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落内円は落ちている  作者: 七風


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シルヴァVSジャスティス

 王位継承戦――特別試合。


 その日、強欲王都の巨大闘技場は、普段とは比べものにならないほどの熱気に包まれていた。


 もちろん、今回もEVによる配信が行われている。


『王位継承戦きたー!』


『エキドナが特別参加するってマジ!?』


『今年はすごいことになりそうだな』


『王子三人対エキドナってことか?』


『しかも国王陛下の代打らしいぞw』


 闘技場の中央。


 王族用の席には、第一王子、第二王子、第三王子が並んでいる。


 その向かい側。


 特別来賓席には、エキドナ側から五人。


 発明家代表、ニコラ。


 ノイティス家であり、Sランク冒険者のマドカ。


 エキドナ代表であり、怠惰の大賢者、リゼット。


 ノイティス公爵家代表、クリスティーナ。


 そして、怠惰王家代表であり、エキドナの商談も担当するエレノア。


 今回の特別試合には、明確な条件があった。


 王子側が負けても、今回の王位継承に関して不利益はない。


 だが――


 勝てば。


 次回以降の王位継承戦で、有力候補として扱われる。


 一方、エキドナ側も負けたところで特に何かを失うわけではない。


 しかし。


 勝利した場合には――


 スロリア・ゴールと強欲王都を結ぶ転移装置を正式に設置。


 国民同士の往来も許可。


 さらに、国家事業としてEVを広めることを認める。


 そして、現在エキドナと長期契約を結んでいる豪商エリックに、エキドナ商品の専門店を開店させる。


 両国にとっても、かなり大きな意味を持つ条件だった。


 そして。


「第一戦!」


 司会の声が闘技場全体に響き渡る。


「第一王子殿下が選ばれた競技は――戦闘競技!」


 歓声が上がる。


「王位継承戦恒例の、誰が最後まで立っていられるか――ではなく!」


 会場がざわめく。


「今回の特別ルールでは、相手を戦闘不能にするか、降参させた者を勝者とします!」


 第一王子が立ち上がった。


「そして、こちらの代表として私が指名するのは――」


 第一王子が口にした名前に。


 マドカたちは少しだけ目を丸くした。


「強欲大陸の勇者――シルヴァ!」


「…………」


 特別観覧席の近くにいたシルヴァが、ゆっくり振り返る。


「……僕ですか?」


「そうだ」


 第一王子が頷く。


「頼む」


「いや、頼むって……」


 シルヴァは頭を抱えた。


「僕、この話を聞いた時、もう少し平和な競技かと思っていたんですが」


「戦闘競技だ」


「そこは聞いてます」


 シルヴァはため息をつく。


「仕方ありませんね。王子殿下のご命令ということなら」


 嫌々ながらも、シルヴァは闘技場へ向かって歩き始める。


 そして。


「……ところで」


 シルヴァが途中で足を止めた。


「相手は誰ですか?」


 司会が微笑む。


「それは――」


「エキドナの皆様の中から選出されます」


「…………」


 シルヴァが固まった。


「エキドナが相手なんですか?」


「はい」


「聞いてませんよ!」


 シルヴァが思わず叫ぶ。


『wwwww』


『シルヴァまた巻き込まれてるw』


『エキドナ相手って知らずに来たのかw』


『今日も災難だなw』


「本当に今日は災難です……」


 シルヴァが眼鏡を押し上げる。


「相手がエキドナなら、僕が出る意味があるんですか?」


 特別来賓席では、マドカが笑っていた。


「んー」


 少し考える。


「あなた相手だと、大体が勝ってしまうね」


「分かってますよそんなこと!!」


 シルヴァが即座に叫ぶ。


 観客席から笑い声が起こる。


 EVのコメントも一気に流れた。


『本人が言うと悲しいw』


『シルヴァかわいそうw』


『エキドナ、誰出しても勝てると思ってるだろw』


『でも今回は勇者シルヴァだぞ!』


 マドカが少し考える。


「じゃあ、ジャスティスでいいんじゃない?」


「俺か!?」


 ジャスティスが驚いて立ち上がる。


「シルヴァと因縁あるみたいだし!」


