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落内円は落ちている  作者: 七風


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聖女と勇者

 食事を終えたあと。


 マドカたちは食堂を出て、エキドナの屋敷を案内していた。


 アナスイは先ほどの出来事がまだ頭から離れないらしい。


「……まさか、暴食の勇者が普通に料理を作っているとは思いませんでしたわ」


「私たちも知らなかったけどね」


 マドカが答える。


「聞かれなかったから言わなかった、というのも凄い話ですわね」


「アーノルドらしいよ」


「ふふ……」


 アナスイは少し笑った。


「本当に、エキドナという場所は不思議ですわ」


「そう?」


「ええ。勇者が料理人として働いていて、大賢者様が普通に代表をしていて……」


「そう言われると変なところだね」


「今さら気づいたの?」


 後ろから声がした。


「ナナリー」


 マドカが振り返る。


 そこにナナリーが立っていた。


「あれ?」


 ナナリーはマドカの隣にいる女性を見る。


「お客さん?」


「うん。色欲の勇者のアナスイさん」


「……」


 アナスイが固まった。


 そして――


「…………」


 じっとナナリーを見る。


「……あの」


 ナナリーが少し首を傾げる。


「どうしたの?」


「…………」


 アナスイは何も言わない。


 ただ、ナナリーを見つめている。


「アナスイ?」


 マドカが声をかける。


「……ええ」


 ようやくアナスイが口を開いた。


「申し訳ありませんわ」


「何が?」


「少し……感動してしまって」


「感動?」


「ええ」


 アナスイは一歩、ナナリーへ近づく。


「あなたが……ナナリーさんですのね」


「うん」


「……本当に」


 アナスイは目を輝かせた。


「本当に、ナナリーさん……」


「そうだけど……?」


 ナナリーは少し困った顔をする。


 マドカはそんなアナスイを見て、何となく察した。


「……もしかして」


「ええ」


 アナスイが即答する。


「わたくし、ナナリーさんのファンですの!」


「……」


 ナナリーが瞬きをする。


「私の?」


「はい!」


 アナスイの表情が、先ほどまでとは明らかに違っていた。


「色欲では、あなたのことを知らない者のほうが少ないくらいですわ」


「そんなに?」


「ええ」


 アナスイは力強く頷く。


「歌って、踊って、冒険者としても活動していて……しかも、あれほど強い」


「まあ……」


 ナナリーが少し照れたように笑う。


「ありがと」


「それだけではありませんわ」


 アナスイが続ける。


「あなたは、色欲では少し特別な存在なのです」


「特別?」


「ええ」


 アナスイは少しだけ声を落とした。


「冒険者として強いから、というだけではありません」


「……」


「あなたを見て元気になる方がたくさんいるのです」


 ナナリーが少し驚いた顔をする。


「そうなの?」


「はい」


 アナスイは頷く。


「だから……」


 そこで少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らした。


「わたくしにとっては、あなたは聖女でもありますの」


「聖女……?」


 ナナリーが首を傾げる。


「うん」


「なんか、すごいことになってない?」


 マドカが苦笑する。


「ナナリー、色欲ではかなり人気あるからね」


「そうみたいだね……」


 ナナリーは困ったように笑った。


「でも、私は普通だよ?」


「……」


 アナスイがナナリーを見る。


「それも含めて、好きですわ」


「……そっか」


 ナナリーは少し照れながら笑った。


「ありがと」


「いえ」


 アナスイは嬉しそうに頷く。


 そして――


「ですから」


「ん?」


「わたくし、決めましたわ」


 アナスイが胸を張る。


「今日から、ナナリーさんのお役に立ちます!」


「……え?」


 ナナリーが固まった。


「お役に立つ?」


「はい!」


「何をするの?」


「護衛ですわ!」


「護衛?」


 ナナリーが自分を指差す。


「私の?」


「もちろんです!」


「いや……」


 ナナリーは困ったように笑う。


「私、結構強いよ?」


「存じておりますわ!」


「じゃあ護衛いらなくない?」


「必要かどうかは関係ありませんの!」


「関係あると思うけど……」


 アナスイは真剣な顔をしていた。


「わたくしは色欲の勇者です」


「うん」


「そして、あなたのファンです」


「うん……?」


「ですから、あなたを守りたいのです」


「…………」


 ナナリーは少しだけ黙った。


「……なんか、すごいね」


「迷惑でしたか?」


「ううん」


 ナナリーは首を横に振る。


「嬉しいよ」


「……!」


「でも、私が守られるっていうのは、たぶんあんまりないと思う」


「ええ」


「分かってるの?」


「もちろんですわ」


 アナスイは即答した。


「ナナリーさんがわたくしより強い可能性だって、十分に理解しております」


「そこまで言う?」


 マドカが笑う。


「だって」


 アナスイはナナリーを見る。


「それでも、ファンとして何かしてあげたいと思うのは、おかしくありませんでしょう?」


「……」


 ナナリーが少し考える。


 そして。


「じゃあ」


「はい」


「一緒にお茶飲む?」


「ぜひ!」


「それなら護衛じゃなくてもできるし」


「もちろんですわ!」


 ナナリーが笑う。


「じゃあ、今度一緒に配信もする?」


「えっ!?」


 アナスイの目が輝く。


「よろしいのですの!?」


「うん」


「ぜひお願いしますわ!」


 マドカが横で笑う。


「アナスイさん、さっきまでより明らかにテンション高いよ」


「当然ですわ!」


 アナスイは胸を張った。


「ナナリーさんと一緒にいられるのですもの!」


「そこまで?」


「そこまでですわ!」


 ナナリーは少し照れながら笑う。


「……じゃあ、よろしくね」


「はい!」


 アナスイは嬉しそうに頷いた。


 そして。


 マドカはふと思った。


「そういえば、アナスイさんって一週間くらいエキドナにいるんだよね?」


「ええ」


「だったら、その間に色々一緒に遊べばいいんじゃない?」


「ぜひ!」


 アナスイは即答した。


「ナナリーさんと一緒なら、何でもお付き合いいたしますわ!」


「何でもは困るかも」


 ナナリーが苦笑する。


「危ないことはしないから」


「はい」


「あと、私のことを聖女って呼ぶのもやめてね」


「……努力しますわ」


「努力なんだ」


 マドカが笑う。


 アナスイも少し照れたように笑った。


「ですが……」


「ん?」


「色欲であなたがどれほど慕われているのか」


 アナスイはナナリーを見る。


「いつか、こちらの皆さんにも知っていただきたいですわね」


「それは……」


 ナナリーは少し考えて。


「普通に配信してたら、そのうち伝わるんじゃない?」


「それもそうですわね」


「うん」


 二人は顔を見合わせる。


 そして、自然に笑った。


 こうして。


 色欲の勇者アナスイは――


 憧れ続けていたナナリーと、少しずつ友達になっていくことになった。


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