トライアングルwitnDJニコとコボルト
フリスビー回収競技が終わり、競技場では集計作業が進められていた。
赤組も青組も、たくさんのフリスビーを集めたらしい。
正式な結果発表までは、もう少し時間がかかる。
その間、観客たちに楽しんでもらうため、競技場の一角に設けられたステージでは、ライブの準備が進められていた。
出演するのは――トライアングルwith DJニコ。
マドカ、ナナリー、アリシア、そしてDJを担当するニコラだ。
「それじゃあ、そろそろ始めようか~」
ニコラがDJ機材の調子を確認する。
マドカはマイクを手に、観客席を眺めていた。
「すごい人だねー! みんな楽しみにしてくれてるみたい!」
「そうね。せっかくの競技会だもの。選手たちも観客の皆さんも、楽しめる時間にしたいわね」
ナナリーが微笑む。
アリシアも頷いた。
「よーし! じゃあ、思いっきり盛り上げよう!」
そのとき、ニコラが競技場の端へ視線を向けた。
そこでは、赤組と青組のコボルトたちが、音楽の準備に気づいたのか、ステージの方をちらちらと見ている。
「……ん~」
ニコラは、そんなコボルトたちを眺めて、楽しそうに笑った。
「DJ一緒にできるコボルト探すのもたのしそうだねぇ~」
「……え?」
マドカが振り返る。
「ニコラ、今なんて?」
「ん~? コボルトと一緒にDJできたら楽しそうだな~って」
「DJを!?」
マドカは、改めてコボルトたちを見た。
赤いユニフォームの子。
青いユニフォームの子。
尻尾を振っている子もいれば、仲間と前足を合わせている子もいる。
「……できるのかな?」
「さあ~? でも、音楽に合わせて踊ってる子もいるし、リズム感のある子がいるかもしれないよ~」
「まぁ、面白そうね!」
アリシアが身を乗り出した。
「コボルトのDJかぁ。どんな感じになるんだろう?」
「ふふっ。まずは今日のライブを楽しんでもらいましょう」
ナナリーが笑う。
ニコラは機材に手を置いた。
「そうだねぇ~。今日は、みんなに音楽を好きになってもらえたらいいな~」
そして、ステージの準備が整った。
◇ ◇ ◇
「皆様、お待たせいたしましたわ!」
実況席のガブリエルが、にこやかに観客へ呼びかけた。
「競技の集計を行っている間、特別な催しをご用意いたしましたの! それでは、ご紹介いたしますわ!」
ガブリエルが大きく手を広げる。
「トライアングルwith DJニコの皆様ですわ!」
ステージに四人が登場すると、観客席から大きな歓声が上がった。
『うおおおお! トライアングルだ!』
『DJニコきたあああ!』
『競技会でライブまで見られるの!?』
『ガブちゃん、ありがとう!』
『コボルトたちと一緒に楽しめるライブ、最高では?』
「まぁ! 皆様、とっても人気ですわね!」
ガブリエルも嬉しそうに拍手した。
マドカはステージの前に立つと、観客席へ向かって大きく手を振った。
「みんなー! コボルト競技会、楽しんでるー!?」
観客から歓声が返ってくる。
「楽しんでるぞー!」
「コボルトたち、かわいいー!」
「赤組も青組も頑張れー!」
「よかった!」
マドカは笑顔で頷いた。
「まだ競技は続くけど、その前にみんなに楽しんでもらおうと思って、私たちが来ました!」
ナナリーもマイクを手に取る。
「選手のみんなも、観客のみんなも、ちょっと休憩して楽しんでいってね!」
「もちろん、ステージからも応援してるわよ!」
アリシアが元気よく続けた。
最後に、ニコラがDJ機材へ手を置く。
「それじゃあ、始めるよ~」
会場の照明が少し落ちる。
静かになる観客席。
そして――。
ドンッ!
