カジノ景品
カジノの特別ゲームに参加することになったエキドナ一行。
だが、ゲーム会場へ向かう途中。
「……景品、見ていいんだよね?」
マドカが尋ねた。
「もちろんです」
案内役の店員が頷く。
「特別ゲームの景品は、通常のカジノとは比較にならないほど多くございます。ゲーム開始前に確認されるお客様も多いですよ」
「じゃあ見よう!」
マドカは即答した。
こうして一行は、特別ゲームの景品展示場へ入っていった。
最初に案内されたのは、比較的安価な景品が並ぶコーナーだった。
「おおー……」
小さなぬいぐるみ。
アクセサリー。
魔道具の小物。
そして――。
「……猫耳?」
「狐耳もあるぞ」
ジャスティスが棚を見る。
「犬耳まであるじゃん」
「景品の方向性がよく分からないね」
ナナリーが苦笑する。
コメント欄もさっそく反応した。
『なんでカジノに耳があるんだw』
『普通に欲しい』
『狐耳があるのじゃ……』
そのコメントを見たマドカが少しだけ首を傾げた。
「狐耳、人気なのかな?」
「そういうことじゃない?」
ナナリーが答える。
表向きはそれだけ。
しかし、四人の頭の中では――。
(……狐耳があるんだけど)
マドカ。
(あるね)
ナナリー。
(あるな)
ジャスティス。
(……なんだろうね)
ヒナタ。
念話リングのおかげで、誰にも聞こえない会話が続いていた。
そのまま棚を眺めていると、マドカが小さなストラップを見つけた。
「……ん?」
手に取る。
そこには文字が書かれていた。
**『にゃにゃこちゃん』**
「…………」
マドカが固まった。
ナナリーも固まる。
ジャスティスも目を見開いた。
「マドカ?」
ヒナタが不思議そうに声をかける。
「どうしたの?」
「……なんでもない」
マドカはそう答えたが、念話は大混乱だった。
(これ……)
(うん)
(私の前世の……)
ナナリーが続ける。
(にゃにゃこちゃん)
(なんでここにあるの!?)
ジャスティスも驚いている。
(いや、待て待て。地球のものなのか?)
(分からない)
(そもそも誰が作ったんだ?)
ヒナタだけは、そこまで詳しく知らない。
(これ、にゃにゃこちゃん?)
(そう。私の前世)
ナナリーが答える。
(ああ、あのVTuberか)
ヒナタは納得したようだった。
「これ、にゃにゃこちゃん?」
ヒナタが普通に口にする。
その瞬間、マドカが慌てて説明した。
「う、うん。そうみたい」
「有名だったんだよね?」
「……まあ」
ナナリーは複雑そうな顔をする。
コメント欄もざわついた。
『にゃにゃこちゃんって何?』
『マドカ固まってなかった?』
『ナナリーも妙に反応してない?』
『有名な人なの?』
『このカジノ、景品の種類おかしくない?』
マドカはストラップを見つめる。
だが、それ以上のことは分からない。
なぜここにあるのか。
誰が作ったのか。
この世界で「にゃにゃこちゃん」がどういう存在なのか。
何も分からない。
「……まあ、先に進もうか」
マドカはストラップを棚に戻した。
そのまま一行は高級景品の展示場へ移動する。
そこから先は、空気が一気に変わった。
「……すご」
巨大な魔晶石。
希少な魔獣素材。
特殊な金属。
古代魔道具。
高級な武器や防具。
「今回は、飛空艇に使う素材がここにあるって聞いて来たんだけど……」
マドカがカメラに向かって説明する。
「いっぱいあるから困っちゃうねー」
「困る必要はないでしょう」
リゼットが言う。
「欲しいものを取ればいいのだから」
「それもそうか」
マドカは笑った。
展示場を進む。
最初に目に入ったのは、巨大な金属の塊だった。
「これ、何?」
「特殊合金です」
店員が説明する。
「極めて高い魔力伝導性を持つ素材でして。大型魔道具や飛空艇の骨格などにも使用されます」
「飛空艇に使える!」
マドカが即座に反応した。
『目的の物あったじゃん』
『いきなり本命』
『これだけでも来た価値ありそう』
その隣には、別のケースがあった。
「これは?」
「古代竜の鱗です」
グレタが足を止める。
「…………」
「グレタ?」
「欲しい」
即答だった。
『早いw』
『グレタさん分かりやすい』
『武器防具素材には弱いw』
さらに進む。
今度は小さな箱。
「これは?」
「詳細不明の古代魔道具です」
ニコラが近づく。
「……詳細不明?」
「現在の技術では構造を解析できておりません」
ニコラの目が輝いた。
「欲しい」
「やっぱり!」
マドカが笑う。
『用途不明=欲しい』
『ニコラさん研究者モード入ってる』
『むしろ用途が分かってたら興味なくなる説』
その頃、四人は念話を続けていた。
(欲しいもの、どれくらいある?)
マドカが尋ねる。
(私は古代竜の鱗)
ナナリー。
(私はあの古代魔道具)
ニコラ。
(私はいっぱい!)
