第8ゲーム 運
「次は――運のゲーム!」
マドカが嬉しそうに声を上げる。
第七ゲームまでの会場とは違い、今度の部屋は妙にシンプルだった。
広い円形の部屋。
その中央には、何百個もの箱が並んでいる。
どれも同じ大きさ。
同じ色。
同じ形。
見た目から違いを見つけることはできない。
「第八ゲームは、純粋な運を競うゲームでございます」
スタッフが説明する。
「こちらの箱には、それぞれ異なる結果が設定されております」
「当たり外れみたいなもの?」
「はい」
「じゃあ、簡単そう!」
マドカが笑う。
スタッフは首を振る。
「ただし――」
「?」
「箱の内部を確認することはできません。魔法、鑑定、透視、索敵なども、特殊結界によってすべて無効化されます」
「おお……」
ニコラが箱を見る。
「本当に運だけなんだ~」
「その通りです」
スタッフが続ける。
「参加者には一人ずつ箱を一つ選んでいただきます」
中央の表示板に、報酬内容が表示される。
小当たり。
中当たり。
大当たり。
ハズレ。
そして――
「特賞」
その文字だけが、大きく表示された。
「特賞を引いた場合、**一千万チップ**を獲得できます」
「ええっ!?」
マドカが目を丸くする。
「一千万!?」
「はい」
『一千万!?』
『急に桁がおかしくなったw』
『特賞すげえな』
『これだけでかなりデカいぞ』
「そんなに貰えるんだ……」
マドカが箱の山を見る。
「じゃあ、本当に運が良ければ一気に増えるんだね!」
「はい」
スタッフは笑顔で頷いた。
「では、参加者を決めていただけますか?」
マドカがみんなを見る。
「こういうのは、全員でやってみればいいんじゃない?」
「それが楽しそうね」
クリスティーナが笑う。
「うん!」
マドカも頷く。
「じゃあ、やろう!」
リゼット。
マドカ。
ムサシ。
メアリー。
ニコラ。
アリシア。
ナナリー。
そして――
「シルヴァ様も参加されますか?」
スタッフが尋ねる。
「もちろんです!」
シルヴァが即答した。
『人数多いw』
『ここまで全員強いのに運だけは別かw』
『リゼットさんでもこれは分からんぞ』
『本当にガチャ大会じゃんw』
最初はマドカ。
「これ!」
何となく目についた箱を一つ選ぶ。
パカッ。
「…………」
中に入っていたのは――
『小当たり』
「普通!」
マドカが笑う。
『マドカ普通w』
『ここで無双しないのかw』
「まあ、運だしね」
次にムサシ。
しばらく箱を眺める。
「……これにしよう」
パカッ。
『大当たり』
「おお」
ムサシが頷く。
「運が良かったようだな」
『ムサシ当てたw』
『やっぱ持ってるな』
次はアリシア。
「私はこれ!」
パカッ。
『ハズレ』
「ええええ!?」
『www』
『アリシアw』
「ちょっと!」
アリシアが箱を睨む。
「なんでよ!」
「運ですから」
スタッフがにこやかに答える。
「ぐぬぬ……!」
ナナリーが笑いながら箱を選ぶ。
「じゃあ、私はこれ」
パカッ。
『中当たり』
「やった!」
『ナナリー普通に当てたw』
続いてメアリー。
「では、これにしましょうか」
パカッ。
『小当たり』
「あら」
メアリーは微笑む。
「こんなものですね」
そしてクリスティーナ。
「私は……こちらにいたしましょう」
特に迷わず一つを選ぶ。
パカッ。
『中当たり』
「まあ」
クリスティーナが小さく笑う。
「悪くありませんわね」
リゼットの番。
会場が少しざわつく。
『リゼットどうする?』
『頭脳が使えないぞw』
『ここだけは本当にどうにもならん』
リゼットは箱を見回す。
「…………」
しばらく考える。
「これ」
パカッ。
『ハズレ』
「…………」
リゼットが無言になる。
マドカが吹き出した。
「お姉ちゃん、ハズレ!」
「……運なんて、そんなものよ」
『リゼットでもハズレるw』
『ここだけ平等w』
シルヴァも箱を選ぶ。
「僕はこれで!」
パカッ。
『小当たり』
「……まあ、悪くないですね」
そして最後。
ニコラ。
「私~?」
スタッフが頷く。
「はい」
ニコラは箱の列を見る。
右を見る。
左を見る。
そして――
「ん~」
適当に近くにあった箱を指差した。
「これ~」
マドカが笑う。
「適当だなぁ!」
「だって分かんないし~」
「それはそうだけど!」
ニコラが箱を開ける。
パカッ。
――沈黙。
表示板が、一瞬だけ消える。
そして。
『特賞』
「…………」
会場が静まり返る。
マドカが目を見開く。
「え?」
ナナリーも固まる。
「……特賞?」
『え』
『は?』
『ニコラwww』
『適当に選んだよな!?』
『運まで悪ノリしてるw』
『一千万チップ当てたぞw』
スタッフですら、表示を何度も確認する。
「……特賞、**一千万チップ**でございます」
ニコラは箱の中を覗き込む。
「お~」
「すごい……」
マドカが笑い出す。
「ニコラ、すごい!」
「なんか当たった~」
「なんかって!」
ニコラは嬉しそうに笑う。
「じゃあ、このチップも使えるの~?」
「もちろんでございます」
「わ~い」
『ニコラ、適当なのに一番当ててるw』
『天才は運も持ってるのか』
『いや絶対ただの偶然だろw』
しかし――
ゲームはまだ終わっていなかった。
スタッフが新しい説明を始める。
「特賞を獲得された方には、もう一つ選択肢がございます」
「選択肢?」
マドカが振り返る。
「はい」
スタッフが二つのボタンを用意した。
「獲得した一千万チップをそのまま確定するか――」
片方のボタンが光る。
「もう一度、運に挑戦するか」
もう片方が光る。
「ええ!?」
マドカが驚く。
「もう一回できるの!?」
「はい。ただし――」
スタッフが微笑む。
「失敗すれば、今回の一千万チップをすべて失います」
「うわ……」
会場がざわめく。
「成功すれば――」
スタッフがもう一度、表示板を見る。
「**二千万チップ**となります」
「…………」
マドカがニコラを見る。
「どうする?」
ニコラは少し考える。
そして――
「やる~」
「本当に!?」
「だって面白そう~」
『出たwww』
『ニコラの悪ノリ継続w』
『一千万からさらに賭けるのかよw』
『これは怖いw』
ニコラがボタンを見る。
「こっち~」
ポチッ。
会場が静まり返る。
表示板に、新しい結果が表示される。
『――特賞継続』
一瞬。
そして――
『報酬二倍』
「…………」
マドカが固まる。
ナナリーが目を見開く。
シルヴァも言葉を失う。
そして会場から一斉に歓声が上がった。
『うそだろwww』
『ニコラ何者だよw』
『完全に運だけで勝ちやがったw』
『最初から最後まで適当だったぞw』
ニコラは眠そうな顔で笑った。
「わ~い」
「わ~いじゃないよ!」
マドカが笑いながらツッコむ。
リゼットは少しだけ遠い目をしていた。
「……本当に、運というものは分からないわね」
こうして――
第八ゲーム。
最後の最後まで予測不能だった運の勝負は、ニコラが一千万チップの特賞を引き当て、さらに二倍を成功させるという、とんでもない結果となった。
そして。
残るゲームは――
いよいよ最後の総合戦だけとなった。




