王位継承戦終了
第二戦が終わった。
ガブリエルがオセロで勝利し、これで特別試合は一勝一敗。
そして――
「第三戦!」
司会の声が響き渡る。
「第三王子殿下が選ばれた競技は――騎馬騎士戦!」
会場が一気に沸いた。
闘技場中央の設備が大きく動き、戦闘場が広大な騎馬場へと変わっていく。
砂地。
障害物。
複数の旗。
そして、二頭の立派な馬が運び込まれる。
観客席の上空には、今回も大型の映像結晶装置が浮かび上がった。
競技場の様子が巨大な映像として映し出され、遠くの観客からも騎馬場の全体が確認できる。
『おお! 今度は騎馬戦か!』
『会場変わってもちゃんと見えるのいいな』
『第三王子の得意分野らしいぞ』
『エキドナ誰出すんだ?』
第三王子が立ち上がった。
「この競技ならば、私が負けることはありません」
自信に満ちた声。
「騎馬戦こそ、私が最も得意とする競技です!」
マドカが目を輝かせる。
「騎馬戦!」
そして――
一瞬だけ黙った。
「……私、馬乗れない」
「そうでしたね」
クリスティーナが苦笑する。
「じゃあ誰が――」
「私が出ましょう」
エレノアが立ち上がった。
「エレノア?」
「騎乗でしたら、王家の者として訓練を受けております」
エレノアは穏やかに笑う。
「ここは私にお任せください」
「ふふ楽しみにしとくね!」
マドカが嬉しそうに笑う。
エレノアは騎馬場へ向かう。
第三王子も馬へ乗り込み、騎士用の槍を手に取った。
「エレノア殿が相手ですか」
「はい」
「王家の姫騎士として、恥ずかしい戦いはいたしません」
「私も、そのつもりはありません」
二人が向かい合う。
観客席が静かになる。
「では――」
司会が手を上げる。
「第三戦、開始!」
二頭の馬が同時に走り出した。
砂煙が舞う。
第三王子が槍を構える。
「行きます!」
一気に距離を詰める。
エレノアも馬を加速させる。
両者がすれ違う瞬間――
ガキィン!
槍と槍がぶつかった。
「おおおおお!」
観客が沸く。
『エレノア様かっこいい!』
『王女様が普通に騎馬戦してるw』
『マドカ、馬乗れないのかよw』
『そこはエレノア様の出番だな』
二人は大きく旋回し、再び距離を取る。
今度は第三王子が障害物の間を縫うように走る。
エレノアもその動きを追う。
旗を回り込む。
障害物を越える。
そして、再び正面からの突撃。
「今度こそ!」
第三王子が槍を突き出す。
エレノアは馬の速度をわずかに落とした。
槍が目の前を通り過ぎる。
その瞬間――
エレノアが身体を捻る。
槍を払う。
ガキン!
「なっ!」
第三王子の槍が、大きく弾かれた。
さらにエレノアが馬を旋回させる。
「失礼します」
一瞬。
エレノアの槍が、第三王子の胸元へ止まった。
「そこまで!」
司会の声が響く。
「勝者――エレノア様!」
会場が大歓声に包まれた。
『エレノア様勝った!』
『さすが王家!』
『騎馬戦めっちゃ絵になるな』
『第三王子、得意競技で負けたか』
エレノアは槍を下ろし、第三王子へ微笑む。
「ありがとうございました」
「……完敗です」
第三王子も素直に頭を下げた。
特別来賓席では、マドカが大喜びしている。
「エレノア、すごーい!」
「ありがとうございます」
エレノアは馬から降りる。
「よくやったわ」
リゼットも頷く。
「ええ」
これで――
エキドナ側、二勝。
王子側、一勝。
特別試合の結果は、エキドナ側の勝利となった。
会場から大歓声が上がる。
だが。
まだ終わりではない。
「皆様!」
司会が声を張り上げる。
「ここからは――特別試合の最終戦となります!」
歓声が少しずつ静まっていく。
「今回、三人の王子殿下の中で唯一勝利を収めた――」
第一王子へ視線が向く。
「第一王子殿下が、国王陛下へ挑戦いたします!」
会場が一気に沸騰した。
「来たぞ!」
「国王陛下のチェスだ!」
「今年はどうなる!?」
『ついに国王戦!』
『王子が勝てば一気に有力候補か!』
『国王陛下、今年こそ負けるのか!?』
第一王子が立ち上がる。
「私は――」
国王を見る。
「必ず勝ちます」
その言葉に、会場から大きな歓声が上がる。
やがて。
競技場中央へ、一つの巨大なチェス盤が運び込まれた。
盤面は大型の映像結晶装置によって拡大され、会場中の観客が一手一手を見られるようになっている。
「最終戦は――チェス!」
司会が宣言する。
国王がゆっくりと歩いてくる。
「ふむ」
席へ座る。
そしてチェス盤を見る。
「第一王子か」
「はい」
