第2ゲーム VSシルヴァ
「それでは、第二ゲームへご案内いたします」
スタッフについて進んでいくと、先ほどまでの会場とは違う、巨大な円形のフィールドが現れた。
中央には広い戦闘場。
周囲には観客席。
さらに、戦闘場を覆うように透明な結界が張られている。
「第二ゲームは――戦闘ゲームでございます」
「やっぱり!」
マドカが嬉しそうに声を上げた。
「次は戦うんだね!」
「はい」
スタッフが頷く。
「こちらは模擬戦形式となっております。相手を倒す、もしくは戦闘不能と判断された時点で勝敗が決定いたします」
「武器は使っていいの?」
「もちろんでございます。魔法、武器、身体能力、特殊技能、すべて使用可能です」
ムサシが一歩前へ出る。
「それなら、ワシの出番であろうな」
「私もやりたい!」
マドカも手を挙げる。
「なお、対戦相手は当カジノが用意した実力者となります」
スタッフが続ける。
「初心者向けではございません」
「どのくらい強いの?」
クリスティーナが尋ねる。
「主にA級上位からS級相当の戦士が参加しております」
「S級!?」
マドカが目を丸くする。
「本当に?」
「はい」
会場の奥から、いくつかの扉が開いた。
その中から、武器を持った戦士たちが現れる。
どの人物も、明らかに普通の冒険者とは違う。
鍛え上げられた身体。
隙のない立ち方。
そして――
実戦を何度も経験している者だけが持つ、鋭い視線。
『うわ、ガチじゃん』
『S級出てくるのかよw』
『第一ゲームとは別物だな』
『ムサシどうするんだ』
『マドカも出る気満々で草』
そんな中。
スタッフが一人の男へ視線を向けた。
「そして、本日の特別参加者として――」
「え?」
マドカがそちらを見る。
眼鏡を押し上げながら、こちらへ歩いてくる男。
「強欲大陸の勇者、シルヴァ様に急遽ご参加いただきます」
「……え?」
マドカが目を丸くする。
「シルヴァ!?」
シルヴァは少し緊張した様子ながらも、どこか嬉しそうだった。
「どうも」
「なんでいるの!?」
「カジノ側から声をかけていただきまして」
シルヴァは眼鏡を直す。
「エキドナの皆様と戦える機会だと聞いたので、ぜひ参加したいと思いました」
『シルヴァ参戦www』
『急遽雇われたのかよw』
『勇者を戦闘員として雇うカジノ何なんだw』
『エキドナ側もシルヴァ側も本気で楽しそう』
シルヴァはマドカたちを見渡した。
「もちろん、僕も勝つつもりですよ」
「へぇ……」
マドカが少し笑う。
「シルヴァって、魔法の研究とか好きな人だと思ってた」
「それだけではありません」
シルヴァが答える。
「強くなるための知識を得ることも、僕にとっては重要ですから」
そして、ゆっくりと戦闘フィールドへ視線を向ける。
「それに――」
眼鏡の奥の目が、鋭くなる。
「皆さんが、実戦でどのような戦い方をするのか。ぜひこの目で見てみたい」
「……なるほどね」
リゼットが小さく笑った。
「相変わらず勉強熱心なのね」
「はい!」
シルヴァが即答する。
「ですから、遠慮はしません」
ムサシが笑った。
「それでよい」
マドカも拳を握る。
「よーし!」
スタッフが説明を続ける。
「第二ゲームは勝ち抜き形式となります」
戦闘フィールドに、複数の区画が表示された。
「最初の戦闘を勝ち抜いた方が次へ進みます。そして、最後まで勝ち残った選手が第二ゲームの勝者となります」
「つまり、一人で何回も戦う可能性があるんだね」
「はい」
「面白そう!」
マドカが笑う。
スタッフが一礼する。
「それでは――」
戦闘フィールドの結界が、ゆっくりと光り始める。
「第二ゲーム、開始いたします」
その瞬間。
最初の対戦者が、フィールドへ進み出た。
シルヴァの周囲に、大量の魔力が集まり始めた。
「……なるほど」
マドカは剣を構えながら、楽しそうに笑う。
「やっぱり、さっきの人たちとは違うね」
「当然です」
シルヴァの眼鏡が光る。
「僕は強欲大陸の勇者ですから」
次の瞬間。
ドンッ!!
圧縮された魔力が一気に弾けた。
シルヴァの姿が消える。
「速い!」
観客席から声が上がる。
一瞬でマドカの懐へ入り込み、魔力を纏った拳が振り抜かれる。
マドカは剣で受けた。
ガキィンッ!!
