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落内円は落ちている  作者: 七風


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469/579

フリスビー回収部門

 回収部門。


 競技場の中央では、赤組と青組のコボルトたちが、それぞれのエリアに集まっていた。


 競技のルールは単純だ。


 制限時間内に、できるだけ多くのフリスビーを回収する。


 キャッチしてもいい。


 地面に落ちたものを拾ってもいい。


 とにかく、確保した枚数が多いチームの勝ちである。


「皆様、準備はよろしいですか?」


 実況席のガブリエルが、両チームを見渡した。


「この競技では、フリスビーを集める速さだけでなく、どうやって効率よく確保するかも重要になりそうですわね!」


『赤組、頑張れー!』


『青組も負けるな!』


『今度こそ物量勝負かw』


『ニコラ博士、さっきから魔道具の調整に夢中なんだがw』


 そのコメントの通り、ニコラは競技場の端で操作盤をいじっていた。


 競技エリアの周囲には、いつの間にか複数の射出装置が配置されている。


 正面。


 左右。


 後方。


 さらに、競技場の外周に沿って、ほぼ全方向を取り囲むように発射口が並んでいた。


 ただし、ニコラ本人がいる場所だけは、射出範囲から外されている。


 その安全地帯で、ニコラは満足そうに頷いた。


「うん~。これならいい感じだね~」


 少し離れた場所から見ていたリゼットが、眉をひそめる。


「……ニコラ。念のために確認するけれど、フリスビーは何枚ずつ飛ばすの?」


「一回につき三十枚だよ~」


「三十枚?」


「うん~」


「……一回というのは?」


「一分ごと~」


「…………」


 リゼットが沈黙した。


「つまり、一分おきに三十枚ずつ、ほぼ全方向から発射されるということね?」


「そうだよ~。すっごいスピードで飛ぶから、回収する側も楽しめると思う~」


「楽しめる……?」


 リゼットは、競技場を見渡した。


 赤組と青組のコボルトたちは、まだ何も知らずに尻尾を振っている。


「わんお!(いっぱい取るぞ!)」


「わふ!(負けないよ!)」


「わんお!(お菓子! お肉!)」


「わふ!(両方いただき!)」


 どうやら、彼らの頭の中にはご褒美のことしかないらしい。


 リゼットは小さく息を吐いた。


「……まあ、武器ではないし、装置の安全性も確認しているのでしょう?」


「もちろん~。フリスビー自体も柔らかいし、当たっても痛くないようにしてあるよ~」


「なら、いいけれど……」


 リゼットは少しだけ不安を残しつつ、観客席へ視線を向けた。


 もちろん、観客席へは飛ばないように設計されている。


 競技エリアの中だけで完結する仕組みだ。


 それなら、問題はない。


 たぶん。


 ◇ ◇ ◇


「それでは、回収部門を開始いたしますわ!」


 ガブリエルの声が競技場に響いた。


「制限時間は五分間! 一分ごとに三十枚のフリスビーが射出されますの! どれだけ確保できるか、赤組と青組の頑張りに期待いたしましょう!」


 コボルトたちが一斉に構えた。


「わんお!(よし!)」


「わふ!(いつでも来い!)」


「わんお!(三十枚なら、みんなで集めれば余裕だ!)」


「わふ!(そうだよ! こっちは五十匹もいるんだから!)」


 どうやら、三十枚という数字を聞いて、かなり余裕を持っているらしい。


 そして。


 最初の発射まで、あと数秒。


「三……」


 ガブリエルがカウントを始めた。


「二……」


 コボルトたちが身構える。


「一――!」


 その瞬間。


 ガコンッ!


 競技場の外周に設置された射出装置が、一斉に動いた。


 次の瞬間――。


 シュババババババババババババババッ!!


