↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落内円は落ちている  作者: 七風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
426/529

オセロ

 夕方。


 強欲大陸へやって来た初日の活動を終え、エキドナの一行はホテルへ戻っていた。


 とはいっても。


 部屋へ戻って休む、という雰囲気ではない。


 ホテルの中央にある大きなラウンジ。


 そこには今日一日、それぞれ別行動をしていたメンバーたちが集まっていた。


「おかえりー!」


 マドカが手を上げる。


「ただいま~」


 ニコラが眠そうに手を振った。


「今日はどうだった?」


「面白かったぞ」


 ムサシが答える。


「コロシアムでは、なかなか歯応えのある連中がいた」


「私はもっと色々見て回りたかったです……」


 ナツメが少し残念そうに言う。


「まあ、明日もある」


「それもそうですね!」


 それぞれが椅子へ座る。


 すでにテーブルの上には、強欲大陸で買ってきた菓子や飲み物が並んでいた。


 もちろん、その様子はEVでも配信されている。


『全員戻ってきた!』


『夕方の雑談回きたな』


『今日はグループ多かったから情報量が多いw』


『誰が何してたのか気になる』


 マドカが楽しそうに周囲を見る。


「じゃあ、今日どこ行ってたか話そうよ!」


「それなら俺から話すか」


 クライヴが口を開いた。


「俺はムサシたちとコロシアムへ行ってきた。正直、案内するだけのつもりだったんだが……」


「結局、ワシまで試合をすることになったな」


 ムサシが笑う。


「かなり盛り上がってたぞ」


「こちらは魔法施設を見て回っていたわ」


 リゼットが言う。


「強欲大陸は、魔法そのものよりも『どう使うか』に工夫を凝らしている場所が多いみたいね」


「面白かったです」


 メアリーも頷く。


「同じ魔法でも、考え方が少し違いました」


『リゼット組も面白そう』


『メアリーも同行してるんだ』


『そっちの話もっと聞きたい』


「私は市場を見て回ったぞ」


 ビアンチが買い物袋を置く。


「売れている品、足りていない品、商人が欲しがっている物。かなり参考になった」


「さすがビアンチだね」


 マドカが感心する。


「私は魔道具店を見てきた~」


 ニコラが言う。


「面白いもの、いっぱいあったよ~」


「かなり面白い物が多かったぞ」


 グレタも頷く。


「ただ、こっちの職人は変わった作り方をするな」


「私もいくつか資料を見せてもらいました」


 カトリーヌが続ける。


「強欲大陸は、店ごとに技術の方向性がかなり違いますね」


「いやー、楽しかった!」


 エジソンだけは妙に元気だった。


「魔道具屋だけで一日潰せるよ!」


「でしょうね」


 ナナリーが苦笑する。


「みんな、それぞれ楽しんだみたいでよかったですね」


 すると。


「それなら、こっちも聞いてくださいませ!」


 ガブリエルが勢いよく手を上げた。


「街のほうには、勝負をして景品をもらえる店や催しがたくさんありましたの!」


「そうそう!」


 マドカも乗ってくる。


「今日だけで何回勝負したかな?」


「かなりやっていた気がしますわ……」


 クリスティーナが苦笑する。


「最初は卓球でしたわね」


『卓球w』


『昼のやつか』


『マドカ勝ってたよな』


「それから腕相撲!」


 マドカが指を折る。


「ダーツ!」


「大食いもありましたわ!」


 ガブリエルが続けた。


「それから――」


「ストリートファイトには行ってませんわよ」


 クリスティーナが先回りして止める。


「行こうとはしましたけどね!」


「止めましたわ」


『お母さんが保護者してるw』


『ガブちゃんもノリノリなの草』


『マドカ強欲大陸に順応しすぎ』


 ルーデウスも笑う。


「でも、本当にいろんな勝負があるんだな」


「そうなんです」


