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落内円は落ちている  作者: 七風


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433/496

強欲ダンジョン

 その日。


 強欲大陸の、とある豪商のもとへ一つの通知が届いた。


『新しい配信が開始されました』


 昨日、エキドナから渡されたEV。


 豪商は少し迷ったものの、すぐに画面を起動した。


「さて……一体、何を見せてくれるのでしょうな」


 画面に映ったのは、巨大な石造りの門だった。


 その前に立っているのは七人。


 マドカ。


 リゼット。


 ムサシ。


 アリシア。


 ナナリー。


 ニコラ。


 そして――シルヴァ。


『みんなー! 今日は強欲のダンジョンに来てまーす!』


 マドカが手を振る。


 強欲大陸の視聴者も、一気にコメントを書き込んでいく。


『強欲のダンジョン!?』


『シルヴァ様もいるぞ!』


『ここ、普通に難関だからな』


『シルヴァ様でもまだ最深部まで行けてないはず』


『エキドナが挑戦するのか?』


 マドカが隣を見る。


「シルヴァ、このダンジョンってそんなに難しいの?」


「簡単ではありませんよ」


 シルヴァは真面目な顔で答えた。


「魔物が強いというのもありますが……最大の問題は、持ち帰れる戦利品の量です」


「持ち帰れる量?」


「ええ。一定量以上の戦利品を持って帰ろうとすると、身体そのものに重力がかかるんです。荷物だけではありません。本人まで動けなくなる」


 コメントが流れる。


『そう、それが強欲のダンジョン最大の問題』


『せっかく宝を取っても持って帰れない』


『だから攻略しても実入りが少ない』


 マドカが納得したように頷く。


「なるほどねー」


 その隣で、リゼットが淡々と言った。


「それならインベントリを使えばいいじゃない?」


「……」


 シルヴァが止まった。


「……そうでした。インベントリ持ちが少なくてマジックバックにも制限がくるのですよ。忘れてましたね。」


 マドカが笑う。


「お姉ちゃん、最初からそのつもりだったでしょ」


「もちろんよ」


 ニコラも笑う。


「じゃあ全部取れるね~」


『全部!?』


『全部って言った!?』


『宝箱も!?』


 マドカが入口を指差した。


「それじゃ、行ってみよー!」


 扉が開く。


 その瞬間だった。


 奥から大量の魔物が押し寄せてきた。


 十体。


 二十体。


 三十体。


 さらに奥から、巨大な魔獣まで現れる。


「来ます!」


 シルヴァが叫ぶ。


 魔物たちが一斉に魔法を放った。


 炎。


 雷。


 氷。


 風刃。


 無数の魔力弾。


 一階とは思えないほどの大攻撃が、七人へ殺到する。


「ニコラ」


「はいはい~」


 ニコラが一歩前に出た。


 指先を軽く動かす。


 七人全員を包むように、半透明の球状シールドが展開された。


 次の瞬間。


 ドドドドドドドドドッ!!