重低音が響いた。
軽快なリズムが会場いっぱいに広がっていく。
ニコラの指が機材の上を滑る。
ビートが刻まれ、そこへナナリーの歌声が重なった。
マドカとアリシアも、それぞれのパートに合わせて音楽を盛り上げていく。
明るく、弾むような曲調。
思わず身体を動かしたくなるリズムだった。
「わぁ……!」
観客席のあちこちから声が上がる。
『やっぱりライブいいな!』
『ナナリーの歌声最高!』
『マドカとアリシアも楽しそう!』
『DJニコ、今日もノリノリw』
ガブリエルも、椅子に座ったまま身体を揺らしていた。
「まぁ! 素敵な音楽ですわ! 自然と身体が動いてしまいますの!」
そのときだった。
ステージの前方で、赤いユニフォームと青いユニフォームが動き始めた。
競技を終えたコボルトたちである。
音楽に気づいた彼らが、ステージの方へ顔を向けていた。
「わんお?(なんだ、この音楽!?)」
「わふ!(なんだか楽しくなってきたよ!)」
「わんお!(身体が勝手に動くぞ!)」
最初に動き出したのは、青組の小柄なコボルトだった。
リズムに合わせて、ぴょん。
もう一度、ぴょん。
その場でくるりと回り、尻尾をふりふり。
「わふ!(こうかな!?)」
隣の赤組のコボルトも、すぐに真似をする。
「わんお!(私もやる!)」
ぴょん。
くるり。
ふりふり。
すると、その後ろにいたコボルトたちも、次々と身体を動かし始めた。
ぴょんぴょん。
ふりふり。
くるくる。
気がつけば、ステージの前で何匹ものコボルトが踊っていた。
「……あれ?」
マドカが気づいた。
「コボルトたち、踊ってない?」
アリシアもステージの端から覗き込む。
「本当だ! あの子たち、音楽に合わせてる!」
ナナリーは歌いながら、楽しそうに笑った。
「かわいい……!」
ニコラはDJ機材を操作しながら、ちらりとコボルトたちを見る。
「ふ~ん……」
そして、少しだけリズムを変えた。
ドン、ドン、パッ!
ドン、ドン、パッ!
音楽に、分かりやすいアクセントが加わる。
すると、コボルトたちは一斉に動きを変えた。
ドン!
その場で踏み込む。
ドン!
反対側へ踏み込む。
パッ!
前足を上げる。
「わんお!(今のはこうだ!)」
「わふ!(分かった!)」
「わんお!(みんな、合わせるぞ!)」
赤組と青組。
ついさっきまで勝負していた両チームのコボルトたちが、今度は一緒になって踊り始めた。
ステージの前に、赤と青の小さなダンサーたちが並ぶ。
左右にステップ。
前足を上げる。
くるりと回る。
そして、最後に一斉にぴょん!
見事に、音楽のリズムと合っていた。
「まぁぁぁ!」
ガブリエルが実況席から身を乗り出した。
「皆様! ご覧になってくださいまし! コボルトの皆様が、音楽に合わせて踊っていらっしゃいますわ!」
観客席が大歓声に包まれた。
『何これかわいすぎるwww』
『赤組も青組も一緒に踊ってる!』
『さっきまでライバルだったのにw』
『ダンスが妙に揃ってて草』
『誰が教えたんだよw』
もちろん、誰も教えていない。
コボルトたちは、音楽に合わせて自分たちなりに踊っているだけだった。
しかし、その動きには妙な一体感があった。
普段から警備中に二足歩行で活動している彼らは、後ろ足で立ち上がることにも慣れている。
だからこそ、ステップを踏んだり、その場で回ったりする動きも、思いのほか自然にこなしていた。
もちろん、全員が同じ動きをしているわけではない。
ある子は大きく跳びはねる。
ある子は小さく左右に揺れる。
長毛の子は、回るたびに毛がふわっと広がる。
小柄な子は、リズムに合わせて前足をぱたぱたさせている。
それぞれ違うのに、なぜかちゃんと音楽に合っていた。
「わんお!(こっちの動きの方がいいよ!)」
「わふ!(じゃあ、次はそれをやろう!)」
「わんお!?(えっ、もう次の動き!?)」
「わふ!(音楽は待ってくれないよ!)」
コボルトたちは、互いの動きを見ながら、即興でダンスを組み立てているらしい。
人間たちには、鳴き声を上げながら踊っているようにしか見えない。
それでも、見ているだけで楽しくなる光景だった。
「まぁ! なんて一生懸命なのでしょう!」
ガブリエルは手を叩いて喜んだ。
「赤組も青組も、競技のときとは違った表情を見せてくださっていますわね!」
◇ ◇ ◇
「これは……もっと盛り上げてもよさそうだね~」
ニコラが、にこにこと笑った。
マドカが振り返る。
「ニコラ、何をするつもり?」
「ちょっとだけ~」
「その『ちょっとだけ』が怖いんだけど!?」
マドカの声を聞きながら、ニコラはリズムを少しずつ変化させていった。
速くなりすぎない程度に、しかし、踊りやすく。
拍子が分かりやすいように、アクセントを加える。
すると、コボルトたちはさらに元気よく踊り始めた。
ぴょん!