「因縁というほどのものでは――」


「いや、俺も気になる!」


 ジャスティスが闘技場を見る。


「実際に戦ってみないと分からないよな」


 シルヴァもジャスティスを見る。


「…………」


「ん?」


「以前、あなたが言っていましたよね」


 シルヴァが眼鏡を押し上げる。


「僕と戦ってみたい、と」


「言ったっけ?」


「言いましたよ」


「なら、ちょうどいいな!」


 ジャスティスが笑う。


「俺が相手になる!」


 シルヴァは少しだけ考えた。


「……まあ、実際に戦ってみないと分からない、ですか」


 そこでマドカが口を挟む。


「そういえば、色欲勇者アナスイも本当に強かったよね」


「アナスイ……」


 シルヴァが思い出す。


「あの方も、かなりの実力者でした」


「私勝ったけどね!」


「あなたが相手だったんですから、それは知っていますよ!」


「えへへ」


 シルヴァは頭を抱える。


「本当に……」


 そしてジャスティスを見る。


「あなたが相手ですか」


 ジャスティスは胸を張る。


「そうだ!」


「……いいでしょう」


 シルヴァの表情が変わった。


 さっきまでの嫌々とした雰囲気が消える。


「最近、負け続きで――」


 眼鏡を押し上げる。


「『勇者はく奪されるんじゃないか』とか、『勇者なのに勝てないのか』とか、散々煽られてましてね」


 ジャスティスが少しだけ目を丸くする。


「……それはきついな」


「ええ」


 シルヴァは静かに構える。


「ですから――」


 魔力が、ゆっくりと膨れ上がる。


「今日は本気でいきますよ!」


 闘技場全体の空気が変わる。


 観客席から歓声が上がった。


『シルヴァ本気きた!』


『これは面白そう!』


『ジャスティス頑張れ!』


『シルヴァ負け続きの汚名返上なるか!?』


 ジャスティスも剣を抜く。


「俺も負けるつもりはないぞ!」


「では――」


 司会が手を上げる。


「第一戦――」


 闘技場全体が静まり返る。


「開始!」


 同時に。


 二人の勇者が地面を蹴った。


 二人の勇者が地面を蹴った。


 先に動いたのはジャスティスだった。


「来い……!」


 剣を構える。


 そして――


「我が身に宿りし炎よ! 古より受け継がれし灼熱の力を今ここに――」


「…………」


 シルヴァが止まった。


「え?」


「我が敵を焼き払い、天より降り注ぐ――」


「ちょっと待ってください」


 ジャスティスの詠唱が止まる。


「なんですか?あなた……なんなんですそれ」


「何って、詠唱だ!」


 ジャスティスが堂々と答える。


「魔法を使う前には、こうやって力を高める!」


「…………」


 シルヴァが少し呆れたように見る。


「無詠唱できないのですか?」


「できるぞ」


「できるんですか!?」


「できる」


 ジャスティスは胸を張る。


「だが――かっこいいからだ!」


「…………」


 シルヴァの顔が何とも言えない表情になる。


「そこですか……」


 特別来賓席では、マドカが笑っていた。


「あははは!」


 ニコラも楽しそうに笑う。


「ジャスティス、相変わらずだね~」


「本当に変わらないわね」


 リゼットも苦笑する。


 そしてEVのコメント欄は――


『出たwww』


『ジャスティス恒例の詠唱w』


『無詠唱できるのに詠唱するなw』


『かっこいいからだ!じゃねえよw』


『シルヴァ困惑してるw』


 ジャスティスが再び構える。


「さあ、いくぞ!」


 シルヴァは小さく息を吐いた。


「……まあ、あなたらしいですね」


 そして。


「だったら、こちらも遠慮はしません」


 シルヴァの魔力が一気に膨れ上がった。


「行きます!」


「来い!」


 二人の魔法が正面からぶつかった。


 轟音とともに、闘技場の中央が光に包まれる。


「うおおおおお!」


 観客席から歓声が上がった。


『いきなり本気w』


『シルヴァ強い!』


『ジャスティスも頑張ってる!』


 光が晴れる。


 そこから飛び出してきたのは、ジャスティスだった。


「いくぞ!」


 一気に距離を詰める。


 剣を振る。


 シルヴァが魔力を纏った腕で受ける。


 ガキィン!