 炎が直撃する。


 雷が弾ける。


 氷の槍が砕け散る。


 巨大な魔力弾が何発も叩き込まれる。


 だが。


 シールドは――揺れもしなかった。


「……え?」


 シルヴァが固まる。


 さらに魔物たちが攻撃する。


 今度は全員が同時に魔力を集中させ、巨大な光線を放った。


 轟音。


 爆風。


 土煙。


 フロア全体が白く染まる。


 しかし。


 煙が晴れると、七人は何事もなかったように立っていた。


 シールドには傷一つない。


 ニコラがシールドを眺める。


「……割る事もできない」


 少し考えて。


「よわ~ 簡易なんだけどなぁ~。」


『wwwww』


『ニコラ博士www』


『敵めちゃくちゃ頑張ってるぞw』


『一階の魔物が泣くぞ』


『これ簡易シールドだよな?』


『簡易って言ったよな!?』


 シルヴァが信じられない顔でニコラを見る。


「これ……簡易なんですか?」


「うん~」


「僕は一階でも普通に防御魔法を使いますよ?」


「これも防御魔法だよ~?」


「そういう意味ではありません……」


 その会話の間にも、魔物が襲ってくる。


「じゃあ、そろそろ倒そっか」


 マドカが剣を構えた。


「はい」


 ムサシが刀を抜く。


 アリシアが銃を構える。


 ナナリーが低く身を構えた。


 リゼットは杖を掲げる。


「じゃあ、行くよ」


 次の瞬間。


 マドカが消えた。


 一閃。


 二閃。


 三閃。


 巨大な魔獣の身体に斬撃が走る。


 同時にアリシアの銃弾が魔物の群れを正確に撃ち抜いていく。


 ナナリーはその間を縫うように走り、一体、二体、三体と高速で敵を倒していく。


 そして――。


 ズドォン!!


 リゼットの魔法が炸裂した。


 フロアの奥まで一気に吹き飛ぶ。


 残った魔物が一掃された。


「終わりね」


 リゼットが杖を下ろす。


「……」


 シルヴァは黙っていた。


『速すぎるw』


『一階終わったぞ』


『まだ配信始まって数分だぞ!?』


『シルヴァ様が置いていかれてるw』


『いやシルヴァ様も強いんだぞ!?』


 マドカが魔物を見下ろす。


「じゃあ回収ね」


 倒した魔物が次々と光っていく。


 データ化。


 そしてカード化。


 リゼットがインベントリへ収納していく。


「これで全部ね」


「宝箱も探そ~」


 ニコラが周囲を見る。


「あっち~」


 奥の壁が開いた。


 そこには宝箱が三つ。


「おおー!」


 マドカが駆け寄る。


 開けてみると、魔石、鉱石、薬品、魔道具が入っていた。


「全部もらってこ」


『本当に全部取るのかw』


『強欲のダンジョンなのに、エキドナのほうが強欲』


『名前通りすぎるw』


 そして二階。


 三階。


 四階。


 エキドナの進行は止まらない。


 二階では巨大な甲殻魔獣。


 三階では飛行する魔物の大群。


 四階では床そのものが動く迷宮。


 だが――。


 どんな攻撃が来てもニコラのシールドは破れない。


「また攻撃来るよ~」


 ニコラがシールドを展開する。


 巨大な火球が直撃。


「割れないね~」


 雷撃。


「割れない~」


 巨大な岩石。


「これも無理~」


 ニコラが少しだけつまらなそうに言った。


「よわ~」


『また言ったw』


『もう敵への評価が全部よわ~になってるw』


『強欲のダンジョンさん頑張って!』


 五階。


 巨大な魔獣が三体同時に襲いかかる。


「ワシが行きますかな」


 ムサシが前へ出た。


 刀を抜く。


 一歩。


 踏み込む。


 その瞬間、三体の巨体が同時に止まった。


 次の瞬間――。


 三体まとめて崩れ落ちる。


『今の何!?』


『見えなかった』


『ムサシさんヤバすぎる』


 六階ではアリシアの銃撃が炸裂する。


 魔物が壁から壁へ飛び回る。


 しかし、アリシアは一発ずつ正確に撃ち抜いていく。


「一、二、三……」


 連続して銃声が響く。


 最後の一体が落ちた。


「終わり」


『格好いい!』


『アリシアさんの射撃ヤバい』


 七階。


 ナナリーが前へ出る。


「私も行く!」


 高速で走り出す。


 魔物の群れの中へ飛び込む。


 右。


 左。


 背後。


 さらに空中。


 敵が反応するより早く、次々と倒れていく。


『速すぎる!聖女ってアイドルじゃなかったのか?!』


『ナナリー何人いるんだよw』


『一人だよw』


 八階。


 大量の魔物が巨大な魔法陣を展開した。


 シルヴァが叫ぶ。


「これはまずい! この規模は――」


「じゃあ僕もやります!」


 シルヴァが両手を広げる。


 水が集まる。


 巨大な水流が渦を巻き、巨大な蛇へと変わった。


「いけぇぇぇぇ!!」


 巨大な水蛇が魔物へ突撃する。


 轟音。


 衝撃。


 魔物の群れが吹き飛ぶ。


 コメントが沸騰する。


『シルヴァ様すげええええ!』


『これが強欲の勇者!』


『やっぱり強い!』


 シルヴァが息を整える。


「……どうです!」


 マドカが笑った。


「すごーい!」


「ありがとうございます!」


 その直後。


 リゼットが手を上げた。


「残り、私がやるわね」


 ズドォォォォォン!!


