ダメージ競争
エキドナ幻影本物当てゲームが終了し、競技場には再び赤組と青組のコボルトたちが集まっていた。
「皆様、本物を見つけるために大奮闘でしたわね!」
実況席のガブリエルが、笑顔で拍手を送る。
「赤組も青組も、とても頑張りましたわ! それでは、次の競技に参りましょう!」
競技場の中央へ、巨大な装置が運び込まれてきた。
いや、装置というより――。
「……魔物?」
観客の一人が呟いた。
そこに立っていたのは、大型の魔物を模した巨大な標的だった。
獰猛そうな頭部。
分厚い胸板。
太い腕。
そして、身体のあちこちには魔力を測定するための魔道具が組み込まれている。
全身を覆うように、半透明のバリアが展開されていた。
「まぁ! ずいぶん大きな魔物ですわね!」
ガブリエルも興味深そうに見上げる。
すると、装置の横からニコラが現れた。
「は~い。次は、これを使うよ~」
「ニコラ、今度は何を作ったの?」
マドカが尋ねる。
「ダメージ測定装置~。大型の魔物に似せた標的に攻撃すると、威力を数値にして表示してくれるんだよ~」
「ダメージを数字で測るの?」
「そうそう~。剣でも、拳でも、魔法でも大丈夫。攻撃で与えたダメージを測定するの~」
「へぇー! それは面白そう!」
マドカが目を輝かせる。
リゼットも、標的を興味深そうに眺めていた。
「それで、そのバリアは?」
「安全装置だよ~。攻撃の衝撃を外へ漏らさず、測定装置そのものも守ってくれるんだ~。これなら、本気で攻撃しても大丈夫だよ~」
「本気で?」
「うん~。魔法もスキルも、普段使っている武器も、全部使っていいよ~」
ニコラが説明すると、赤組と青組のコボルトたちが一斉に顔を上げた。
「わんお!?(本気で攻撃していいの!?)」
「わふ!(それなら得意だよ!)」
「わんお!(お菓子とお肉のために全力だ!)」
「わふ!?(でも、どれくらいの威力を出せばいいんだろう?)」
確かに、威力を競うと言われても、基準が分からなければ勝負にならない。
「攻撃方法や得意分野によって違いもございますから、ランクだけで全員の実力が決まるわけではありませんの!後ほど冒険者の方にランク別で攻撃して数値を測ってもらいますわ!」
「そういうこと~」
ニコラも頷く。
「そして、今回の競技では、コボルト一匹につき攻撃は一回だけ。その一回のスコアをチームごとに合計するよ~」
掲示板に追加の説明が表示された。
『赤組:50匹、全員一回ずつ攻撃』
『青組:50匹、全員一回ずつ攻撃』
『攻撃方法は自由』
『制限時間内に各自の攻撃を実施』
『合計スコアが高いチームの勝利』
「まぁ! 一匹ずつの実力だけでなく、チーム全体の力も重要になりますわね!」
ガブリエルが楽しそうに頷いた。
赤組と青組のコボルトたちは、さっそく互いに顔を見合わせている。
「わんお!(私たち全員の点数が合計されるんだね!)」
「わふ!(一匹ずつ確実に攻撃しよう!)」
「わんお!(でも、すごい威力を出したら一気に逆転できるかも!)」
「わふ!(よし、頑張ろう!)」
どうやら、競技の内容は理解できたらしい。
人間たちには、元気に鳴きながら作戦会議をしているようにしか見えないのだが。
「ふふっ。皆様、ずいぶん気合いが入っていますわね!」
ガブリエルが笑顔で実況する。
「それでは、実際にどのくらいのスコアが出るのか、見本を見せていただきましょう!」
◇ ◇ ◇
最初に登場したのは、Cランク冒険者の男性だった。
「では、普通の剣で攻撃してみます」
男性は片手剣を構える。
標的の前に立ち、狙いを定めた。
「はっ!」
鋭い斬撃が、標的の胴体へ叩き込まれる。
ガキィン!
バリアが一瞬だけ光った。
そして、標的の上部に数値が表示される。
『DAMAGE:50』
「おおー!」
観客席から拍手が起こった。
「まぁ! Cランク冒険者の基準となるスコア、五十ですわ!」
ガブリエルが掲示板を指し示す。
続いて、Bランク冒険者が前へ出た。
「では、私も剣で試してみましょう」
少しだけ構えが変わる。
踏み込み。
鋭い一撃。
ドンッ!
『DAMAGE:70』
「おおっ!」
また拍手が起こる。
「Bランク冒険者の目安は七十ですわ! 先ほどよりも高いスコアが出ましたの!」
次はAランク冒険者。
こちらは大柄な男性だった。
「では、少し強めにいきます」
両手剣を構え、魔力をまとわせる。
踏み込みと同時に、重い斬撃が標的へ叩き込まれた。
ドゴンッ!
標的のバリアが大きく光る。
『DAMAGE:100』
「百ですわ!」
ガブリエルが声を弾ませた。
「Aランク冒険者の目安となる数値が表示されましたわね!」
最後に、Sランク冒険者が前へ出た。
先ほどまでの選手とは、構えからして違う。
剣を持つ手に、濃密な魔力が集まっていく。
「それでは、失礼します」
一閃。
空気が震えた。
バァンッ!
