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落内円は落ちている  作者: 七風


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チーム分け

 コボルトたちの競技会開催が決まった翌日。


 エキドナ館の中庭には、再び百匹ほどのコボルトたちが集まっていた。


「わんお?(今日は何をするんだ?)」


「わふ!(競技の練習じゃない?)」


「わんおお!(お菓子とお肉のために頑張るぞ!)」


「わふぅ……(お肉……)」


 すでに優勝する気満々の子もいれば、ご褒美のことしか考えていない子もいる。


 そんなコボルトたちの前に、リゼットが姿を現した。


「みんな、おはよう」


「わんお!」


 百匹のコボルトが元気よく返事をする。


「今日は、競技会に向けて体力測定を行うわ」


「……わんお?(体力測定?)」


「わふ!(体の強さを調べるんだよ!)」


「わんお!(なるほど! つまり、お肉のための準備だな!)」


「わふ!(そういうこと!)」


 コボルトたちは互いに頷き合っている。


 もちろん、人間であるリゼットには、彼らが何を話しているのか分からない。


 聞こえてくるのは、元気な鳴き声ばかりだ。


「ふふ。やる気があるのはいいことね」


 リゼットは満足そうに頷いた。


 その周囲には、コボルトたちの様子を見に来た街の住民も集まり始めていた。


「あら、今日は何をしているの?」


「競技会の準備らしいわよ」


「体力測定ですって。みんな頑張っているのねぇ」


 住民たちは、警備服姿の小さなコボルトたちを微笑ましそうに眺めている。


 その一方で、コボルトたちは真剣だった。


「わんお!(よし、頑張るぞ!)」


「わふ!(絶対に負けないからね!)」


「わんお!?(ところで、何を測るんだ?)」


「わふぅ……(知らない……)」


「わんおお!?(知らないのかよ!?)」


 仲間同士でわいわいと相談する姿に、見物人たちから笑みがこぼれる。


「ふふ、何を話しているのかしら」


「一生懸命なのは伝わってくるわね!」


 ただ鳴いているだけに見えるコボルトたちだが、本人たちはいたって真剣である。


 そして、リゼットが手を叩いた。


「それでは、始めましょうか」


 彼女が最初に取り出したのは、一本の測定用の棒だった。


「まずは身長と体格の確認ね」


 コボルトたちが順番に並ぶ。


 身長はおよそ百センチ前後。


 秋田犬のようにがっしりした体格の子もいれば、柴犬のようにすらりとした子、長い毛に覆われて実際より大きく見える子もいた。


「はい、次の子」


「わんお!」


 ぴしっと背筋を伸ばすコボルト。


「ええ、いいわね」


「わふ!(どうだ! 立派だろう!)」


「わんお!(毛並みなら私も負けないぞ!)」


「わふ!?(そこを競ってどうするの!?)」


 リゼットは、何やら盛り上がっているコボルトたちを眺めながら、記録をつけていった。


 身長、体格、体重。


 それだけでなく、簡単な走力や跳躍力も確認する。


 小柄なコボルトが予想以上の跳躍を見せれば、見物人から歓声が上がった。


「わあっ、あんなに跳べるの!?」


「すごいわねぇ!」


「わんお!(見たか!)」


「わふ!(すごい! でも次は私の番!)」


 別のコボルトが勢いよく跳び上がる。


 そして着地した瞬間、得意げに胸を張った。


 その姿に、住民たちはまた笑顔になる。


 しかし、リゼットが本当に確認したかったのは、体格や運動能力だけではなかった。


「さて……次は、こちらね」


 彼女は鑑定を発動した。


 百匹のコボルトを順番に見ていく。


 身体能力。


 魔力。


 戦闘能力。


 個体ごとの特徴。


 同じような体格をしていても、実際の強さは必ずしも同じではない。


 見た目の小さな子が驚くほど強いこともあれば、がっしりした子が意外と素早いこともある。


「なるほど……」


 リゼットは、鑑定結果をもとに考え始めた。


 今回の競技会では、コボルトたちを二つのチームに分ける予定だ。


 だが、単純に半分ずつ分けるだけでは、片方に強い個体が偏ってしまう可能性がある。


 それでは、せっかくの競技会が一方的な勝負になりかねない。