マドカ。
(いっぱいって何だよ)
ジャスティスが呆れる。
(だって面白そうなのいっぱいあるんだもん)
(まあ、マドカはそうだよな)
そんな会話をしながら、展示場のさらに奥へ。
そこには、古びた武具が並んでいた。
「……これは?」
マドカが立ち止まる。
一つの剣。
一本の杖。
鎧。
そして、いくつもの特殊な装備。
その中には、奇妙な説明板が付いたものもあった。
**『勇者タナカの聖剣』**
「勇者タナカ?」
マドカが首を傾げる。
その隣。
**『拳王ヨシダの籠手』**
「拳王?」
さらに、
**『魔聖サイトウの杖』**
「魔聖……」
そして最後に、
**『聖者タカハシの聖具』**
「……」
マドカが黙った。
コメント欄もざわつく。
『勇者タナカw』
『拳王ヨシダ!?』
『魔聖サイトウって何だよ』
『聖者タカハシか』
地球組の念話が静かに飛び交う。
(……タナカ)
マドカ。
(ヨシダ)
ナナリー。
(サイトウ)
ジャスティス。
(タカハシ)
ヒナタ。
四人とも、しばらく黙る。
(……偶然だよね?)
ナナリーが言う。
(分からない)
(この世界、こういう名前の人も普通にいるんじゃない?)
(でも勇者タナカって……)
ジャスティスが言いかけて、やめた。
「まあ、いろんな勇者がいるんだね」
マドカは何食わぬ顔でコメントに答えた。
そのまま進む。
そして――。
一際大きな鎧が展示されていた。
「……あれ?」
マドカが説明板を見る。
**『第六天魔王の鎧――真贋不明』**
「第六天魔王?」
ムサシが足を止めた。
鎧をじっと見る。
「……」
ナツメも説明板を読む。
「まさか……」
ムサシはしばらく黙っていたが、やがて首を横に振った。
「真贋は分からぬな」
コメント欄が一気に流れる。
『第六天魔王!?』
『名前からしてヤバい』
『ムサシさんめっちゃ反応してる』
『本物なのか?』
マドカは鎧を見る。
そして念話。
(……これ信長じゃね?)
ジャスティスだった。
(私もそう思った)
ナナリー。
(また別の世界から転移してきてんの!?)
(いや、そんな偶然ある?)
(でも、ここまで地球っぽいものが出てくると……)
四人はしばらく沈黙した。
もちろん、口には出さない。
「本物かどうかは分からないみたい」
マドカが視聴者に説明する。
「でも、もし本物だったらすごいよね」
ムサシは何も答えず、鎧を見つめていた。
そして、その先。
一本の剣が展示されていた。
マドカが目を見開く。
「……あ」
そして、
「エクスカリバー!」
コメント欄が爆発した。
『エクスカリバー!?』
『なんであるんだよw』
『景品だぞこれ!?』
『カジノの景品じゃねえw』
豪華な装飾を施された聖剣。
マドカはケース越しにじっと見る。
「これ、欲しい……」
その時だった。
ムサシが剣を見つめながら、ぽつりと言った。
「……戦友の剣に似ておるな」
マドカの表情が止まる。
念話が飛んだ。
(……ムサシの戦友って、アーサーじゃなかった?)
ジャスティス。
(確かそう聞いてる)
ナナリー。
(じゃぁ本物か!?)
(いや、まだ分からないでしょ)
マドカが返す。
(でもさ)
ジャスティスが続ける。
(アーサー王が異世界転移してる可能性もあるから、買っておいた方がいいんじゃ)
(……それはある)
(もし本物だったら?)
(絶対持って帰った方がいい)
(偽物だったら?)
(その時はその時)
(判断が雑!)
ナナリーが突っ込む。
そして三人が同時に、
(……欲しい)
と思った。
表では、何事もなかったようにエクスカリバーを眺めている。
ムサシが剣から視線を外さずに呟いた。
「よく似ておる」
マドカは少しだけ気になって尋ねる。
「ねえ、ムサシ。その戦友ってどんな人だったの?」
ムサシは少し考えた。
「……強い男だった」
それだけだった。
『戦友って誰だ?』
『ムサシさんの過去、謎多すぎる』
『エクスカリバーに似た剣を持ってたってこと?』
『これ本物だったらヤバいだろ』
マドカはコメントを眺め、それからもう一度ケースを見る。
「……やっぱり、これ欲しいなぁ」
念話が返ってくる。
(私も)
(俺も)
その三人の意見だけは、完全に一致していた。
しかし、展示場はまだ終わらない。
「……ねえ」
マドカが奥を見ながら言う。
「まだあるんだけど」
「そうですね」
店員が笑顔で答える。
「ここから先は、さらに希少な景品が並んでおります」
「……まだあるの!?」
マドカが目を輝かせる。
『まだあるのかよw』
『景品見てるだけで時間溶けてるぞ』
『ゲーム本番いつ始まるんだw』
『もう景品だけで十分楽しめる』
マドカは笑った。
「まあ、せっかく来たんだから、もうちょっと見ようよ!」
こうして一行は、まだゲームを一度も始めていないまま、さらに景品展示場の奥へと進んでいった。




