ガブちゃん配信 競技会
ゴールの街。
コボルト競技会の会場は、開始前から大勢の観客で賑わっていた。
赤組と青組に分かれたコボルトたちは、それぞれの控え場所で出番を待っている。
そんな会場の一角に、実況席が設けられていた。
そこに座っているのは――。
「皆様、ごきげんよう! 本日はゴールで開催されるコボルト競技会の様子を、ガブちゃんがお届けいたしますわ!」
怠惰第二王女、ガブリエル。
通称、ガブちゃん。
彼女はEVに向かって、にこにこと手を振った。
今回の競技会は、コボルトたちが主役。
普段は街の警備やモンスター駆除を頑張っている彼らが、今日は競技場で勝負するのだ。
ガブリエルも、この企画を聞いたときから楽しみにしていた。
「それでは、さっそく選手たちをご紹介いたしますわ!」
カメラが赤組の控え場所を映す。
赤いユニフォームを着たコボルトたちが、きれいに並んでいた。
「こちらが赤組ですわ! 秋田犬のような子に、柴犬のような子、それから毛がふわふわの子もいますわね。まぁ、みんなとってもかわいいですわ!」
『赤組がんばれー!』
『その赤い服、似合ってるぞ!』
『みんな尻尾ふりふりなのかわいいw』
『優勝してお菓子とお肉をいっぱいもらうんだぞ!』
「ふふっ、そうですわね! 優勝目指して頑張ってくださいまし!」
続いて、青組が映し出された。
こちらも、青いユニフォームを着たコボルトたちが並んでいる。
「そして、こちらが青組ですわ! まぁ、こちらもかわいらしいこと! うーん、どちらを応援するか迷ってしまいますわね!」
『青組いけー!』
『こっちも負けるな!』
『青組の長毛ちゃん、もふもふですごい』
『赤も青も選べないんだがw』
「皆様、すでに悩んでいらっしゃいますわね! でも、競技はこれからですの。選手たちの頑張りを見て、しっかり応援して差し上げましょう!」
ガブリエルが楽しそうに笑った。
そのとき、EVのコメント欄に見覚えのある名前が流れた。
『アナスイ:ジュリエット、頑張ってくださいまし! あなたの実力を見せるのですわ!』
「あら! アナスイさんも見てくださっているんですのね!」
ガブリエルが嬉しそうにコメントを拾う。
「ジュリエットちゃんは、アナスイさんのお家で暮らしているコボルトさんですわね! 今日は選手として参加しているそうですわ!」
『ジュリエットちゃん出るのか!』
『アナスイさんの家族だもんな』
『これは応援するしかない』
『ジュリエットがんばれー!』
カメラが赤組の列にいる小さなコボルトを映した。
ふわふわの毛並み。
ぴんと立った耳。
そして、赤いユニフォーム。
ジュリエットである。
「わんお!(頑張るよ! アナスイ様が見ているんだから!)」
ジュリエットは両前足をぎゅっと握り、気合いを入れた。
隣のコボルトが、その様子を見て話しかける。
「わふ!(知り合いが応援してくれているの?)」
「わんお!(そう! 私の家族なんだよ!)」
「わんお!(それはすごい! 私も頑張る!)」
ジュリエットたちは、何やら元気よく鳴きながら盛り上がっている。
もちろん、ガブリエルには何を話しているのか分からない。
ただ、二匹が前足を合わせ、尻尾を振っている姿は、どうしようもなくかわいらしかった。
「ジュリエットちゃん、すごくやる気ですわね! これは期待できそうですわ!」
『何を話してるか分からないけど楽しそうw』
『わんお!って返事してるだけでかわいい』
『アナスイさん、見てますか! ジュリエットちゃん頑張ってますよ!』
『アナスイ:もちろんですわ! しっかり見ています!』
コメント欄も、すっかりジュリエットの応援で盛り上がっていた。
◇ ◇ ◇
「それでは、第一競技! マラソンの開始ですわ!」
ガブリエルの声とともに、競技場のスタート地点へ選手たちが集まった。
赤組と青組から、それぞれ選ばれたコボルトが並ぶ。
ルールは二足歩行。
四足で走った場合は失格となる。
「今回のマラソンでは、二本の足で走ることが絶対条件ですわ! 普段の移動とは少し勝手が違うかもしれませんけれど、選手の皆様には頑張っていただきたいですわね!」
「わんお!(よし、絶対に勝つぞ!)」
「わふ!(こっちだって負けないよ!)」
赤組と青組の選手が、スタートラインで向かい合う。
どちらも真剣な顔だ。
その様子に、観客席から声援が飛んだ。
「赤組がんばれー!」
「青組も負けるなー!」
「頑張ってねー!」
ガブリエルも実況席から手を振った。
「皆様、選手たちに声援を送って差し上げてくださいまし!」
そして――。
パンッ!