 ナナリーが頷く。


「強欲大陸では、単にお金を払って商品を買うだけじゃなくて、勝負そのものが商売になることも多いみたいですよ」


「勝ったら食事代が無料になるとか、宿泊費が安くなるとか、そういうのですね」


 クリスティーナがまとめる。


「面白い文化ですわ」


「それだけじゃないよ」


 アリシアが口を挟んだ。


「勝負に勝ったら、お金じゃなくて情報をもらえる店もあったよ」


「情報?」


 マドカが反応する。


「うん。『勝ったら教えてやる』って」


「強欲らしいですね」


 ヒナタが微笑む。


「自分にとって価値のあるものを、勝負で取りに行くんですね」


「そういうことみたい」


 ナナリーが答える。


 すると、ラウンジの入口から声がした。


「それなら、これをやってみませんか?」


 ホテルのスタッフだった。


「お客様向けに、夕方からちょっとした勝負会を開催しております」


「勝負会?」


 マドカが目を輝かせる。


「はい」


 スタッフが説明する。


「このラウンジでは、宿泊客同士で様々な競技に挑戦できます。勝者には、ホテル内の食事券や施設利用券、それから少し珍しい景品をご用意しています」


「やります!」


 即答だった。


「マドカ、早いです!」


 ナツメが笑う。


「せっかくだもの!」


『また始まったw』


『旅行初日なのに元気すぎる』


『夕方になっても勝負するのか』


『強欲大陸の洗礼』


「では、最初の競技をご案内します」


 ホテルのスタッフが、ラウンジの一角に大きな机を用意する。


 その上に置かれたのは、色とりどりの絵が描かれたカードだった。


「こちらは記憶勝負です」


 スタッフがカードを裏返していく。


「一度に二枚をめくっていただき、同じ絵柄なら獲得。違えば元に戻します」


「なるほど」


 ルーデウスが頷く。


「いわゆる記憶力勝負か」


「はい」


「面白そう!」


 マドカが席につく。


「私もやりますわ!」


 ガブリエルも続く。


「では、始めます!」


 最初のカードがめくられる。


「これ!」


 マドカが一枚目をめくる。


「……花」


 続けてもう一枚。


「違った!」


 カードが元に戻される。


「次は私ですわ!」


 ガブリエルが挑戦する。


「鳥……それから……」


 こちらも外れた。


 何度か繰り返すうち、少しずつカードの位置を覚える者が増えていく。


「あっ、ここですわ!」


 ガブリエルが二枚をめくる。


「正解です!」


「やりましたわ!」


「次!」


 マドカも負けじとカードを取っていく。


 客席からも声が上がり始める。


「そこじゃないか?」


「さっき見たぞ!」


「右のほうだ!」


 いつの間にか、周囲の宿泊客まで勝負に夢中になっていた。


 最後まで競り合い、僅差で勝ったのは――。


「ガブリエル様!」


「やりましたわ!」


 ガブリエルが嬉しそうに立ち上がる。


「こちらが景品です」


 渡されたのは、ホテル内の施設利用券だった。


「明日も使えますのね!」


「はい」


「嬉しいですわ!」


 続いて。


「では、二つ目の競技です」


 スタッフがステージを用意する。


「ホテル専属の歌手と、お客様による歌の対決です」


「歌!」


 ガブリエルが反応する。


 だが、その前に。


「私、やります」


 ナナリーが手を上げた。


「ナナリー?」


 マドカが振り向く。


「だって楽しそうですよ」


 ナナリーが笑う。


「せっかくですし」


「じゃあ頑張って!」


「はい」


 ナナリーがステージへ向かう。


 そして、ホテル専属の歌手が登場した。


 落ち着いた雰囲気の女性だ。


「それでは、一曲ずつお願いします」


 先に歌手が歌う。


 見事な歌声だった。


 ラウンジから拍手が起こる。


「うまいな」


 ルーデウスが感心する。


「さすがホテル専属ですわね」


 クリスティーナも頷く。


 続いて、ナナリー。


 歌が始まる。


