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落内円は落ちている  作者: 七風


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434/501

契約

 翌日。


 強欲大陸の、とある豪商の屋敷。


 昨日の夜から、豪商は何度も同じことを考えていた。


 エキドナ。


 昨日までなら、面白い魔道具を持ち、強い冒険者たちが集まっている集団――その程度の認識だった。


 だが。


 昨日渡されたEVで見たものは、それまでの認識を完全に覆していた。


 強欲のダンジョン。


 通常なら、攻略そのものが難しい。


 そして何より、戦利品を持ち帰ろうとすれば身体にまで重力がかかる。


 だからこそ、攻略する者はいても、大量の収穫を持ち帰ることは難しい。


 それをエキドナは――。


「全部、ですからな……」


 豪商は思わず笑ってしまう。


 魔物を倒し。


 データ化し。


 宝箱を開け。


 素材を回収し。


 最後には、それらを全部外へ持ち出してしまった。


 しかも。


 ニコラが「研究用」「素材用」「保存用」と選別して、それでも不要なものを大量に残していた。


 普通の冒険者なら、それだけで一生遊んで暮らせるほどの価値がある。


 それを。


 いらない。


 冒険者ギルドにでも持っていこう。


 そんな調子で扱っていた。


「……面白い」


 豪商は笑う。


「実に、面白いですな」


 そして机の上に、一枚の書類を置いた。


 昨日の交換条件。


 飛空艇の大型化に必要な希少素材。


 それをどうするか。


 答えは、もう決まっていた。


 ◇ ◇ ◇


 エキドナの滞在先。


 マドカたちが豪商の屋敷へ向かう準備をしている。


「じゃあ、昨日の素材の交換だねー」


「そうね」


 リゼットが頷く。


「こちらが渡すものも決まっているし、向こうが提示した素材も確認済みよ」


「飛空艇に使えるんだよね?」


「ええ。これで必要な素材の一つが揃うわ」


 マドカが嬉しそうに笑った。


「よし!」


 そこへニコラがやってくる。


「昨日の素材、もうちょっと研究していい~?」


「もちろん」


「わーい」


 ニコラは嬉しそうに笑う。


 そして一行は豪商の屋敷へ向かった。


 ◇ ◇ ◇


「ようこそ、お待ちしておりました」


 豪商自らが出迎えた。


「昨日は楽しんでくれたかしら?」


 マドカが笑う。


「うん! 楽しかった?」


「ええ」


 豪商は大きく頷いた。


「それはもう。昨日の配信は実に素晴らしいものでした」


 そして豪商は、少し真剣な顔になる。


「……ですから、本日は少々ご相談したいことがございます」


「相談?」


「はい」


 豪商は用意していた書類をテーブルへ置いた。


「まず、昨日お約束した飛空艇用の希少素材についてです」


 書類には、素材の種類と数量が記されている。


「こちらは予定通り、お渡しいたしましょう」


「本当?」


「ええ」


 豪商は笑った。


「ですが――」


 一拍。


「私は、それだけで今回のお取引を終わらせるつもりはございません」


 マドカが瞬きをする。


「どういうこと?」


「長期的に、エキドナ様方と取引をさせていただきたいのです」


 リゼットが豪商を見る。


「具体的には?」


「強欲大陸には、まだまだ珍しい素材がございます。一般には流通しないもの、特定の地域でしか採れないもの、冒険者が見つけても価値を知らずに売ってしまうもの……そういったものも含めて、私どもの商会で探します」


