トライアングル with DJニコ
「最近、ニコラのラップでゴール中が賑やかだね」
マドカがそう言うと、ニコラは椅子に座ったまま首を傾げた。
「そうかなぁ~」
「うん。街でもラップの真似してる人、増えてるよ」
「へ~」
「結構広まってるみたい」
「……」
ニコラは少し考える。
「もっとひろめたい~~」
「もっと?」
「うん~」
ニコラがDJ機材を見る。
「せっかく覚えたから~。もっといろんな人に聞いてほしい~」
「じゃあさ」
マドカが笑う。
「トライアングルでやってみない?」
「トライアングル?」
「うん」
マドカは説明する。
「ナナリーは歌いながらギターも弾けるようになったし、アリシアと私は歌とダンス。そこにニコラのDJとラップが入ったら、結構面白そうじゃない?」
「……」
ニコラが少し考える。
「DJしながらラップ?」
「そう」
「……いいね~」
そこへナナリーがギターを抱えて入ってくる。
「何の話?」
「ニコラがトライアングルに入る話」
「へえ」
ナナリーはニコラを見る。
「いいんじゃない?」
「ナナリーも?」
「うん。私、ギターもあるし」
ナナリーがギターを軽く鳴らす。
ポロン。
「これ、日本の家から見つけたんだけど、ちゃんと使えるから」
「それも一緒にやろうよ」
マドカが言う。
「歌って、ギター弾いて、アリシアと私が踊って、ニコラがDJとラップ」
「結構忙しくない?」
ナナリーが笑う。
「でも、面白そう」
「うん~」
ニコラも頷く。
「もっといろんな人にラップ聞いてもらえるなら、やる~」
そのとき、扉が開いた。
「何をやるって?」
アリシアだった。
「アリシア!」
マドカが振り向く。
「ちょうどよかった。ニコラがトライアングルに入ることになったよ」
「……え?」
アリシアがニコラを見る。
「本当に?」
「うん~」
「DJとラップ担当?」
「そう~」
アリシアは少し考える。
「それなら、今までとはかなり雰囲気が変わりそうね」
「そうだね!」
マドカが嬉しそうに頷く。
「でも、名前はトライアングルのまま!」
「そこは変えないんだ?」
「変えない!」
ナナリーが笑う。
「じゃあ、ニコラは?」
アリシアが聞く。
「『トライアングル with DJニコ』とか?」
「それいい~」
ニコラが即答する。
「じゃあ、それでいこう!」
マドカが手を叩く。
「トライアングル with DJニコ!」
「よろしくね、ニコラ」
「よろしく~」
ナナリーがギターを鳴らす。
ポロン。
ニコラがDJ機材を起動する。
低いビートが流れる。
マドカとアリシアが顔を見合わせる。
「……これ」
「うん」
二人とも笑った。
「今までより、ちょっと面白くなりそう」
こうして――。
歌とダンスを中心に活動していたトライアングルに、ギターとDJ、そしてラップが加わった。
新しい音を手に入れたトライアングル。
その名は――
『トライアングル with DJニコ』。
ニコラがトライアングルに加入して、最初のライブ。
場所は、エキドナが所有する宿屋の屋上。
観客は二百人限定。
そして当然、配信も行われている。
ライブ開始前から、コメント欄はかなり賑わっていた。
『今日のトライアングル、いつもと違うって聞いた』
『DJニコ初参戦』
『二百人限定だから近いぞ』
『いつものきゃぴきゃぴライブじゃないらしい』
『どうなるんだ?』
ステージ裏。
マドカが衣装を見る。
「……本当にいつもと違うね」
これまでのトライアングルは、可愛らしいスカート衣装が中心だった。
しかし今日は違う。
パンツスタイルを取り入れた衣装。
動きやすいブーツ。
少しハードなデザイン。
