招待状
強欲大陸での目的を、ほぼすべて終えた頃。
エキドナ一行は、そろそろゴールへ戻る準備を始めていた。
「必要な素材、全部そろったね!」
マドカが満足そうに笑う。
「飛空艇用の素材も、研究用のものも揃ったわね」
リゼットが確認する。
「これだけ手に入れば、当初の目的は十分達成できたでしょう」
「私はもう少しこの大陸を見ていたいですけれどもね」
クリスティーナも街を眺める。
「せっかくここまで来たのですもの」
「私も~」
ニコラがのんびり頷く。
「まだ見てない魔道具のお店、結構あるよ~」
「まあ、帰る前に少しくらいならいいんじゃない?」
そんな話をしながら街を歩いていた、その時だった。
「今年もそろそろだな」
「王位継承戦か」
「今回は誰が挑むんだろうな」
「いや、それより国王陛下が今年はどこまで無双するかだろ」
「毎回楽しみなんだよなぁ」
マドカが足を止める。
「……王位継承戦?」
聞き慣れない言葉に、リゼットもそちらを見る。
「何かの大会かしら」
クリスティーナが周囲の会話を聞く。
「王位を懸けた正式な継承戦らしいですわ」
「王位を懸けるの?」
マドカが目を丸くする。
「ええ」
話を聞く限り、この大陸では王位継承戦そのものが一つの大きな行事になっているらしい。
年に数回。
王位継承の資格を持つ王子たちが、それぞれ自分の得意とする勝負を選び、国王へ挑戦する。
そして――。
「国民も賭けられるのか」
リゼットが呟く。
「どうやら、そうみたいですわね」
クリスティーナが頷く。
王位継承戦は、国が正式に認めた巨大なギャンブルでもある。
誰が勝つのか。
どの王子が最後まで残るのか。
そして、国王が今年も勝ち続けるのか。
国民たちはそれを予想し、賭けを楽しむ。
「国王が毎回そんなに強いの?」
マドカが尋ねる。
「強いというより――」
クリスティーナが少し考える。
「異常に運が良い、という話ですわ」
「運?」
「ええ」
別の通行人が笑いながら話している。
「王様の無双を見るのが楽しみなんだよ」
「前も全部勝っただろ?」
「今年こそ王子の誰かが勝つかもな!」
「いやいや、無理だろ」
「でも賭けるぞ!」
マドカが楽しそうに笑う。
「なんか面白そう」
「私も少し興味があるわ。強欲大陸らしい行事ね」
「では、帰る前に見学してみませんか?」
クリスティーナが提案する。
「ええ」
エレノアも頷いた。
「怠惰王家としても、こうした行事を見ておくのは悪くありません」
こうして。
エキドナ一行は、帰る前に王位継承戦を見学していくことになった。
◇ ◇ ◇
それから数日後。
エキドナの滞在先へ、王家の紋章が入った正式な書状が届いた。
「王位継承戦への招待状?」
マドカが封を開く。
中には、特別来賓席への案内が記されていた。
「誰が呼ばれたの?」
ニコラが横から覗き込む。
そこには、五人の名前と、それぞれの立場が記されていた。
――ニコラ。
発明家代表。
――マドカ・ノイティス。
ノイティス家代表、ならびにSランク冒険者。
――リゼット。
エキドナ代表、怠惰の大賢者。
――クリスティーナ・ノイティス。
ノイティス公爵家代表。
――エレノア。
怠惰王家代表、ならびにエキドナの商談担当。
「私たち五人なんだ」
マドカが少し驚く。
「それぞれ違う立場で招かれているみたいね」
リゼットが書状を見る。
「なるほど」
クリスティーナも微笑む。
「私はノイティス公爵家の代表として、ということですわね」
「私は発明家代表~」
ニコラが自分の名前を指差す。
「エキドナの発明家として見られているんだね~」
「そういうことでしょう」
エレノアも頷く。
「私も王家代表として参加することになります。エキドナとの商談に関わっていることも、今回の招待理由の一つでしょうね」
「なるほどね」
マドカは招待状をもう一度見る。
「でも――」
少し首を傾げる。
「私たち、王位とか別に興味ないよね?」
「ないわね」
リゼットが即答する。
「私もですわ。そもそも怠惰所属の公爵家ですもの」
クリスティーナが笑う。
「私も~」
エレノアも頷く。
「エキドナは怠惰にある土地ですから強欲の王位を狙う理由はありません」
「じゃあ、見学するだけ?」
「そのつもりでよいでしょう」
そう話していた時だった。
部屋の扉が開く。
「いや――」
入ってきたのは、強欲大陸の国王だった。
「見学だけで終わらせる必要もないぞ」
「国王陛下!?」
マドカが驚く。
国王は豪快に笑った。
「君たちに、一つ頼みたいことがあってな」
「頼み?」
「今回の王位継承戦――」
国王は一度、ため息をついた。
「私の代わりに、少し遊んでみないか?」
「……代わりに?」
リゼットが聞き返す。
「ああ」
国王は頷く。
「今回に限って、特別試合を組む」
「特別試合?」
「王子たちが、それぞれ得意とする勝負を一つずつ用意する。その相手を、君たちが務めるのだ」
マドカの目が輝く。
「それ、面白そう!」
「だろう?」
国王は笑う。
「私は別に、王位を守ることそのものを楽しんでいるわけではないからな」
「でも、負けるわけにはいかないのでしょう?」
リゼットが尋ねる。
「当然だ」
国王は胸を張る。
「強欲大陸の王が、簡単に負ける姿を見せるわけにはいかん」
そして――
「困ったことに、私は運まで良すぎる」
「運?」
「うむ」
国王が遠い目をする。
「負けようとしても、なぜか勝ってしまうのだ」
「……」
「カードを引けば都合のいい札が来る。選べば正解を引く。避けようとした罠に、なぜか相手が引っかかる」
ニコラが笑う。
「面白い~」
「面白くない!」
国王が即座に叫ぶ。
「私はもう、そろそろ誰かに負けたいのだ!」
マドカが吹き出す。
「王様、大変だね」
「本当に大変なのだ!」
国王は頭を抱えた。
「だから今回は、君たちに遊んでもらいたい」
エレノアが確認する。
「特別試合での勝敗は、通常の王位継承戦とは別扱いですね?」
「ああ」
「王子側には、負けた場合の不利益は?」
「ない」
国王は即答する。
「今回の特別試合で負けても、王位継承の資格そのものには影響しない」
「では、勝てば?」
「次回以降の王位継承戦で、有力候補として扱う」
エレノアが頷く。
「それなら、王子たちも本気で挑めますね」
「その通り」
リゼットが考える。
「それで、私たちが勝った場合は?」
国王の表情が少し変わった。
「その場合は――」
一拍。
「以前から話に出ていた、EVの国内普及を正式に認めよう」
「……!」
マドカが目を丸くする。
「本当に?」
「ああ」
「それに――」
国王は続ける。
「ゴールと、この強欲王都の転移による往来も正式に認める。国民同士の行き来も許可しよう。」
「それは大きいですね」
エレノアが頷く。
「ええ」
リゼットも静かに笑った。
「なるほど。商談としても意味があるわね」
「そういうことだ」
国王が笑う。
「だから、気軽に楽しんでくれればいい」
マドカは拳を握る。
「じゃあ――」
にっこり笑った。
「遊ぼう!」
こうして。
王位そのものには興味のないエキドナだったが――
国王の代打として、特別な王位継承戦へ参加することになった。
そして。
その最初の相手となる三人の王子たちが、それぞれ自らの得意分野を掲げて集まり始めていた。




