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落内円は落ちている  作者: 七風


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ジャスティスVSアナスイ

 エキドナの訓練場。


 マドカは少し離れた場所に立っていた。


 その向かい側には、ジャスティスとアナスイ。


 そして、その上空にはジャスティスの配信カメラ。


 小型の魔導カメラが二人を追尾しながら、戦闘の様子を映している。


『始まるぞ』


『本当に認定勇者と戦うのかよ』


『しかも色欲のアナスイだろ?』


『ジャスティス大丈夫か?』


『いや、ジャスティスもAランクだぞ。普通の冒険者とは比較にならない』


『でも相手はS級の認定勇者だからな』


『これは普通に見たい』


「では」


 アナスイが魔法剣を抜く。


 細身の剣。


 けれど、刀身には淡い魔力がまとわりついている。


「本当に殺し合うつもりはありませんわ」


「俺だってそのつもりはない!」


 ジャスティスも剣を抜く。


「ただ、俺は勇者だからな!」


『出たw』


『戦闘開始前にも勇者宣言』


『もう今日何回目だよ』


『本人にとっては重要なんだろうなw』


 アナスイが少し笑う。


「その言葉、今日は何度聞くことになるのでしょうね」


「何度でも言うぞ!」


「ふふ」


 アナスイが構える。


「では――」


 次の瞬間。


 アナスイの姿が消えた。


「――っ!」


 ジャスティスが反射的に剣を振る。


 ガキンッ!


 鋭い金属音。


 目の前にアナスイが現れていた。


「速っ!」


 ジャスティスが後ろへ跳ぶ。


 そのまま距離を取る。


『今の見えた?』


『一瞬消えたように見えたぞ』


『ジャスティス反応したのすげえな』


『普通なら最初の一撃で終わってそう』


『アナスイ、初手から速すぎる』


『でもジャスティスちゃんと受けたな』


「なるほど……」


 アナスイは追わない。


「あなた、口だけではありませんのね」


「当たり前だ!」


 ジャスティスが踏み込む。


 今度はジャスティスから。


 大きく振り下ろされた剣を、アナスイは横へ流す。


 ジャスティスはそのまま身体を回し、横薙ぎ。


 アナスイが身を沈める。


 剣が頭上を通り過ぎた。


「そこだ!」


 ジャスティスが追撃する。


 だが。


 アナスイは一歩だけ下がった。


 それだけで攻撃が届かない。


「……!」


 ジャスティスが歯を食いしばる。


 さらに踏み込む。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 アナスイは、そのすべてを最小限の動きでかわしていく。


『ジャスティスも普通に強いじゃん』


『動き速いな』


『アナスイ、全部紙一重で避けてる』


『あの距離で全部避けるのヤバい』


『ジャスティスの攻撃が遅いんじゃなくて、アナスイの見切りがおかしいんだろ』


『Aランク勇者って言われるだけあるな』


「くっ……!」


「力はありますわね」


 アナスイが言う。


「ですが――」


 剣を軽く払う。


 ジャスティスの剣が大きく弾かれた。


「――動きが素直すぎますわ」


「なっ!」


 アナスイが一歩踏み込む。


 ジャスティスは慌てて剣を戻す。


 その瞬間。


 アナスイの剣先が、ジャスティスの肩のすぐ横を通り過ぎた。


「……!」


 ジャスティスが止まる。


「今のは――」


「当てるつもりなら、当たっていましたわ」


「……」


 ジャスティスが息を呑む。


『今の完全に取れたよな?』


『肩ギリギリだった』


『アナスイ、明らかに手加減してる?』


『殺す気がないから当ててないだけだろうな』


『ジャスティスもこれで自分の差を理解した感じか』


『戦闘経験の差がすごい』


 アナスイは構えを崩さない。


「あなたは強いですわ」


「……!」


「少なくとも、普通の冒険者なら相手にならないでしょう」


 ジャスティスが少しだけ笑う。


「そうだろ?」


「ええ」


 アナスイも笑った。


「ですが――」


 魔法剣に光が集まる。


「認定勇者を名乗るには、まだ足りませんわ」


「……!」


『来るぞ』


『魔法剣か』


『ここから本気になるのか?』


『ジャスティス頑張れ』


『アナスイの余裕がすごい』


 アナスイが剣を振る。


 光の斬撃が飛ぶ。


「くっ!」


 ジャスティスが横へ飛ぶ。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 光の刃が地面を削っていく。


「魔法まで剣技と一緒に……!」


 ジャスティスは走りながら距離を詰める。


 斬撃の隙間を抜ける。


「そこだ!」


 アナスイへ向かって踏み込む。


 だが。


 アナスイは剣を横に構えた。


 ジャスティスの剣と交差する。


 そして――


「……え?」


 ジャスティスの身体が浮いた。


 アナスイが剣を受け流し、その勢いを利用していた。


 ドンッ!


