障害物競争
スペシャルライブが終わり、競技場には再び赤組と青組のコボルトたちが集まっていた。
ステージではマドカたちが手を振り、観客席からはまだ拍手が続いている。
「皆様、素敵なライブでしたわね! トライアングルwith DJニコの皆様、そして一緒に踊ってくださったコボルトの皆様、本当にありがとうございましたわ!」
ガブリエルが笑顔で締めくくった。
『もう一曲聴きたかった!』
『コボルトダンス最高だったw』
『赤組も青組も仲良しでほっこりする』
『アナスイ:ジュリエット、とっても素敵でしたわ! 帰ったらいっぱい褒めてあげますわね!』
コメント欄には、まだ興奮冷めやらぬ様子で応援が流れていた。
そんな中、競技場の係員から集計結果が届けられる。
「あら、結果が出ましたのね!」
ガブリエルは受け取った用紙を確認した。
「それでは、先ほどのフリスビー回収部門の結果を発表いたしますわ!」
観客席が静かになる。
「赤組、七十三枚!」
「おおおお!」
「そして、青組――七十一枚ですわ!」
観客席から歓声が上がった。
赤組の勝利。
差は、わずか二枚だった。
「わんおお!(やったー! 勝ったぞ!)」
「わふ!?(たった二枚差!?)」
「わんお!(あと一枚拾えていれば……!)」
「わふぅ……(あのとき籠をひっくり返さなければ……)」
青組の一匹が、思い出したようにしょんぼりと耳を下げた。
その隣では、籠をひっくり返したコボルトが、気まずそうに目をそらしている。
「わんお……(ごめんなさい……)」
「わふ!(次で取り返そう!)」
「わんお!(そうだ! まだ競技は残ってる!)」
青組はすぐに気持ちを切り替えた。
その様子に、観客席から温かな拍手が送られる。
「まぁ! 素晴らしいですわね! 最後まで諦めない姿勢、大切ですわ!」
ガブリエルも嬉しそうに頷いた。
◇ ◇ ◇
「さて、続いての競技をご紹介いたしますわ!」
ガブリエルが進行表を確認する。
「次は――障害物競走ですわ!」
競技場の中央に、係員たちが準備していたコースが姿を現した。
最初に見えるのは、小さなトンネル。
その先には、ジグザグに並んだ障害物。
さらに進むと、低いハードル、柔らかいマットの山、そして最後には大きなボールを転がしてゴールを目指す区間まである。
どれも、コボルトたちの体格に合わせて作られたものだった。
「まぁ、いろいろありますのね!」
ガブリエルが感心したように眺める。
「トンネルをくぐり、障害物を避け、ハードルを越え、最後はボールを運ぶ……。これは総合的な運動能力が試されそうですわ!」
『トンネルくぐるコボルト、絶対かわいい』
『最後のボール、ちゃんと運べるのか?』
『赤組も青組も頑張れー!』
ガブリエルは、にこにこと笑った。
「皆様、応援の準備はよろしいですか? それでは、選手の皆様に登場していただきましょう!」
赤組と青組から、それぞれ代表選手が進み出る。
赤いユニフォームのコボルト。
青いユニフォームのコボルト。
どちらも小柄で、ふわふわした毛並みをしていた。
「わんお!(よし、頑張るぞ!)」
「わふ!(今回は私が勝つよ!)」
「わんお!?(あのトンネル、小さくない!?)」
「わふ!(私たちの体なら大丈夫だよ!)」
「わんお!(そうかなぁ……)」
二匹はトンネルを見つめながら、何やら相談している。
もちろん、ガブリエルにも観客にも、その内容は分からない。
「まぁ! スタート前から、ずいぶん真剣にコースを確認していらっしゃいますわね!」
『作戦会議かな?』
『たぶんトンネルの大きさについて話してるw』
『わんお!(あのトンネル、小さくない!?)』
『最後の人、絶対に中身を知ってるだろw』
コメント欄にも、期待が高まっていた。
「それでは、障害物競走――開始ですわ!」
合図とともに、二匹が走り出す。
最初のトンネル。
赤組が勢いよく飛び込んだ。
青組も続く。
もふもふの尻尾が、トンネルの入口で一瞬だけ見えなくなる。
そして――。
ぽんっ!
赤組が飛び出した。
続いて青組。
ぽんっ!
こちらも無事に通過。
「まぁ! お二人とも、見事にトンネルを通り抜けましたわ!」
観客席から拍手が起きる。
『トンネルから飛び出すのかわいすぎるw』
『ぽんって出てきたぞw』
『赤組、少しだけ先行!』
次はジグザグの障害物。
赤組は、左右へ素早く身体を傾けながら進んでいく。
青組も負けじと追いかける。
ところが、途中で青組の選手が急に立ち止まった。
「わんお?(こっちで合ってる?)」
コースの左右を見比べている。
「わふ!?(合ってるよ! 前を見て!)」
後ろから追いついてきた赤組の選手が、すっと横を通り過ぎた。
「わんお!(先に行くよ!)」
「わふ!?(待ってー!)」
青組が慌てて走り出す。
「ふふっ。青組の選手、少しコースに迷ってしまったようですわね!」
ガブリエルが楽しそうに実況する。
『道に迷うなw』
『障害物より進路が敵だったw』
『でも、確認してから進むのは大事だぞ!』
ようやくジグザグを抜けると、次は低いハードルだった。
赤組の選手が、軽く跳ぶ。
ぴょん!