 柔らかく、伸びのある声。


 ラウンジが静かになる。


 そして――。


 歌い終わる。


 大きな拍手が起こった。


「すごい!」


 マドカが立ち上がる。


「やっぱりナナリーは最高だよ!」


「マドカ、声が大きいですよ」


 ナナリーが苦笑する。


 スタッフが観客へ向かって尋ねる。


「では、皆様の拍手で勝者を決めたいと思います!」


 大きな拍手。


 そして。


「勝者――ナナリー様!」


「えっ?」


 ナナリーが驚く。


「ありがとうございます」


 ホテルの歌手も笑顔で拍手していた。


「素敵な歌でした」


「ありがとうございます!」


 ナナリーが頭を下げる。


 その様子を見ていた宿泊客の一人が、隣へ小声で尋ねた。


「なあ、あの子……」


「ああ」


「もしかして、あの有名な聖女か?」


「聖女?」


 マドカが反応した。


「そう!」


 嬉しそうにナナリーを指差す。


「色欲聖女のナナリーだよ!」


「色欲聖女……?」


「そうですわ」


 ガブリエルまで加わった。


「とても有名な聖女ですの!」


 周囲の客がざわめく。


「あの聖女が……」


「実際に見るのは初めてだ」


「強欲大陸まで来ているのか」


 ナナリー本人は少し困ったように笑う。


「そんなに大げさに紹介しなくても……」


「だって本当のことだもん」


 マドカは満足そうだった。


 そのまま、勝負会はしばらく続いた。


 そして、その途中。


 ラウンジの一角で、ニコラが配信カメラを持っていることに気づいた宿泊客がいた。


「それは何だ?」


「ん~?」


 ニコラがカメラを見せる。


「これ~? 撮影するやつだよ~」


「撮影?」


「ほら~」


 ニコラがカメラを向ける。


 少し離れた場所にある映像が、EVの画面へ映る。


「……!」


「なんだ、それは!?」


 周囲の客が集まってくる。


「遠くの映像が、そのまま画面に出ているぞ!」


「しかも、今撮ったものなのか?」


「そうだよ~」


 ニコラは当たり前のように答える。


「このカメラで撮ってるからね~」


「そんなことができるのか……」


 さらにホテル側も興味を示した。


「その映像を、ホテル内へ送ることはできますか?」


「できるよ~」


「本当ですか?」


 ホテル側が映像結晶を用意する。


 ニコラがカメラを操作すると。


 ラウンジで撮影している映像が、そのまま映像結晶へ映し出された。


「……!」


 別の場所にいた宿泊客まで驚く。


「何だこれは!」


「遠くの場所の様子が、そのまま見えるぞ!」


「こんな技術があるのか!?」


「すごい……」


 ラウンジの客も、映像結晶を見ている客もざわめき始めた。


「これ、便利すぎないか?」


「遠くの人に、その場の様子を届けられるということか?」


「一体どんな技術なんだ……」


 エキドナ側にとっては、すでに見慣れた光景だった。


 だが。


 強欲大陸の客にとっては違う。


 見る者見る者が驚き、興味を持つ。


「どこで作っているんだ?」


「怠惰大陸だそうだぞ」


「怠惰大陸?」


「今回の一行が、そこから来ているらしい」


 噂は、あっという間に広がっていった。


 そして。


「……なんか、すごいことになってない?」


 マドカが周囲を見る。


「なってるね~」


 ニコラがのんびり答えた。


『強欲大陸の人たち驚いてるw』


『EVと映像結晶、こっちではかなり珍しいのか』


『ニコラ普通に扱ってるけどすごいことしてるな』


『怠惰から来た一行って広まってるぞ』


 その様子を眺めていたジャスティスが、ふとラウンジの隅を見る。


「……」


「どうしたの?」


 マドカが尋ねる。


「いや」


 ジャスティスは周囲を見渡した。


「勝負会、面白かったけどさ」


「うん?」


「なんか、もう一つくらい欲しくないか?」


 ナナリーが笑う。


「まだやるんですか?」


「せっかくの勝負会なんだからな」


 ジャスティスは少し考える。


