エジソンの楽器発表
エキドナの一角にある広い工房。
今日は、エジソンが開発を進めていた新しい楽器のお披露目が行われることになっていた。
楽器職人たちとの共同開発が始まってから、およそ一か月。
完成した試作品を見ようと、エキドナの関係者が大勢集まっていた。
「みなさん、お集まりいただきありがとうございます!」
エジソンが、いつになく得意げな顔で前に立つ。
もちろん、配信も行われている。
『エジソンの新作発表会きた!』
『今度は何を作ったんだ?』
『また何かすごいものが出てきそうだな!』
『最近の発明は便利なものも多いから期待!』
「今回、僕が挑戦したのは、地球に存在する楽器を参考にしながら、この世界の技術で再現することなんだ!」
エジソンが手を広げる。
その後ろに置かれていた布が取り払われた。
「こちらをご覧ください!」
現れたのは、ギターとベース。
そして、キーボードなど、いくつかの楽器だった。
ただし、普通の楽器ではない。
ボディの縁には細かな魔石が埋め込まれ、弦の周囲には見慣れない魔法陣が刻まれている。さらに、装飾と思われる部分には色鮮やかな光が走っていた。
赤、青、紫、緑。
七色の光が、まるで生き物のように楽器の表面を流れている。
「「「おおおおおっ!?」」」
集まっていた人々から、歓声が上がった。
「なにこれ、すごくない!?」
「かっこいい……!」
「この光、どうなっているんだ?」
『うおおおお!』
『すっげぇ! なんだこの楽器!』
『光り方が派手すぎるwww』
『エキドナはどこへ向かっているんだw』
『でも見た目めっちゃいいな!』
楽器の前に集まっていたマドカたちも、興味津々だった。
トライアングルのメンバーであるマドカ、アリシア、ナナリー。そして最近DJ機材に目覚めたニコラも、光り輝く楽器をじっと見つめている。
「えっ、これ本当に楽器なの? すっごくかっこいいんだけど!」
マドカが身を乗り出す。
「光の演出が演奏に合わせて変化するそうよ。見た目だけでも、かなり凝っているわね」
アリシアも感心した様子だった。
「わあ……! これ、弾いてみたいなぁ!」
ナナリーは、ギターから目を離せない。
「え~、ベースもいいね~。DJ機材とはまた違った楽しさがありそう~」
ニコラは、ベースの周囲をくるくると回りながら観察していた。
その様子を見て、エジソンは満足そうに頷いた。
「そうなんだ! でもね、みんなに注目してほしいのは、見た目だけじゃないんだよ!」
彼はギターを一台手に取った。
「普通、こうした楽器はアンプなどの音響機器と組み合わせて使うよね! だけど、今回の試作品は違うんだ!」
エジソンが弦を軽く弾いた。
ジャーン、と音が響く。
その瞬間、工房にいた全員が静かになった。
音が、あまりにも本格的だったのだ。
弦の響きは鮮明で、音の厚みも十分にある。アンプを接続していないにもかかわらず、広い工房の隅々まで心地よい音が届いていた。
「えっ……!?」
「アンプを使っていないのに、この音!?」
「すごい……!」
エジソンは、さらにいくつかの弦を鳴らした。
低音から高音まで、はっきりとした音が響き渡る。
「魔法によって弦の振動を補助して、音の響きを調整しているんだ! これなら、専用の音響機器を使わなくても、十分な音量と音質を実現できるんだよ!」
『音がいい!?』
『見た目だけのネタ楽器じゃないのか!』
『普通にすごい技術で草』
『楽器職人との共同開発って本気だったんだな!』
「しかも、音の調整機能も搭載しているんだ! 演奏する人の好みに合わせて、音色を変えることもできるよ!」
「ちょ、ちょっと待って!」
ナナリーが手を挙げた。
「それ、私も弾いてみていい!?」
「もちろんだよ!」
エジソンがギターを差し出す。
ナナリーは受け取ると、弦をそっと弾いてみた。
澄んだ音が工房に広がる。
「わあ……!」
何度か音を鳴らしたナナリーは、ぱっと顔を輝かせた。
「これ、すごくいいね! 音もきれいだし、弾いていて気持ちいい!」
「そうなんだ! 実際に触ってみると、また違う発見があるよね!」
エジソンは嬉しそうに頷いた。
「まだ試作品だけど、基本的な演奏性能については、楽器職人のみなさんにも太鼓判をもらっているんだ!」
