劇の会議
### 劇の会議
エキドナの会議室。
テーブルの上には、劇の資料が広げられていた。
マドカはその資料を眺めながら、何枚かの紙を並べ替えている。
「うーん……」
「どう?」
リゼットが聞く。
「結構増やせそう」
マドカは資料を見ながら答えた。
「この前、リゼットから『一話に全部入れるのは無理』って聞いたから、最初のシナリオから少しずつ書き直してるんだよね」
「ええ」
「だから、最初から一話で全部終わらせるつもりはもうないよ」
マドカは新しく書き足したページをめくる。
「むしろ、時間が増えるなら、今まで削ろうとしてたところも入れられるし」
「そうね」
リゼットが頷く。
「町での出来事や、冒険者同士のやり取りも増やせるでしょうね」
「うん」
マドカが笑う。
「それでね」
マドカは部屋にいるメンバーを見回した。
「最近、エキドナの人も増えたでしょ?」
「そうね」
「最初に劇を考えた時にはいなかった人もいるし」
マドカが指を折る。
「ムサシさん」
「チヨさん」
「ナツメ」
「ガイル」
そして――。
「ジャスティス」
「……」
その名前が出たところで、何人かが少しだけ反応した。
「だから、配役を増やしたいんだよね」
「今までの役だけでは足りない、と?」
リゼットが聞く。
「うん」
マドカは頷く。
「ただ、普通に『冒険者A』とか『町の人B』を増やすだけじゃ面白くないかなって」
「なるほど」
「せっかくだから、本人たちに合った役を作りたい」
マドカは資料を一枚めくる。
「それに、今回の劇って、無理に演技しなくていいんだよね?」
「ええ」
リゼットが答える。
「基本的には普段のままでいいでしょう」
「だったら、役も本人の仕事とか性格を使ったほうがやりやすいと思う」
「それは確かにそうね」
リゼットが頷く。
「今の劇でも、そういう役が多いもの」
「そうそう」
マドカが笑った。
「だから、ニコラも何か追加できないかなって考えてたんだけど」
「私~?」
ニコラが顔を上げる。
「うん」
「魔道具屋でしょ~?」
「それは今まで通り」
「じゃあ、それでいいんじゃない~?」
「でも、せっかく尺が増えるなら」
マドカが少し考える。
「ニコラ、たまにラップしない?」
「……ラップ?」
「うん」
ニコラが少し考える。
「私、ラップするの~?」
「なんか、町の片隅で突然始めてても面白そう」
「魔道具屋なのに?」
「魔道具屋なのに」
「なんで?」
「知らない」
「知らないんだ~」
ニコラが眠そうに笑う。
「でも、面白そう」
「でしょ?」
「何を歌うの?」
「町のこととか、冒険者のこととか」
マドカが考える。
「別に劇の本筋には関係なくていいよ」
「じゃあ、町を歩いてる冒険者を見て」
ニコラが少し考える。
「『今日も冒険者~、朝から依頼~、魔物を倒して~、お金をもらう~』とか?」
「そうそう」
「適当すぎない?」
ナナリーが笑う。
「ニコラならいいんじゃない?」
マドカも笑う。
「途中でぼやいててもいいし」
「ぼやく?」
「うん」
マドカが頷く。
「『今日も魔道具売れない~』とか」
「それいいね~」
ニコラの目が少しだけ輝く。
「じゃあ、ラップしながら商売の愚痴言っていいんだ?」
「いいよ」
「楽しそう~」
「本筋にはほぼ関係ないけどね」
「それなら好きにできるね~」
ニコラが満足そうに頷いた。
「……劇に関係あるのか、それ」
リゼットが少し苦笑する。
「一応、町の人だから」
「そうね……」
リゼットも納得する。
「町にそういう人がいると思えばいいでしょう」
「うん」
マドカが頷く。
「それで、他の人も考えたい」
マドカは資料を見ながら続ける。
「ムサシさんは……」
「サブギルドマスターでいいんじゃない?」
リゼットが言う。
「それが一番自然ね」
「うん」
マドカも頷く。
「チヨさんとナツメは、ムサシさんの弟子」
「それなら、ギルドに出入りしてる二人の若い剣士や魔法使いとして出せるわね」
「ガイルは?」
「Sランク冒険者」
マドカが即答した。
「それはそのまま?」
「そのままがいいと思う」
「確かに」
リゼットも頷く。
「本人もそのほうがやりやすいでしょう」
「あと……」
マドカが資料をめくる。
「ジャスティスは?」
「……」
リゼットが黙った。
「ジャスティスは?」
マドカがもう一度聞く。
「……勇者でしょうね」
「だよね」
「ただ」
リゼットが少し考える。
「勇者をどういう立場にするかは決めたほうがいいでしょうね」
「旅をしてる勇者にしよう」
マドカが言った。
「各地を旅していて、たまたまゴールに休憩に来てる」
「なるほど」
「だから、町にずっといるわけじゃない」
「それなら、途中でふらっと出てきても不自然じゃないわね」
「うん」
マドカが頷く。
「冒険者の依頼を手伝ったり、町のイベントに参加したり、たまにいなくなったり」
「勇者なのに自由ね」
「旅してるからね」
「まあ、いいでしょう」
リゼットが資料に書き込む。
「ジャスティスは旅をする勇者。ゴールにはしばらく滞在している」
「うん」
マドカが満足そうに頷く。
「これなら出番も作りやすい」
そのとき。
「――それでいい!」
突然、会議室の外から声がした。
「……」
全員が入口を見る。
扉が開く。
そこにはジャスティスが立っていた。
「俺は旅する勇者!」
「……」
リゼットが額を押さえる。
「聞いていたのね」
「当然だ!」
ジャスティスが堂々と入ってくる。
「勇者の役があるなら、俺がやる!」
「あなた本人なんだから、やるも何もないでしょう」
「それでも言わせてくれ!」
「何を?」
ジャスティスは胸を張った。
「俺は勇者だ!」
「はいはい」
「軽い!」
マドカが笑う。
「でも、ジャスティスにぴったりじゃん」
「だろう?」
「旅してる設定なら、好きなところに出てこれるし」
「そうだな!」
ジャスティスが嬉しそうに頷く。
「困っている町があれば助け、悪を見れば立ち向かい――」
「それと」
マドカが口を挟む。
「変なポーズをする」
「それは必要だろ!」
「劇としては必要ないけど」
ナナリーが笑う。
「俺の勇者らしさがなくなる!」
ジャスティスが抗議する。
リゼットはそんな様子を見ながら、資料に一言書き足した。
「……まあ、本人が本人らしくやるなら問題なさそうね」
「でしょう?」
マドカが頷く。
「じゃあ、配役はだいぶ増えたね」
「ええ」
リゼットが資料をまとめる。
「ただ、これはまだ配役の話よ」
「うん」
「次は――」
マドカが立ち上がった。
「どういう流れにするか、私が考えてるところをみんなに発表する」
「それがいいわね」
「今までのシナリオをベースにはするけど、かなり変えると思う」
マドカが笑う。
「だって、せっかく五話もあるんだもん」
「そうね」
リゼットも頷いた。
「では次の会議は、具体的な物語の流れを決めましょう」
「うん!」
マドカは資料を抱える。
新しく加わった仲間たち。
増えた撮影時間。
そして、これまで考えていなかった新しい役。
劇は、最初に作ったものから少しずつ形を変え始めていた。