見事に成功。
青組も跳ぶ。
ぴょん!
こちらも成功。
しかし、青組は着地したあと、なぜかその場で二回ほど小さく跳ねた。
「わふ!(今の、うまくいった!)」
「わんお!?(喜んでる場合じゃないよ!)」
赤組が、また少し先へ進む。
「まぁ! 青組、着地後の動きまで元気いっぱいですわね!」
『本人は成功を喜んでるんだろうなw』
『赤組、差を広げてるぞ!』
『青組、頑張れー!』
そして、最後の区間。
大きなボールが用意されていた。
コボルトたちは、ボールをゴールまで運ばなければならない。
赤組が先に到着する。
「わんお!(よし、これを転がせばいいんだね!)」
前足でボールを押す。
ころころころ。
ボールが転がり始めた。
赤組はその後ろを、一生懸命に追いかけていく。
だが、ボールは思った以上に勢いよく転がっていった。
「わんお!?(待って! 速いよ!)」
慌てて追いかける。
ボールがゴールの方向へ進んでいく。
ところが、コースの端に近づいたところで、少しだけ方向がずれた。
「わんおお!?(そっちじゃないよー!)」
赤組が慌てて横から押す。
ころり。
今度は反対側へ。
「わふ!?(曲がりすぎだよ!)」
ようやく方向を調整し、ゴールへ向かわせることに成功した。
その頃、青組もボールに到着していた。
「わんお!(今度こそ!)」
青組は、ボールの後ろと左右に分かれた。
そして、三方向から少しずつ押していく。
ころころころ。
ボールは、ゆっくりとゴールへ向かって進んだ。
「わふ!(いい感じ!)」
「わんお!(そのまま!)」
赤組が勢いよく追い上げてくる。
両チームのボールが、ほぼ同時にゴールへ近づいた。
「まぁ! これは接戦ですわ!」
ガブリエルが身を乗り出す。
「赤組がわずかに先行していますけれど、青組も追いついていますの! 最後まで分かりませんわ!」
観客席から、赤と青それぞれへの声援が飛ぶ。
「赤組ー!」
「青組ー!」
「頑張れー!」
そして――。
赤組が最後の一押し。
青組も負けじと押し込む。
ころころっ。
ゴールラインを越えたのは、赤組のボールだった。
「赤組、一着ですわ!」
大歓声が上がる。
青組も、すぐにゴールへ到着した。
「わんお……!(惜しかった……!)」
「わふ!(でも、最後まで頑張った!)」
赤組の選手が、青組の選手へ前足を差し出す。
青組も、それに応える。
ぽふっ。
二匹は前足を合わせた。
観客席から温かな拍手が起こる。
「まぁ、素晴らしいですわね! 赤組も青組も、最後まで一生懸命でしたわ!」
ガブリエルも、満面の笑みで拍手を送った。
◇ ◇ ◇
競技が終わり、選手たちが控え場所へ戻ってくる。
赤組のコボルトたちは、嬉しそうに尻尾を振っていた。
「わんお!(勝ったぞ!)」
「わふ!(次も勝つよ!)」
青組では、少し悔しそうにしている子もいたが、仲間同士で声をかけ合っていた。
「わんお……(次は負けない……)」
「わふ!(そうだよ! まだ競技は残ってる!)」
「わんお!(お菓子は絶対に取るぞ!)」
気持ちは、もう次の競技へ向かっているらしい。
ガブリエルは、実況席からそんな様子を眺めた。
「皆様、障害物競走もお楽しみいただけましたか? コボルトの皆様、それぞれ得意な動きを見せてくださいましたわね!」
『トンネルが特にかわいかったw』
『ボール運び、予想以上に熱かったな』
『赤組おめでとう! 青組も頑張った!』
『次の競技も楽しみ!』
「ふふっ。ありがとうございますわ!」
ガブリエルは進行表を確認した。
まだまだ、競技会は続く。
綱引き。
リレー。
そして、ニコラが用意した追加の特別競技も予定されている。
選手たちが笑顔で頑張り、観客たちがそれを応援する。
そんな光景を見て、ガブリエルは満足そうに微笑んだ。
「……こういう催しも、とても素敵ですわね」
次の競技の準備が整い始めた。
赤組と青組のコボルトたちが、再び競技場へ集まってくる。
そして観客席には、次の勝負を楽しみにする人々の笑顔が広がっていた。
コボルト競技会は、まだまだ終わらない。




