第一ゲーム
スタッフが舞台の中央へ歩いていく。
すると、舞台の床にいくつもの光が灯った。
円形のフィールド。
その中央には、大きな台座が一つ。
そして、その周囲には小さな台座がいくつも並んでいる。
「第一ゲームは――」
スタッフが一拍置く。
「記憶力を競うゲームでございます」
「記憶力?」
マドカが首を傾げる。
「はい」
スタッフが中央の台座に手を置く。
すると、空中に大量のカードが浮かび上がった。
数字。
記号。
色。
そして、見たことのない魔法文字。
それらが一瞬だけ表示され――
すぐに消える。
「今のを覚えるの?」
「基本的には、その通りです」
スタッフが説明を続ける。
「最初に表示される情報を一定時間だけご覧いただき、その後、同じ情報を正しい順番で再現していただきます」
「順番まで?」
「はい」
「なるほど……」
リゼットが眼鏡を押し上げる。
「単純な記憶力だけじゃなくて、情報を整理する能力も必要なのね」
「おっ!」
マドカがムサシを見る。
「これ、ムサシ得意そう!」
「ふむ」
ムサシは消えたカードの並びを思い返すように目を閉じる。
「先ほどのものなら、かなり覚えておるぞ」
「やっぱり!」
マドカが嬉しそうに笑う。
「私もいけるかも!」
「マドカも得意なのか?」
「えへへ。こういうの、結構覚えられるんだよね」
「では、第一ゲームの参加者は決まりでしょうか?」
スタッフが尋ねる。
マドカとムサシが顔を見合わせる。
「私は出る!」
「ワシも出よう」
「じゃあ、私も見てみたいわ」
リゼットが手を挙げる。
「お姉ちゃんも?」
「ええ。記憶力だけなら、少し興味があるもの」
「三人で挑戦?」
「問題ありません」
スタッフが頷く。
「ただし――」
スタッフが指を一本立てる。
「このゲームでは、ゲームが進むほど記憶する情報量が増えていきます」
「おお……」
「そして、途中からは単純な数字や記号だけではなくなります」
「例えば?」
マドカが尋ねる。
スタッフが微笑む。
「複数の魔法式、音、位置関係、さらには一度しか表示されない映像などもございます」
「映像まで!?」
マドカの目が輝く。
「それ、面白そう!」
「なお、失敗した場合はそこで脱落となります」
「一回でも間違えたら?」
「はい」
「厳しいね」
クリスティーナが舞台を見ながら呟く。
「特別ゲームですから」
スタッフは静かに答える。
「そして、勝ち残った方には――」
舞台中央の台座が光る。
「次のステージへ進む権利と、チップが与えられます」
「なるほど!」
マドカが拳を握る。
「じゃあ、まずは記憶力勝負だね!」
ムサシが笑う。
「面白い。久々に腕ではなく、頭を使う勝負というわけか」
リゼットも小さく笑った。
「では、始めましょうか」
スタッフが一礼する。
「それでは――第一ゲーム、開始いたします」
最初の問題が始まった。
数字や色、記号が次々と表示される。
「簡単だね」
マドカがすぐに答える。
ムサシも迷いなく続き、リゼットも同じように正解していく。
第二段階。
今度は音や複数の情報が加わる。
「これも大丈夫そう」
三人とも問題なく突破する。
第三段階では、短い映像が表示された。
人物の位置。
道具の数。
動いた方向。
「なるほど」
リゼットが静かに回答する。
マドカとムサシもほぼ同時に正解した。
『あっさり進むなw』
『これまだ例題みたいな感じか』
『ムサシの記憶力すごい』
『リゼット余裕すぎるw』
そして第四段階。
今度は立体的な図形と、その内部を移動する光の位置を記憶する問題だった。
「ちょっと難しくなったね」
マドカが考えながら答える。
それでも――
『正解』
『正解』
『正解』
全員が突破した。
会場からも少しずつどよめきが広がっていく。
「初参加でここまで残るとは……」
「例年なら、この辺りで何人か脱落するぞ」
そんな声が聞こえる。
マドカは楽しそうに笑った。
