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落内円は落ちている  作者: 七風


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カジノ景品2

 景品展示の奥へ進むにつれて、並んでいる品の雰囲気が少しずつ変わっていった。


「……あ」


 ニコラが足を止めた。


 そこに置かれていたのは、大きな金属製の箱だった。


「古代文明製、魔力蓄電装置。高純度魔力を内部に保存し、必要に応じて放出する魔導機器……だって」


「それ、すごいの?」


 マドカが覗き込む。


「すごい」


 即答だった。


「どれくらい?」


「飛空艇を作るなら、かなり欲しい」


「おおー」


 マドカが感心する横で、グレタも装置をじっと見る。


「これ、保存量は?」


「記録では大型魔石数十個分に相当すると」


「……欲しい」


 グレタまで食いついた。


 コメント欄が一気に盛り上がる。


『ニコラが食いついた』

『技術班案件だ』

『グレタまで欲しがってる』

『これは本当に当たり景品っぽい』

『値段は?』


 店員が答える。


「こちらは三百万チップです」


「三百万!」


 マドカが目を丸くした。


「高いけど……」


「安い」


 ニコラが即答した。


「え?」


「三百万なら安い」


「ニコラ基準が分からないよ!」


 そのまま進むと、今度は円筒状の装置が展示されていた。


「こちらは古代文明製、高性能魔導モーターです」


「…………」


 ニコラが無言になる。


「……欲しい」


「早い!」


「これがあれば大型魔道具の機構を一から作らなくていい」


 エジソンも眼鏡を押し上げる。


「動力機構として非常に興味深いですね」


「お前までか!」


 マドカが笑う。


 価格は五百万チップ。


 さらにその隣には、巨大な炉のような装置。


「自動制御型魔導炉。一定量の魔力を安定供給する古代装置です」


「…………」


 ニコラの目が輝いた。


「これも欲しい」


「ニコラ、今日何個欲しいの?」


「分からない」


「分からないんだ……」


 コメント欄も騒がしい。


『技術班が完全に宝探ししてる』

『カジノの景品とは思えない』

『ゲームまだ始まってないのにw』

『ニコラが一番楽しそう』


 そして――。


「次はこちらです」


 店員が案内した場所に、今度は小さな木箱が置かれていた。


「……?」


 マドカが首を傾げる。


「ずいぶん小さくなったね」


「こちらは東方の古い装飾品です」


 箱の中から出されたのは、黒地に金色の細かな装飾が施された、五段ほどに分かれた小さな道具だった。


 紐を通すための金具も付いている。


「……」


 マドカが固まった。


 ナナリーも固まった。


 ヒナタも固まった。


 ジャスティスが眼鏡を押し上げる。


 そして四人だけのテレパシーが飛び交った。


(…………)


(…………ねえ)


(うん)


(あれって……)


(印籠だよね?)


(どう見ても印籠)


(なんで!?)


(知らないよ!)


 マドカが必死に表情を取り繕う。


「え、えーっと……」


 店員が説明する。


「東方の古い貴族が使用していた薬入れと伝わっております。由来については諸説ありますが、非常に精巧な作りでして」


「そ、そうなんだー……」


 マドカは笑顔を作った。


 そして値札を見る。


「…………」


「どうしました、マドカ?」


 クリスティーナが尋ねる。


「いや……」


 マドカが値札を二度見する。


「……五百万チップ?」


 今度は声に出てしまった。


「高いわね」


 クリスティーナが普通に感想を述べる。


「いや、そうじゃなくて!」


 マドカが小声になる。


「なんであれが五百万なの!?」


 ナナリーがすかさずテレパシーを飛ばす。


(声! 声に出てる!)


(だって印籠だよ!?)


(だから何で知ってるの!?)


(いやそれは……)


(説明できないでしょ!)


 ヒナタまで参加する。


(というか、なんでこの世界にあるのよ……)


(分からない……)


(しかも五百万って何……)


 ジャスティスが冷静に突っ込む。


(でも、あれが本物なら歴史的価値は相当だろ)


(本物って何の!?)


(徳川家の……)


 そこまで考えたところで――。


「……む?」


 ムサシが足を止めた。


 展示品をじっと見る。


「どうしたの?」


 マドカが尋ねる。


「……あれは……」


 ムサシが目を細めた。


「徳川の……」


(言ったぁぁぁぁ!?)


 地球組全員が心の中で叫んだ。


 ムサシはしばらく眺めた後、


「……紋が似ておるな」


 と呟いた。


「徳川?」


 マドカが聞き返す。


「うむ。儂が知る徳川の家紋によく似ておる」


 コメント欄が一気に流れる。


『徳川!?』

『ムサシが徳川って言ったぞ』

『東方の貴族なのか?』

『なんかまた歴史的な品が出てきた』

『マドカめっちゃ反応してなかった?』

『ナナリーも固まってたぞw』


 マドカは必死に平静を装った。


「へ、へえー……。徳川って有名なの?」


「……有名であったな」


 ムサシは少し考える。


「少なくとも、儂の知る限りではな」


 それ以上は語らなかった。


 マドカは印籠を見る。


 ナナリーも見る。


 ヒナタも見る。


 そして三人の脳裏に、同じものが浮かんでいた。


(……水戸黄門……)


(言うなよ?)


(言わない)


(絶対言うなよ?)


(分かってるって!)


 ところが――。


「……これ、欲しい」


 マドカが呟いた。


「え?」


 ニコラが振り返る。


「技術的価値は?」


「ない!」


「即答なんだ……」


 マドカは印籠を見つめる。


「でも……なんか欲しい」


 ナナリーも小さく頷く。


「……私も」


 ヒナタも、


「……まあ、これは持って帰ってもいいんじゃない?」


 ジャスティスまで、


「歴史資料として興味はある」


 と続いた。


 すると店員が意外そうな顔をした。


「こちらに興味を持たれるとは……」


「だって五百万だよ!?」


 マドカが言う。


「……そんなに価値があるものなの?」


「はい。東方の歴史を知る者からすれば、非常に価値のある品だと思われます」


「…………」


 マドカたちは顔を見合わせる。


 地球組だけが、別の意味で納得していなかった。


 ――どうして。


 ――どうして異世界のカジノに。


 ――よりによって、こんなものが。


 そして、さらに先。


「では次はこちらを」


 店員が別の展示台を指した。


 そこには、今度は武扇のようなものが置かれていた。


「東方の武将が使用したと伝わる軍扇です」


 ムサシが見る。


「……ほう」


 マドカたちは一斉に嫌な予感がした。


「ムサシ?」


「いや……」


 ムサシは軍扇を眺めながら、


「これも、どこか懐かしいな」


 と呟いた。


 マドカが天井を見上げる。


「……このカジノ、絶対おかしいよ」


 コメント欄が爆発する。


『また歴史物w』

『ムサシの知ってる物が多すぎる』

『この景品棚どうなってんだよ』

『カジノじゃなくて博物館では?』

『でも技術班は普通に機械欲しがってるw』

『エキドナ、景品見るだけで忙しすぎるだろ』


 そしてニコラだけは、そんなコメントを気にする様子もなく、先ほどの魔力蓄電装置を振り返っていた。


「……あれ、やっぱり欲しい」


「まだ言ってる」


「うん」


 ニコラは真顔だった。


「かなり欲しい」


 マドカは笑いながら、再び景品の奥へ視線を向けた。


「……よし」


「何?」


「ここまで来たんだし、もっと見よう!」


 技術班が欲しがる機械。


 地球組が頭を抱える歴史物。


 そして、ムサシが妙に反応する東方の品々。


 景品展示は、まだ終わりそうになかった。


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