賢者会議 バレる
### 賢者会議、バレる
エキドナ情報塔。
今日も配信が始まろうとしていた。
「はい、というわけで!」
マドカがカメラの前に座る。
「今日はちょっと変わったものを紹介します!」
『今日は何の配信?』
『マドカちゃんが持ってるそれ何?』
『また新商品?』
「違うよ」
マドカが手元のEVを持ち上げる。
「これ、昨日情報塔の人から教えてもらったんだけど――」
画面に一つの記録が表示される。
「『七大賢者定例会議』っていう記録があったんだって」
『七大賢者の会議?』
『それって公開されてるものなの?』
『賢者って普通こういう会議内容を公開しないよね?』
「私もそう思った」
マドカが頷く。
「だから、ちょっと見てみようかなって」
『見ていいのかそれw』
『いや待って。七大賢者の会議なら、普通に歴史資料として価値がすごそう』
『しかも定例会議ってことは一回だけじゃないんだろ? 過去の会議まで残ってるなら、かなり珍しい記録だな』
『三百年前とかの話まで残ってるなら、普通の歴史書では分からない当時の話が聞けるかもしれない』
「なんか、みんな急に真面目になったね」
マドカが笑う。
「じゃあ、一番古いところから見てみようか」
記録が再生される。
そこには――。
七人の賢者。
そして。
「ムサシが消えた」
『…………』
『待って。今、ムサシって言った?』
『黒環十騎士団のムサシだよな?』
『三百年前くらいに突然いなくなったって話は聞いたことあるけど、賢者本人たちが話してるのか』
『これはかなり貴重な記録じゃないか?』
『ただ、本人たちも理由は分からないって言ってるみたいだから、そこはそのまま「賢者たちも分からなかった」と受け取ったほうがよさそう』
『なるほど。歴史書とは違って、当時の人たちが何を知っていたのかまで分かるわけか』
マドカが画面を見る。
「……コメント欄、なんかすごいね」
その後も記録は続く。
リゼットについて。
ムサシについて。
三百年前の事件について。
そして――。
「怠惰の内乱」
その言葉が出た瞬間。
『あの事件、やっぱり賢者たちも関わってたのか』
『ちょっと待って。今の話を整理すると、当時の王国では領主同士の争いが拡大して、その混乱に魔物まで入り込んでスタンピードになったってことだよな?』
『しかも王族周辺に悪魔が潜伏して、内乱を煽っていた……。これ、俺が知ってた「昔の貴族同士の争い」って話より、ずっと大規模じゃないか』
『黒環十騎士団も各地へ分散して対応していたみたいだし、本当に国全体が危機だったんだろうな』
「へえ……」
マドカも真剣に聞いている。
さらに記録が進む。
リゼットの過去。
友人たち。
ムサシ。
そして――。
百年前。
「山が動いた」
『山が?』
『……これ、もしかして巨大湖の話?』
『北部にあるあの巨大湖? 昔から山が消えてできたって伝説があるけど』
『え、山そのものが魔物だったの?』
『賢者がメテオを使ったっていう話もすごいな』
『しかもリゼットが七賢者に協力を頼んだのか。あれだけ大きな魔物だったなら、七人がかりでも納得できる』
マドカがしばらく画面を見る。
「……これ、かなり面白いね」
『面白いどころじゃないよ。今まで昔話みたいに聞いてた事件を、当時の賢者本人たちが話してるんだぞ』
『しかも、普通の歴史書だと分からない部分まで出てくる。こういう記録が残ってるのはすごいな』
そして。
ある場面。
リゼットについての話が続いていた。
その中で――。
「勇者」
『…………』
『え?』
『今、勇者って言った?』
『リゼットが勇者!?』
『初耳なんだが!?』
『大賢者なのは知ってるけど、勇者でもあったの?』
『待って。俺も初めて聞いた』
『リゼットって七大賢者の一人って認識だったんだけど』
「そういえば、お姉ちゃんってこないだ聞いたけど勇者認定されたの知らないで引きこもったらしいよ」
『マドカちゃん知ってたの!?』
『そこさらっと出す情報じゃないだろw』
『大賢者で勇者ってどういうこと!?』
『賢者ってだけでも十分すごいのに』
「うん」
マドカは普通に頷く。
「エレノアからこないだ聞いたよ」
『エレノアさんから!?』
『つまりエキドナでは普通に知られてたのか』
『俺たち初めて知ったんだけど……』
