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落内円は落ちている  作者: 七風


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勇者会議 配信中

 定期的に開催されている、勇者たちによるEV会議。


 各大陸の勇者たちが集まり、近況報告や情報交換を行う場である。


 今回は、いつもの報告が一段落したところで、シルヴァが楽しそうに話していた。


「いやぁ、本当にエキドナはすごいですよ!」


「……またエキドナか」


 画面の向こうで、傲慢の勇者が眉をひそめる。


「ニコラ博士の技術はもちろん、リゼット様の魔法理論も素晴らしいんです! ムサシさんの剣技もぜひ一度見ていただきたいですね!」


「お前、最近ずっとそこに通ってるんだろ?」


「ええ!」


「仕事はどうした?」


「もちろん必要な仕事は済ませていますよ! そのうえで通っているんです!」


「通ってるって……お前なぁ」


 傲慢が呆れたように息を吐く。


 その隣では、アナスイも優雅に微笑んでいた。


「わたくしも、エキドナには頻繁にお邪魔しておりますわ。リゼット様にはいろいろと教えていただけますし、ナナリー様ともお話しできますもの!」


「アナスイ、お前もかよ……」


「ええ! それに、ジュリエットも元気にしておりますわ!」


「……ジュリエット?」


「わたくしの家族ですわ!」


 アナスイは嬉しそうに答えた。


「最近はナナリー様と一緒にライブに出る機会までありまして……ああ、本当に素晴らしいことですわ!」


「お前もナナリーの話になると長いんだよ!」


「まぁ! ナナリー様の素晴らしさを語るのに、長いも短いもございませんわ!」


「はいはい……」


 周囲の勇者たちは、すっかり慣れた様子で受け流していた。


 だが、傲慢だけは違った。


「……なあ」


 腕を組み、画面を睨む。


「そんなにすげえのかよ、エキドナってとこは」


「はい!」


 シルヴァが即答する。


「僕の知っている技術の常識が、次々と覆されるんですよ! 特にニコラ博士は――」


「いや、技術の話はいい」


「えっ?」


「俺が聞いてんのは、そこの連中がどれだけ強いかって話だ」


 傲慢の声が低くなる。


「勇者より強い奴がいるって噂まで聞いてんだよ。大賢者リゼットに、剣士ムサシ。それにマドカだったか?」


「ええ、そうですね!」


「……お前、もう少し言い方ってもんがあるだろ」


 別の勇者が苦笑した。


「事実ですからね!」


「だからこそ腹が立つんだよ!」


 傲慢が机を叩いた。


「俺ら勇者より強いだと? 冗談じゃねえぞ! そいつらがどれほどのもんなのか、俺が直接確かめてやる!」


「まぁ!」


 アナスイが目を丸くした。


「傲慢様もエキドナにいらっしゃるんですの?」


「当たり前だろうが!」


「そうですか……」


 アナスイは一瞬、シルヴァと視線を交わした。


 ほんの一瞬だった。


 しかし、二人は同じことを考えていた。


(……来てほしくないですね)


(……本当にそうですね)