「これ、私も触ってみたいですわ!」
アナスイが、いつになく目を輝かせていた。
彼女の視線は、ギターに釘付けだった。
「ギター……かっこいいですわね……!」
その表情は、まるで一目惚れした相手を見つめる乙女そのものだった。
「アナスイ、そんなに気に入ったの?」
「ええ! この形も、この輝きも……素晴らしいですわ!」
アナスイはギターを手に取る許可をもらうと、そっと構えてみた。
光が彼女の指先に反応するように、青から紫へと変わっていく。
「まあ……!」
『アナスイが完全に落ちたw』
『ギターに一目惚れする令嬢』
『これは弾いてみたくなるな!』
そんなコメントが流れる中、別の人物も楽器を見つめていた。
「なるほど……これは面白いですね」
シルヴァだった。
彼はベースを手に取り、魔石の配置や魔法陣の構造をじっくりと観察している。
「音の振動を魔法で補助しているんですね。魔力の流れを変えれば、音の特性も調整できそうです」
「そうなんだ! 僕もまだ改善できる部分はあると思っているよ!」
「魔力の伝達効率を上げれば、もっと細かな音の調整もできそうですね。発光機能も、演奏者が任意に制御できるようにすれば使いやすくなると思います」
「それ、いいね! 僕もぜひ試してみたいよ!」
エジソンとシルヴァの間で、早くも技術的な話が始まった。
一方、ガブちゃんはキーボードの前に座っていた。
鍵盤に指を置き、軽く音を確かめる。
その指先から、滑らかに旋律が流れ始めた。
ピアノもバイオリンもプロ級の腕前を持つ彼女にとって、新しい楽器を試すことは難しくない。
音を確かめながら、すぐにいくつかのフレーズを弾いてみせた。
「なるほど……音の立ち上がりも自然ですわね! これなら、演奏の表現力も十分に出せそうですわ!」
「さすがガブちゃん! もう弾けるの!?」
「要はピアノのようなものですから! 基本的な仕組みがわかれば、あとは音を確かめるだけですわね!」
ガブちゃんは微笑んだ。
そこへ、ジャスティスが楽器を眺めながら口を開いた。
「へえ、これ面白いな。俺もやってみたい!」
「ジャスティスも?」
「ああ。こういう楽器、いいじゃねえか。せっかくだし、みんなで演奏してみようぜ!」
その言葉に、アナスイが勢いよく振り返った。
「みんなで……演奏?」
「そうそう。何人かで集まって、曲を演奏したら面白そうじゃねえか?」
「それは……素敵ですわね!」
アナスイの目が、さらに輝いた。
ガブちゃんも、興味深そうに頷く。
「確かに、複数の楽器を組み合わせれば、表現の幅が広がりそうですね」
「私もやってみたいなぁ!」
ヒナタも、わくわくした様子で声を上げた。
彼女は以前から、トライアングルの活動をいいなと思っていた。
マドカたちが楽しそうに音楽を演奏している姿を見て、自分も参加してみたいと思ったことがある。
けれど、目の前にある新しい楽器も魅力的だった。
この人たちと一緒なら、また違った音楽ができるかもしれない。
「ヒナタも参加するの?」
マドカが尋ねる。
「うん! トライアングルも楽しそうだけど、こっちもすっごく面白そうなんだもん!」
「そっか。どっちも楽しそうだよね!」
マドカは笑った。
その横では、ニコラがベースを眺めながら、うんうんと頷いていた。
「え~、新しいグループかぁ~。いいね~。こっちはこっちで、いろんなことができそう~」
「ニコラはトライアングルに入ったばかりだろ?」
ジャスティスが笑う。
「そうだね~。だから、まずはDJを極めたいかな~。でも、こういう楽器も面白そうだよね~」
ニコラは、ベースの先端を指さした。
「……ところで、そこから出ている光は何かな~?」
全員の視線が、ギターとベースの先端に集まった。
そこには、小さな魔法陣が浮かび上がっていた。
「え?」
エジソンが、にっこりと笑った。
「おお! 気づいてくれたんだね! 実は今回、演奏を視覚的にも楽しめるように、特別な機能を追加したんだ!」
「特別な機能?」
「そう! 演奏に合わせて光の演出ができたら、もっと迫力が出ると思ったんだよ!」
エジソンがベースを手に取り、弦を弾く。
すると――。
ピカッ!
