展示会
翌朝。
強欲大陸で迎える二日目。
朝食を終えたエキドナの一行が、それぞれ今日の予定を話していると――。
「皆様、少しよろしいでしょうか」
ホテルのスタッフがやって来た。
「はい?」
ナナリーが振り向く。
「昨日の件で、ホテル側からお願いがございます」
「昨日?」
マドカが首を傾げる。
「昨日の勝負会、それから……」
スタッフが少し緊張した様子で続ける。
「皆様がお持ちになっていた道具についてです」
「ああ」
ナナリーが頷く。
昨日、ニコラが撮影した映像を映像結晶へ送ったことで、多くの宿泊客がその便利さに驚いていた。
ホテル側も同じだった。
「昨日の道具は、宿泊客の間でもかなり話題になっております」
「そうなんですか?」
「はい」
スタッフは笑顔で答える。
「そこでホテルから、一つお願いがございます」
「何でしょう?」
「ホテル内の一角を、皆様の展示スペースとしてお貸しします」
「展示?」
マドカが目を丸くする。
「はい」
スタッフが頷く。
「昨日ご覧になった道具以外にも、何か便利なものがあるのでしたら、こちらで披露していただけないでしょうか」
「……なるほど」
クリスティーナが興味深そうに聞く。
「つまり、紹介するための場所を用意してくださるということですのね」
「その通りです」
「面白そう!」
マドカがすぐに食いつく。
「やろうよ!」
ナナリーが笑う。
「昨日の反響を考えると、いい機会かもしれませんね」
「そうね」
リゼットも頷いた。
「せっかくだし、どんなものを作っているのか見てもらいましょう」
「ん~? エキドナの商品見せればいいの~?」
ニコラが首を傾げる。
「強欲大陸の人たちが何に興味を持つのか、見てみたい!」
「では、場所をご案内します」
ホテル側に案内されたのは、ロビーに近い広めの展示スペースだった。
人通りも多い。
しかも、昨日の映像結晶騒ぎを知っている宿泊客が、ちらほらこちらを見ている。
「何か始まるのか?」
「昨日の人たちだろ」
「怠惰大陸から来た一行だ」
噂が広がる。
それを見たマドカが笑う。
「もう知られてるね」
「昨日一日で、かなり広まったみたいですね」
ナナリーも苦笑する。
まず設置されたのは、昨日から話題になっていたEVと撮影機器。
ニコラが実演する。
「ここをこうして~」
カメラを構える。
少し離れた場所にいるマドカを映す。
その映像がEVへ表示される。
「おお……!」
集まった宿泊客から声が上がる。
「やはり、何度見てもすごいな」
「遠くの人間を、その場にいるように見られる……」
「しかも昨日は映像結晶にも送っていたぞ」
「はい~」
ニコラが答える。
「近くに映像結晶があれば、そっちにも送れるよ~」
「便利すぎる……」
昨日と同じ道具でさえ、この大陸ではまだ珍しい。
だが。
今日はそれだけではない。
「では、次はこちらです」
ナナリーが別の道具を用意する。
扇風機。
冷却用の保存箱。
料理を温めるための魔道具。
どれも生活の中で使える便利なものだった。
「これを部屋に置いたら便利そうだな」
「食材を長く保存できるのか?」
「料理をすぐに温められる?」
「本当に便利だ……」
宿泊客たちは次々と集まってくる。
「まだあります」
マドカが言った。
「次は、モンバト!」
「モンバト?」
客たちが首を傾げる。
「これはね」
マドカが本体を手にする。
「モンスターを探したり、集めたりして遊べるんだよ」
「探せる?」
「うん」
画面を起動する。
画面には、ホテルの周辺にいるモンスターのおおよその数と距離が表示されていく。
「見て」
マドカが画面を示す。
「この辺りに、これくらいいるみたい」
「……探知までできるのか」
宿泊客が覗き込む。
「冒険者にはかなり便利じゃないか?」
「そうだね」
マドカが頷く。
「それだけじゃないよ」
今度は、すでにカード化されているモンスターのカードを取り出す。
「このカードをセットすると――」
モンバト本体へカードを差し込む。
光が集まる。
次の瞬間。
本物と見間違えそうなほどのモンスターが、その場に姿を現した。
「……!」
「出た!」
「何だ、あれは!?」
周囲から驚きの声が上がる。
身体は透けていない。
そこに本物のモンスターが立っているように見える。
ただ。
近くにいた宿泊客が恐る恐る手を伸ばすと、その手はモンスターをすり抜けた。
「触れない……?」
「うん」
マドカが答える。
「ホログラムだからね」
「しかし、本物そっくりだ……」
「このモンスターは、実際に倒した時に吸収した魔力をデータにして、それをカードにしたものなんだよ」
「倒した魔物を……?」
客たちがざわめく。
「つまり、魔物そのものを保存しているのか?」
「正確にはデータかな」
ニコラが答える。
「画面でいろいろ操作できるよ~」
「さらに」
マドカが別のモンバトを取り出す。
「対戦もできる!」
「対戦?」
「あっちのモンバトと繋げて、モンスター同士を戦わせられるんだ」
宿泊客の一人が目を輝かせた。
