↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落内円は落ちている  作者: 七風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
430/579

魔道具発表会

 オークションの翌日。


 強欲大陸では、魔道具発表会が開催されていた。


 この大陸では、珍しい魔道具や新技術が発表されること自体が、一つの大きな娯楽になっている。


 もちろん今回も、EVによる配信が行われていた。


『今日は魔道具発表会か』

『強欲大陸、イベント多いな』

『昨日のオークションからずっとエキドナ出てるぞw』

『今日は誰が何を発表するんだろ』


 会場には、多くの発明家や錬金術師、魔道具職人が集まっていた。


 そして、その中に――。


「……エキドナからは、ニコラさんが参加するんですね」


 一人の男がいた。


 眼鏡を押し上げる。


 強欲大陸の勇者。


 シルヴァだった。


 彼は昨日のオークションにも姿を見せていた。


 だが、今日の目的は別にある。


「ニコラ博士……」


 小さく呟く。


 先日のジャスティスとの会話。


 エキドナには、自分よりも魔道具や錬金術について詳しい者がいる。


 大賢者リゼット。


 そして、ニコラ。


 その話を聞いた時から、シルヴァはずっと興味を持っていた。


 自分の知らない知識。


 自分が理解できない技術。


 それを知っている人間がいる。


 それだけで、シルヴァにとっては十分だった。


「今日は、話せるでしょうか」


 そんなシルヴァの視線の先。


 壇上では、発表会の司会が進行していた。


「それでは最初の発表に移ります!」


 何人かの発明家が、自分たちの魔道具を発表していく。


 火を使わず料理できる魔道具。


 魔力を保存する装置。


 小型の照明器具。


 どれも興味深いものだった。


 だが――。


 シルヴァは満足していない。


「……なるほど」


 知識としては面白い。


 だが、自分が知らないものではない。


 やがて。


「続いては、強欲大陸の勇者――シルヴァ様です!」


 会場が沸いた。


『強欲の勇者きた!』

『昨日も見たぞ』

『勇者が発明家として出るのか』

『何作ったんだ?』


 シルヴァが壇上へ上がる。


 手にしているのは、一本の短い柄だった。


「僕が今回発表するのは、武器です」


 会場が静かになる。


「これは、聖属性魔力を利用した魔道具です」


 柄を握る。


 スイッチを入れる。


 ――シュンッ!


