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落内円は落ちている  作者: 七風


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エアバイクライブ

 ライブ本番に向けた最終調整。


「ニコラ、このバイクって手放しでも大丈夫なんだよね?」


 ナナリーが緑色の浮遊バイクを確認する。


「うん~。オート操縦と手動操縦を切り替えられるようにしてあるよ~」


 ニコラが操作パネルを指差した。


「オートなら、設定したコースを自動で飛ぶよ~。高度も速度も自動調整するし、障害物を避ける機能もつけてあるからね~」


「じゃあ、ギターを弾きながらでも乗れるんだ?」


「そういうこと~。手動に切り替えれば、ハンドルを握って自分で操作することもできるよ~」


「すごい!」


 ナナリーが目を輝かせた。


「歌いながらギターを弾いて、さらにバイクに乗れるなんて!」


「ライブ用には、手元で操縦モードを切り替えられるようにしてあるからね~。ただし、オート中に急に操作したくなったら、ちゃんと手動に切り替えてね~」


「うん、分かった!」


 ナナリーは嬉しそうに頷いた。


「それで、後ろに乗るのは――」


 視線を向ける。


 そこには、小柄なコボルトの女の子がいた。


「わんお?(私?)」


 赤い警備服姿のジュリエット。


 アナスイの家族として暮らしている、あのジュリエットである。


「そう! ジュリエット、一緒に乗ろう!」


「わんおお!(乗る!)」


 ジュリエットは嬉しそうに尻尾を振った。


「後ろの席には安全ベルトもあるからね~。急旋回しても落ちないようにしてあるよ~」


 ニコラが説明する。


「よし、じゃあ試してみよう!」


 ナナリーが運転席に座る。


 ジュリエットは後部座席によじ登り、専用の安全ベルトを装着した。


「わふ!(準備できた!)」


「じゃあ、まずはオート操縦で!」


 ナナリーがスイッチを押す。


 フワリ。


 緑色のバイクが浮かび上がった。


「おおー!」


 ゆっくりと前進し、指定されたコースに沿って滑らかに旋回する。


 ハンドルから手を離しても、機体は安定して飛行を続けていた。


「すごい……本当に手放しで飛んでる!」


 ナナリーは感動したように呟く。


 そして、ギターを構えた。


「じゃあ、これなら――」


 ジャラン♪


 軽く弦を鳴らす。


「弾きながらでも問題なさそうだね!」


「わんおお!(すごい!)」


 後ろのジュリエットが、ナナリーの背中に前足を添えて大喜びしている。


「よーし! このままライブでもやろう!」


 ナナリーが笑った。


 ◇ ◇ ◇


 そして、ライブ当日。


 会場は大勢の観客で埋め尽くされていた。


 もちろん、今回もEVによる配信が行われている。


『トライアングルきたー!』

『DJニコも参加するぞ!』

『今日はどんな演出なんだ?』

『新しい乗り物を使うって聞いたけど、何が出てくるんだろう』


 観客たちは、いつもと同じステージを期待していた。


 ステージ中央には、マイクスタンド。


 その後方には、広いダンススペース。


 そして、ステージの両脇には赤や青の照明が配置されている。


 やがて、照明が落ちた。


 一瞬の静寂。


 次の瞬間――。


 ドンッ!


 低音が会場を揺らした。


 ステージの後方から、光が走る。


 そして、三つの影が現れた。


「みんなー! 盛り上がってるー!?」


 マドカの声が響き渡る。


「今日は、いつもとちょっと違うライブだよ!」


 観客が歓声を上げる。


「それじゃあ、いくよー!」


 イントロが始まった。


 ナナリーのギターが音を刻む。


 アリシアがリズムに合わせて動く。


 そしてマドカが歌い始めた。


 軽快なメロディー。


 勢いのある歌声。


 観客たちも手拍子を始める。


 いつものトライアングルのライブだった。


 ――最初のサビに入るまでは。


 曲の盛り上がりに合わせ、ステージの両脇から魔力の光が立ち上る。


 ゴォォォ……!


