オークション
翌日。
エキドナ一行は、強欲大陸で開かれているオークション会場へとやってきていた。
もちろん、今回もEVによる配信は続いている。
会場へ入る前から、すでにEVの向こうでは大量のコメントが流れていた。
『オークションきたー!』
『強欲大陸っぽいイベントだな』
『昨日の展示会からエキドナの名前めっちゃ聞くようになった』
『何が出るんだろ』
『マドカが絶対変なもの買うぞ』
「なんで私が変なもの買う前提なの!?」
マドカがEVを見ながら抗議する。
隣ではニコラが、いつものようにのんびりしていた。
「でも~、マドカって面白そうなもの見つけると買いたがるよね~」
「だって面白そうなら欲しくなるじゃん!」
「ほら~」
『本人も認めたw』
『説得力しかない』
『今日も何か買うぞこれ』
「もう!」
マドカが頬を膨らませる。
その横で、クリスティーナは苦笑していた。
「まあ、買うにしても本当に必要なものだけにしておきなさいね?」
「はーい!」
「その返事は信用できませんね」
リゼットが微笑む。
今回、オークションに参加するのは、リゼット、マドカ、クリスティーナ、ニコラ、グレタ、そしてムサシ。
それぞれ狙っているものが違う。
リゼットは魔法関連。
グレタは武器や防具、素材。
ムサシは刀や魔法剣。
ニコラは魔道具や技術素材。
クリスティーナは、マドカと合わせて使えそうなもの。
そしてマドカは――。
「珍しいもの!」
「ざっくりしてるわね」
クリスティーナが笑った。
「だって、何が出るか分からないんだもん」
そんな会話をしているうちに、オークションが始まった。
最初に出てきたのは、強力な魔物の素材。
グレタが興味を示す。
「……これはいいな」
「欲しい?」
「武器を作るなら使える。だが、値段次第だ」
入札が始まる。
金額が上がっていく。
グレタはしばらく様子を見ていたが、あるところで手を上げた。
「――そこまでだな」
しかし、さらに別の参加者が入札する。
「……降りる」
グレタはあっさり手を下ろした。
『グレタ冷静』
『職人は値段を見てるな』
『マドカならここから粘りそう』
「なんで!?」
マドカがEVを見る。
「私だって無駄なものには――」
その直後。
次の商品が運ばれてきた。
「続いての商品はこちら!」
会場に現れたのは、かなり古びた乗り物だった。
金属部分は錆び、塗装も剥げている。
車輪が二つ。
小型の車体。
そして、見るからに古いエンジン。
「……」
マドカの動きが止まった。
目が大きく開く。
「……え?」
知っている。
知っているどころではない。
あれは――。
地球の原付バイクだ。
ただし、かなり古く、状態も悪い。
「こちらは詳細な製造元などが不明な古い乗り物でして、現在は動作も確認できておりません。価値については――」
「欲しい」
マドカが即答した。
隣のニコラが顔を上げる。
「ん~?」
「……なんか、変な乗り物だよね」
マドカは必死に平静を装った。
「どうやって動くんだろう。ちょっと気になる」
「へぇ~」
ニコラが乗り物を見る。
「おもしろそ~」
「でしょ?」
「うん。構造、見てみたい~」
「じゃあ、買おう!」
『出た』
『マドカ即決』
『どう見てもガラクタなんだがw』
『なんでそれが欲しいんだよw』
『ニコラが興味持ったぞ』
『エキドナ基準だと何かあるのか?』
会場でも、笑い声が聞こえていた。
「こんなものに?」
「動かないんだろ?」
「ただの古い鉄くずじゃないか」
そんな声が飛び交う。
マドカは少しだけむっとした。
だが、ここで「地球の乗り物だ!」などと言うわけにはいかない。
配信中なのだから。
「……まあ、面白そうだから」
それだけ言った。
入札開始。
最初は安かった。
当然だ。
誰も欲しがらない。
「入札!」
マドカが手を上げる。
「お買い得だね」
「はい」
司会が次の金額を提示する。
別の参加者が手を上げた。
「入札!」
「……」
マドカが見る。
その人物は、明らかにマドカを意識している。
「もう一度!」
マドカも手を上げた。
「入札!」
相手も上げる。
「……」
マドカの目が細くなる。
「もう一回!」
『あっ』
『始まったw』
『マドカ負けず嫌いモード』
『それ本当に欲しいのか?w』
さらに金額が上がる。
「入札!」
「入札!」
「入札!」
いつの間にか、最初の価格からかなり離れていた。
「マドカ」
クリスティーナが横から声をかける。
