強欲王女
そこへ。
王城の侍従が部屋へ入ってきた。
「失礼いたします」
エレノアが顔を上げる。
「何かしら?」
「強欲王国より、正式なお願いが届いております」
「強欲王国から?」
エレノアが首を傾げる。
「はい」
侍従が一礼する。
「強欲王国の王女、キリエ様についてでございます」
「キリエ?」
エレノアが聞き返す。
「ええ。現在十七歳になられたキリエ王女殿下ですが――」
侍従は続けた。
「このたび、将来の婿探しをするため、しばらく怠惰王城へ滞在させていただきたいとのご相談です」
「なるほど」
リゼットが頷く。
エリックも静かに聞いている。
「強欲王国の王女が、こちらで婿を探すのですか」
「はい」
侍従が答える。
「キリエ王女殿下には、以前から一つ条件がございまして」
「条件?」
「自分に勝てる男でなければ結婚したくない、と」
「…………」
部屋が少し静かになった。
エレノアが苦笑する。
「強いの?」
リゼットが尋ねる。
「ええ。強欲王国の王女として、幼い頃から武芸を仕込まれております」
「なるほど、それで、怠惰王城に滞在させてもいいか、という話ね」
「はい」
侍従が頭を下げる。
「強欲王国としては、両国の交流にもなるため、ぜひ許可をいただきたいとのことです」
エレノアは少し考える。
そして。
「私は構いません。私が連れていきましょう」
「エレノア?」
リゼットが見る。
「もともと私は怠惰王家との商業交渉にも関わっていますし、キリエ殿下を連れて帰るくらいなら問題ありません」
「そうね」
リゼットが頷く。
「だったら、お願いするわね。」
「ありがとうございます」
侍従が頭を下げる。
「では、その旨を怠惰王城へ書面にてお渡しいたします」
◇ ◇ ◇
数日後。
エレノアはキリエを連れて、怠惰王城へ戻ってきていた。
「ここが怠惰王城ですか!」
キリエが目を輝かせる。
十七歳らしい活発さがありながらも、立ち姿には王女としての気品がある。
「ええ」
エレノアが頷く。
「しばらくここで過ごすことになりますから、問題があれば私に言ってください」
「はい!」
キリエは元気よく返事をした。
そして。
その日のうちに。
怠惰王国の王太子と顔を合わせることになった。
「初めまして」
王太子がキリエへ一礼する。
「強欲王国のキリエ王女殿下ですね」
「はい!」
キリエも礼を返す。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ――」
そこで。
王太子が止まった。
「…………」
「?」
キリエが首を傾げる。
王太子はしばらくキリエを見つめていた。
「……きれいだ」
「え?」
思わず口から漏れた言葉だった。
「い、いえ!」
王太子が慌てて姿勢を正す。
「失礼しました」
だが。
もう遅い。
完全に一目惚れだった。
そしてキリエは。
「それで、あなたは強いんですか?」
「……え?」
突然の質問に、王太子が固まる。
「私、弱い男とは結婚したくないんです」
「……」
「私に勝てるくらい強い人がいいです」
キリエは真っ直ぐに王太子を見る。
「それが、私の条件です」
「……分かりました」
王太子はしばらく考えた。
そして。
「一度、手合わせをお願いできますか?」
「もちろん!」
翌日。
王城の訓練場。
キリエと王太子は向かい合っていた。
「では――」
開始の合図。
キリエが一気に踏み込んだ。
「速い!」
王太子が受ける。
金属音が響く。
一撃。
二撃。
三撃。
互いに攻撃と防御を繰り返す。
だが。
「そこ!」
キリエの一撃が王太子の武器を弾き飛ばした。
「……参りました」
王太子が息を吐く。
「私の負けです」
「そうですか」
キリエは満足そうに頷いた。
「では、まだ結婚は考えません」
「…………」
王太子は俯いた。
だが。
しばらくして顔を上げる。
「もう一度、お願いします」
「え?」
「次は勝ちます」
キリエが目を丸くする。
「またやるんですか?」
「はい」
それから。
王太子は何度もキリエへ勝負を挑むようになった。
一日目。
敗北。
二日目。
敗北。
三日目。
また敗北。
それでも。
「もう一度!」
王太子は諦めない。
「次こそ勝ちます!」
「……随分としつこいですね」
キリエが呆れたように笑う。
「でも――」
少しだけ楽しそうでもあった。
そんな二人を、エレノアは遠くから眺めていた。
「……まあ」
腕を組む。
「私の仕事は、ここまでよ」
リゼットが隣に立つ。
「どうします?」
エレノアは小さく息を吐いた。
「これ以上はそっちの問題よ。勝手になさい」
「そうですね」
二人を見る。
王太子はまた剣を構えている。
キリエもそれを見て、楽しそうに笑っていた。
「勝てるまで挑めばいい」
エレノアはその場を離れた。
「私は強欲王国との商談がありますから」
そして。
エキドナもまた、いつもの仕事へ戻っていく。
魔道具開発。
商品開発。
素材の研究。
強欲大陸との商取引。
大型転移装置の準備。
エリックによるエキドナショップ強欲店の開店準備。
やることは、いくらでもある。
「じゃあ、通常業務に戻りましょうか」
リゼットが言う。
「はい」
エレノアも頷いた。
その一方で。
怠惰王城の訓練場では――。
「もう一度お願いします!」
「はいはい」
キリエと王太子の勝負が、また始まっていた。
そして二人の関係がどうなるのか。