「……ん?」


 観客の一人が顔を上げた。


 ステージの左右から、三台の浮遊バイクが姿を現したのだ。


「えええええ!?」


『バイクきたああああ!』

『マドカが乗ってる!?』

『ナナリーも!?』

『アリシアまでいるぞ!?』


 三人は歌を続けながら、それぞれのバイクに乗っていた。


 マドカが乗るのは、白い浮遊バイク。


 ナナリーは緑。


 アリシアは赤。


 三台がステージの周囲を旋回する。


 もちろん、地面を走っているわけではない。


 魔力で車体を浮かせ、そのまま空中を飛行しているのだ。


 そして何より――。


 三人は歌を止めていなかった。


「君と一緒なら――♪」


 マドカが歌いながら、バイクを傾ける。


 ふわりと機体が旋回する。


 続いてナナリーが歌声を重ねた。


 その手にはギター。


 バイクはオート操縦で、彼女は両手を使って演奏しながら歌い続けている。


 そして、ナナリーの後部座席には――。


 赤い警備服を着たジュリエットが乗っていた。


「わんおお!(わああ、楽しい!)」


 ジュリエットは安全ベルトをしっかり装着し、嬉しそうに尻尾を振っている。


『えええええ!?』

『ナナリー、ギター弾いてるぞ!?』

『しかもハンドル握ってない!?』

『後ろにジュリエット乗ってるううう!』

『緑のバイクかっこいい!』

『オート操縦ってことか! すごい技術だな!』


 EVのコメント欄が、一気に流れていく。


 そして――。


『ナナリー様あああああ!! ジュリエットおおおおお!!』


 とんでもない勢いで、一つの名前が流れ始めた。


 アナスイだった。


 女性の勇者である彼女は、普段からナナリーを熱心に応援している。


 そして、ジュリエットは大切な家族。


 その二人が同じバイクに乗って、ライブの舞台で活躍しているのだ。


 アナスイにとって、これ以上ない光景だった。


『お二人とも最高ですわああああ!!』

『ナナリー様、どうかジュリエットをよろしくお願いいたしますわ!』

『ジュリエットおおお! 楽しんでいらっしゃいますの!?』

『ナナリー様のギターも最高ですわあああ!!』

『あああ、ジュリエットが尻尾を振っていますわ! かわいいですわあああ!!』


 コメントが止まらない。


『アナスイさんの応援がすごいw』

『推しと大切な家族が一緒にいるんだから仕方ないw』

『どっちも全力で応援してるのが伝わってくるw』


 ナナリーは歌いながらEVのコメントをちらりと見て、思わず笑った。


「ふふっ。ジュリエット、アナスイさんが応援してくれてるよ!」


「わんおお!(アナスイ、見てる!?)」


 ジュリエットは嬉しそうに尻尾を振った。


 もちろん、観客にはその鳴き声の意味までは分からない。


 だが、ナナリーの背後で元気いっぱいにしているジュリエットの姿は、画面越しにもはっきり伝わっていた。


 そしてサビ。


 ナナリーはギターを弾きながら歌い、バイクは大きく旋回する。


 ジュリエットは後部座席でしっかり安全ベルトを装着したまま、リズムに合わせて身体を揺らした。


 その横を、マドカの白いバイクが通過する。


「ナナリー、そっち大丈夫ー!?」


「大丈夫だよー!」


 ナナリーは笑顔で答えた。


 反対側からアリシアの赤いバイクも合流する。


 三台が空中で並んだ。


 白。


 緑。


 赤。


 三色の光が、ステージ上空に美しい軌跡を描いていく。


 その後方では――。


「いくよ~!」


 円盤型の飛行装置に乗ったニコラが、DJ機材を操作していた。


 円盤型の機体は空中を自由に移動しながら、音楽を会場いっぱいに響かせる。


 その姿は、地球の乗り物を知るマドカたちから見れば、まるでUFOのようだった。


 だが、観客たちにとっては、見たこともない新型の浮遊魔道具でしかない。


 そのため、EVのコメント欄には別の反応が流れていた。


『何だあの円盤!?』

『ニコラが空飛ぶ台に乗ってDJしてるぞw』

『あれも新しい魔道具なのか!?』

『どういう仕組みなんだよ!』

『DJしながら空中移動してるの、すごすぎない?』


 ニコラはそんな反応を知ってか知らずか、楽しそうにフェーダーを動かしていた。


 曲のテンポを変える。


 低音を響かせる。


 音を一瞬だけ止め、そこから一気に盛り上げる。


 それに合わせて、三台のバイクが隊列を組み替えていく。


「いくよ~!」


 ニコラが音を盛り上げた。


 ズンッ!


 強いビートが会場に響く。


 三台のバイクが同時に上昇した。


 赤。


 緑。


 白。


 三色の光がステージの上空に弧を描く。


 そのまま三人は互いにすれ違い、中央で並走。


 最後には、観客席から見て一直線になるように隊列を整えた。


 まるで、三台のバイクそのものが振り付けの一部になっているかのようだった。


「うわぁぁぁぁ!」


 歓声が爆発する。


 しかし――。


 まだ終わりではなかった。


 ステージの下から、小さな影が続々と現れた。


「……ん?」


 観客が目を凝らす。


 赤いユニフォーム。


 青いユニフォーム。


 見覚えのある小さな耳。


 コボルトたちだった。


 左右から次々と登場したコボルトたちは、ステージのダンススペースへ駆けていく。


 そして音楽に合わせて――。


「わんお!(いくよー!)」


「わふ!(みんな、合わせて!)」


 ぴょん!