 ジャスティスが地面を転がる。


「ぐっ……!」


 すぐに立ち上がる。


「まだだ!」


『おお!』


『まだ立つのか』


『ジャスティス根性あるな』


『普通ならここで心折れそう』


『強い弱いとは別に、こういうところは勇者っぽい』


『アナスイもちゃんと評価してそう』


「ええ」


 アナスイは待っている。


「来なさい」


 ジャスティスが吠える。


「うおおおおお!」


 魔力が膨れ上がる。


 剣が光に包まれる。


 今までとは明らかに違う。


 ジャスティスが一気に踏み込んだ。


 速い。


 アナスイの目が少しだけ見開かれる。


「……!」


 剣が交差する。


 ジャスティスが押し込む。


「これで――!」


 アナスイが受ける。


 地面がわずかに沈む。


『うわ』


『今の威力やばい』


『ジャスティス本気出した?』


『地面沈んでるぞ』


『アナスイが押されてるように見える』


『やっぱりジャスティスも相当強いな』


 アナスイが笑った。


「……なるほど」


「それがあなたの本気ですのね」


「そうだ!」


「では――」


 アナスイの魔力が、一気に膨れ上がった。


「こちらも少しだけ、本気を出しましょう」


「……!」


『え?』


『まだ上があるの?』


『今のジャスティスの全力だろ?』


『アナスイ、それに対して「少しだけ」って言った?』


『怖すぎる』


 次の瞬間。


 ジャスティスの目の前から、アナスイが消えた。


「な――」


 右。


 左。


 背後。


 ジャスティスは必死に対応する。


「どこだ!」


 剣を振る。


 空を切る。


 次の瞬間。


 肩に衝撃。


「ぐっ!」


 ジャスティスがよろめく。


 振り返る。


 いない。


「こっちですわ」


「――!」


 背後。


 剣の柄が、ジャスティスの背中を軽く叩いた。


 ジャスティスが前へ転がる。


『速すぎる』


『何これ』


『さっきまでと別人じゃん』


『ジャスティスが全然対応できてない』


『アナスイ、S級って本当なんだな』


『いやこれS級とかそういう次元なのか?』


『ジャスティスもかなり強いのに完全に翻弄されてる』


『世界の認定勇者ってやっぱり別格なのか……』


「くそっ!」


 立ち上がる。


 だが。


 アナスイはすでに目の前にいた。


 剣が首元へ――


 ピタリ。


 止まる。


「……」


「……」


 訓練場が静まり返った。


 配信カメラが二人を映す。


 コメント欄も、ほんの一瞬だけ静かになった。


『……』


『終わった』


『完全に勝負ついたな』


『アナスイ強すぎる』


『でもジャスティスもよくここまでやったと思う』


『最初から最後まで逃げなかったのは普通にすごい』


 ジャスティスは動けない。


 アナスイは剣を下ろした。


「私の勝ちですわ」


「……」


 ジャスティスはしばらく黙っていた。


 そして。


「……完敗だ」


 剣を収める。


「認める」


 コメント欄が再び流れ始める。


『潔い』


『ジャスティス、そこは格好いいぞ』


『負け惜しみしないのは偉い』


『さっきまで犯罪者扱いされてたけど、これは普通に勇者っぽいw』


『認定勇者に負けて認められるのは結構すごいだろ』


 アナスイは少し驚いたように目を瞬かせた。


「意外ですわね」


「何が?」


「もっと悔しがるかと思いましたわ」


「悔しいさ」


 ジャスティスは苦笑する。


「でも、負けたのに勝ったって言うほど俺は馬鹿じゃない」


「ふふ」


 アナスイが笑った。


「そこは評価して差し上げますわ」


『おお』


『アナスイ評価した』


『ジャスティス、及第点あるか?』


「……」


 ジャスティスは空を見上げる。


「でも、俺もまだまだだな」


「ええ」


 アナスイは頷く。


「ですが、あなた」


「ん?」


「少なくとも、私が最初に思っていたような『口だけの自称勇者』ではありませんでしたわ」


「……!」


 ジャスティスが顔を上げる。


「じゃあ――」


「及第点」


「……」


「勇者候補としてなら、ですけれど」


『勇者候補きた』


