特別ゲームの誘い
神の遺産が並ぶ展示区画を後にして、エキドナ一行はようやく通常のカジノフロアへ戻ってきた。
そこには、先ほどまで見ていた特別景品とはまるで違う、賑やかな空気が広がっていた。
カードゲーム。
ルーレット。
サイコロ。
魔法を使った特殊なゲーム。
あちこちから歓声や悔しそうな声が聞こえてくる。
「おおー!」
マドカが目を輝かせた。
「やっぱりカジノって、こういうところだよね!」
「景品を見てる時間の方が長かったけどね~」
ニコラが笑う。
「それは言わないでよ!」
マドカが笑いながら、最初のテーブルへ向かう。
「じゃあ、何からやろう?」
「ルーレットはどうだ?」
ジャスティスが言う。
「分かりやすいだろ」
「いいね!」
マドカも頷いた。
テーブルには赤と黒、数字、いくつもの賭け場所が並んでいる。
ディーラーが簡単にルールを説明した。
「最初は少額からお願いいたします」
「じゃあ……十チップ!」
マドカがチップを置く。
「赤!」
玉が回る。
カラカラカラ……。
そして――。
「黒です」
「うわー!」
マドカが頭を抱えた。
「いきなり外れた!」
「まだ一回目だろ」
ジャスティスが笑う。
「じゃあ俺は赤!」
そして外れる。
「…………」
「…………」
二人が顔を見合わせる。
「なんで!?」
「俺に聞くなよ!」
コメント欄が早くも盛り上がる。
『マドカとジャスティス、開始数分で負けてて草』
『その二人に賭けさせるなw』
『まだ10チップだからセーフ』
その横では、ナナリーも参加していた。
「私は……黒かな」
「じゃあ私は赤にしようかな」
アリシアもチップを置く。
結果は――。
ナナリーが勝ち。
「やった!」
「私、負けたわね」
アリシアが笑う。
「ナナリーちゃん、こういうの強い?」
「いや、たまたまだよ」
ナナリーは苦笑する。
「次はどうかな」
その隣では、ムサシがじっと盤面を見ていた。
「…………」
「ムサシ?」
「いや」
ムサシは少し考えてから、チップを置いた。
「こちらだ」
結果――。
また当たった。
「え!?」
マドカが振り返る。
「ムサシ、なんで!?」
「分からぬ」
「分からないで当ててるの!?」
ムサシは少し困ったように笑った。
「勝負事には、流れというものがある」
『ムサシ勝負勘強すぎw』
『剣聖、カジノでも強いのか』
『本人が理屈を説明できないタイプw』
さらに何度かゲームを続ける。
勝つ者もいれば、負ける者もいる。
そして――。
「……あれ?」
マドカが自分のチップを見る。
「減ってる」
「今気づいたの?」
ナナリーが笑う。
「だって一回一回はそんなに減ってないと思ってたんだけど……」
マドカの手元には、最初より明らかに少ないチップしか残っていない。
「カジノって、こういうものだからね」
クリスティーナが上品に笑う。
「少額でも続けていれば、いつの間にかなくなってしまうものよ」
「なるほど……」
マドカがチップを見る。
「じゃあ、いっぱい勝たないとダメなんだ」
「そういうことね」
今度は別のゲームへ移動する。
そこではカードを使ったゲームが行われていた。
「これは?」
マドカが尋ねる。
「カードの組み合わせを競うゲームです」
店員が説明する。
「なるほど!」
マドカが席につく。
「じゃあやってみよう!」
数回プレイする。
マドカは最初こそ負けたものの、カードを見ているうちに少しずつ覚え始めた。
「……あれ?」
マドカがカードを見る。
「これ、さっき出たカードと同じ……」
次のゲーム。
また勝つ。
さらに次。
また勝つ。
「おお!」
マドカのチップが少しずつ増えていく。
「マドカちゃん、記憶力いいね」
ナナリーが感心する。
「こういうのなら、私ちょっと得意かも!」
その隣ではムサシも同じようにカードを見ていた。
「…………」
「ムサシも?」
「一度見たものなら、覚えておる」
「やっぱり!」
マドカが笑う。
「私たち、こういうゲーム向いてるかも!」
「そうかもしれぬな」
しかし――。
カジノは一つのゲームだけで成り立っているわけではない。
別のテーブルでは、運の要素が強いゲーム。
その隣では、読み合いが重要なゲーム。
さらに奥には、魔法を使ったゲームまである。
そして、エキドナの中には――。
「…………」
エジソンがチップを見つめていた。
「減った」
「減ったね」
グレタが淡々と答える。
「なんで?」
「賭けたからでしょう」
「そうなんだけど!」
エジソンが悔しそうにする。
ニコラも隣で、
「私も減った~」
と呑気に呟いていた。
「ニコちゃん、さっきから負けてない?」
マドカが聞く。
「うん~」
「いいの?」
「楽しいからいい~」
「それはカジノ側が一番喜ぶやつだよ!」
コメント欄も笑っている。
『ニコラ自由すぎるw』
『楽しいからいいは強い』
『エキドナ、普通にカジノ楽しんでるな』
『ところで100万チップっていつ達成するんだ?』
そのコメントを見て、マドカがふと手元のチップを見る。
「……そういえば」
「どうしたの?」
ナナリーが尋ねる。
「最初に聞いたよね」
マドカがチップを数える。
「100万チップ集めたらいいんだよね?」
「そうね」
クリスティーナが頷く。
「今どのくらい?」
「えーっと……」
マドカが数える。
「…………」
「どう?」
「……三千ちょっと」
「三千!?」
マドカが固まった。
「まだ全然じゃん!」
『そりゃそうだろw』
『一日上限1万チップしか買えないんだから』
『普通に遊んで100万は遠いぞw』