 豪商は続ける。


「エキドナ様方が必要とするものを、優先して情報提供し、入手できたものからお声をかけさせていただきたい」


「へぇー」


 マドカが嬉しそうに笑った。


「それは助かるね」


「ええ。もちろん、こちらにも利益がございます」


 豪商は隠さず言った。


「エキドナ様方が扱う魔道具や、今後開発される商品。そういったものを、私どもの商会で取り扱わせていただきたいのです」


 ニコラが顔を上げる。


「新しいの作ったら代わりに売ってくれるの~?」


「ぜひ」


「いいね~」


 ニコラが嬉しそうに笑う。


 マドカも頷いた。


「こっちも、強欲大陸でしか手に入らない素材を探してるしね」


「はい」


 豪商も頷く。


「つまり――」


 マドカが指を立てる。


「こっちは欲しい素材を探してもらえる」


「はい」


「そっちはエキドナの商品を売れる」


「その通りです」


「じゃあ、いいんじゃない?」


 あまりにもあっさりとした返事。


 豪商は笑った。


「私も、そう思っております」


 両者の条件が固まっていく。


 飛空艇用の希少素材。


 今後の素材情報。


 優先的な取引。


 エキドナが開発する魔道具や商品の販売。


 双方に利益がある。


 まさに長期的な商売として成立する契約だった。


「では、正式に――」


 豪商が契約書を差し出す。


 マドカがそれを確認する。


「うん。これでいいよ」


 契約が成立した。


 豪商は満足そうに笑った。


「ありがとうございます。これから末永く、よろしくお願いいたします」


「こちらこそー」


 マドカも笑う。


 その横で、リゼットがふと口を開いた。


「そういえば」


「はい?」


「せっかく長期契約を結ぶのだから、もう一つ渡しておきましょうか」


 豪商が首を傾げる。


「もう一つ……?」


 リゼットがマドカを見る。


「マドカ、あれを」


「うん」


 マドカがニコラを見る。


「ニコラ、お願い」


「はいはーい」


 ニコラが持ってきたのは、見慣れない装置だった。


「……これは?」


 豪商が装置を眺める。


「転移装置だよー」


「…………」


 豪商が固まった。


「転移……装置?」


「うん」


 ニコラが簡単に説明する。


「ゴール側にも同じ装置を置いてあるから、これを使えば強欲大陸とゴールを行き来できるよ~」


「……」


「もちろん、無制限にどこへでも飛べるものじゃないけどね」


 リゼットが補足する。


「登録した場所との間を移動するための簡易型よ」


「……」


 豪商は装置を見た。


 次にエキドナを見る。


 そして、もう一度装置を見る。


「これを……?」


「プレゼント」


 マドカが笑った。


「これから長く取引するんだから、こっちとそっちで行き来しやすいほうがいいでしょ?」


「…………」


 豪商は、しばらく何も言わなかった。


 やがて。


「はっはっはっはっは!」


 豪快に笑い始める。


「なるほど! なるほど、そういうことですか!」


 豪商は転移装置を見ながら笑う。


「これほど便利なものを、まさか契約祝いのように渡されるとは思いませんでしたよ!」


 マドカが首を傾げる。


「便利でしょ?」


「便利どころではありません!」


 豪商は笑いながら装置を受け取った。


「これならば、わざわざ長い旅をして商品を運ぶ必要もない。素材の確認も、人員の往来も、今までとは比べものにならないほど楽になる!」


「そうそう」


 マドカが頷く。


「これで楽々取引できるねー」


「ええ!」


 豪商は嬉しそうに頷く。


「こちらとしても、これ以上ないほどありがたい話です!」


 ニコラが装置を確認する。


「壊したら言ってね~」


「壊さないように、全力で大切に扱わせていただきます」


 豪商が真顔で答えた。


 その様子を見ていたマドカが笑う。


「これで、強欲大陸で面白い素材を見つけたら教えてね」


「もちろんですとも」


 豪商は力強く頷いた。


「エキドナ様方が必要とされるものなら、こちらも本気で探しましょう」


 こうして。


 エキドナは強欲大陸で、長期的な取引相手を得た。


 飛空艇の素材だけではない。


 今後の素材調達。


 魔道具や商品の販売。


 そして――ゴールとの直接的な物流経路。


 一つの商談から、これから先につながる大きな商売が始まったのだった。


 マドカは屋敷を出ながら、満足そうに笑う。


「よーし!」


「次は何をする?」


 その言葉に、エキドナの面々が顔を見合わせる。


 強欲大陸には、まだまだ遊べる場所がある。


 そして――。


 その中には、冒険者たちがこぞって遊びに行く場所もあった。


 **カジノ。**


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