凄まじい衝撃。
マドカの身体がわずかに後ろへ滑る。
『おおっ!?』
『シルヴァ速い!』
『勇者だけあって強いな』
『マドカ、ちゃんと受けたぞ』
シルヴァは止まらない。
魔法を連続展開しながら、あらゆる方向から攻撃を仕掛けてくる。
火球。
雷撃。
圧縮された水の刃。
それらを自身の高速移動と組み合わせ、絶え間なくマドカを追い詰めていく。
マドカはかわし、受け、時には剣で弾きながら対応していた。
「……!」
シルヴァの表情が険しくなる。
明らかに先ほどまでとは違う。
だが――
マドカは、まだ余裕があった。
「なかなか強いね」
そう言いながら、マドカは七割ほどの力で動いていた。
シルヴァも、それに気づいた。
何度攻撃を重ねても決定打がない。
いや。
決定打を与えられないのではない。
マドカが、決定打を受けないようにしている。
「…………」
シルヴァが一度距離を取る。
「マドカさん」
「ん?」
「あなた――」
シルヴァが鋭く睨む。
「本気を出していないでしょう?」
会場がざわつく。
『あ』
『気づいたw』
『そりゃ分かるよな』
『マドカ、まだ余裕あるし』
マドカは少しだけ目を丸くした。
「分かる?」
「分かります」
シルヴァは拳を握り直す。
「僕は強欲大陸の勇者です」
声に力がこもる。
「この強欲の勇者を、舐めないで欲しい!」
「シルヴァ……」
マドカが少し驚いたように見る。
次の瞬間。
シルヴァの魔力が、さらに膨れ上がった。
「おおおおおおっ!!」
ドンッ!!
空気そのものが震える。
フィールド全体の結界が大きく揺れた。
「なっ!?」
観客が立ち上がる。
魔力が先ほどまでとは比較にならないほど膨張していく。
火。
雷。
水。
風。
複数の魔法属性を同時に展開しながら、シルヴァ自身の身体能力まで一気に引き上げていく。
「これが……!」
シルヴァが踏み込む。
「僕の本気です!」
ドンッ!!
一瞬で距離が消えた。
マドカへ迫る。
剣と魔法が何度もぶつかる。
キィン!
ドンッ!
バシュッ!
さっきまでとは明らかに違う。
マドカも表情を変える。
「……へぇ」
今度は本当に楽しそうだった。
シルヴァが連続して攻撃を仕掛ける。
一撃。
二撃。
三撃。
そのすべてが先ほどより速い。
そして最後に――
巨大な魔法陣が展開された。
「これでどうです!」
無数の魔法弾が、マドカへ集中する。
会場から歓声が上がる。
『すげええええ!』
『シルヴァ本気出した!』
『これはさすがにマドカも――』
その瞬間。
マドカが、小さく笑った。
「じゃぁ――」
剣を握り直す。
「少しだけね?」
次の瞬間。
マドカの魔力が――
一気に膨れ上がった。
「…………え?」
シルヴァの目が見開かれる。
先ほどまでとは、まるで違う。
魔力の質も。
量も。
圧力も。
すべてが別物だった。
会場の空気そのものが変わる。
マドカの姿が――
消えた。
「!?」
シルヴァが反応する。
だが、遅い。
右。
左。
上。
背後。
マドカが一瞬で位置を変える。
あまりにも速い。
まるで空間そのものを滑っているような動き。
「どこに――!」
シルヴァが魔法を放つ。
しかし、当たらない。
マドカはすでにそこにいない。
そして――
「ここ」
耳元で声がした。
「……っ!?」
シルヴァが振り返る。
そこには、すでに剣を振り抜く直前のマドカがいた。
そこには、すでに剣を振り抜く直前のマドカがいた。
「――っ!」
シルヴァがとっさに身を引く。
だが。
マドカの剣は、その動きよりも速かった。
キンッ!