リゼットは少し離れたテーブルで、別のゲームを眺めていた。
カードの配置。
相手の表情。
場に出たカード。
それらを一度確認すると――。
「なるほど」
リゼットが席につく。
「これなら簡単ね」
そしてゲームが始まった。
数分後。
「勝った」
さらに次。
「勝ちね」
さらに次。
「また勝ったわ」
チップが増えていく。
「…………」
マドカが無言になる。
「お姉ちゃん、強すぎない?」
「そう?」
「ゲーム始まってからずっと勝ってるよ?」
「相手の手札と確率を考えれば、それほど難しくないわ」
「それ、普通の人には難しいんだよ!」
リゼットは少し考えた。
「そうなの?」
「そうなの!」
コメント欄も大騒ぎだった。
『リゼットさんカジノ攻略始めたw』
『計算でギャンブルするなw』
『カジノ泣いてるぞ』
『100万チップ、リゼットなら普通にいけるんじゃね?』
しかし――。
カジノには、それだけでは終わらない。
リゼットが勝ち続けている横で、別のゲームに挑戦していた者たちは、相変わらず勝ったり負けたりを繰り返していた。
そして気づけば――。
「……疲れた」
マドカが椅子に座った。
「まだそんなに増えてない」
「カジノって思ったより大変だね」
ナナリーも頷く。
「勝ったと思ったら、次で負けるし」
ジャスティスはというと――。
「…………」
手元のチップを見ていた。
「俺、最初より減ってる」
「知ってる」
ヒナタが笑う。
「なんでだよ!」
「いっぱい賭けてたからでしょ」
「次は勝てると思ったんだよ!」
その頃、リゼットだけは着実にチップを増やしていた。
だが――。
「……ふむ」
リゼットが手を止める。
「どうしたの?」
マドカが聞く。
「このまま続けても、時間がかかるわね」
「え?」
「確実に増えるけれど、100万という数字はそれなりに大きいわ」
リゼットが手元のチップを見る。
「お金で解決できないのは面倒ね」
「そうなんだよ!」
マドカが頷く。
「最初はチップ買えばいいじゃんって思ったのに!」
「一日の購入上限があるからね」
「うん……」
マドカはカジノフロアを見渡した。
たくさんのゲーム。
たくさんの客。
そして――。
自分たちが目指している、100万チップ。
「……なんか、大きな勝負ってないのかなー?」
マドカが呟いた。
その瞬間。
「失礼します」
背後から声がした。
振り返る。
そこには、先ほど景品展示を案内していたのとは別の、カジノの女性スタッフが立っていた。
彼女は丁寧に一礼すると――。
「特別なゲームに参加なさいませんか?」
そう告げた。
「参加メンバーは選べるの?」
マドカが尋ねる。
「はい」
女性スタッフは笑顔で頷いた。
「こちらの特別ゲームは、いくつかの異なるゲームをご用意しております。そのため――」
彼女はエキドナの一行を見渡した。
「お客様方は、それぞれのゲームに応じて、得意分野の選手をお選びいただいて構いません」
「へぇー!」
マドカの顔がぱっと明るくなる。
「じゃぁ、みんなも参加できそうだね!」
「そういうことになります」
「おお!」
「なら、ワシは剣のやつだな!」
すぐさま反応したのはムサシだった。
「私は魔法系がいいです!」
メアリーも楽しそうに笑う。
「私は……頭を使うゲームならいいわ」
リゼットが眼鏡を押し上げる。
「私は変な機械があるなら参加する~」
「ゲームの種類によっては、私も興味がありますわ」
ニコラもゆったり手を挙げた。
次々と参加表明が飛び出していく。
スタッフはその様子を見ながら、少しだけ目を細めた。
「もちろん、同じ方が複数のゲームに参加していただいても構いません。逆に、一度も参加せず、仲間の方を応援するだけでも問題ございません」
「なるほど」
クリスティーナが納得したように頷く。
「つまり、全員で挑戦してもいいし、それぞれの得意分野に合わせて選抜してもいい、と」
「はい」
「面白そうじゃん!」
マドカが嬉しそうに拳を握る。
「じゃあ、みんなで相談しながらやろうよ!」
その言葉に、エキドナの面々が顔を見合わせる。
普段なら、誰が何を担当するか決めるだけでも一苦労するところだ。
しかし――
今回は少し違った。
「剣ならムサシか私でいいね!」
「魔法ならメアリーかお姉ちゃん」
「機械ならニコラとエジソン君」
「運なら……」
「そこは私に任せて!」
アリシアが勢いよく手を挙げた。
「お前、さっきから結構負けてただろ」
「言わないで!」
笑い声が起こる。
EVの向こう側でも、コメントが一気に流れ始めた。
『これ全員参加できるのか!』
『得意分野で選手を変えられるのいいな』
『エキドナならゲームごとに担当変えそう』
『ムサシは剣担当確定で草』
『リゼットとメアリーの魔法対決見たい』
『ニコラちゃんが機械系担当なのも納得』
『マドカは何担当なんだ?』
そのコメントを見たマドカが、胸を張る。
「私はもちろん――」
一瞬、考える。
「……全部!」
「欲張りね」
クリスティーナがくすりと笑った。
「だって楽しそうなんだもん!」
スタッフも微笑む。
「それでは、詳しいルールをご説明いたします」
そう言って彼女が手を向けると、通常のカジノテーブルとは少し離れた場所にある大きな扉が、ゆっくりと開いていった。
その先には――
今までのカジノとはまるで違う、巨大な空間が広がっていた。
「こちらが、特別ゲーム会場でございます」
マドカの目が輝く。
「うわぁ……!」
エキドナ全員が、自然とその先へ視線を向けた。