くるり!
ふりふり!
ぴょん!
今度は、赤組と青組が向かい合ってダンスを始めた。
赤組が右へステップを踏めば、青組も右へ。
赤組が前足を上げれば、青組も前足を上げる。
そして、最後に両チームが同時にくるりと回った。
「わんおお!(決まった!)」
「わふ!(やったね!)」
そのまま二組は、互いに前足を合わせた。
ぽふっ!
観客席から、大きな拍手が巻き起こった。
「まぁ! 素晴らしいですわ! 赤組と青組が、まるで一つのチームのようですの!」
ガブリエルも、思わず立ち上がって拍手した。
「競技のときはあんなに真剣でしたのに、今は一緒に楽しんでいらっしゃいますわね!」
コメント欄も大盛り上がりだった。
『平和すぎるw』
『この光景だけで今日来た価値がある』
『コボルトダンス大会も開催してくれ!』
『赤組も青組も、全員かわいい!』
『アナスイ:ジュリエットも踊っているのですわね! まぁ、なんてかわいらしいのでしょう!』
ガブリエルが、そのコメントを見て顔を上げた。
「あら! アナスイさん、ジュリエットちゃんを見つけられましたのね!」
競技場の中央付近。
ジュリエットも、もちろん踊っていた。
「わんお!(音楽に合わせて!)」
ぴょん。
「わんお!(くるっと回って!)」
くるり。
「わんおお!(最後はジャンプ!)」
ぴょーん!
ジュリエットは、赤いユニフォームを着たまま、実に楽しそうに踊っていた。
しかも、ときどき周囲の仲間を気にして、振り付けを教えるような仕草までしている。
「わふ!(ジュリエット、上手だね!)」
「わんお!(みんなで踊ると楽しいよ!)」
「わふ!(もっと一緒に踊ろう!)」
ジュリエットが尻尾を振り、隣のコボルトとくるりと回る。
その様子を見たアナスイは、EVの画面に夢中になっていた。
『アナスイ:ジュリエット! とっても素敵ですわ! 帰ったら、いっぱい褒めてあげますわね!』
そのコメントが流れると、視聴者たちも大喜びだった。
『アナスイさん、完全に親バカw』
『ジュリエットちゃん、見てる人がいると張り切るんだな』
『頑張れジュリエット!』
ジュリエットにはコメントの内容は分からない。
だが、画面の向こうで家族が見てくれている。
そう思うだけで、さらに楽しくなるのだった。
◇ ◇ ◇
やがて、曲は終盤へ向かっていく。
ナナリーが最後のフレーズを歌い上げ、マドカとアリシアが音楽を盛り上げる。
ニコラが軽快なビートを刻んだ。
ドン、ドン、パッ!
ドン、ドン、パッ!
コボルトたちは、最後の振り付けに入った。
赤組が右へ。
青組が左へ。
そして、互いに中央へ集まってくる。
最後に、全員が一斉に前足を高く上げ――。
「「「わんおおおおお!」」」
ぴょん!
赤と青のユニフォームが、ふわりと宙に舞った。
音楽が、ぴたりと止まる。
決めポーズ。
尻尾を振る子。
胸を張る子。
両前足を上げたまま、きょとんとしている子。
最後まで振り付けを覚えられず、隣の子を見て慌てて同じポーズを取った子までいた。
一瞬の静寂。
そして――。
わあああああああああっ!