「せっかくだもの。どちらのチームにも優勝の可能性があるようにしましょう」


 リゼットは、鑑定結果を照らし合わせていった。


 そして、まず二匹のコボルトを呼ぶ。


「あなたたち、こちらへ来てちょうだい」


「わんお?」


「わふ?」


 二匹が並ぶ。


 一匹は、秋田犬のようながっしりした体格。


 もう一匹は、少し小柄で毛の長いコボルトだった。


 見た目だけなら、体格の差はかなり大きい。


 しかし、リゼットの鑑定結果では、総合的な強さはほぼ互角だった。


「あなたは第一チーム。あなたは第二チームね」


 リゼットが、それぞれに色違いの腕章を渡す。


 赤い腕章と青い腕章。


「わんお!?(えっ、こいつと別のチーム!?)」


「わふ!(望むところだよ!)」


「わんお!(次の競技で勝負だ!)」


「わふ!(負けないからね!)」


 二匹は顔を見合わせ、ぐっと前足を握りしめた。


 人間から見れば、腕章をつけたコボルト同士が向かい合い、元気よく鳴いているだけだ。


「あらあら。早くもライバルができたのかしら?」


「かわいいわねぇ!」


 住民たちが微笑む。


 リゼットは、そのまま次の二匹を呼んだ。


「はい、あなたたちもこちらへ」


 今度は、よく似た柴犬風のコボルトが二匹。


 こちらも鑑定結果は近い。


 一匹に赤い腕章。


 もう一匹に青い腕章。


「わんお!(お前が相手か!)」


「わふ!(手加減しないよ!)」


「わんお!(こっちの台詞だ!)」


 二匹はさっそく闘志を燃やし始めた。


「ふふ。いいわね」


 リゼットは次々と鑑定結果を確認していく。


 強さが近い二匹を一組にし、その二匹を別々のチームへ振り分ける。


 それを繰り返していけば、戦力をなるべく均等にできるはずだ。


 小さな子も、大きな子も、足の速い子も、力自慢の子も。


 それぞれに見合った相手が、反対側のチームに配置されていく。


 しばらくして。


「……よし、これで大丈夫そうね」


 リゼットが最後の鑑定結果を確認し、顔を上げた。


 百匹のコボルトは、赤い腕章をつけた第一チームと、青い腕章をつけた第二チームに分かれていた。


 それぞれ、およそ五十匹ずつ。


 体格も、身体能力も、戦闘能力も、できる限り偏りがないように調整されている。


「これなら、いい勝負になるでしょう」


 リゼットが微笑む。


 その言葉を聞いたコボルトたちが、一斉に仲間の顔を見た。


「わんお!(こっちのチーム、強そうだぞ!)」


「わふ!(私たちだって負けてないよ!)」


「わんお!?(あいつ、さっきすごく跳んでた子じゃないか!?)」


「わふ!(こっちには力持ちがいるから大丈夫!)」


「わんお!(お菓子は渡さないぞ!)」


「わふ!(お肉も全部いただくよ!)」


 すでに両チームとも、優勝するつもりでいるらしい。


 もちろん、彼らが何を言っているのか、人間たちには分からない。


 ただ、赤い腕章と青い腕章をつけたコボルトたちが向かい合い、尻尾を振りながら元気に鳴き合っている。


 それだけで、見ている人々の顔には笑顔が広がっていた。


「どちらも頑張ってね!」


「応援しているわよ!」


 声援を受けたコボルトたちは、いっせいに住民の方を向いた。


「わんお!」


「わふ!」


 元気な返事。


 そして、揃って尻尾を振る。


「まあ、かわいい!」


 住民たちから、また歓声が上がった。


 リゼットは、そんな様子を満足そうに眺めていた。


「ふふ。競技会当日が楽しみね」


 こうして。


 コボルトたちの体力測定とチーム分けは、無事に終了した。


 赤組と青組。


 実力が均等になるように分けられた二つのチームは、それぞれ優勝を目指して動き始める。


 そして、彼らの頭の中にあるのは――。


 特別なお菓子。


 ダンジョンのお肉。


 そして、絶対に負けられない仲間との勝負。


「わんおお!(絶対に勝つぞ!)」


「わふ!(おー!)」


 両チームの元気な声が、ゴールの街に響き渡った。


 競技会は、まだ始まってもいない。


 それなのに、すでに勝負は熱くなり始めていたのだった。


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