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落内円は落ちている  作者: 七風


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エアバイク

 強欲大陸から戻ってきて、しばらく経った頃。


 スロリア・ゴールの街中で――。


「へへーん!」


 マドカが得意げな声を上げながら、空中を走っていた。


 正確には。


 走っているわけではない。


 地面から少し浮いた、一台の小型乗り物。


 車輪はない。


 代わりに車体の下から淡い魔力の光が噴き出し、空中で安定したまま前へ進んでいく。


 ハンドルを切れば右へ。


 反対へ切れば左へ。


 少し力を入れれば一気に加速する。


「おおー!」


 マドカが楽しそうに笑う。


 そのまま通りの上を進み――。


「ひゃっほー!」


 くるりと方向を変えた。


 街を歩いていた人々が一斉に空を見上げる。


「……何だ、あれ?」


「魔道具?」


「乗り物だよな?」


「飛んでるぞ……?」


 マドカはそんな視線を全く気にせず、今度は建物の間を縫うように進んでいく。


「へへーん!」


 さらに速度を上げる。


 風が髪を揺らす。


 そのまま街の広場を一周して、また戻ってきた。


「楽しー!」


 目撃者たちは呆然としている。


「あれ、見たことないぞ」


「エキドナの新商品か?」


「たぶんそうだろ」


「いや……」


 一人の男が首を傾げる。


「待て。あれ……どこかで見た気がする」


「何を?」


「ほら。強欲大陸のオークションで出てた、古い乗り物」


「ああ?」


「マドカが落札したやつじゃないか?」


「……」


 全員が黙った。


「……あれ?」


「いやいや」


「ちょっと待て」


「確か、動かない古い乗り物だっただろ?」


「そうそう」


「誰も欲しがらなかったやつ」


「最後、マドカが意地になって落札してなかったか?」


「……まさか」


 その時。


 目の前をマドカが再び通過した。


「いぇーい!」


 今度は少し低いところまで下降。


 そして――。


 急上昇。


「うおっ!」


「危なっ!」


「……楽しそうだな、あの人」


 マドカは満面の笑顔だった。


『wwwww』


『あれ強欲で買ったやつじゃんw』


『ついに完成したのか』


『どう見ても別物になってるw』


『車輪どこ行った?』


『何なんだこれw』


 もちろんEVも配信中だった。


 街の人たちだけではない。


 画面の向こうの視聴者も、マドカが乗っているものを見て騒ぎ始める。


『これがニコラの魔改造?』


『前にオークションで買ってたやつ?』


『あのガラクタが空飛んでるw』


『空飛ぶ乗り物じゃん』


 マドカはEVを見る。


「そう!」


 嬉しそうに答える。


「これ、あの時買ったやつだよ!」


『マジかよ』


『面影どこだよw』


『完全に別物』


「そんなことないもん!」


 マドカが抗議する。


「元の車体はちゃんと使ってるし!」


 そこへ。


「正確には、結構使ってるよ~」


 ニコラが後ろからのんびり現れた。


「動力部分は参考にしたし~。ハンドルの構造もそのまま使ってる~」


『ニコラいたw』


『やっぱりニコラ改造だった』


『何をどうしたらこうなるんだよ』


 ニコラが空中の乗り物を見る。


「最初は普通に動かそうと思ったんだけどね~」


「うん」


「でも、地面を走る必要ないな~って」


「そうそう!」


 マドカが頷く。


「だから浮かせた!」


『理由が雑w』


『いや技術的にすごいことやってるぞw』


『「浮かせた」で済ませるなw』


 ニコラはさらに続ける。


「魔力式の動力にして~、姿勢制御を自動化して~、方向転換も魔力制御にして~」


「うんうん」


「あと、転倒防止も入れた~」


「それ大事!」


「最高速度も制限してあるから、そこまで危なくないよ~」


「すごいでしょー!」


 マドカがまた得意げになる。


『これ普通に売れるんじゃない?』


『個人用の乗り物として便利そう』


『街の外にも行けるのか?』


『商品化してほしい』


 マドカはコメント欄を見て、にっこり笑った。


「実は――」


 マドカが空中の乗り物を軽く叩く。


「これ、エキドナの新商品にする予定なんだよ!」


『おおおお!』


『やっぱり商品化するのか』


『いくら?』


『値段気になる』


 マドカは胸を張る。


「お値段は、なんと――」


 一拍。


「金貨五枚!」


『五枚!?』


『思ったより安い』


『本当に?』


『それなら買える人いそう』


 マドカが嬉しそうに続ける。


「エキドナ新商品、**エアバイク**だよ!」


 その瞬間。


 画面のコメントが一斉に変わった。


『エアバイク!?』


『名前かっこいい!』


『なるほどエアバイクか』


『空飛ぶバイクってことね』


『商品名エアバイクw』


 マドカはさらに説明する。


「これ、馬車より早いんだよ!」


「街の中を移動するのにも便利だし、となりの町へ行く時とか、ちょっとした遠出にも使えるよ!」


『隣町まで行けるの!?』


『それめちゃくちゃ便利じゃん』


『通勤にも使えるな』


『馬車より速いならかなり便利』


『欲しい』


「そうそう!」


 マドカが笑う。


「毎日の通勤とか、近所への買い物とか、隣の町まで行く時とか!」


「一人で気軽に移動できるのが強みだね~」


 ニコラも補足する。


「操作も簡単だし~」


『エキドナまた生活変える商品出してるw』


『魔道具から乗り物まで作るのか』


『金貨五枚なら貯めれば買えそう』


『エアバイク欲しい』


『これ絶対人気出る』


 街の人々も、ようやく理解し始めていた。


「あれ、新商品だったのか」


「エアバイクっていうのか」


「金貨五枚……」


「馬車より速いなら便利そうだな」


「隣の町まで行けるって?」


 先ほど「強欲大陸で見たことがある」と話していた男も、空を飛ぶエアバイクを見上げる。


「……あの時はガラクタだったのにな」


「それが今は商品か」


「エキドナってすごいな……」


 マドカはそんな街の声も聞こえてきたのか、さらに得意げに笑った。


「へへーん!どう?」


 EVの画面へ向かってポーズを決める。


「エアバイク、欲しくなった?」


『欲しい!』


『買うわw』


『エキドナまたやったな』


『絶対売れる』


『金貨五枚なら欲しい』


『エアバイクって名前もいいな』


 その日の夕方。


 すでに街では――。


「エアバイク見た?」


「見た見た!」


「あれ、エキドナの新商品なんだって」


「金貨五枚らしいぞ」


「馬車より速いって」


 そんな会話が広がっていた。


 強欲大陸のオークションで、マドカが意地で手に入れた一台の古い乗り物。


 それはニコラの手によって、大きく姿を変え――。


 今では。


 **エキドナの新商品、エアバイク。**


 新しい移動手段として、世に出ようとしていた。


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