『リゼット、肩書き多すぎない?』
マドカは少し笑った。
「色欲のアナスイが怠惰の勇者はずっと見ないっていうからジャスティスがエレノアに頼んでどんな人か調べたらしいけど 引きこもってたらいないわけだよね!」
そのまま記録を再生していく。
視聴者はまだ混乱している。
『え、待って。じゃあ今まで俺たちが「大賢者リゼット」って呼んでた人、昔は勇者でもあったってこと?』
『勇者のほうが知られてないの、なんか不思議だな』
『というか本人はこの話知ってるの?』
『リゼット本人に聞いたら「何それ?」って言いそう』
『ありそうw』
マドカも苦笑する。
「お姉ちゃんは そんなの知らないわよって言ってたけどね。」
その頃。
エキドナから遠く離れた場所。
七人の賢者が集まっていた。
「…………」
誰も喋らない。
EVの画面に映っているのは――。
マドカの配信。
そして。
コメント欄。
「……」
「……」
「……」
メアリーが恐る恐る口を開いた。
「……ねえ」
「なんじゃ?」
「これ……」
「うむ」
「私たちの会議……」
「そうじゃな」
「……見られてます?」
「…………」
老賢者が画面を見つめる。
コメントが流れていく。
しかも。
会議そのものにコメントは入っていない。
視聴者から質問が飛んでくることもなかった。
だから。
賢者たちはずっと安心していた。
「……コメントを打ち込めないようにしたから」
別の賢者が呟く。
「誰も入ってこられんと思っておった」
「そうじゃ」
「しかし……」
メアリーが画面を指差す。
「**見られないようにしたわけじゃなかったんですね**」
「…………」
沈黙。
「いや待て」
老賢者が慌ててEVを操作する。
「設定を確認するぞ」
「はい!」
「外部コメント――禁止」
「はい」
「外部参加――禁止」
「はい」
「公開記録――」
「…………」
老賢者の手が止まる。
「……許可」
「…………」
「…………」
「…………」
メアリーが小さく言った。
「……それ、最初から公開だったんですか?」
「……そうらしい」
「じゃあ……」
メアリーは顔を引きつらせる。
「**最初の会議から全部?**」
「…………」
老賢者が恐る恐る一覧を見る。
そこには。
『七大賢者定例会議 第1回』
『第2回』
『第3回』
『第4回』
『第5回』
『第6回』
『第7回』
『第8回』
そして。
『第9回』
「…………」
「…………」
「…………」
全員が固まった。
「……どこまで見られたんじゃ?」
「たぶん……全部です」
「ムサシの話も?」
「はい」
「怠惰の内乱も?」
「はい」
「百年前の巨大亀も?」
「はい」
「リゼットのことも?」
「……はい」
老賢者が頭を抱えた。
「…………終わった」
「終わりましたね」
「いや、まだじゃ」
別の賢者が言う。
「何が?」
「コメント欄を見ろ」
全員が画面を見る。
そこでは視聴者たちが、すでに会議の内容をもとに議論を始めていた。
『第1回から見直してるけど、これ昔の歴史を本人たちの話で見られるのすごいな』
『ムサシの話も、怠惰の内乱も、普通の歴史書では知らないことがかなり出てきてる』
『ただ、賢者本人たちが分からないと言ってることまで、こっちで勝手に答えを作らないほうがいいと思う』
『それはそう。こういうのは当時の賢者たちが何を知っていたのかを知る資料として見るのが一番面白い』
『あと、リゼットが勇者だったって初めて知った。大賢者っていうのは有名だけど、勇者って肩書きは聞いたことなかったわ』
『俺も初耳。しかもマドカちゃんは普通に知ってたのが一番びっくりした』
「…………」
賢者たちが顔を見合わせる。
「もう知られておる……」
「しかも、かなり見られている……」
「第九回まで全部……」
メアリーが頭を抱える。
「どうするんですか、これ……」
「……」
老賢者はしばらく黙っていた。
そして。
「……次の会議から」
「はい」
「ちゃんと設定を見直そう」
「遅いですよ!」
メアリーの叫び声が、EVの中に響いた。
こうして――。
七大賢者たちはようやく気づいた。
自分たちの「完全非公開」のつもりだった会議は。
コメントも参加者も完全に締め出していたのに。
**見ることだけは、最初から誰でもできる状態だったのである。**