スタートの合図が鳴った。
「さあ、始まりましたわ! 両チーム、一斉にスタートですの!」
コボルトたちが走り出した。
小さな足が、地面をとんとんと叩く。
耳が揺れ、尻尾が跳ねる。
普段なら四本足で走る彼らが、今日は二本足で懸命に走っていた。
「まぁ! 青組の選手、いいスタートですわ! 赤組も負けていませんの! これは接戦になりそうですわね!」
『走ってるだけなのにかわいいw』
『尻尾がぴょこぴょこ動くの反則だろ』
『赤組! そこだ!』
『青組、ペースを落とすなー!』
スタート直後、青組の先頭が少し前に出た。
観客席の青組応援団から歓声が上がる。
「青組が先行していますわ! このままリードを守れるのでしょうか!」
ガブリエルも声を弾ませる。
しかし、その直後。
赤組のコボルトが、ちょこちょこと足を動かして追い上げてきた。
「まぁ! 赤組も追いついてきましたわ! 素晴らしい走りですの!」
先頭争いが激しくなる。
コボルトたちは、互いを意識しながら懸命に走っていた。
「わんお!(まだまだ! ここからだ!)」
「わふ!(追いついてきたね! でも負けないよ!)」
赤組と青組の選手が、横に並んだ。
そして、競技場のカーブへ差しかかった、そのとき。
「わんおっ!?」
一匹のコボルトが、勢い余って四足になりかけた。
前足が地面につく。
しかし、すぐに気づいて体勢を立て直した。
「わふ!?(危ない! 四足になっちゃうところだった!)」
その様子に、観客席から笑いが起こる。
『危なかったw』
『今、犬の本能が出かけたぞ!』
『二足歩行マラソン、思った以上に難しいのかw』
「まぁ、危ないところでしたわね! 皆様、ルールは二足歩行ですわ! 選手の皆様、気をつけてくださいまし!」
ガブリエルも笑いながら声をかけた。
「けれど、皆様とっても上手に走っていますわ! 最後まで頑張ってくださいまし!」
コースの中盤。
先頭は、赤組と青組がほぼ並んでいた。
後ろの選手たちも、それぞれ懸命に走っている。
小柄なコボルトが一生懸命に足を動かしている姿。
毛の長いコボルトが、走るたびに毛をふわふわ揺らしている姿。
少し体格のいいコボルトが、真剣な顔で走り続けている姿。
どの子も、みんな頑張っていた。
「素晴らしいですわ! 皆様、最後まで諦めずに走っていますの! 赤組も青組も、どちらも本当に立派ですわ!」
コメント欄にも、次々と応援が流れる。
『みんな頑張れー!』
『ここまで来たら全員優勝でいいだろw』
『いや、競技だからw』
『でも気持ちは分かる』
『アナスイ:ジュリエットも頑張るのですわ! 最後まで走り抜きなさい!』
そのコメントを見たガブリエルが、嬉しそうに頷いた。
「アナスイさんからも、熱い応援が届いていますわ! 選手の皆様、声援を力に変えて頑張ってくださいまし!」
やがて、先頭の選手たちが最後の直線へ入った。
「さあ、いよいよ最後の直線ですわ! 赤組がわずかに前に出たかしら? 青組も追い上げていますの!」
観客席が一気に盛り上がる。
「赤組ー!」
「青組ー!」
「どっちも頑張れー!」
そして――。
ゴール直前。
赤組の選手が、最後の一歩を大きく踏み出した。
青組も負けじと足を動かす。
ゴールテープを切ったのは――。
「赤組ですわ! 赤組がわずかな差で一着ですの!」
大歓声が上がった。
続いて青組の選手もゴールする。
息を切らしながら、両チームのコボルトたちは互いを見た。
「わんお!(負けた……!)」
「わふ!(いい勝負だったね!)」
「わんお!(次は負けないぞ!)」
「わふ!(望むところだよ!)」
そして、勝った赤組の選手が、青組の選手へ前足を差し出した。
青組の選手も、それに応える。
ぽふっ。
二匹が前足を合わせた。
観客席から、大きな拍手が起こった。
「素晴らしい走りでしたわ! 赤組も青組も、本当によく頑張りましたわね!」
ガブリエルは、満面の笑みで拍手を送った。
「皆様、よく頑張りましたわ! まだ競技は始まったばかりですもの。次の競技も楽しみですわね!」
EVのコメント欄は、さらに賑やかになっていた。
『赤組おめでとう!』
『青組もよく頑張った!』
『二足歩行であそこまで走れるのすごいな』
『もうみんなにお肉あげてくれw』
『アナスイ:ジュリエットも、いつかあの子たちと一緒に走るのですわ!』
競技場の端では、ジュリエットも仲間たちと一緒に、ゴールした選手を出迎えていた。
「わんお!(みんな、お疲れさま!)」
「わふ!(すごかったよ!)」
ジュリエットは、赤組の選手にも青組の選手にも、嬉しそうに前足を振っている。
勝ったチームも、負けたチームも、みんな頑張った。
それが分かっているからこそ、ジュリエットも嬉しかったのだ。
ガブリエルは、その様子を見ながら微笑んだ。
「まぁ、素敵ですわね! 勝負は真剣でも、みんな仲良しですのね!」
コメント欄にも、温かな応援が流れ続けていた。
こうして。
ガブちゃんの実況配信とともに、ゴールの街のコボルト競技会は、和やかな雰囲気のまま最初の競技を終えた。
そして、次に待っているのは――。
スポンジ製の武器を使った、コボルトたちの集団戦である。