 くるっ!


 左右にステップ。


 その場で回転。


 前足を高く上げ、身体を左右に揺らす。


 短い足で一生懸命リズムを刻むコボルトたち。


 ところどころ動きがずれている子もいる。


 隣の子につられて逆方向へ回ってしまう子もいる。


 だが、それも含めてかわいらしい。


「きゃああああ!」


 観客席から歓声が上がった。


『コボルトダンサーズ!?』

『待ってかわいすぎるwww』

『競技会の子たちだ!』

『赤組と青組、一緒に踊ってる!』

『一匹だけ回る方向逆で草』

『あっ、転びそう! ……立て直したw』


 コボルトたちは、転びそうになってもすぐに立ち直り、尻尾を振りながら踊り続ける。


 その様子を見たマドカは、歌いながら楽しそうに笑っていた。


 ナナリーも笑顔で歌声を重ねる。


 アリシアはバイクをゆっくり旋回させながら、ステージのコボルトたちへ手を振った。


 ニコラは空中でDJを続ける。


 円盤型の飛行装置が、まるで魔法の絨毯のように滑らかにステージの上を移動していた。


 その姿は、完全にライブの一部になっている。


 そして曲は、最後のサビへ。


 ニコラが音を盛り上げる。


 三人が歌う。


 コボルトたちが踊る。


 観客たちも手拍子を始めた。


 ステージ全体が、一つの大きなダンスフロアになっていた。


 最後の一節。


 三台のバイクが、ステージ正面で横一列に並ぶ。


 ニコラの円盤型飛行装置が、その後方で静止した。


 コボルトたちは、三人の前で一斉にポーズを決める。


「――ありがとう!」


 マドカの声が響いた。


 曲が終わる。


 一瞬の静寂。


 そして――。


 ワァァァァァァァ!!


 会場が大歓声に包まれた。


『最高おおおおお!』

『何だこのライブwww』

『バイクに乗って歌うアイドルと空飛ぶDJとコボルトダンサーズw』

『情報量が多すぎるw』

『でも最高だった!』


 マドカたちはバイクから降り、観客へ手を振った。


「みんな、ありがとうー!」


 ナナリーも笑顔で頭を下げる。


「楽しんでもらえたかな?」


 その背後で、ジュリエットも前足を上げた。


「わんお!(ありがとう!)」


 アリシアも頷く。


「私たちも楽しかったわ!」


 その頭上では、ニコラが円盤型の飛行装置をゆっくり下降させていた。


「ふぅ~。DJしながら飛ぶのも、なかなかいいね~」


「ニコラ、それ気に入ったの!?」


 マドカが叫ぶ。


「うん~。次はもっと高く飛べるようにしようかな~」


「いやいや! ライブ用だからね!?」


「大丈夫だよ~。ちゃんと安全装置もつけてあるし~」


「そういう問題じゃない!」


 ナナリーとアリシアが笑い出す。


 コメント欄も、最後まで勢いを失わなかった。


『次はもっと高く飛ぶらしいw』

『ニコラ、絶対改造する気だ』

『コボルトたちのダンスもまた見たい!』

『金貨五枚で買えるなら、バイク一台ほしいな』

『ライブ演出用の特別仕様も販売してください!』


 マドカはEVの画面を見て、にっこり笑った。


「バイクは金貨五枚で販売中だよー! ただし、ライブ用の演出は練習してからね!」


『売り込みまで始めたwww』


 そして、コメント欄の中でも特に目立つのは、やはりアナスイだった。


『ナナリー様、ジュリエット! 本当に最高でしたわああああ!!』


『ジュリエット、帰ったらいっぱい褒めてあげますわね! もちろんナナリー様にも感謝ですわ!』


 最後まで、二人への応援を欠かさなかった。


 ナナリーはジュリエットの頭を優しく撫でた。


「ジュリエット、また一緒に乗ろうね!」


「わふ!(うん!)」


 ジュリエットは満足そうに尻尾を振った。


 こうして――。


 トライアングル with DJニコの空中ライブは、新たな名物となった。


 歌いながら空を駆ける三人。


 空飛ぶ円盤型の機体でDJを続けるニコラ。


 そして、ステージで一生懸命踊るコボルトたち。


 その光景は、これまでのライブとはまるで違うものだった。


 しかし、観客たちは確信していた。


 次のライブでも、きっと何かとんでもないものが見られるに違いない。


 なぜなら――。


 ここは、エキドナなのだから。


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