 **三十枚のフリスビーが、ものすごい速度で競技場へ飛び込んできた。**


 正面から。


 左右から。


 後方から。


 斜め上を通る軌道まで混じり、色とりどりの円盤が一斉に飛び交う。


「…………」


 コボルトたちが固まった。


 あまりにも速い。


 あまりにも多い。


 そして、来る方向が多すぎる。


「わんお!?(どこから来た!?)」


「わふ!?(右にもいるよ!?)」


「わんおお!?(後ろからも来てるー!?)」


「わふぅ!?(全部こっちに飛んでくるように見えるんだけど!?)」


 次の瞬間。


 競技場が大混乱になった。


「わんおおおお!(取れー!)」


「わふ!(そっち任せた!)」


「わんお!?(どっちだよ!?)」


「わふおお!(上ー!)」


 ぽすっ!


 一匹のコボルトが、目の前に飛んできたフリスビーをキャッチした。


 しかし、その直後。


 別のフリスビーが横を通り過ぎる。


「わんお!?(次が来た!?)」


 慌てて飛びつく。


 ぱしっ!


 今度も成功。


 だが、さらに後ろから一枚。


「わふ!?(待って待って待って!?)」


 コボルトがくるりと回る。


 前足を伸ばす。


 ぽすっ!


 そのまま勢い余って、ころんと一回転した。


 もちろん、フリスビーは手放していない。


「わんお……!(取れた……!)」


 本人は満足そうだった。


 しかし、立ち上がったところへ、また別のフリスビーが飛んでくる。


「わんおおおお!?(休ませてー!?)」


『wwwww』


『初手から多すぎるw』


『一分に三十枚ってこういうことかよ!』


『コボルトたちの動きが一気に忙しくなったw』


 観客席は大盛り上がりだった。


「まぁ! すごいですわ! いきなり三十枚が一斉に飛び交っておりますの!」


 ガブリエルは実況席から身を乗り出していた。


「赤組、青組ともに、ものすごい勢いで回収しておりますわ! ただ、フリスビーの飛んでくる方向が多いですから、周囲の確認も大切になりそうですわね!」


 赤組のコボルトたちは、二匹一組で動き始めた。


「わんお!(前は任せろ!)」


「わふ!(じゃあ、後ろを見るよ!)」


「わんお!(私は右!)」


「わふ!(私は左!)」


 なるほど。


 仲間同士で役割を分担する作戦らしい。


 ところが。


「わんお!?(前から来た!)」


「わふ!?(右からも来た!)」


「わんおお!?(じゃあ後ろは誰が見るんだ!?)」


「わふ!?(私だよ! ……あっ、左からも来てる!)」


 結局、全員が好き勝手な方向へ走り出した。


 その結果、赤組のエリアでは五匹ほどのコボルトが、同じフリスビーを追いかけている。


 右から。


 左から。


 後ろから。


 五匹が一斉に飛びついた。


 ぽすっ!


 ぽふっ!


 ぽすんっ!


 最後には、五匹全員が一か所に重なっていた。


「わんお!?(重いー!)」


「わふ!?(誰か私の上に乗ってる!?)」


「わんお……(あ、フリスビー取れてた……)」


 一番下になっていたコボルトが、しっかりフリスビーを抱えていた。


「わんお!(やった!)」


 その声に、上に重なっていた四匹が一斉に顔を上げる。


「わふ!(取れてる!)」


「わんお!(じゃあ、成功だ!)」


 そして五匹そろって、何事もなかったかのように立ち上がった。


『五匹で一枚を取りに行くなw』


『チームワークとはwww』


『でもちゃんと取れてるの草』


 ガブリエルも口元に手を当てて笑った。


「まぁ! 皆様、仲がよろしいのですわね! 少々まとまりすぎているようにも見えますけれど!」


 ◇ ◇ ◇


 一方、青組。


 こちらは、別の問題が起きていた。


「わんお!(フリスビーは全部拾えばいいんだよね!)」


「わふ!(うん! とにかく集めよう!)」


「わんお!(だったら、私はこの籠を持っていく!)」


 一匹のコボルトが、回収用の籠を前足で抱え上げた。


 そして、そのまま走り出す。


 フリスビーを拾って籠へ入れる。


 また拾う。


 籠へ入れる。


 動きはなかなか効率的だ。


「わんお!(よし、いい感じ!)」


 ところが。


 背後から飛んできたフリスビーを避けようとして、慌てて横へ跳んだ。


 その拍子に、抱えていた籠が傾いた。


 ガラガラガラッ!


