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落内円は落ちている  作者: 七風


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暴食の勇者

 戦いが終わったあと。


 マドカたちは、アナスイを連れてエキドナの屋敷へ戻ってきていた。


「……なるほど」


 アナスイが屋敷を見上げる。


「ここがエキドナですのね」


「うん」


 マドカが頷く。


「結構広いでしょ?」


「ええ。想像していたよりもずっと大きいですわ」


 アナスイは周囲を見回す。


 屋敷の中へ入る。


 廊下を歩きながら、マドカがいろいろと説明していく。


「ここが食堂で、こっちは会議室。あっちは情報塔」


「情報塔まで屋敷の中に?」


「うん」


「本当に何でもありますのね……」


 アナスイが感心していると――。


「……あ」


 マドカが足を止めた。


「そういえば」


「どうしましたの?」


「私、お腹すいた」


「……」


 アナスイが少し驚いた顔をする。


「まあ……」


「戦ったしね」


 マドカが自分のお腹を軽く押さえる。


「アナスイもお腹空いてない?」


「そう言われてみれば……」


 アナスイも少し考える。


「確かに、かなり空いておりますわ」


「じゃあ食堂行こう」


「ええ」


 二人が歩き出す。


 カメラもそのまま二人を追っていく。


 コメント欄が一気に流れ始めた。


『お、食堂きた』


『エキドナの飯が見られるのか?』


『戦闘後の飯は絶対うまい』


『エキドナの料理配信好き』


『今日は何食べるんだろ』


『アナスイがエキドナ飯食べるの楽しみ』


 マドカもコメントを見て笑う。


「みんな料理楽しみにしてるね」


「そうですわね」


 アナスイも少し笑った。


「エキドナでは食事も有名なのですの?」


「うん。美味しいよ」


「それは楽しみですわ」


 食堂の扉が見えてくる。


 マドカが扉を開けた。


「ただいまー」


「おかえり」


 中から返事が返ってくる。


 そして。


 厨房のほうから、一人の大柄な男が姿を現した。


「昼飯だ」


 アーノルドだった。


「今日は魚だ」


「わーい」


 マドカが嬉しそうに笑う。


「何?」


「焼き魚。味噌汁。それと炊き込みご飯だ」


「いいじゃん!」


 マドカが席へ向かう。


 アナスイもその後ろから食堂へ入る。


「ありがとうございます」


 そう言って、アーノルドを見る。


「…………」


 アナスイの足が止まった。


「……え?」


 アーノルドは気にせず料理を並べている。


「どうしたの?」


 マドカが振り返る。


「アナスイ?」


「…………」


 アナスイはアーノルドを見つめている。


 そして。


「あら?」


 目を見開く。


「……え?」


 もう一度。


「ええ!?」


 食堂に声が響いた。


「なんでここに――」


 アナスイが指を震わせながらアーノルドを指差す。


「**暴食の勇者が!?**」


「…………」


 アーノルドの手が止まった。


 マドカも止まる。


 数秒。


「……ああ」


 アーノルドは淡々と答えた。


「俺がそうだ」


「…………」


 アナスイが完全に固まる。


 コメント欄が爆発した。


『え?』


『暴食の勇者!?』


『アーノルド!?』


『誰!?』


『いやアーノルドだよwww』


『待って、あの料理人!?』


『暴食の勇者って料理の人なの!?』


『エキドナに勇者いたの!?』


『今まで知らなかったんだけどw』


 マドカがアーノルドを見る。


「……勇者だったの?」


「そうだ」


「へぇ」


「…………」


 アナスイがようやく口を開く。


「どうして……」


「ん?」


「どうして、暴食の勇者がエキドナで料理をしていますの!?」


 アーノルドは少し考える。


「深層のモンスターを調理している配信をしていたら、スカウトされた」


「…………」


 アナスイが固まる。


「それだけですの?」


「ああ。それだけだが?」


「ええ!?」


 アナスイが思わず声を上げる。


「それだけなんですの!?」


「そうだが」


「自分が勇者だと名乗らずに!?」


「聞かれなかったし」


「…………」


 アナスイは頭を抱えた。


「そんなことあります!?」


 マドカは少し考える。


「……まあ、私たちもアーノルドの料理がすごかったから誘っただけで、過去なんて一回も聞いたことないよね」


「うん」


 マドカが頷く。


「料理がすごいから一緒に働こうってなっただけだし」


「でしょう?」


 アーノルドも頷く。


「俺も料理を作れるなら、それでよかった」


「いやいやいや!」


 アナスイが慌てて手を振る。


「そこはちゃんと面接した方がよろしいのでは!?」


「面接?」


「はい!」


 アナスイは真剣な顔になる。


「勇者ですのよ!? しかも暴食の勇者! 世界的に知られている存在ですわ!」


「そうなのか?」


「そうですわ!」


「……まあ」


 アーノルドは少し考える。


「俺はアーノルドだ」


「それは知っていますわ!」


「料理ができる」


「それも知っています!」


「深層のモンスターも捌ける」


「そこではありませんわ!」


 マドカが笑い出す。


「でも、確かにアーノルドの腕に惚れたから誘ったって感じだよね」


「そうそう」


 リゼットも頷く。


「料理人として欲しかったのよ」


「それなら、まあ……」


 アナスイが少し困ったように息を吐く。


「……エキドナらしい、と言えばエキドナらしいですけれど」


「でしょう?」


 マドカが笑う。


「アーノルドの料理、美味しいから」


「へへ」


 アーノルドが珍しく少し嬉しそうに笑った。


 アナスイはそんなアーノルドを見つめる。


「……本当に、それだけでよろしいんですの?」


 すると。


 アーノルドが少しだけ表情を変えた。


 いつもの無愛想な顔。


 けれど、その声は穏やかだった。


「ふ」


 小さく笑う。


「色欲」


「……はい?」


「これがエキドナだ」


 アーノルドは食堂を見回す。


 そこには、いつもの仲間たち。


 料理を待つマドカ。


 笑っているリゼット。


 そして、自分が作った料理を当たり前のように楽しみにしている仲間たち。


「俺が何者であろうが、ここは受け入れてくれる」


「…………」


「勇者だからどうとか、そんなことは関係ない」


 アーノルドはテーブルの料理を見る。


「上手いと言って食べてくれる」


 それだけでいい。


 それ以上は、必要なかった。


「それだけで俺は満足だ」


「…………」


 アナスイはしばらく黙っていた。


 そして。


「……なるほど」


 小さく微笑む。


「それが、あなたにとってのエキドナなのですのね」


「ああ」


 アーノルドが頷く。


「だから俺は、ここにいる」


 マドカが笑った。


「じゃあ、アナスイも食べようよ」


「……ええ」


 アナスイは目の前の料理を見る。


「せっかくですもの」


 箸を手に取る。


「暴食の勇者が作った料理、しっかり味わわせていただきますわ」


「うん」


 アーノルドが頷く。


「冷める前に食え」


「はい」


 コメント欄には、まだ驚きの声が流れ続けていた。


『暴食の勇者=アーノルドだったのかよ』


『本人よりアナスイが一番驚いてるw』


『エキドナ、面接で勇者かどうか聞いてないの草』


『でも料理うまいなら納得してしまう』


『アーノルドの料理食べたい』


『今日の配信、戦闘から飯まで情報量多すぎる』


 こうして。


 勇者だろうが。


 料理人だろうが。


 冒険者だろうが。


 エキドナでは――


 美味い料理を作り、仲間と一緒に食べる。


 それが何より大切なことだった。


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