『及第点w』


『認定勇者から評価もらったぞ』


『ジャスティスよかったな』


「及第点……」


 ジャスティスが複雑そうな顔をする。


「なんか微妙だな……」


「何を言ってるんですの」


 マドカが近づいてくる。


「認定勇者に及第点って言われたんだから、結構すごいんじゃない?」


「マドカ……」


『マドカちゃんも普通に見てたな』


『この子、アナスイの戦い見ても余裕あるな』


『ジャスティスの友達ってだけじゃなさそう』


「でも」


 マドカはアナスイを見る。


「お姉さん、かなり強いね」


「ええ」


 アナスイもマドカを見る。


「それで――」


 アナスイは少し首を傾げた。


「あなたは?」


「私?」


「ええ」


 アナスイはマドカをじっと見る。


「先ほどから、あなたはずいぶん余裕そうに見えますわね」


『あ』


『アナスイ気づいた』


『やっぱりマドカも見てたのか』


『この流れ、嫌な予感しかしない』


「そうかな?」


「はい」


「私は別に――」


 マドカは少し考える。


「ジャスティスの友達だから見てただけだよ」


「……」


 アナスイは笑った。


「そうですか」


「うん」


「では――」


 アナスイの視線が、マドカの腰へ向かう。


 そこにある刀。


「その剣」


「これ?」


「ええ」


 アナスイが興味深そうに見る。


「あなたも、かなりの腕をお持ちなのではありません?」


『剣……』


『アナスイ、マドカに興味持った?』


『そりゃ気になるだろ』


『さっきからマドカだけ全然緊張してないし』


「んー……」


 マドカは少し考える。


「どうだろう?」


「……」


 ジャスティスが嫌な予感を覚えた。


「おい、マドカ」


「ん?」


「その顔やめろ」


「どの顔?」


「なんか普通に戦おうとしてる顔!」


「してないよ?」


「絶対してる!」


『ジャスティス分かってるw』


『経験者は語る』


『マドカ、戦う時いつもこんな顔なの?』


『たぶんそう』


『というかジャスティス、マドカの強さ知ってるからな』


 アナスイが小さく笑う。


「ふふ……」


 そして。


「では、マドカさん」


 その声が少しだけ変わった。


「一手――」


 アナスイは魔法剣を握る。


「ご教授いただけませんか?」


「え?」


 マドカが目を丸くする。


「私!?」


『来たw』


『マドカVSアナスイ!?』


『待って、この二人が戦うの?』


『ジャスティス戦よりヤバい予感がする』


『アナスイがマドカを指名したぞ』


 ジャスティスが叫んだ。


「なんでお前まで戦う流れになってるんだよ!?」


『お前が言うなw』


『さっきまで戦ってた本人w』


『ジャスティス、完全に置いていかれてる』


 アナスイは楽しそうに笑った。


「だって――」


 その視線は、完全にマドカへ向いていた。


「先ほどから、あなたのほうが気になって仕方ありませんもの」


 マドカは少し困ったように笑う。


「……お姉さん、美人だし」


「?」


「顔は狙わないでおくね?」


『おおおお』


『マドカさん!?』


『それ言って大丈夫かw』


『アナスイにその軽口はヤバいw』


『でもマドカなら言いそう』


 アナスイの目が細くなる。


「ふふ」


 魔法剣を構える。


「その軽口が、いつまで続くのか楽しみですわね」


 マドカも腰の刀へ手を添えた。


「じゃあ――」


 静かに抜く。


「始めようか」


『……』


『来るぞ』


『これ、ジャスティス戦よりヤバくない?』


『マドカの戦闘、配信で見たことあるけど……』


『アナスイも本気出すだろ』


『認定勇者VSエキドナのSランク』


『いや、マドカってそれだけじゃないだろ』


『何者なんだよこの子』


 その瞬間。


 訓練場の空気が変わった。


 ジャスティスは二人から少し離れながら、ぽつりと呟く。


「……俺、今度は観客側なのか?」


 マドカとアナスイは、互いを見つめていた。


 そして――。


 勇者騒乱編は、次の段階へ進もうとしていた。


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