 中に入っていたフリスビーが、全部地面へ転がり落ちた。


「…………」


 コボルトが固まった。


「わふ……(そんなぁ……)」


 その目の前へ、別のフリスビーが飛んできた。


 ぱしっ。


 思わずキャッチする。


 続いて、もう一枚。


 ぱしっ。


 三枚目。


 ぱしっ。


 気が付けば、両前足でフリスビーを抱え、尻尾まで使って何とか支えようとしていた。


「わんおおお!?(多い多い多い!)」


 そこへ、仲間が駆け寄ってくる。


「わふ!(大丈夫!?)」


「わんお!(手伝って!)」


「わふ!(任せて!)」


 仲間がフリスビーを受け取る。


 だが、その仲間の目の前にも、別のフリスビーが飛んできた。


 ぱしっ!


「わふ!?(こっちも持てないよ!?)」


 二匹そろって、フリスビーを抱えたまま右往左往する。


 それを見ていた別のコボルトが、慌てて駆け寄った。


「わんお!(私が持つ!)」


「わふ!(お願い!)」


 三匹で分担しようとした結果、なぜか三匹とも同じ場所に集まってしまい、足元にフリスビーが山のように積み上がっていく。


『青組、回収は順調……なのか?w』


『籠をひっくり返してて草』


『今の三匹、全員抱えすぎだろw』


『頑張ってるから応援したくなるw』


「青組も、たくさん回収しておりますわ! ただ、運搬方法には少し工夫が必要かもしれませんわね!」


 ガブリエルが笑いながら実況する。


「赤組も青組も、あの速度のフリスビーを次々と回収しているのは見事ですわ! まだ開始したばかりですから、ここからどのように作戦を変えていくのか楽しみですわね!」


 ◇ ◇ ◇


 そして、一分。


 装置の魔力が再び高まった。


 競技場の外周で、射出装置が一斉に向きを変える。


「……ん?」


 リゼットが装置を見る。


「ニコラ。そろそろ次の射出ね?」


「うん~」


「……今度も三十枚?」


「そうだよ~」


 ニコラはにこにこと笑った。


「一分ごとに三十枚。五分間で、合計百五十枚だね~」


「……」


 リゼットは、少しだけ目を細めた。


「最初からそれを言いなさい」


「言ったつもりだったけど~」


「言っていないわよ」


「そうだっけ~?」


「ニコラ」


「は~い」


 リゼットは小さく息を吐いた。


 その間にも、コボルトたちは懸命にフリスビーを回収している。


 すでに赤組も青組も、あちらこちらにフリスビーを積み上げ始めていた。


 そして――。


 ガコンッ!


 二回目の射出。


 シュババババババババババババババッ!!


