交換
オークションから数日。
エキドナ一行は、強欲大陸で次の目的を探していた。
今回の旅の目的。
それは、百人規模の飛空船を完成させるために必要な、希少素材を集めること。
そして――。
「一個目は、手に入ったね!」
マドカが嬉しそうに言った。
「ええ」
クリスティーナが頷く。
「オークションに出ていた素材ですわね」
「これで必要な素材の一つは確保できたわね。」
リゼットも満足そうだった。
だが。
まだ必要な素材は残っている。
「次は……」
マドカが資料を見る。
「豪商との交換?」
「そういうことですわねー。」
クリスティーナが説明する。
「この方は、お金だけでは動かないそうですわ」
「へえ?」
「珍しいもの。面白いもの。自分が知らない価値のあるもの」
「なるほど……」
マドカは少し考えた。
「それなら――」
そして。
「EVでいいんじゃない?」
その場にいたニコラが顔を上げる。
「EV~?」
「うん。豪商さんが持ってないなら、かなり面白いと思う」
「確かに」
クリスティーナも頷く。
「商人にとって、遠隔地の情報を得られる道具は非常に価値があるでしょうね」
こうして。
エキドナ一行は、強欲大陸でも有数の豪商と会うことになった。
案内された屋敷は、とにかく広かった。
壁には珍しい魔道具。
棚には各地から集められた珍品。
部屋の中央には、巨大な机。
そしてその向こうに。
「ようこそ、エキドナの皆様」
一人の男が座っていた。
豪商である。
「あなた方が私の持つ素材を探していると聞いております」
「はい」
クリスティーナが答える。
「その素材を譲っていただく代わりに、こちらからも交換品を提示したいと思っていますわ」
「金銭ではなく?」
「ええ」
豪商は楽しそうに笑った。
「それは面白い」
マドカが一歩前へ出る。
「じゃあ、これ!」
持ってきたEVを机の上に置く。
「……これは?」
「EVっていう魔道具です」
マドカが簡単に説明する。
遠く離れた場所の映像を見ることができる。
さらに。
映像を配信することで、多くの人間へ同時に情報を届けることもできる。
豪商の目が変わった。
「なるほど……」
彼はEVをじっと見る。
「商売にも使えそうですね」
「うん!」
「遠隔地の店の様子を見たり、商品の紹介をしたり……」
「そうそう」
「これは確かに面白い」
豪商は満足そうに頷いた。
だが。
マドカはそこで終わらなかった。
「でも、それだけじゃつまらないよね?」
「……ほう?」
豪商が顔を上げる。
マドカは笑った。
「このEV、今日一日使ってみてよ」
「一日?」
「うん」
「それで?」
「私たちは今日中にある場所へ出発するわ」
豪商が少し驚く。
「今日中に?」
「そう」
マドカはEVを指差した。
「そのEVには、私たちが新しい配信を始めたら、お知らせが届くようにしてあるから」
「……新しい配信?」
「そう」
ニコラが横から口を挟む。
「今日からちょっと面白いことするんだよ~」
「内容は?」
「それは見てからのお楽しみ」
マドカが楽しそうに笑う。
「一日EVを使ってみて」
「……」
「そのあと、私たちが出発した後に始まる新しい配信を見てほしい」
豪商は腕を組んだ。
「それを見て、私が納得したら?」
「その素材と交換」
「……なるほど」
豪商はEVを見る。
そして。
「つまり、この道具そのものだけではなく――」
「うん」
「その先にある“何か”まで含めて、交換品ということですか」
「そういうこと!」
マドカは笑った。
「面白い物と交換するんでしょう?」
「……」
豪商の口元が上がる。
「これは実に面白い」
彼はEVを手に取った。
「よろしいでしょう」
「じゃあ決まり!」
「ただし」
豪商が人差し指を立てる。
「私が納得できなければ、素材はお渡ししない」
「もちろん」
マドカも頷く。
「こっちもそれでいいよ」
「そして、このEVは?」
「そのままプレゼント」
「……!」
豪商が目を見開く。
「本当に?」
「うん。だって――」
マドカはニヤッと笑った。
「一日使って、それだけでも十分面白いと思うから」
「なるほど……」
豪商はEVを見つめる。
未知の魔道具。
遠く離れた場所から届く映像。
そして。
今日中に出発するというエキドナ。
「では、楽しみに待つとしましょう」
「うん!」
マドカたちは立ち上がった。
「じゃあ、私たちは出発するね」
「ええ」
「EVの使い方は説明書を見てね」
「分かりました」
そしてエキドナ一行は、豪商の屋敷を後にした。
しばらくして。
豪商は一人、EVの前に座っていた。
「……さて」
スイッチを入れる。
映像が映し出された。
様々なジャンルを楽しそうに配信する人。
過去に撮影した動画も残り続けているらしい。それを見るだけでも面白い。
そして。
「……なるほど」
商人として。
これは恐ろしく便利な道具だった。
遠くの市場の様子を見ることができるだろう。
遠方の情報を得ることもできる。
商売の可能性はいくらでも思いつく。
「しかし……」
豪商は笑った。
「エキドナは、これを置いていった」
そして。
「今日、新しい配信が始まる……」
EVの画面を眺めながら。
豪商は、その時を待つ。
やがて。
エキドナ一行は王都を離れる。
目的地へ向かうために。
そして――。
豪商のEVに。
小さな通知が表示された。
【エキドナの新しい配信が開始されました】
「……来たか」
豪商は笑った。
「さて……」
果たして。
エキドナが最後に見せる“面白い物”とは何なのか。
そして。
この豪商は――。
希少素材を交換するほど、それを面白いと思うのか。
豪商は、期待に満ちた目で画面を見つめた。