「本当にそれ、そこまでして欲しいものなの?」
「……」
マドカは乗り物を見る。
欲しい。
どう考えても欲しい。
地球のものだ。
しかも、ニコラに解析してもらえる。
「欲しい!」
再び手を上げる。
『wwwww』
『完全に意地になってる』
『最初より何倍になってるんだよ』
『誰か止めろw』
そして最後。
「これ以上はいませんか?」
会場が静かになる。
「――では、落札!」
木槌が鳴った。
「やったー!」
マドカが両手を上げた。
「買った!」
ニコラが古いバイクを見る。
「これ、動かないんだよね~?」
「うん」
「じゃあ、あとで分解してみよ~」
「お願い!」
『エキドナ、ガラクタ買ったぞw』
『ニコラが分解するらしい』
『これ本当に何になるんだ……』
『マドカの目が妙に嬉しそうなのが気になる』
会場の一部では、マドカに競り勝とうとしていた男が、落札価格を見て頭を抱えていた。
「……高すぎるだろ……」
だが、もう遅い。
マドカは満足そうに購入した乗り物を見つめている。
「これでいい!」
その後もオークションは続いた。
魔道具。
希少な鉱石。
魔法剣。
特殊な防具。
古代文明の遺物。
ニコラは魔道具が出るたびに興味を示し、リゼットは魔法関連の品を慎重に見極め、グレタとムサシもそれぞれ欲しい品を見つけていく。
そしてエキドナ側からも、出品が始まった。
「続いての商品はこちら!」
会場に運び込まれたのは、エキドナが用意した品々だった。
モンバト。
EV。
そして――簡易版転移装置。
会場の空気が一気に変わる。
『あれ昨日の展示会にあったやつだ』
『モンバト出すの!?』
『EVまで!?』
『転移装置ってマジ?』
『強欲大陸、これ絶対値段ヤバいぞ』
マドカたちは顔を見合わせた。
「……すごい値段になりそう」
クリスティーナが呟く。
「でしょうね」
リゼットも頷いた。
そして実際。
エキドナの出品物には、次々と入札が入っていった。
マドカが買った古びた乗り物とは、まるで別世界のような熱気だった。
「強欲大陸って、こういうところなんだね……」
マドカが感心する。
「そういうことだろうな」
ムサシが静かに答えた。
オークションは、まだ始まったばかりだった。
エキドナの出品は、予想以上の盛り上がりを見せていた。
特にモンバトは、昨日の展示会を見ていた者たちにとっては、すでに欲しくてたまらない品だったらしい。
「こちらは魔物のデータを保存したカードを使用し、登録された魔物同士を模擬戦闘させることができる魔道具です!」
司会者の説明と同時に、会場のあちこちから声が上がる。
「欲しい!」
「昨日見たぞ!」
「あれが家でも使えるのか!?」
『昨日の展示会から狙ってた人多そうw』
『モンバト人気すごいな』
『強欲大陸、こういう娯楽に弱いんだなw』
次々と入札額が上がっていく。
マドカはその様子を見ながら、楽しそうに笑っていた。
「すごいねー」
「昨日からかなり評判になっていますからね」
リゼットが答える。
「モンバトはモンスター索敵にも使えるし、娯楽にも使える。強欲大陸との相性はかなり良いと思うわ」
「なるほど」
クリスティーナも会場を見回す。
「遊びながら競えるものが好まれる土地なのね」
「そういう文化みたいね」
ニコラはというと、モンバトそのものよりも、別の場所を見ていた。
「……あっちの魔道具、気になる~」
「もう次を見てるの!?」
マドカが笑う。
「だって~。昨日から知らない魔道具いっぱい出てくるんだもん」
「ニコラらしいね」
そしてモンバトの次。
EVが出品された。
会場がざわつく。
「こちらは遠隔地の映像を映し出し、さらに専用の装置を通じて映像を共有できる特殊な魔道具です!」
説明が進むにつれて、入札者が増えていく。
昨日の展示会で、その便利さを実際に見ていた者も多い。
商人らしき人物が積極的に入札していた。
「商売にも使えそうだな」
「遠方の支店と話ができるなら……」
「いや、これは情報そのものに価値がある」
『商人が本気だw』
『娯楽だけじゃなく商業にも刺さってる』
『EV売るんだな』
『エキドナ、何個持ってきたんだよ』
やがてEVも落札される。
そして最後。
「本日の特別出品です!」
司会者の声が大きくなる。
「こちらは――簡易版転移装置!」
会場の空気が変わった。
ざわめきが一気に大きくなる。
「転移装置だと!?」
「本当に転移できるのか!?」