先端から、七色に輝く光のビームが飛び出した。
「「「うわあああああ!?」」」
ビームは壁に届く前にふわりと弾け、色とりどりの光の粒となって消えた。
工房が、一瞬だけ静まり返る。
そして。
「なんだ今の!?」
「ビーム!?」
「楽器からビームが出たんだけど!?」
『wwwwww』
『なんでだよwww』
『楽器からビームが出るとは思わないだろ!』
『音楽はどこへ向かっているんだ』
『エジソンだから仕方ない』
「ご安心ください! 人体にも物にも害はありません! 壁に当たる前に消える安全設計です!」
「いや、そういう問題じゃねえだろ!」
ジャスティスが思わず突っ込んだ。
「どうして楽器からビームを出そうと思ったんだよ!」
「演奏に合わせて光の演出ができれば、より迫力のある演奏になると考えたんだよ!」
「光るだけじゃ駄目だったのか!?」
「そうかな? 僕はね! せっかくなら、これくらい派手なほうが面白いと思うんだ!」
「面白さの方向性がおかしいだろ!」
ジャスティスの叫びが工房に響く。
しかし、アナスイは違った。
「……ビームまで出るのですか」
彼女はギターを見つめ、うっとりと呟いた。
「ますます、かっこいいですわ……!」
「そこなの!?」
ジャスティスが振り返る。
「だって、かっこいいではありませんか!」
「いや、まあ……そう言われると……」
ジャスティスも、改めてベースを見た。
虹色に光るボディ。
弦を弾けば本格的な音が鳴り、先端からは安全なビームが飛び出す。
「……うん。確かに、ちょっとかっこいいな」
『認めるなwww』
『ジャスティスも陥落』
『見た目のインパクトは抜群だな!』
ガブちゃんが楽しそうに笑った。
「でも、演奏するなら、まずは練習からですね。いきなり皆で合わせるのは難しいでしょうし」
「そうだな。俺も楽器なんて初めてだし、すぐには無理だろうな」
ジャスティスは素直に頷いた。
アナスイも、ギターを大事そうに抱えながら微笑む。
「まずは、きちんと音を出せるようになるところからですわね!」
「僕も、ベースの構造を調べながら少しずつ覚えてみます。改良できそうなところも探してみたいですしね」
シルヴァも、ベースを手にしたまま頷いた。
「僕はね! 楽器は、作って終わりじゃないと思っているんだ! 実際に演奏してもらって、気づいたことを改良していくのも大切だからね!」
エジソンは嬉しそうに五人を見回した。
新しい楽器をきっかけに、音楽に興味を持つ人が増えてくれる。
開発者として、これほど嬉しいことはない。
もちろん、今すぐ立派な演奏ができるわけではない。
これから練習を重ねて、少しずつ上達していけばいいのだ。
「いつか、みんなで演奏できるようになるといいね!」
エジソンの言葉に、五人はそれぞれ頷いた。
こうして、エキドナに新しい音楽グループが生まれるかもしれない――そんな、小さなきっかけが生まれたのだった。
その様子もまた、世界中に配信されていた。
『新しいグループができるのかな?』
『これはちょっと楽しみだな!』
『いつか演奏を聴かせてほしい!』
まだ名前も、活動予定も決まっていない。
けれど、興味を持った者たちが楽器を手に取り、練習を始めようとしている。
それだけで、今後が少し楽しみになる出来事だった。