 弾かれたのは――シルヴァだった。


「おっと……」


 シルヴァが少し驚く。


「剣技では負けていませんよ!」


 ジャスティスがさらに踏み込む。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 剣が何度もぶつかる。


 シルヴァも剣を抜いた。


「なるほど……」


 魔法だけではない。


 シルヴァも剣を使える。


 互いの剣が何度も交差する。


 キィン!


 キンッ!


 ガキィン!


 観客席が沸く。


『ジャスティス普通に強いぞ!』


『剣だけならシルヴァと互角!?』


『ノウキンじゃないじゃんw』


 ジャスティスは必死に食らいついていく。


 シルヴァが魔法を使えば、剣で切り込み。


 剣を使えば、こちらも剣で受ける。


 そこへ――


 シルヴァの魔道具が光った。


「なっ!?」


 銃口が展開される。


 バシュッ!


 魔力弾が飛ぶ。


 ジャスティスが身を捻ってかわす。


「銃まで使うのか!?」


「ええ」


 シルヴァが答える。


「僕は魔法だけではありませんから」


 魔法。


 剣。


 そして魔道具による銃撃。


 三つを組み合わせ、シルヴァはジャスティスを追い詰めていく。


 それでもジャスティスは退かない。


「まだだ!俺はまだ戦える!」


 再び踏み込む。


 シルヴァも受ける。


 そして――


 激しい攻防が続いた。


 だが。


 徐々に。


 ジャスティスの動きに疲労が見え始める。


 対してシルヴァは――


 まだ余裕があった。


「……強いですね」


 シルヴァが呟く。


「ですが――」


 ジャスティスが荒く息を吐く。


「まだ終わってない!」


「ええ」


 シルヴァが魔力を高める。


「僕も、まだ終わらせていません」


 次の瞬間。


 闘技場の上空に巨大な魔法陣が展開された。


「……っ!」


 観客が息を呑む。


「終わりです」


 シルヴァが手を掲げる。


 巨大な魔力が、一気に収束する。


「その力――!」


 ジャスティスが剣を構える。


 シルヴァの大魔法が放たれた。


 その瞬間。


「終わりよ」


 リゼットの声が響いた。


 パチン。


 指が鳴る。


 大魔法が――


 消えた。


「…………」


 闘技場が静まり返る。


 シルヴァが固まる。


「え……?」


 リゼットがゆっくり立ち上がる。


「シルヴァ」


「は、はい」


「あなた、殺す気?」


「…………」


「これは競技よ。勝つために相手を殺す必要なんてないでしょう?」


「はっ!」


 シルヴァが慌てて頭を下げる。


「すみません!」


 顔を上げる。


「少し……熱くなってしまって!」


「まったく」


 リゼットはため息をつく。


「本当に気をつけなさい」


「はい……」


 シルヴァはジャスティスを見る。


 そして静かに笑った。


「でも――君は強かった」


 ジャスティスが顔を上げる。


「本当に、最後まで食らいついてきた」


「……そうか」


 ジャスティスは悔しそうに拳を握る。


「俺はまだまだだ!」


 それでも顔は前を向いている。


「だが――いつか必ず、あんたにもきちんと次期勇者候補として認めてもらうからな!」


「……!」


 シルヴァは少し驚いた。


 そして――


「その時を楽しみにしています」


 司会が結果を告げる。


「勝者――シルヴァ!」


 会場から大歓声が上がった。


『熱かった!』


『ジャスティス普通に強かったぞ!』


『シルヴァも危なかったな』


『最後の大魔法はやりすぎw』


『リゼット止めるの早すぎるw』


 こうして――


 第一戦。


 王子側が一勝を手にした。


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