「じゃあ、次が本番かな?」
スタッフも頷く。
「はい」
舞台の雰囲気が変わった。
これまでよりも、明らかに多くの装置が展開される。
「ここから最終段階となります」
「最終!」
マドカが身構える。
「これまでとは難易度が大きく異なります」
スタッフが説明する。
「表示される情報は一種類ではありません」
空中に数字が並ぶ。
その上に魔法文字。
さらに色。
立体。
光。
そして――音。
「これらを同時に記憶していただきます」
「同時に……」
「さらに、最終段階では、それぞれの情報が別々の順番で変化します」
マドカの表情が変わった。
「……え」
「最後に、それらをすべて正しい順番と組み合わせで再現していただきます」
ムサシが静かに立ち上がる。
「これは……」
「今までのものとは別物ね」
リゼットも舞台を見つめる。
会場が静まり返る。
そして、カウントが始まった。
「十秒後、開始いたします」
マドカが深く息を吸う。
「よし……」
「九」
「八」
「七」
「六」
三人の視線が一斉に舞台へ集中する。
「五」
「四」
「三」
「二」
「一――開始!」
一瞬で、膨大な情報が舞台いっぱいに展開された。
数字が高速で切り替わる。
魔法文字が重なる。
色が変化する。
立体が回転する。
光が複雑な軌道を描く。
それと同時に、異なる高さの音が次々と響く。
「…………」
マドカは瞬きさえせずに見つめる。
ムサシも一切目を逸らさない。
リゼットは表示された情報を頭の中で整理し続ける。
さらに情報が追加される。
今度は、それまで表示されていたものの一部が消え、別の場所に移動する。
同じ数字でも位置が変わる。
同じ色でも組み合わせが変わる。
光の軌道も途中で分岐する。
「残り五秒です!」
最後の瞬間――
すべての情報が一斉に消えた。
「終了です」
会場が静まり返る。
「それでは、回答を開始してください」
三人の前に回答装置が現れる。
最初に動いたのはリゼットだった。
「数字は……これ」
迷いなく入力する。
色。
魔法文字。
立体の向き。
音の順番。
そして、最後に光の軌道。
『正解』
「さすが!」
マドカが声を上げる。
続いてムサシ。
「数字は三、七、二……色は赤、青、金」
一つずつ確認しながら入力していく。
「光は最初に右、その後に上……最後は左だ」
『正解』
「ふむ」
そして、マドカの番。
数字。
色。
魔法文字。
立体。
音。
最後に光。
「…………」
ここで初めて、マドカの手が止まった。
「……あれ?」
EVのコメント欄が一気に流れ始める。
『お?』
『ここ難しいか』
『マドカ頑張れ!』
マドカは目を閉じる。
そして――
「最初は赤」
入力。
「次が青」
入力。
「数字は……三、七、二」
続けていく。
「音は高、低、高、高、低」
最後に光の軌道。
「ここ!」
入力。
長い沈黙。
そして――
『正解』
「やったー!」
マドカが両手を上げた。
会場から一気に歓声が上がる。
「全員、正解です!」
スタッフも驚きを隠せない。
『全員クリアwww』
『初見で全部通したぞ!』
『第一ゲームから強すぎるだろw』
『最終だけちゃんと難しかったな』
『マドカ危なかったけどすげえ!』
マドカは嬉しそうに笑っている。
「面白かったー!」
「なかなか良い勝負であった」
ムサシも満足そうに頷く。
リゼットはいつものように落ち着いたままだった。
「思ったより楽しめたわね」
スタッフが三人の前に歩み寄る。
「おめでとうございます。第一ゲーム、完全クリアです」
「完全?」
「はい。全段階を突破されたため、通常のクリア報酬に加えて、特別報酬も加算されます」
「おお!」
マドカの目が輝く。
「じゃあ――次のゲームも頑張ろう!」
スタッフが一礼する。
「それでは、次のゲームへご案内いたします」
マドカたちは新たな扉へ向かって歩き始めた。
第一ゲームは――
エキドナの三人が、見事に突破した。




