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落内円は落ちている  作者: 七風


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賢者会議第一回



 とある大陸。


 一室に、数人の男女が集まっていた。


 全員、この世界では名の知られた賢者たちである。


 その年齢は、誰もが五百歳以上を超えている。


 ただ一人を除いて。


「……では、本当にこれで外部からの参加はできないのですね?」


 一人の少女がEVを操作しながら確認する。


 年齢は十五歳。


 この場にいる賢者の中では、明らかに一番若い。


「うむ」


「問題ない」


「これなら我々だけで話せるな」


「よかった……」


 少女――メアリーは、ほっと息を吐いた。


 これまでの賢者会議では、わざわざ各大陸へ転移して集まる必要があった。


 そのため、転移魔法を使えるメアリーが呼び出し役をやらされることも多かった。


 本人としては、それがかなり嫌だった。


 だが。


「これなら、もう私が毎回みんなを迎えに行かなくてもいいんですね?」


「うむ」


「非常に便利じゃ」


「本当にいい時代になったものだ」


「……よかった」


 メアリーは心から安心した。


「では、今回の会議を始めましょう」


 メアリーがそう言ったところで。


 一人の賢者が、ふと思い出したように口を開いた。


「そういえば――」


「ん?」


「リゼットが戻ってきたらしいな」


「……ああ」


「その話は聞いた」


「本当に戻ってきたのか?」


 何人かが顔を見合わせる。


「どうもそのようじゃ」


「一体どこにおったんじゃ?」


「それが……」


 メアリーが答える。


「森の中です」


「森?」


「はい。どうも、百年くらい引きこもっていたみたいです」


「…………」


 一瞬、全員が黙った。


「……あいつらしいな」


「昔からそういうところはあった」


「百年か」


「百年じゃぞ?」


「まあ、リゼットならあり得る」


 メアリーが目を丸くする。


「そんなに普通なんですか?」


「普通ではない」


「ただ、あいつの場合はなぁ……」


「昔も研究に夢中になって、何十年も姿を見せなかったことがあった」


「そうなんですか!?」


「うむ」


 メアリーが少し興味を持ったように身を乗り出す。


「リゼット様って、昔からそんな感じだったんですか?」


「昔からじゃ」


「それは後で話そう」


「今はまず――」


 一人の賢者がEVを見る。


「この道具じゃ」


「EVですか?」


「そうじゃ」


 メアリーが頷く。


「リゼット様の組織が作ったものです」


「やはりそうか」


「これ、便利じゃのう」


「非常に便利だ」


「何しろ――」


 老人の一人が椅子に深く身体を預ける。


「動かなくていい!」


「…………」


 メアリーが少しだけ笑った。


「そこですか?」


「そこじゃ」


「三百年生きてきたが、これほどありがたいものはない」


「わざわざ転移する必要もない」


「馬車も船もいらん」


「宿も取らなくていい」


「何より、家から出なくていい」


「…………」


 メアリーは少し考えた。


「皆さん、そんなに移動するの嫌だったんですか?」


「嫌じゃ」


「嫌だな」


「面倒だ」


「……」


 メアリーは少し呆れた。


「賢者なのに……」


「賢者だからじゃよ」


「どういう意味ですか?」


「研究をしておると、外に出る時間が惜しいのじゃ」


「ああ……」


 メアリーは妙に納得してしまった。


「それにしても」


 別の賢者がEVを眺める。


「リゼットの組織も、随分と大きくなったものじゃな」


「昔はあいつ一人で研究しているようなものだったのに」


「今ではこういう便利なものまで作っておる」


「時代が変わったのう」


「本当にのう」


 少しの沈黙。


 そして。


「……しかし」


 一人がぽつりと言った。


「リゼットが戻ってきたとなると――」


「昔のことを思い出すな」


「……そうじゃな」


「久しぶりに、あいつの話でもするか」


 メアリーが顔を上げる。


「昔のリゼット様の話ですか?」


「そうじゃ」


「聞きたいです!」


 メアリーの目が輝いた。


 何しろ、彼女はリゼットを直接知らない。


 知っているのは、偉大な大賢者としての記録だけだ。


「リゼット様って、昔はどんな方だったんですか?」


「そうじゃな……」


 賢者の一人が、懐かしそうに笑う。


「まず――」


「昔のあいつは、本当に生意気でな」


「…………」


 メアリーの目が、少しだけ丸くなった。


「生意気……?」


「うむ」


「非常に生意気じゃった」


「……」


 メアリーは困惑する。


 自分が知っているリゼットは、伝説の大賢者。


 数々の偉業を残し、魔法界に多大な功績を残した人物。


 そのリゼットが。


「生意気……?」


「まあ、そこから話してやろう」


 賢者たちは笑う。


 そして――。


 彼らの記憶の中にある、かつてのリゼットの話が始まった。


 メアリーはまだ知らない。


 この先、自分が知っている「偉大なリゼット」と、賢者たちが語る「昔のリゼット」のあまりの違いに、何度も混乱することになるとは。


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