 そして。


「あ」


 何かを思いついた。


「そうだ」


 ジャスティスがテーブルへ向かう。


「二人でできる遊びがある」


「遊び?」


 近くにいた客が聞き返す。


「オセロだ」


「オセロ?」


 客たちが首を傾げる。


 その瞬間。


 マドカは少しだけ目を細めた。


 ――オセロでドヤ顔してる。


 思わず笑いそうになる。


 だが、口には出さない。


 周囲の地球側の仲間たちも、何も言わなかった。


 ただ、少しだけ面白そうにジャスティスを見ている。


「知らないか?」


 ジャスティスは得意そうだった。


「なら、作ればいい」


「作る?」


「ああ」


 ホテルのスタッフから板を借りる。


 黒と白の駒も簡単に用意する。


 ジャスティスが盤を作る間にも、周囲にはどんどん人が集まってきた。


「何を始めるんだ?」


「新しい勝負らしいぞ」


「俺たちも見よう」


 やがて。


 八×八の盤が出来上がる。


「これがオセロだ」


「どうやって遊ぶんだ?」


「簡単だ」


 ジャスティスが駒を並べる。


「白と黒に分かれる」


「相手の駒を挟んだら、ひっくり返す」


「最後に自分の色が多かったほうが勝ちだ」


「それだけ?」


「ああ」


 説明を聞いた客たちが、盤を覗き込む。


「簡単そうだな」


「でも、奥が深そうだ」


「誰かやってみろよ」


「俺がやろう」


 強欲大陸の宿泊客の一人が手を挙げた。


「いいぞ」


 ジャスティスが向かいに座る。


 ニコラがカメラを向ける。


 ホテル側も、さっきと同じように映像結晶へ中継する。


 さらにEVにも、その様子が映されていた。


『何それ?』


『新しい遊び?』


『オセロっていうのか』


『ルールは分かりやすいな』


『見てるだけでも面白そう』


「じゃあ、始めるぞ」


 ジャスティスが最初の駒を置く。


 相手も置く。


 そして、駒がひっくり返る。


「おお!」


「ひっくり返った!」


 周囲から歓声が起こる。


「そこに置けば、こうなるんだ」


 ジャスティスが説明する。


 すると、見ていた客の一人が、


「なるほど……」


 と呟いた。


 別の客は、


「待て。だったら次は……」


 と盤を覗き込む。


 気がつけば。


 最初は数人だった観客が、ラウンジいっぱいに増えていた。


 ホテル内の映像結晶にも人が集まっている。


 誰かが新しい遊びを見るために足を止め。


 また別の誰かが、それを知人へ教えている。


 夕方の勝負会は、いつの間にか予定されていなかった新しい催しへ変わっていた。


「面白いな、これ!」


「次は俺がやりたい!」


「私も!」


「ルールを書いてくれ!」


 ジャスティスが少し誇らしそうに笑う。


 その隣で。


 マドカはこっそり笑っていた。


 ――ジャスティス、オセロでこんなにドヤ顔してる。


 なんだか面白い。


 けれど。


 その笑いを表に出すことはなかった。


 今、この遊びを初めて見る人たちにとっては、本当に新しいものなのだから。


『今日は色々ありすぎるw』


『ナナリーの歌に新しい映像技術に最後は新しい遊び』


『強欲大陸、初日から情報量多すぎる』


『明日にはもっと広まってそう』


 そして。


 その予想は、翌日には現実になった。


 朝。


 ホテルの中を歩いているだけで。


「昨日の聖女様が――」


「怠惰大陸から来た一行だって?」


「映像を飛ばす魔道具を持っているらしいぞ」


「昨日の黒と白の遊び、もう一回やってくれないかな」


 そんな声が聞こえてくる。


 一晩で。


 エキドナの一行は、強欲大陸でちょっとした有名人になっていた。


 まだ旅行は始まったばかり。


 それなのに。


 強欲大陸の人々の中には、すでに――


 怠惰大陸から来た、面白い連中。


 そんな印象が広がり始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。