競技場が、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
「まぁぁぁ! 素晴らしいですわ!」
ガブリエルは満面の笑みで拍手を送った。
「トライアングルwith DJニコの皆様、そしてコボルトの皆様! 本当に素敵なステージをありがとうございましたわ!」
観客たちも、次々に声援を送る。
「もう一曲!」
「コボルトたち、最高!」
「赤組も青組もかわいいぞー!」
『最高のライブだった!』
『コボルトダンス、定期開催してくれw』
『DJニコとコボルトの相性がよすぎる』
『トライアングルもありがとう!』
マドカはステージから、踊り終えたコボルトたちへ手を振った。
「みんな、すごかったよー!」
「わんお!(ありがとう!)」
「わふ!(楽しかった!)」
コボルトたちは、嬉しそうに尻尾を振りながら応える。
アリシアも笑顔で頷いた。
「みんな、ダンス上手だったね!」
ナナリーは、まだ踊り足りない様子のコボルトたちを見て、くすっと笑った。
「ふふっ。また一緒に踊ろうね!」
「わんおお!(また踊ろう!)」
「わふ!(約束だよ!)」
もちろん、人間たちには、その言葉の意味は分からない。
ただ、コボルトたちが嬉しそうに鳴き、前足を振っている。
それだけで、会場は再び笑顔に包まれた。
◇ ◇ ◇
ライブ終了後。
ステージから降りたニコラは、コボルトたちの様子をじっと眺めていた。
彼らはまだ興奮が冷めていないらしく、仲間同士で踊りの動きを再現している。
「わんお!(さっきのところ、もう一回やろう!)」
「わふ!(こうだったよね!)」
「わんお!?(あれ、どっちの足からだっけ!?)」
「わふ!(こっち! こっちだよ!)」
何度も動きを確認しては、楽しそうに笑い合っている。
ニコラは、そんな様子を見ながら目を細めた。
「……やっぱり、いいねぇ~」
マドカが隣へやってくる。
「何が?」
「音楽に合わせるのが好きな子、結構いるみたい~。リズムを聞いて、すぐに動きを変えられる子もいたし~」
「確かに。みんな、自然に踊ってたね!」
「うん~」
ニコラは、少し考え込む。
「DJって、機材を操作するだけじゃないからねぇ~。リズムを感じたり、曲の流れを考えたり、音に合わせて盛り上げたり……」
「それで、一緒にできそうな子を探してるんだ?」
「そうそう~」
ニコラは、再びコボルトたちへ視線を向けた。
「せっかくだし、興味がある子がいたら教えてもらおうかな~。もちろん、お仕事や競技会が落ち着いてからねぇ~」
「いいんじゃない?」
マドカが笑った。
「コボルトのDJなんて、絶対人気出るよ!」
「ふふ~。だよねぇ~」
そのとき。
一匹のコボルトが、二人の足元へやってきた。
赤いユニフォームを着た、小柄なコボルト。
先ほどから、音楽が止まってもリズムに合わせて前足を動かしていた子だ。
「わんお!(さっきの音楽、もう一回やるの!?)」
ニコラは首を傾げた。
「ん~?」
もちろん、意味は分からない。
ただ、その子はニコラを見上げ、前足を上げてから、機材の方をちらりと見た。
そして――。
ぴょん。
くるり。
ふりふり。
さっきのダンスを再現してみせた。
「……あっ」
マドカが笑った。
「この子、まだ踊りたいみたい!」
「そうみたいだねぇ~」
ニコラはしゃがみ込み、そのコボルトと目線を合わせた。
「音楽、好きなの~?」
「わんお!」
コボルトは、元気よく返事をした。
そのまま尻尾をぶんぶん振り、もう一度、前足をぱたぱたさせる。
ニコラは、楽しそうに笑った。
「ふふ~。これは、候補が見つかったかもしれないねぇ~」
「えっ、もう!?」
マドカが驚く。
「まだ一匹目だよ!?」
「だって、面白そうだも~ん」
「出た、ニコラの研究者モード!」
コボルトは二人のやり取りを見上げながら、きょとんとしていた。
「わふ?(何の話をしているの?)」
もちろん、ニコラにもマドカにも、その意味は分からない。
ただ、小さなコボルトが不思議そうに首を傾げている姿が、とてもかわいらしかった。
ニコラは、その子の頭をそっと撫でた。
「今度、DJ機材を触ってみる~?」
「わんおお!(やるー!)」
その返事が分かったわけではない。
けれど、コボルトは目を輝かせ、尻尾を勢いよく振っていた。
「ふふ~。楽しみだねぇ~」
マドカも笑顔で頷いた。
「うん! 新しい仲間が増えるかもしれないね!」
こうして、コボルト競技会のスペシャルライブは、観客たちに楽しい時間を届けただけでなく――。
DJニコと一緒に音楽を楽しむ、未来の小さな候補者まで見つけることになったのだった。