魔力を纏ったシルヴァの防御を弾き飛ばす。
「ぐっ!」
シルヴァが体勢を崩す。
それでも倒れない。
すぐに魔力を練り直し、反撃へ移ろうとする。
「まだです!」
巨大な魔法陣がマドカの足元に展開される。
その瞬間。
マドカが跳んだ。
魔法陣を踏み越え――
一気にシルヴァとの距離を詰める。
「な……!」
シルヴァが目を見開く。
右。
左。
正面。
マドカの姿が次々と違う場所に現れる。
シルヴァは必死に追う。
魔法を放つ。
だが、当たらない。
「くっ!」
さらに速度を上げる。
それでも。
マドカには届かない。
そして――
「ここだよ」
マドカの声。
次の瞬間。
シルヴァの首元に、剣の切っ先が止まっていた。
「…………」
静寂。
シルヴァは動けなかった。
ほんの一瞬だった。
本気で戦った。
自分の持てる力をすべて出した。
それなのに――
届かなかった。
「そこまで!」
司会の声が響く。
「勝者――マドカ・ノイティス!」
一拍遅れて、会場が爆発するような歓声に包まれた。
『終わったwww』
『やっぱりこうなるのかw』
『シルヴァ本気だったよな!?』
『それでこれかよw』
『マドカ、最後明らかに別次元だった』
『最初の七割って本当だったのか……』
シルヴァはしばらくその場に立ったまま、マドカを見つめていた。
そして。
「……参りました」
静かに武器を下ろす。
「僕の全力を出したつもりでした」
「うん」
マドカも剣を収める。
「すごく強かったよ」
「ですが――」
シルヴァは苦笑する。
「あなたは、まだ余力を残していた」
「……まあ」
マドカは少しだけ困ったように笑う。
「最初は七割くらいだったから」
「やはり……」
シルヴァが眼鏡を押し上げる。
「最後のあれで、少しだけですか」
「うん。ちょっとだけ本気を出したよ」
「…………」
シルヴァはしばらく黙り込む。
それから、突然笑った。
「素晴らしい!」
「え?」
「これほどまでとは!」
シルヴァの目が輝く。
「魔法でも、身体能力でも、剣技でも――まだ僕の知らない領域がある!」
観客席では、シルヴァが完全に研究者の顔になっていることに気づいた者たちがざわめいていた。
『始まったw』
『また研究モード入ってるw』
『シルヴァ、負けても嬉しそうだな』
『エキドナと関わるたびに知識増えていくじゃんw』
フィールドの外では、ムサシも満足そうに頷いていた。
「うむ。マドカも楽しんでおるようで何よりだ」
「本当に楽しそうね」
クリスティーナも笑う。
「相手が強くなるほど、あの子は嬉しそうになるものね」
「次はワシが出よう」
ムサシが言う。
マドカが振り返った。
「ムサシ、お願い!」
「任せておけ」
スタッフが次の対戦表を確認する。
「それでは、次の参加者を――」
マドカが戻ってくる。
「次はムサシだよ!」
そして。
戦闘フィールドへ、ムサシが歩み出た。
第二ゲームは――
まだ終わっていない。
そして。
戦闘フィールドへ、ムサシが歩み出た。
「次はワシが相手をしよう」
最初の対戦相手が現れる。
A級冒険者。
その次は、S級冒険者。
さらに、その次もS級。
どの選手も強欲大陸では名の知れた実力者だった。
しかし――
「始め!」
一合。
キィン!
「参った!」
次の試合。
「開始!」
一閃。
「勝者、ムサシ!」
さらに次。
魔法と剣が飛び交う。
だが、ムサシはすべてを見切り、最小限の動きでかわしていく。
最後には、相手の武器だけを弾き飛ばした。
「……これ以上は無理だ」
「勝者、ムサシ!」
試合は、次々と終わっていった。
観客席からも、最初こそ歓声が上がっていたが――
やがて呆れたような空気へ変わっていく。
『ムサシさん強すぎw』
『マドカより上なの知ってるけどさw』
『S級がどんどん消えていく』
『もうダイジェストでいいだろこれw』
『相手側の人たち頑張れ……』
そして最後。
決勝戦。
対戦相手として現れたのも、強欲大陸でも最高峰と呼ばれるS級冒険者だった。
観客が固唾を呑んで見守る。
「では――開始!」
激突。
――そして。
数十秒後。
「勝者、ムサシ!」
決着。
ムサシは刀を収める。
「うむ。よい勝負であった」
『終わったw』
『結局ムサシだったw』
『誰を出しても勝てないだろこれ』
『戦闘部門だけ難易度おかしいw』
フィールドの外では、シルヴァが呆然と試合を見ていた。
「……マドカさんより、さらに強い……?」
「そうよ」
リゼットが何でもないように答える。
「ムサシは剣だけなら、あの子より上ね」
「…………」
シルヴァは眼鏡を押し上げる。
「なるほど……」
その目がまた輝いた。
「本当に、エキドナには僕の知らない強者がどれだけいるんですか……!」
マドカは楽しそうに笑っている。
「ムサシ、やっぱり強いね!」
「まあ、剣の師匠だからな!マドカにそう言われると悪い気はせぬな」
スタッフが一礼する。
「おめでとうございます。第二ゲーム、完全勝利でございます」
大きな歓声が上がった。
こうして――
第二ゲーム、戦闘部門。
エキドナは圧倒的な力を見せつけ、突破した。