 エキドナは居心地がいい。


 リゼットたちは素晴らしい。


 ニコラの研究環境も最高だ。


 だが、それはあくまでも、普通に交流できる相手であればこそ。


 傲慢が乗り込んでいって「俺と勝負しろ!」などと言い始めたらどうなるか。


 想像するまでもなかった。


 アナスイは、にっこりと微笑んだ。


「それで?」


「……あ?」


「傲慢様は、どうやってエキドナまでいらっしゃるんですの?」


「……は?」


 傲慢の表情が止まった。


「どういう意味だ?」


「そのままの意味ですわ」


 アナスイは小首を傾げる。


「わたくしたちは、エキドナの皆様から許可をいただいておりますので、屋敷にも自由にお邪魔できますけれど……」


「…………」


「傲慢様も、同じように許可をいただいていらっしゃるのですか?」


「いや、そりゃ……」


 傲慢が言葉に詰まる。


 許可など、もらっていない。


 そもそも、今初めて行こうとしているのだ。


 そこへシルヴァが、何気ない調子で口を挟んだ。


「ああ、そういえば!」


「……何だよ」


「傲慢大陸からエキドナまでは、結構距離がありますよね?」


「それがどうした」


「いえ、僕たちは転移装置を使わせてもらっているので、すぐに行けるんですけどね!」


「…………」


「傲慢大陸からだと、どうやって来るんです?」


 シルヴァは本気で不思議そうに尋ねた。


「船ですか? それとも飛空艇? あ、まさか……」


 わざとらしく考え込む。


「泳いでくるんです?」


「誰が泳ぐかぁぁぁぁ!!」


 傲慢の怒声が、会議に響き渡った。


『wwwww』


『シルヴァ煽ってるだろw』


『完全に泳がせる気で草』


『許可がある人とない人の差w』


『傲慢、出発前から詰んでるぞw』


 シルヴァはきょとんとする。


「えっ、泳がないんですか?」


「泳ぐわけねえだろうが!」


「そうですか……。でも、転移装置が使えないとなると、少し大変ですねぇ」


「テメェ……!」


 傲慢の拳が震える。


 しかし、シルヴァはどこ吹く風だった。


「いやぁ、僕たちは本当に恵まれてますね! リゼット様に許可をいただいているおかげで、エキドナにも気軽に通えますから!」


「わたくしも、リゼット様には感謝しておりますわ!」


 アナスイも笑顔で続ける。


「お許しをいただいているからこそ、安心してお邪魔できるのですもの。やはり、信頼関係というものは大切ですわね!」


「…………」


 傲慢は、黙り込んだ。


 言い返したい。


 思い切り言い返してやりたい。


 だが、許可がないのは事実。


 シルヴァとアナスイは、すでにエキドナとの交流を築いている。


 そこへ自分がいきなり押しかけて、受け入れてもらえる保証などない。


 その事実が、余計に腹立たしかった。


「……チッ」


 傲慢は舌打ちする。


「いいぜ。だったら、どうやって行けばいいのか、自分で探してやるよ」


「まぁ! 頑張ってくださいまし!」


 アナスイが、満面の笑みで応援した。


「必要でしたら、エキドナの皆様にお話を通すこともできますわよ?」


「……本当か?」


「ええ。ただし、皆様に失礼のないようにお願いしますわね?」


「…………」


 傲慢の顔が引きつった。


「……お前、俺に喧嘩売ってんのか?」


「まぁ! そんなつもりはございませんわ!」


 アナスイは、にこにこと微笑んでいる。


 その実、内心では祈っていた。


(どうか、リゼット様たちに迷惑をかけませんように……)


 隣のシルヴァも同じだった。


(お願いですから、研究室で暴れたりしないでくださいね……)


 二人とも、エキドナが大好きだった。


 だからこそ。


 **余計な面倒ごとを持ち込んでほしくなかった。**


 そして――。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 今度は嫉妬の勇者が、勢いよく身を乗り出した。


「何なのよ、さっきから! シルヴァもアナスイも、エキドナの話ばっかり!」


「……はい?」


 アナスイが首を傾げる。


「特にアナスイ! 最近、あんたばっかり目立ってるじゃない!」


「まぁ……」


「ナナリーのライブで大騒ぎ! ジュリエットと一緒に映れば大騒ぎ! リゼットに教えてもらってるって話まで聞こえてくるし!」


 嫉妬の勇者は悔しそうに唇を尖らせた。


「アタシより目立つなんて、あんた何様!?」


「わたくしは、好きなものを好きだと申し上げているだけですわ」


「それが腹立つのよーっ!」


「なぜですの!?」


「その余裕たっぷりな態度が気に入らないの!」


「困りましたわね……」


 アナスイは本気で困った顔をした。


「ですが、ナナリー様は本当に素晴らしいですし、ジュリエットはかわいいですし、リゼット様は尊敬できるお方ですわ。好きになる理由しかございませんもの!」


「だから、その話をするなって言ってるのよーっ!」


「まぁ!?」


 アナスイが驚く。


 シルヴァは頭を抱えていた。


「……ああ、もう。どうしてこうなるんですか」


 傲慢は、むしろその騒ぎを利用するように笑った。


「いいじゃねえか、嫉妬。お前もエキドナに行けばいいだろ?」


「はぁ!?」


「アナスイばっかり目立つのが気に入らねえんだろ? だったら自分で行って、もっと目立ってくりゃいいじゃねえか!」


「……それは……」


 嫉妬が言葉に詰まる。


 そして。


「……行くわよ!」


 勢いよく立ち上がった。


「アタシだってエキドナに行ってやる! どれだけすごい場所なのか、この目で確かめてやるんだから!」


「まぁ! 嫉妬様もいらっしゃるんですの?」


 アナスイが明るく尋ねた。


「そうよ! 何か文句ある!?」


「いいえ! ぜひお越しくださいまし!」


 アナスイは笑顔で答えた。


 ただし、内心ではこう思っていた。


(……本当に来ることになってしまいましたわ……)


 シルヴァも、静かに遠い目をした。


(……これは、リゼット様に事前にお伝えしたほうがいいかもしれませんね……)


 そして、傲慢は勢いよく立ち上がったまま宣言した。


「よし! 俺も行く! エキドナの連中がどれほどのもんなのか、直接見てやる!」


「……そうですか」


 シルヴァは笑顔を保った。


「では、まずは移動手段からですね!」


「テメェ、まだ言うか!」


『泳いでくるんです?www』


『シルヴァ、完全に傲慢をおもちゃにしてるw』


『エキドナの屋敷、勇者の来訪ラッシュになるのか?』


『リゼット様に事前連絡したほうがよさそうw』


 会議は、すっかり騒がしくなっていた。


 その一方で。


 憤怒の勇者だけは、ほとんど口を開かなかった。


 彼は画面の向こうの騒ぎを聞きながら、ただ静かに呟いた。


「……団長……リゼット様……」


 その声は、誰にも届かないほど小さかった。


 こうして。


 シルヴァとアナスイの何気ない近況報告から――。


 傲慢と嫉妬までが、エキドナへ興味を持つことになった。


 ただし、エキドナへ通う二人の勇者は、心の底から願っていた。


 **どうか、あの二人が余計な騒ぎを起こしませんように。**


 そして憤怒の勇者は。


 誰にも聞こえない声で、もう一度だけ呟いた。


「……団長……リゼット様……」


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