「ここまで勝ち上がったか」
国王は少し嬉しそうに笑った。
「良いことだ」
「……国王陛下」
第一王子が真剣な顔で盤を見る。
「私は、今回の勝負を遊びだとは思っていません」
「そうか」
「勝てば、次回以降の王位継承戦で有力候補として扱われる」
「その通りだ」
「ならば――」
第一王子が駒を手に取る。
「私は本気です」
国王は笑った。
「私もだ」
こうして、チェスが始まった。
一手。
また一手。
序盤は静かな展開だった。
第一王子は慎重に駒を動かす。
国王も淡々と応じる。
観客たちも、先ほどまでの戦闘とは違い、固唾を呑んで巨大な映像結晶を見つめていた。
『チェスは静かだな』
『でも国王陛下のチェス、毎回すごいんだよ』
『第一王子かなり考えてるぞ』
『もしかして今年は――』
中盤。
第一王子が仕掛ける。
一見すると、あえて駒を失うような手。
「……」
国王が盤面を見る。
そして。
「ほう」
微笑んだ。
「ここを取るのか?」
「はい」
第一王子が答える。
国王は駒を取った。
――その瞬間。
「チェック」
第一王子の声。
会場がざわめく。
『おおっ!?』
『国王陛下が追い込まれた!?』
『第一王子すげえ!』
国王は盤面を見る。
「なるほど」
一度、駒を戻すような仕草をする。
「これは――」
そして小さく笑う。
「困ったな」
「……!」
第一王子の目が輝く。
「勝てる……!」
しかし。
その次の一手。
国王が駒を動かした。
「……え?」
第一王子が固まる。
「そこ、ですか?」
「ああ」
国王は頷く。
「これしかないと思ったのだが」
第一王子が盤面を見る。
「…………」
そして。
何度も盤面を確認する。
「そんな……」
国王の何気ない一手が――
第一王子の攻撃をすべて潰していた。
いや。
それだけではない。
いつの間にか、第一王子のキングが追い詰められている。
「チェック」
国王が静かに告げる。
「……!」
第一王子が必死に駒を動かす。
しかし。
「チェック」
また一手。
そして――
「チェックメイト」
国王が駒を置いた。
「…………」
会場が静まり返る。
数秒後。
司会が結果を告げる。
「勝者――国王陛下!」
会場から大歓声が上がった。
『やっぱり国王陛下だあああ!』
『今年も勝ったw』
『第一王子かなり追い込んだのに!』
『国王陛下、やっぱ強いな』
第一王子はしばらく盤面を見つめていた。
そして――
「……参りました」
ゆっくり頭を下げる。
「ありがとうございました」
国王も頷く。
「いや、良い勝負だった」
「しかし……」
第一王子が顔を上げる。
「最後の一手は、最初から読んでいたのですか?」
「…………」
国王が少し考える。
「いや」
「え?」
「なんとなくだ」
「…………」
第一王子が固まる。
観客席から笑いが起こる。
『また運かよw』
『国王陛下の「なんとなく」は怖すぎるw』
『あれだけの勝負をなんとなくで勝つなw』
『運カンスト王w』
国王は苦笑する。
「自分でも、どうしてそうしたのか分からんのだ」
「……なるほど」
第一王子は悔しそうに笑った。
「やはり、まだまだ届きませんか」
「そういうことだな」
国王が立ち上がる。
「だが――」
第一王子を見る。
「今回の勝負は、私が認めた」
「!」
「次回の王位継承戦では、正式に有力候補として扱わせよう」
「……ありがとうございます!」
第一王子が深く頭を下げる。
会場は再び大歓声に包まれた。
マドカたちは、その様子を特別来賓席から見ていた。
「面白かったね!」
「ええ」
クリスティーナが微笑む。
「三つの競技も、最後のチェスも」
ニコラも笑う。
「王様、すごいね~」
「本当に」
エレノアも頷く。
「これで、第一王子殿下は次回の王位継承戦における有力候補となりますね」
リゼットは静かに国王を見る。
「……なるほど」
そして。
「強欲大陸らしい王様ね」
こうして。
エキドナと三人の王子による特別試合は――
エキドナ側が二勝。
王子側が一勝。
そして最後のチェスでは、国王が勝利するという結果に終わった。
勝利したのはエキドナだった。
王位継承戦そのものには、何の影響もない。
それでも――
この日、強欲王都の人々は一つの新しい賭けの結末を見届けた。
そしてエキドナには――
スロリア・ゴールと強欲王都を結ぶ転移。
国民同士の往来。
国家事業としてのEV普及。
そしてエリックによるエキドナ専門店。
大きな約束が、正式に動き始めることとなった。