標的のバリアが激しく光る。
装置が一瞬揺れ、掲示板の数字が跳ね上がった。
『DAMAGE:180』
観客席から、大きな歓声が上がった。
「すごい!」
「さすがSランクだ!」
「まぁ! 百八十ですわ!」
ガブリエルも、思わず立ち上がって拍手した。
「Cランクの目安の三倍以上ですのね! さすがの威力ですわ!」
そして――。
「次はマドカさんですわ!」
ガブリエルに紹介され、マドカが前へ出た。
「えっ、私もやるの?」
「もちろん~。比較用にお願いしたんだよ~」
ニコラが笑う。
「なるほどね!」
マドカは剣を抜いた。
標的の前へ立つ。
そして、少しだけ身体を沈めた。
「じゃあ、いくよ!」
一歩。
踏み込み。
斬撃。
ドォンッ!!
先ほどまでとは明らかに違う音が響いた。
バリア全体が光り、標的の足元に魔力の波紋が広がる。
掲示板の数字が、一気に跳ね上がった。
『DAMAGE:250』
「おおおおおおおお!」
競技場が沸いた。
「二百五十!?」
「Sランクの目安を大きく超えたぞ!」
「さすがマドカさんだ……!」
ガブリエルは、満面の笑みで拍手した。
「まぁ! 二百五十ですわ! Sランク冒険者の目安が百八十ですから、さらに大きなスコアが出ましたの!」
マドカは剣を収め、少し照れくさそうに笑った。
「えへへ。まあ、こんな感じかな!」
コメント欄にも、次々と反応が流れる。
『マドカ安定の高スコアw』
『Cランク50、B70、A100、S180、マドカ250か』
『基準が分かりやすいな!』
『コボルトたち、これ見てやる気になりそうw』
実際、そのとおりだった。
掲示板の数値を見つめていたコボルトたちは、すでに気合い十分だった。
「わんお!(二百五十!? すごい!)」
「わふ!(私たちだって頑張るよ!)」
「わんお!(全力で攻撃していいなら、私もやる!)」
「わふ!(お菓子のために!)」
赤組も青組も、今にも走り出しそうな勢いである。
ガブリエルは、そんなコボルトたちを見て、嬉しそうに微笑んだ。
「それでは、いよいよ本番ですわ!」
競技場の中央に、最初の選手が呼ばれた。
赤いユニフォームを着た、小柄なコボルトだった。
「わんお!(よし! 頑張るぞ!)」
コボルトは標的の前へ進み出る。
前足を構え、全身に力を込めた。
そして――。
小さな身体からは想像できないほど、鋭い一撃を放った。
ドンッ!
バリアが光る。
掲示板の数字が表示された。
『DAMAGE:62』
「わんおお!(やったー!)」
コボルトが嬉しそうに跳びはねる。
「まぁ! 六十二ですわ!」
ガブリエルも拍手した。
「Cランクの目安を超える、素晴らしいスコアですわね!」
赤組の仲間たちも、尻尾を振って喜んでいる。
「わんお!(いいぞ!)」
「わふ!(私たちも負けないよ!)」
次は青組の選手。
少し大柄なコボルトが、標的の前へ出た。
「わふ!(いくよ!)」
両前足を構え、地面を強く蹴る。
そして、身体全体を使って叩きつけるように攻撃した。
ドンッ!
『DAMAGE:74』
「おおっ!」
青組から歓声が上がった。
「わふおお!(やったー!)」
コボルトは、嬉しそうに尻尾を振る。
「青組も七十四ですわ! こちらも立派なスコアですの!」
こうして、赤組と青組のコボルトたちは、一匹ずつ攻撃していった。
剣を振るう子。
力強い拳を叩き込む子。
魔法を放つ子。
鋭い爪を使う子。
普段の警備や森でのモンスター駆除で鍛えた技を、それぞれが披露していく。
標的のバリアは、どれほど強い攻撃を受けても壊れない。
だから、コボルトたちは思い切り攻撃できるのだ。
「わんお!(全力だー!)」
「わふ!(まだまだ!)」
掲示板には、次々と数値が表示されていった。
そして、赤組と青組の合計スコアが、少しずつ積み上がっていく。
赤組がリードすれば、青組が追い上げる。
青組が逆転すれば、赤組も負けじと高いスコアを出す。
「まぁ! これは接戦ですわ!」
ガブリエルは、目を輝かせて実況を続けた。
「皆様、一匹一匹の攻撃が、チーム全体の勝敗を左右しますの! 最後まで目が離せませんわね!」
観客席から、赤と青それぞれへの応援が響き渡った。
「赤組、頑張れー!」
「青組も負けるなー!」
そして、競技場の中央では、次のコボルトが攻撃の準備を始めていた。
コボルト競技会。
その中でも、実力を数字で競い合うダメージ競争は、予想以上の盛り上がりを見せていた。
残る選手たちは、まだ大勢いる。
勝負の行方は、まだ分からない。




