念話の指輪
カジノへ向かう予定が決まった、その少し前。
マドカはリゼットに呼び出され、ヒナタ、ナナリー、そしてジャスティスとともに部屋へ集められていた。
「お姉ちゃん、なんか用?」
「俺まで呼ばれるとは珍しいな」
ジャスティスが腕を組みながら首を傾げる。
リゼットは四人を順番に見た。
「あなたが原因ね、勇者(仮)」
「(仮)はやめろ!」
即座に反応するジャスティス。
「それで、俺のせいってなんだ?」
「知っての通り、この四人は地球の関係者でしょう?」
「まあ……そうだな」
マドカ、ナナリー、ヒナタ、ジャスティス。
立場や経緯こそ違うものの、四人とも地球に関係する記憶や知識を持っている。
「ジャスティスがエキドナに来る前は、配信中に地球に関連するものが出てきても、マドカたちは知らないふりをしていたのよ」
「ああ、聞いたことがある。だから俺は、地球関係についてはある程度バラしていても、マドカたちは関係ないように振る舞ってるはずだぜ?」
「ええ。でも最近、地球の物が妙に多いのよ」
「……あー」
マドカが少し遠い目をする。
「配信でも、マドカとかナナリーって反応しちゃうのよね。ヒナタは何事もなかったみたいにニコニコしてるから、分かりにくいだけだけど」
「そうかも!」
ヒナタが笑顔で頷いた。
「でも、配信中に日本の家が出てきたときはどうしようかと思ったし!」
「あれは本当にびっくりした……」
ナナリーも苦笑する。
「確かにニコラもDJとかやり始めたしな。どこからそんなものを出してきたんだって話だよな」
ジャスティスが言う。
「エキドナでは、まだああいうものを普通に作れるわけじゃないみたいだしさ」
「私もギターのこと、よく聞かれますね」
ナナリーが肩をすくめる。
「みんな大変だねー」
ヒナタだけが妙に楽しそうだった。
マドカがじっとヒナタを見る。
「ヒナタは料理でも少し苦労してそうじゃない?」
「ん?」
「日本料理とか」
「ああ、日本料理の配信は『古い文献で見た』って言ってるし、大丈夫じゃないかな?」
「……それで通るのがすごいわね」
リゼットが呟いた。
「ムサシも日本人なのでしょう?」
「まあ、そうだな」
「噂では、コジロウとか言うのもいるそうね」
その瞬間、ジャスティスが顔を上げた。
「いや、リゼット。待ってくれ。俺は言いたいことがある」
「なにかしら?」
「お前の過去話に出てきた、ムサシの率いてたっていう騎士団。地球の偉人の名前しか出てこないんだが?」
「……あー」
マドカも思い出したように声を漏らす。
「確かに私も思った!」
「え?」
リゼットが困惑する。
「どういうこと……?」
ジャスティスが指を折りながら数えていく。
「アーサーとか、セイメイとか、トモエとか、ジークフリートとか……」
「まあ、全員地球で歴史とか伝説の人なんだけど」
マドカも頷いた。
「みんな異世界転移しちゃったんじゃない?」
「そ、そうなの?」
リゼットが少し目を見開く。
「初耳よ?」
「まあ、他にも地球関連は残ってそうだよな」
ジャスティスが腕を組む。
「……それで、俺がマドカたちをうまくかばえって話なのか?」
「いいえ」
リゼットは首を横に振った。
「ニコラに作ってもらったわ」
そう言って、小さな指輪を四人に見せる。
「念話できる指輪ね」
「……テレパシーかよ!」
ジャスティスが思わず突っ込んだ。
「これを使えば、心の中で念じるだけで相手に通じるわ」
リゼットは淡々と説明する。
「配信中に何かおかしなものや、地球関係の物を見つけたら、念話で相談しなさい」
四人の表情が少し真面目になる。
「エキドナ内では、あなたたちの地球での出来事について共有しているけれど――」
リゼットはそこで一度言葉を切った。
「視聴者にまで教えてやる義理なんてないのだから」
「まあ、そうだねー」
マドカが頷く。
「ジャスティスはオープンだけど、私たちは面倒かも」
「私も曲をアレンジしたりしてるし……」
ナナリーも困ったように笑う。
「元ネタがあるのなら、『パクリ歌手』とか言われそう……」
「みんな大変だねー」
またヒナタがのんびりと言った。
「ヒナタは他人事すぎるよ!」
マドカが突っ込む。
「でもまあ、そうそう地球の物なんてあるわけねーけどな!」
ジャスティスは笑い飛ばした。
リゼットはそんな四人を見ながら、自分の指にも同じ指輪を嵌める。
「そして私もつけるから、私にも相談なさいね」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
マドカが嬉しそうに笑った。
こうして、地球に関係するものを見つけた場合のための、ひそかな連絡手段が用意された。
――まさかその直後。
強欲大陸のカジノで、彼らが**「これはどう見ても地球由来だろう」**と言いたくなる景品を次々と目撃することになるとは。
この時の四人は、まだ知らなかった。