 また三十枚が、ほぼ全方向から飛び込んできた。


「わんおおおお!?(また来たー!)」


「わふ!?(まだ片付いてないよー!?)」


「わんお!(拾え! 全部拾えー!)」


「わふ!(そっちは任せてー!)」


 赤組と青組、両方のエリアで、コボルトたちが一斉に動き出す。


 ジャンプ。


 キャッチ。


 走る。


 拾う。


 籠へ入れる。


 そして、飛んでくる次のフリスビーを追いかける。


 競技場は、完全に大騒ぎだった。


『二回目きたwww』


『休む暇がないw』


『コボルトたちが右へ左へ大忙し!』


『これ運動会というよりフリスビー災害ではw』


『でもみんな楽しそうなのがいいなw』


 ガブリエルは笑顔で実況を続けた。


「まぁ! 第二波ですわ! 両チームとも、先ほどよりも素早く反応しておりますの! これは回収枚数も大きく伸びそうですわね!」


 赤組の一匹が、飛んできたフリスビーを見事にキャッチする。


「わんお!(取った!)」


 青組の一匹も、地面に落ちたフリスビーを拾い上げる。


「わふ!(こっちも!)」


 そして、両方が同時に籠へ走る。


 ところが――。


 ゴンッ。


 二匹は籠の前で、軽く頭をぶつけた。


「わんお!?(あ、ごめん!)」


「わふ!?(こっちこそ!)」


 互いに一瞬だけ顔を見合わせる。


 そして、すぐにフリスビーを籠へ入れた。


「わんお!(急ごう!)」


「わふ!(うん!)」


 何事もなかったかのように、それぞれのエリアへ戻っていく。


 人間たちは、その様子を見て笑いながら拍手した。


「仲がいいわねぇ!」


「頑張ってー!」


「あと三分よー!」


 ガブリエルも、負けじと声を張り上げる。


「皆様、あと三分ですわ! 赤組も青組も、最後まで頑張ってくださいまし!」


 コメント欄には、応援が途切れることなく流れ続けた。


『赤組、いいぞー!』


『青組も追い上げてる!』


『頑張れ、もふもふたち!』


『アナスイ:ジュリエットも頑張っておりますわね! でも、無理はしないでくださいまし!』


 アナスイのコメントを見て、ガブリエルが嬉しそうに笑った。


「あら、アナスイさん! ジュリエットちゃんは、先ほどからとても頑張っていますわ!」


『アナスイ:ええ! あの子、頑張り屋さんですもの!』


 競技場の赤組エリアでは、ジュリエットがフリスビーを一枚ずつ丁寧に回収していた。


 無理に何枚も抱え込むのではなく、拾ったものを籠へ運び、すぐに次を探す。


「わんお!(焦らない! 一枚ずつ!)」


「わふ!(いい方法だね!)」


「わんお!(数を増やすなら、確実に運ぶのが大事!)」


 ジュリエットは仲間と協力しながら、着実に枚数を増やしていた。


 それを見ていたアナスイは、きっと誇らしそうに微笑んでいることだろう。


 ◇ ◇ ◇


 そして、五分間の回収競技が終了した。


 最後のフリスビーが籠へ入れられ、審判が終了の合図を出す。


「終了ですわ!」


 ガブリエルが声を上げた。


「赤組も青組も、よく頑張りましたわ! 皆様、どうぞ大きな拍手をお願いいたします!」


 競技場に、拍手と歓声が響き渡った。


 赤組も青組も、回収エリアのあちこちにフリスビーの山を作っていた。


 中には、籠に入りきらず、横へ積み上げられているものまである。


「わんお……!(疲れた……!)」


「わふ……!(いっぱい集めた……!)」


「わんお!(でも楽しかった!)」


「わふ!(うん!)」


 コボルトたちは、互いに顔を見合わせて嬉しそうに鳴いていた。


 人間たちには、その意味は分からない。


 ただ、汗をかいたように息を整えながら、仲間と尻尾を振り合っている姿が、何とも微笑ましかった。


「まぁ……本当にかわいらしいですわね」


 ガブリエルは、満面の笑みで選手たちを見つめた。


「皆様、どちらが勝ったのか、結果発表まで楽しみにお待ちくださいまし!」


 審判たちが、回収されたフリスビーの枚数を数え始める。


 赤組。


 青組。


 どちらも大量のフリスビーを集めている。


 果たして、勝利を手にするのはどちらなのか。


 そして、ニコラの魔道具は――。


「うん~。ちゃんと予定通り動いたね~」


 本人だけが、満足そうに頷いていた。


 リゼットは、その隣で静かに呟いた。


「……次回からは、発射枚数をもう少し相談して決めましょうね」


「え~? 面白かったのに~」


「ニコラ?」


「は~い」


 こうして。


 コボルトたちの回収競技は、予想以上の大盛り上がりとなったのだった。


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