「簡易版ということは、何か制限があるのか?」
当然の反応だった。
転移という技術そのものが、この世界では非常に価値が高い。
まして、それを個人や商会が使える可能性がある。
「簡易版なので、長距離の転移には向きません。また、通常の転移装置ほど大規模な設備も必要ありません」
司会者が説明する。
「ですが――」
装置が実際に起動される。
指定された場所へ転移。
数秒後。
転移先から、係員が戻ってくる。
「成功しました!」
会場がどよめいた。
『うわあああああ』
『これヤバいやつだ』
『商人からしたら革命じゃん』
『昨日の展示会どころじゃないぞw』
入札が始まる。
一気に金額が跳ね上がった。
「すご……」
マドカも思わず呟く。
「これは高くなるでしょうね」
クリスティーナも苦笑する。
「エキドナ、大丈夫なの? こんなものを売ってしまって」
「簡易版ですから」
リゼットが平然と答えた。
「それに、売った相手がどのように使うかについても条件は付けています」
「なるほど」
入札額はさらに上がる。
そして――。
「落札!」
大きな歓声が上がった。
マドカはその光景を見ながら、ふと笑う。
「昨日からずっと思ってたけど……」
「何?」
「強欲大陸って、本当に面白いね」
クリスティーナも頷く。
「ええ。物そのものだけではなく、それをどう使うかにも価値を付けているのでしょうね」
「うん!」
オークションは、その後もしばらく続いた。
そしてようやく終了。
会場を出たところで、マドカは自分が落札したものを見た。
「……これ」
例の古びた原付バイク。
運搬用の台車に乗せられている。
改めて見ても、かなり古い。
だがマドカにとっては、そんなことはどうでもよかった。
「ニコラ!」
「ん~?」
「これ、お願いね!」
「うん~。ちょっと見てみる~」
ニコラはバイクの周囲をゆっくり歩き始めた。
車輪。
ハンドル。
座席。
エンジン。
燃料を使う仕組み。
駆動部分。
しばらく無言で眺める。
「…………」
「どう?」
「ん~……」
ニコラがしゃがみ込む。
そして車輪を軽く触る。
「これ、地面を走るんだよね~?」
「たぶん」
「ふ~ん」
ニコラは反対側へ回る。
「エンジンで動力を作って~」
「うん」
「それを車輪に伝えて~」
「うんうん」
「車輪を回して進む……」
「そうそう」
マドカは頷く。
その説明は、あまりにも普通のものだった。
だからこそ。
ニコラが首を傾げた。
「……なんで?」
「え?」
「なんで地面走る必要あるの~?」
「…………」
マドカが固まる。
「いや、だって……バイクだから……」
「でも~」
ニコラは車輪を眺める。
「魔力で直接推進できるなら、地面との摩擦っていらなくない?」
「……え?」
「車輪って、地面に力を伝えるためのものだよね~?」
「そうだけど……」
「だったら、魔力で浮かせて、そのまま推進した方が効率よくない~?」
「…………」
マドカはゆっくりとニコラを見る。
「ニコラ」
「な~に?」
「それ……バイクじゃなくならない?」
「ん~?」
ニコラは少し考えた。
「……そうかも~」
「そうかもじゃないよ!」
『何の話してるんだろ』
『ニコラまた何か始めた?』
『マドカの声だけ聞こえてくるw』
EVの配信はまだ続いている。
しかし視聴者には、ニコラが何を考えているのかまでは分からない。
ニコラは古びた原付を見つめながら、楽しそうに笑った。
「じゃあ、車輪いらなくな~い?」
「えー……」
マドカは頭を抱えた。
地球で見慣れていた乗り物。
それを再現してもらうつもりだった。
ところが――。
ニコラは、最初から再現する気などなかった。
「こっちの方が面白そう~」
「……まあ、ニコラならそうなるよね」
マドカも諦めたように笑った。
そしてニコラは、古びた原付をもう一度眺める。
「これ、魔力式の動力に変えて~。浮遊機構を付けて~。方向転換は……」
「待って待って」
「ん~?」
「もう改造始まってる?」
「うん~」
「早いよ!」
『wwwww』
『何を作ろうとしてるんだw』
『車輪いらないって聞こえたぞw』
『ニコラの魔改造始まったw』
『マドカ、止めろw』
マドカはEVを見て苦笑した。
「……まあ、面白そうだからいいか!」
『お前もかよw』
こうして。
強欲大陸のオークションで買われた一台の古びた乗り物は――。
ニコラの手に渡ることになった。




