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落内円は落ちている  作者: 七風


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賢者会議第五回



 今回も、賢者たちはEVの中に集まっていた。


「それで、前回の話の続きなんじゃが」


 老賢者の一人が口を開く。


「黒環十騎士団について、もう少し詳しく話しておこうかの」


「はい!」


 メアリーが身を乗り出す。


「ムサシさんが団長だったんですよね?」


「そうじゃ」


「それ以外には、どんな方がいたんですか?」


「十人おったからの」


「十人……」


 メアリーが目を輝かせる。


「まず団長がムサシ」


 賢者が指を一本立てる。


「そして――」


「アーサー」


「ジークフリート」


「ロビン・フッド」


「セイメイ」


「コウメイ」


「ジャンヌ・ダルク」


「ギルガメッシュ」


「クー・フーリン」


「トモエ」


「この十人じゃ」


「…………」


 メアリーがしばらく黙った。


「ムサシさん以外にも、そんなに強い人が……」


「当時の怠惰は、今とはかなり事情が違ったからの」


 別の賢者が頷く。


「ムサシは言うまでもなく剣の達人じゃった」


「アーサーも剣士ですか?」


「うむ。騎士としての剣技に関しては、当時でも屈指じゃった」


「ジークフリートも剣ですわね」


 別の賢者が続ける。


「こちらは単純な力も凄まじかった。正面から斬り合えば、ほとんどの者が相手にならんかったのぉ」


「つまり……」


 メアリーが指を折る。


「ムサシ、アーサー、ジークフリートの三人が剣士?」


「そういうことじゃ」


「しかも――」


 賢者が少し笑う。


「この三人は、当時の『剣聖』に選ばれておった」


「三人も!?」


 メアリーが驚く。


「はい。同じ時代に三人の剣聖がいたんですか?」


「うむ」


「それぞれ方向性が違ったからの」


「ムサシは技」


「アーサーは騎士としての剣」


「ジークフリートは力と圧倒的な身体能力」


「なるほど……」


 メアリーは納得したように頷いた。


「では、他の方は?」


「ロビン・フッドは弓じゃ」


「遠距離からの攻撃だけではないぞ」


 別の賢者が口を挟む。


「隠密や偵察にも長けておった。犯罪組織を相手にする時など、かなり役に立った」


「セイメイは術師じゃ」


「結界や式を使わせれば、当時の怠惰でもかなりのものじゃった」


「コウメイは軍略じゃな」


「戦場そのものを組み立てるのが上手かった。少人数でも、大勢を相手に戦えるようにするのは見事じゃったぞ」


「ジャンヌ・ダルクは?」


「聖術と防御、それに指揮じゃ」


「前線で剣を振るうだけが戦いではないからの。負傷者を守ったり、仲間を支えたりする役割も大きかった」


「ギルガメッシュは――」


 賢者が少し黙った。


「……まあ」


「?」


「強かった」


「それだけですか?」


「それ以上説明する必要があるかの?」


「ないかもしれません」


 メアリーも妙に納得した。


「クー・フーリンは槍じゃ」


「速かったのぉ」


「真正面から戦わせても強かったが、機動力も高かった」


「トモエ?」


「弓と薙刀、それに騎馬戦じゃな」


「戦場ではかなり目立っておったぞ」


「なるほど……」


 メアリーは十人を頭の中で並べてみる。


「剣が三人いて、弓、術、軍略、聖術、ものすごく強い人、槍、薙刀……」


「うむ」


「……それ、本当に騎士団なんですか?」


「黒環十騎士団じゃからの」


「名前からして騎士団ですけど……」


「実際には何でもできる集団じゃった」


 賢者たちは頷いた。


「そして、この十人が揃ってからじゃ」


 別の賢者が話を続ける。


「怠惰の犯罪組織が、次々と潰されていった」


「そんなにですか?」


「かなりじゃ」


「裏で暗躍していた組織」


「奴隷を扱っていた連中」


「盗賊団と繋がっていた商人」


「領主の権力を利用していた連中」


「一つ潰しても、また別の組織が出てくる」


「じゃが――」


 老賢者が笑う。


「黒環十騎士団は、それを片っ端から潰していった」


「…………」


 メアリーの目が輝く。


「すごい……!」


「本当に凄かったぞ」


「ロビンが逃げ道を潰し」


「セイメイが結界で封じ」


「コウメイが全体を動かし」


「ジャンヌが味方を支え」


「トモエとクー・フーリンが側面から崩し」


「アーサーとジークフリートが正面を突破する」


「そしてムサシが最後に斬る」


「ギルガメッシュは?」


 メアリーが聞く。


「……必要以上に壊す」


「やっぱりそうなんですね」


 メアリーが苦笑する。


「まあ、それでも犯罪組織の壊滅にはかなり貢献した」


「治安は目に見えて良くなったからの」


「当時の怠惰では、黒環十騎士団の名前を知らぬ者のほうが少なかった」


「そんなに有名だったんですか?」


「有名どころではない」


 賢者が笑う。


「犯罪者側からすれば、あの十人の名前を聞いただけで逃げたくなるくらいじゃ」


「……怖い」


 メアリーが少しだけ身を縮める。


「でも、そんなに強い人たちがいたなら、怠惰は平和になったんですよね?」


「……」


 賢者たちが顔を見合わせる。


「そこが、少し難しいところでの」


「?」


「犯罪組織が減り、魔物の被害も抑えられるようになった」


「リゼットと黒環十騎士団が動いたことで、各地の治安は確かに良くなった」


「じゃが――」


 一人の賢者が静かに続ける。


「その頃から、別の問題が出始めた」


「別の問題?」


「各領地で、小さな揉め事が増えたんじゃ」


「領地同士の?」


「そうじゃ」


「最初は本当に小さなものだった」


「境界を巡る争い」


「商業権を巡る対立」


「領民同士の衝突」


「領主同士の小競り合い」


「まだ、その時点では『内乱』などとは誰も呼んでおらんかった」


 メアリーが黙って聞いている。


「じゃがの」


 老賢者が目を細めた。


「後から考えれば――」


「それが、怠惰の内乱の始まりだったんじゃ」


「…………」


 メアリーの表情が変わる。


「内乱……」


「うむ」


「それって……」


 メアリーが少し迷ってから尋ねる。


「リゼット様も関わったんですか?」


「もちろんじゃ」


「黒環十騎士団も?」


「当然じゃ」


「…………」


 メアリーは少しだけ息を呑んだ。


「それじゃあ……」


 賢者たちを見る。


「その内乱の時、リゼット様は何をしたんですか?」


 賢者たちは顔を見合わせた。


 そして――。


「それは、また次の話じゃな」


「えぇ!?」


 メアリーが声を上げる。


「そこまで話しておいて!?」


「今日はここまでじゃ」


「ずるいです!」


 賢者たちは笑った。


「まあまあ」


「次はもっと詳しく話してやる」


「……絶対ですよ?」


「うむ」


 メアリーは少し不満そうに頷いた。


 こうして今回の賢者会議も終わった。


 そしてまた――。


 誰も気づかないまま、今回の会議記録もEVのアーカイブに残っていた。


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