「やってみてもいいか?」
「もちろん!」
二台のモンバトが並べられる。
互いにモンスターカードをセットする。
それぞれのモンスターが出現する。
「では、最初の指示を出して――」
画面を操作する。
「これであとは自動!」
「自動?」
モンスターたちが動き始める。
魔法。
スキル。
激しい攻防。
周囲から見れば、本物の戦闘そのものだった。
「危ない!」
誰かが思わず身を引く。
だが、魔法がこちらへ飛んできても何も起こらない。
実際にはホログラムなのだから。
「……すごい」
「本当に戦っているみたいだ」
「しかも自分で全部操作するわけじゃないのか」
「最初に指示したら、あとは運も絡むんだよ~」
ニコラが説明する。
「だから、強いモンスターを持ってるだけじゃ勝てないよ~」
周囲から歓声が上がる。
「面白い!」
「もう一度やってくれ!」
「私もやりたい!」
モンバトの前には、あっという間に人だかりができていた。
「次はヒロバト!」
マドカが言う。
「まだあるのか!?」
驚きの声が上がる。
今度、展示台へ置かれたのはヒロバトだった。
「モンバトが魔物なら、こっちは人間データ版」
ナナリーが説明する。
「登録した人間をデータ化して、カードにできます」
「人間を……?」
「はい」
ナナリーが一枚のカードを取り出す。
「対戦もできますし、訓練にも使えます」
「訓練?」
「実際に戦わせて、模擬戦をすることもできます」
客たちの視線が集まる。
「では――」
ナナリーがカードをセットする。
光が集まり。
そこに、人の姿が現れた。
やはり透明ではない。
見た目は実際の人間とほとんど変わらない。
だが、手を伸ばしても触れることはできない。
「……本人がそこにいるみたいだ」
客の一人が呟いた。
「さらに」
ナナリーが続ける。
「登録すると、装備や動作も再現できます」
「動作?」
「例えば――」
ナナリーがマドカを見る。
「マドカ、お願い」
「了解!」
マドカが少し離れた場所へ立つ。
そして――。
「じゃあ、踊るよ!」
マドカとヒロバトのデータが、同時に動き始める。
一歩。
二歩。
ターン。
腕の動き。
足の動き。
すべてが同じ。
ほとんど寸分の違いもなく、二人が完全にシンクロして踊っている。
「……!」
「同じだ……!」
「動きが完全に一致しているぞ!」
観客が息を呑む。
マドカがステップを踏めば、データも同じように踏む。
腕を上げれば、データも上げる。
最後のポーズまで、ぴたりと重なった。
「すごい!」
拍手が起こる。
そこへアリシアとナナリーも加わる。
「じゃあ三人で!」
「はい!」
三人のダンス。
そして。
ヒロバトの三人も同じ動きをする。
実際の三人と、データの三人。
六人が、完全に同じ振り付けを踊っていく。
「何だこれは……」
「本当にもう一組いるみたいだ」
「でも、触れない……」
「それでも動きは完全に同じだぞ」
さらに、別の登録データを呼び出す。
楽器を持ったデータが現れる。
そのデータが楽器を弾く動作をすると、登録された音声データも再生される。
「音まで出るのか!?」
「はい」
「つまり、記録した演奏を何度でも聞けると?」
「そういうことです」
宿泊客たちの驚きは、もはや隠しきれなかった。
戦闘。
訓練。
音楽。
ダンス。
人間の姿や動作そのものを、別の形で残せる。
「一体、何なんだ……」
ホテルのスタッフも言葉を失っていた。
「これは……魔道具なのか?」
「うん」
マドカが答える。
「ヒロバトだよ」
「モンバトもヒロバトも、遊びにも使えますし、訓練にも使えます」
ナナリーが補足する。
「いろいろ使い道がありますよ」
そして。
その展示を見ていた客たちの会話が、少しずつ変わっていった。
「怠惰大陸の一行らしいぞ」
「じゃあ、昨日の映像の道具も怠惰の技術か」
「それだけじゃない。魔物をデータ化する道具まである」
「人間まで再現できるのか……」
「技術が、とんでもないな」
「一体、怠惰大陸にはどれだけのものがあるんだ?」
ホテル側も、その様子を静かに見守っていた。
展示をお願いしただけだった。
だが。
結果として。
ホテルの一角には、人が途切れなくなっていた。
EV。
映像を遠くへ届ける技術。
生活を便利にする魔道具。
モンスターを扱うモンバト。
人間を扱うヒロバト。
そして、それらを当たり前のように扱うエキドナの一行。
「……皆様」
ホテルの責任者が、思わず言う。
「本当に、まだ他にもあるのですか?」
「もちろん!」
マドカが笑った。
「いっぱいあるよ!」
「……」
責任者は絶句した。
そして。
この日から。
強欲大陸では、こんな噂が広がり始める。
――怠惰大陸から来た一行は、とんでもなく便利な道具をいくつも持っている。
――色欲聖女までいるらしい。
――まだ見せていない道具も、たくさんあるらしい。
エキドナの名前は。
昨日までの「ちょっと変わった旅行客」という立場から。
強欲大陸で、少しずつ知られ始めていた。