 シルヴァの魔法で残っていた魔物まで全部吹き飛んだ。


「……」


 シルヴァが黙る。


『www』


『シルヴァ様頑張れw』


『今のはちょっと可哀想w』


 九階。


 十階。


 十一階。


 進むほど魔物は強くなる。


 だが、エキドナの戦闘速度はほとんど変わらない。


 倒す。


 データ化する。


 インベントリへ入れる。


 宝箱を探す。


 全部回収。


 次の階へ。


 その繰り返しだった。


「これも素材になりそう~」


 ニコラが魔物を眺める。


「こっちは研究用」


「これは?」


「素材~」


「これは?」


「いらな~い」


「じゃあ全部取っとく?」


「うん~。後で分ければいいよ~」


『このダンジョン、今まで誰もこんな攻略してないだろw』


『魔物の素材まで全部回収してる』


『宝箱も全制覇』


『持ち帰り問題をインベントリで完全無視してるの笑う』


 十五階。


 そこには巨大な魔物が待ち構えていた。


 これまでとは明らかに違う。


 全身から膨大な魔力を放っている。


 シルヴァが息を呑んだ。


「これは……!」


 マドカが笑う。


「ちょっと強そう?」


「ええ。十五階の守護者でしょう。僕でも一人ならかなり苦戦する相手です」


 魔物が咆哮する。


 地面が揺れる。


 巨大な腕が振り下ろされる。


 ニコラのシールドが受け止めた。


 ドンッ!!


 シールドは――無傷。


「……」


 ニコラが魔物を見る。


「これも割れないね~」


 少し間を置いて。


「よわ~」


『wwwww』


 シルヴァが頭を抱えた。


「それ、僕が苦戦する相手なんですが……」


「ごめんね~」


 ニコラは全く悪びれていなかった。


 次の瞬間。


 ムサシが斬る。


 アリシアが撃つ。


 ナナリーが駆ける。


 マドカが斬り込む。


 リゼットの魔法が直撃する。


 そしてシルヴァも最大火力を叩き込む。


 巨大魔獣が倒れた。


「回収~」


 ニコラがカード化する。


『回収が早いw』


『倒した瞬間に素材扱いw』


 十六階。


 十七階。


 十八階。


 十九階。


 ついに最後の階層。


 二十階。


 広大な空間へ出た。


 そこには――何もいなかった。


「……?」


 シルヴァが辺りを見回す。


「おかしい」


 その瞬間。


 地面が大きく揺れた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


 壁が崩れる。


 天井から巨大な影が落ちてくる。


 ズドォォォォォン!!


 巨大。


 これまでの魔物とは比較にならない。


 全身から黒い魔力を噴き出し、二十階全体を覆うほどの巨体。


『え?』


『何あれ!?』


『知らないぞ!?』


『こんなのいたの!?』


 シルヴァの顔が変わる。


「……僕も、見たことがありません」


 コメント欄が爆発した。


『シルヴァ様でも知らない!?』


『ラスボスか!?』


『強欲のダンジョンにこんなのいたの!?』


 巨大魔獣が咆哮した。


 魔力が集まる。


 空間そのものが歪む。


 巨大な魔法陣が展開された。


「来る!」


 シルヴァが叫ぶ。


 超巨大な魔力砲が放たれた。


 だが。


 ニコラのシールドが展開される。


 ドォォォォォォォン!!


 爆発。


 轟音。


 衝撃波。


 それでも。


 シールドは――無傷。


 ニコラが首を傾げる。


「……」


 そして。


「割る事もできない」


 少しだけ笑って。


「よわ~」


『ラスボスにもそれ言うのかよwww』


『ラスボス涙目』


『シルヴァ様があんなに警戒してたのにw』


『エキドナ基準やめてw』


 マドカが剣を構える。


「じゃあ、終わらせよっか!」


「ええ」


 リゼットが杖を掲げる。


 ムサシが刀を抜く。


 アリシアが照準を合わせる。


 ナナリーが走り出す。


 ニコラが魔道具を起動する。


 シルヴァも魔力を限界まで高める。


「僕も行きます!」


 七人の攻撃が一斉に放たれた。


 斬撃。


 銃撃。


 高速攻撃。


 大魔法。


 水の巨蛇。


 魔道具による爆発。


 そして――。


 リゼットの魔法が巨大魔獣を真正面から撃ち抜いた。


 ドゴォォォォォォォン!!