 柄の先から、光の刃が伸びた。


 一本の剣。


 いや。


 金属の刃ではない。


 純粋な光――聖属性の魔力によって形成された刃だった。


「おお……!」


 会場から歓声が上がる。


『ビームソード!?』

『かっけえええ!』

『光の剣だ!』

『シルヴァすげえ!』


 シルヴァはその反応を見ながら、淡々と説明する。


「柄の内部に魔力変換機構を組み込み、聖属性の魔力を一定方向へ収束させています」


 光の刃が伸びる。


「物理的な刃を持たず、魔力そのものを刃として利用する」


 観客は食い入るように見ていた。


「これは、僕が独自に研究して作ったものです」


 会場から拍手が起こる。


 だが――。


 エキドナの席。


「…………」


「…………」


「…………」


 マドカ。


 リゼット。


 ニコラ。


 三人とも、ほぼ同じ顔をしていた。


 ――知っている。


 というより。


 エキドナでは、とっくに作られている。


「……ビームサーベルだね」


 マドカが小声で呟く。


「そうね」


 リゼットも頷く。


「うん~」


 ニコラも特に驚いていない。


 だが。


 一般には公開していない。


 エキドナ内部ではすでに存在している技術だが、外部には流していない。


 そのため――。


『めちゃくちゃかっこいい!』

『強欲の勇者、こんなものまで作れるのか!』

『これ売ってくれ!』

『武器として普通に欲しい!』


 配信コメントは大盛り上がりだった。


 マドカもそれを見て苦笑する。


「……まあ、一般には初めてだからね」


「そういうことね」


 リゼットも静かに頷く。


 その一方。


 シルヴァは壇上から客席を見ていた。


 そして――。


 エキドナの席にいるニコラを見る。


「……」


 ニコラは、特に興奮する様子もなく座っている。


 シルヴァは少しだけ眉を動かした。


「……なるほど」


 自分の発明を見ても、あまり驚いていない。


 ならば。


「次の発表を楽しみにしています」


 シルヴァは壇上を降りた。


 そして、司会が次の発表者を紹介する。


「続きまして――」


 ニコラの名前が呼ばれた。


「エキドナ所属、ニコラ博士!」


 会場がざわついた。


『きた!』

『ニコラ博士って昨日のオークションにもいた人?』

『エキドナの魔道具担当か』

『何作ったんだ?』

『モンバトとかEVとか転移装置作ったところだろ?』

『これは期待』


 ニコラは、いつもの眠そうな様子で壇上へ上がった。


「どうも~」


 会場の緊張感とは裏腹に、本人はかなり気楽だった。


「今日は~、ちょっと変わったマジックバッグを持ってきたよ~」


 取り出したのは、一見すると普通のマジックバッグ。


「マジックバッグ?」


 会場から疑問の声が上がる。


「それだけなら、珍しくありませんね」


 シルヴァも呟く。


 マジックバッグ自体は、すでに一般的な魔道具だ。


 容量を拡張し、多くの荷物を収納できる。


 しかし。


「普通のマジックバッグと違うところは~」


 ニコラがバッグを開く。


「生き物を入れられるところ~」


「…………」


 会場が静まり返った。


 誰も反応しない。


 言葉の意味を理解するまで、少し時間がかかった。


「……え?」


「生き物?」


「マジックバッグに?」


「それは……無理だろ」


 ニコラは気にせずバッグへ手を入れる。


「じゃあ、出すね~」


 ずるっ。


「にゃー」


「にゃー」


「にゃー」


「にゃ」


「にゃー」


 次々と猫が出てくる。


 一匹。


 二匹。


 三匹。


 そして――。


「全部で十匹~」


 十匹の猫が、壇上に並んだ。


「…………」


 会場が完全に固まった。


『え?』

『猫?』

『生きてる?』

『マジックバッグから出てきたぞ!?』

『十匹!?』

『どういうこと!?』


 猫たちは普通に歩き回っている。


 鳴いている。


 互いにじゃれ合っている。


 どう見ても本物の生き物だった。


 しかし。


 よく見ると――。


「……待て」


 シルヴァが立ち上がった。


 目を見開く。


「大きさが……」


 十匹の猫。


 どれも、バッグの入口より明らかに大きい。


 それなのに、今しがた、その中から出てきた。


「内部空間の拡張だけでは説明できない……」


 シルヴァの声が震える。


 マジックバッグには、収納した物体を異空間へ保存するという性質がある。


 しかし。


 生き物を入れることはできない。


 正確には。


 生物を収納した場合、その生命活動を維持できない。


 だからこそ。


 マジックバッグは生き物を入れられない。


 それが常識だった。


「どうして……」


 シルヴァは壇上の猫を見る。


「どうして生きている……?」


 ニコラは猫を一匹抱き上げる。


「これ~?」


「はい」


「錬金術で命を与えた人工生命体だよ~」


「…………」


「エキドナ館にもいる猫たちと同じ~」


 ニコラは猫を床へ下ろす。


「普通の動物じゃないから~、マジックバッグの中でも問題なく生命活動を維持できるように作ってあるの~」


「……人工生命……」


 シルヴァの顔から、表情が消えた。


 知識欲。


 未知への興味。


 それらが、一気に限界まで刺激されている。


「つまり……」


 シルヴァが呟く。


「生命そのものを錬金術によって再構築した?」


「ん~。まあ、そんな感じ~」


「そして、その生命体ならマジックバッグに収納できる?」


「そうだよ~」


「…………」


 シルヴァは黙った。


 壇上では、猫たちが何事もなかったかのように歩き回っている。


 あまりにも自然だった。


 だからこそ。


 その技術がどれほど異常なのかが、分かってしまう。


「……僕のビームサーベルなど」


 シルヴァが小さく呟く。


「比較にならない」


『シルヴァ!?』

『何言ってるんだ!?』

『ビームサーベルも凄かっただろ!』

『でもこれは意味分からんぞ……』

『生き物をマジックバッグに入れるってどういう技術だよ』


 シルヴァはしばらく猫たちを見ていた。


 そして。


 静かに手を上げた。


「僕は――」


 会場が静かになる。


「今回の勝負から辞退します」


「え?」


 司会者が驚く。


「まだ発表会は終わっていませんが……」


「構いません」


 シルヴァは眼鏡を押し上げる。


「これ以上、ここにいても意味がない」


 その声には悔しさがない。


 むしろ――。


 嬉しさすら混じっていた。


「僕には、まだ知らないことが多すぎる」


 シルヴァはニコラを見る。


「ニコラ博士」


「ん~?」


「あなたと話をしたい」


 ニコラは少し首を傾げる。


「いいよ~?」


「……ありがとうございます」


 シルヴァは深く頭を下げた。


 そして、そのまま会場を出ていった。


『帰った!?』

『シルヴァ、潔すぎるw』

『でもあれ見たら勝てないってなるわ』

『ニコラ何者なんだよw』

『エキドナの発明家ヤバすぎる』

『猫十匹が今日一番意味分からん』


 マドカは、去っていくシルヴァを見送った。


「……あの人、すごいね」


「何が?」


 リゼットが尋ねる。


「自分より凄いものが出てきたら、ちゃんと認めて帰っちゃった」


「知識欲が強い人なのでしょうね」


「うん」


 マドカは笑った。


「ニコラと話したら、絶対面白そう」


「そうですね~」


 ニコラも眠そうに笑う。


「私も、あの人がどんな魔道具作るのか気になる~」


 こうして。


 強欲大陸の魔道具発表会で発表された二つの発明。


 聖属性の光刃を生み出す、シルヴァのビームサーベル。


 そして――。


 生き物を収納できる、ニコラのマジックバッグ。


 会場の人々にとって、この日が強く印象に残る発表会になったことは間違いなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。