言ってなかったもの。知らなかったのも当然じゃない?」
リゼットは平然と答えた。
「当然じゃないですよぉ! こんなすごい計画、普通はもっと早く教えてくれるものじゃないんですか!?」
「そうかしら。まあ、いいじゃない。これから作るんだから、今から知っていけばいいのよ」
「そ、そうですけど……!」
メアリーはまだ驚きを隠せない様子だった。
しかし、計画の規模に圧倒されている一方で、その目は興味津々でもあった。自分が持っているお金で、いったいどんな楽しみ方ができるのだろう。そんなことまで考え始めていた。
「ふふっ、完成したら一度乗ってみたいですわね。どんな景色が見られるのか、今から楽しみですわ」
「そうですね。これほどの施設が実現すれば、普通の宿泊施設とはまったく違う体験を提供できそうです」
アナスイとシルヴァの言葉に、ゲンナイは満足げに笑った。
「よし。料金と運営方針は、ひとまずこんなところだな。大事なのは、みんなが楽しめて、無理なく続けられることだ。儲けるためだけに作る船じゃねえ。乗った奴らが、心から楽しめる空のリゾートにするぞ!」
「はい! 完成が楽しみです!」
ナナリーの明るい声が、会議室に響いた。
まだ設計も建造も、これからだ。
けれど、どんな場所を作りたいのか。その方向性は、少しずつはっきりしてきていた。




