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落内円は落ちている  作者: 七風


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賢者会議第七回



 ――約三百二十年前。


 怠惰の王国は、各地で混乱が続いていた。


 スタンピードによる被害。


 領主同士の争い。


 そして――。


「その当時な」


 EVの中で、老賢者が静かに口を開く。


「王家のほうも、かなりきな臭かったのじゃ」


「王家も?」


 メアリーが聞き返す。


「うむ」


 別の賢者が頷く。


「王妃同士の争いがあったんじゃ」


「王妃同士……?」


「そうじゃ」


「当時の王には、複数の王妃がおった」


「そして問題になったのが――」


「誰の子を次の王にするか、じゃ」


「……」


 メアリーが少し顔を曇らせる。


「王位継承争いですか?」


「そういうことじゃ」


「最初は表向きには、そこまで酷くなかった」


「それぞれの王妃が、自分の子を王にしたい」


「当然と言えば当然じゃな」


「じゃが――」


 賢者がため息をつく。


「だんだん、手段が酷くなっていった」


「毒殺があった」


「暗殺もあった」


「王妃の側近が襲われることもあった」


「貴族の家が脅迫されたこともあった」


「王位継承を巡る派閥争いが、どんどん大きくなっていったんじゃ」


「そんな……」


 メアリーが絶句する。


「王都でも、貴族同士の小規模な抗争が起きるようになった」


「最初は言い争い程度じゃった」


「じゃが、そのうち護衛同士が剣を抜く」


「魔法が飛ぶ」


「一晩で何人も負傷するような騒ぎまで起きた」


「王都で……?」


「うむ」


 別の賢者が苦笑する。


「本来なら、王都こそ一番安全でなければならん」


「じゃが当時は、王都にいる貴族ほど派閥争いに巻き込まれておった」


「それぞれの王妃を支持する派閥があったからの」


 メアリーは少し考える。


「では、王家と領主たちの争いは……」


「別々に起きていたように見えた」


「じゃが、実際にはそうではなかった」


 賢者の声が少し低くなる。


「領地で起きていた争い」


「王都で起きていた貴族同士の抗争」


「王妃同士の争い」


「そして、スタンピード」


「全部が同じ時期に起きておった」


「…………」


 メアリーが黙る。


「偶然じゃなかった」


 老賢者が言った。


「え?」


「後になって、ようやく分かったんじゃ」


「この一連の騒ぎを――」


「煽っていた者がおった」


 メアリーが息を呑む。


「誰が……?」


 賢者たちは一瞬、黙った。


 そして。


「魔族じゃ」


「…………」


 メアリーの目が大きくなる。


「魔族……?」


「うむ」


「しかも、ただ外から争いを煽っていたわけではない」


「王国の中枢に潜り込んでおった」


「王国の中枢に……?」


「そうじゃ」


 別の賢者が頷く。


「王家の近く」


「貴族社会の中」


「政治に関わる場所」


「そういったところに、魔族が人間の姿を隠して入り込んでおった」


「では……」


 メアリーが恐る恐る尋ねる。


「王妃同士の争いも?」


「煽られていた可能性が高い」


「領主同士の争いも?」


「同じじゃ」


「貴族同士の抗争も?」


「うむ」


「スタンピードまで……?」


「そこについては、当時はまだ確証がなかった」


 老賢者が首を振る。


「じゃが、後から考えれば無関係とは思えん」


「…………」


 メアリーは言葉を失う。


「つまり」


 しばらくして、ぽつりと呟く。


「国の中で、みんなが争っていると思っていたら……」


「実は、その争いそのものを利用されていた?」


「そういうことじゃ」


「人間同士が勝手に争っているように見せて」


「王家も」


「貴族も」


「領主も」


「互いを疑うように仕向ける」


「その隙に、魔族が王国の中へ入り込んでいった」


 メアリーは青ざめた顔で聞いていた。


「……じゃあ、黒環十騎士団は?」


「当然、動いた」


 賢者が答える。


「ただの犯罪組織を潰していた時とは、事情が違った」


「相手は王国そのものに入り込んでいたからの」


「しかも、誰が敵なのか分からない」


「貴族なのか」


「王家の人間なのか」


「騎士なのか」


「それとも、ただの一般人なのか」


「誰も信用できなくなっていった」


「……」


 メアリーが小さく息を呑む。


「そんな状況で……」


「リゼットは、どうしたんですか?」


 賢者たちは顔を見合わせた。


「そこが、あいつの凄いところじゃった」


「リゼットは――」


 老賢者が少し笑う。


「王家も、貴族も、領主も、誰一人として完全には信用せず」


「それでも国を守るために動いた」


「そして黒環十騎士団を使い、少しずつ魔族の痕跡を追い始めた」


「……」


 メアリーの表情が変わる。


「やっぱり、リゼット様すごい……」


「まあ」


 別の賢者が苦笑する。


「そこまでは、確かに凄かった」


「……?」


 メアリーが首を傾げる。


「何ですか?」


「いや」


「その後がのぉ……」


「?」


「まあ、それはまた次の話じゃ」


「また!?」


 メアリーが思わず声を上げる。


「今回もそこまでですか!?」


「一度に全部話すと長いからの」


「そんなぁ……」


 賢者たちは楽しそうに笑う。


「次は、黒幕を追った話じゃ」


「絶対ですよ!」


「うむ」


 こうして第七回の賢者会議も終わった。


 そしてまた――。


 誰も気づかないまま、その記録はEVのアーカイブに残されていた。


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