 光がフロアを埋め尽くす。


 しばらくして。


 静寂。


 巨大魔獣は――消えていた。


 その場には、宝箱が残っている。もちろんニコラがデータ化していた。


「……終わった?」


 マドカが覗き込む。


「終わったわね」


 リゼットが答えた。


 そして。


 ゴゴゴゴゴ……。


 奥に巨大な魔法陣が浮かび上がる。


 入口へ戻るための転移陣だった。


「帰れるみたい」


 マドカが振り返る。


「じゃあ、帰ろっか!」


 コメントが一斉に流れる。


『終わったああああ!』


『何分だよ!?』


『これ本当に強欲のダンジョン攻略配信か?』


『二十階制覇!?』


『しかも宝箱全部!?』


『魔物も全部回収!?』


『強欲のダンジョンが可哀想になってきた』


 そして――。


『エキドナやるのじゃ』


 一つだけ、妙に印象に残るコメントが流れた。


 誰が書いたのか。


 それを知る者はいない。


 エキドナの七人は、そんなコメントを気にすることなく転移陣へ入った。


 ◇ ◇ ◇


 ダンジョンの外。


「じゃあ、収穫物出すよー!」


 マドカの声とともに、インベントリから大量の品物が現れ始めた。


 魔物素材。


 魔石。


 鉱石。


 宝石。


 薬品。


 武器。


 防具。


 魔道具。


 そして――宝箱の中身。


 次から次へと地面へ並べられていく。


「……」


 シルヴァが言葉を失う。


「これ……全部?」


「うん」


 リゼットが答える。


「全部よ」


「……これだけの量を……」


 ニコラがしゃがみ込む。


「じゃあ選別するね~」


 そこから始まったのは、戦闘よりもある意味凄まじい作業だった。


「これは研究用~」


「これは素材として使える~」


「これは魔道具の構造が面白い~」


「これは保存しておこう」


「これは……うん、いらない~」


 ニコラが次々に分類していく。


 研究対象。


 魔道具開発用。


 武器・防具素材。


 薬品。


 売却用。


 そして――。


「いらなーい」


 一つの山を指差した。


「これも?」


「いらなーい」


「こっちは?」


「いらなーい」


 マドカが山を眺める。


「……じゃあ、冒険者ギルドに押し付けよう」


「押し付けるって言い方はどうなんですか……」


 シルヴァが苦笑する。


 だが、その山を見れば笑うしかない。


 普通の冒険者なら、何年かけても集められないほどの素材が積み上がっている。


『ギルドに押し付けるw』


『ギルド大喜びだろ』


『いや職員が死ぬほど忙しくなるぞ』


『エキドナ「いらない」』


『これが一番怖い』


 その様子を、最初から最後までEVで見ていた豪商は――。


「…………」


 しばらく、何も言えなかった。


 戦闘。


 魔物の回収。


 宝箱の完全制覇。


 そして、持ち帰った収穫物の山。


 これだけのものを見せられて。


 豪商は、ゆっくりと笑った。


「……なるほど」


 EVの画面の向こうで、マドカが笑っている。


「楽しんだ?」


 豪商は思わず声を上げて笑った。


「はっはっはっはっは!」


 これほどのものを見せられるとは思っていなかった。


「ええ。楽しみましたとも!」


 豪商はEVを見つめる。


「これほどのものを、一度に見せられるとは……。しばらくは、これ以上に面白いものを見ることもないでしょうな!」


 画面の向こうで、シルヴァも笑っていた。


「やっぱりエキドナは素晴らしい!」


 マドカはシルヴァを見て、にっこり笑う。


「まぁ――」


 そして、最後に画面に一言。


「これに価値をつけるかは、あなた次第だけどね」


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