記憶力
大きな扉を抜けたエキドナ一行を待っていたのは、広々とした円形の空間だった。
通常のカジノとはまるで違う。
中央には巨大な舞台があり、その周囲には観客席が段状に並んでいる。
さらに舞台の奥には、いくつもの扉が並んでいた。
「すごーい……!」
マドカが辺りを見回す。
「普通のカジノとは全然違うね!」
「こちらが特別ゲーム専用の会場となります」
女性スタッフが説明する。
「これより、お客様方には複数のゲームに挑戦していただきます」
「複数?」
「はい」
スタッフは中央の舞台を指差した。
「ゲームごとに内容は異なります。頭脳を競うもの、魔法を競うもの、技術を競うもの、身体能力を競うもの……そして最後には、総合的な能力を競うゲームもございます」
「へぇー!」
マドカの目がさらに輝く。
「いろんなゲームがあるんだ!」
「はい。どのゲームに誰が参加するかは、お客様方でお決めいただけます」
「さっき言ってたやつだね!」
「その通りです」
スタッフが頷く。
「そして、各ゲームにはそれぞれ勝利条件がございます。単純に相手より強ければ勝てる、というものではございません」
「なるほど……」
リゼットが興味深そうに舞台を見る。
「ゲームそのもののルールを理解する必要があるのね」
「はい」
「それなら面白そうだな」
ムサシが腕を組む。
「力比べだけではないということか」
「その通りでございます」
スタッフは続ける。
「また、こちらの特別ゲームでは、通常のカジノとは比較にならないほど大きな報酬をご用意しております」
「おおっ!」
マドカが身を乗り出す。
「どのくらい?」
スタッフは少しだけ微笑んだ。
「ゲームを勝ち進むほど、獲得できるチップも大きくなっていきます」
「じゃあ、最後まで勝ったら……」
「かなりの額になります」
「かなりってどのくらい?」
マドカが聞き返す。
「それは、実際にゲームをご覧になっていただいたほうがよろしいかと」
「むー」
マドカが頬を膨らませる。
「秘密なんだ」
「特別ゲームですので」
スタッフは笑顔を崩さない。
「ただし、一つだけ申し上げますと――」
そこでスタッフは、舞台の奥にある大きな扉を見る。
「ここから先は、通常のカジノとは別世界だと思っていただいたほうがよろしいでしょう」
「……!」
その言葉に、エキドナの面々が顔を見合わせる。
マドカは逆に、嬉しそうな顔になった。
「なんか、楽しそう!」
「マドカちゃんは本当にこういうの好きよね」
クリスティーナが苦笑する。
「だって、せっかく来たんだもん!」
マドカは笑いながら、舞台の中央へと視線を向けた。
「じゃあ――最初のゲームは何?」
スタッフが一礼する。
「それでは、第一ゲームのご説明をいたします」
スタッフが舞台の中央へ歩いていく。
すると、舞台の床にいくつもの光が灯った。
円形のフィールド。
その中央には、大きな台座が一つ。
そして、その周囲には小さな台座がいくつも並んでいる。
「第一ゲームは――」
スタッフが一拍置く。
「記憶力を競うゲームでございます」
「記憶力?」
マドカが首を傾げる。
「はい」
スタッフが中央の台座に手を置く。
すると、空中に大量のカードが浮かび上がった。
数字。
記号。
色。
そして、見たことのない魔法文字。
それらが一瞬だけ表示され――
すぐに消える。
「今のを覚えるの?」
「基本的には、その通りです」
スタッフが説明を続ける。
「最初に表示される情報を一定時間だけご覧いただき、その後、同じ情報を正しい順番で再現していただきます」
「順番まで?」
「はい」
「なるほど……」
リゼットが眼鏡を押し上げる。
「単純な記憶力だけじゃなくて、情報を整理する能力も必要なのね」
「おっ!」
マドカがムサシを見る。
「これ、ムサシ得意そう!」
「ふむ」
ムサシは消えたカードの並びを思い返すように目を閉じる。
「先ほどのものなら、かなり覚えておるぞ」
「やっぱり!」
マドカが嬉しそうに笑う。
「私もいけるかも!」
「マドカも得意なのか?」
「えへへ。こういうの、結構覚えられるんだよね」
「では、第一ゲームの参加者は決まりでしょうか?」
スタッフが尋ねる。
マドカとムサシが顔を見合わせる。
「私は出る!」
「ワシも出よう」
「じゃあ、私も見てみたいわ」
リゼットが手を挙げる。
「お姉ちゃんも?」
「ええ。記憶力だけなら、少し興味があるもの」
「三人で挑戦?」
「問題ありません」
スタッフが頷く。
「ただし――」
スタッフが指を一本立てる。
「このゲームでは、ゲームが進むほど記憶する情報量が増えていきます」
「おお……」
「そして、途中からは単純な数字や記号だけではなくなります」
「例えば?」
マドカが尋ねる。
スタッフが微笑む。
「複数の魔法式、音、位置関係、さらには一度しか表示されない映像などもございます」
「映像まで!?」
マドカの目が輝く。
「それ、面白そう!」
「なお、失敗した場合はそこで脱落となります」
「一回でも間違えたら?」
「はい」
「厳しいね」
クリスティーナが舞台を見ながら呟く。
「特別ゲームですから」
スタッフは静かに答える。
「そして、勝ち残った方には――」
舞台中央の台座が光る。
「次のステージへ進む権利と、チップが与えられます」
「なるほど!」
マドカが拳を握る。
「じゃあ、まずは記憶力勝負だね!」
ムサシが笑う。
「面白い。久々に腕ではなく、頭を使う勝負というわけか」
リゼットも小さく笑った。
「では、始めましょうか」
スタッフが一礼する。
「それでは――第一ゲーム、開始いたします」
舞台の上に、再び大量の情報が浮かび上がった。