可愛さを残しながらも、どちらかといえばロック寄り。
「私は結構好き」
アリシアが自分の衣装を見る。
「私も」
ナナリーがギターを抱える。
「ギターにも合うし」
そして。
「お待たせ~」
ニコラがやってきた。
パーカー。
ヘッドフォン。
DJ機材。
「……」
マドカが見る。
「ニコラ、完全に別ジャンルから来た人みたい」
「そう~?」
「うん」
「でも、これでいいんだよね~?」
「うん」
マドカが笑う。
「今日は今までのトライアングルとは違うから」
「じゃあ~」
ニコラがヘッドフォンを首にかける。
「気に入らない人は帰ってもらおうか~」
「それでいいと思う」
アリシアが頷く。
「私たちがやりたいものをやって、それを見たい人に見てもらう」
「うん」
ナナリーもギターを鳴らす。
ジャーン。
「じゃあ、行こう」
ステージへ。
歓声が上がる。
「マドカー!」
「ナナリー!」
「アリシアー!」
「ニコラー!」
四人がステージへ並ぶ。
ニコラがDJ機材の前に立つ。
ヘッドフォンを片耳にかける。
そして――。
低いビート。
ドン。
ドン。
ドン。
会場の空気が変わる。
マドカがマイクを持った。
「今日は、ちょっといつもと違います!」
歓声。
「いつものトライアングルを見たかった人――」
少し間を置く。
「ごめんね!」
客席から笑い声。
「今日は、こっちがやりたいことをやります!」
ニコラがマイクを取る。
「だから~」
客席を見渡す。
「合わないな~って思ったら、帰っていいよ~?」
ざわめき。
そして。
「でも~」
ニコラが笑う。
「残ったなら、最後まで付き合ってね~?」
「うおおお!」
歓声が返る。
「じゃあ、始めるよ~!」
ビートが跳ねる。
ナナリーのギターが重なる。
マドカとアリシアが踊り始める。
歌が始まる。
今までより強い。
可愛さよりも、勢い。
綺麗に揃えるだけではなく、音に身体をぶつけるようなダンス。
そして一曲目の終盤。
ニコラが前へ出た。
「ちょっと待って~」
音が落ちる。
「せっかくだから、今日は一発やろうか~」
観客がざわつく。
「ラップ!」
歓声。
ニコラがビートを刻む。
「いつものトライアングル? 今日は違う~
スカートひらひら? 今日は違う~
可愛いだけ見たい? それならごめん~
今日の私たち ちょっとだけ尖る~」
観客が沸く。
「歌って踊って それだけじゃない~
ギターが鳴って ビートが響く~
マイクを握れば 言葉が飛び出す~
乗れない人には 席を譲る~!」
「うおおお!」
ニコラが客席を指差す。
「でも残ったなら~!」
ビートが一段強くなる。
「声出して!」
「うおおお!」
「まだ小さい!」
「うおおおお!」
「それそれ~!」
ニコラが笑う。
「二百人しかいないなら 二百人で騒げ~
小さな屋上でも 熱量上げろ~
遠慮はいらない 恥ずかしがるな~
今日は私たちが 音を鳴らすから~!」
『ニコラ煽りすげえw』
『客席完全に乗ってる』
『これもうアイドルというよりライブだな』
『でもトライアングルなの笑う』
マドカが笑いながらマイクを取る。
「ニコラ、楽しそう!」
「楽しい~!」
「じゃあ次!」
ナナリーがギターを鳴らす。
ジャーン!
アリシアが前へ出る。
「今度はもっと激しくいくわよ!」
歓声。
曲が始まる。
今度はナナリーのギターが前面に出る。
マドカとアリシアが踊る。
ニコラがビートを重ねる。
四人が、それぞれ違う方向から音を作っていく。
そして曲の途中。
ニコラがまたマイクを取った。
「まだまだいける~?」
「いける!」
「ほんとに~?」
「いける!」
「じゃあ聞かせて~!」
ニコラがビートを落とす。
「トライアングル!」
「うおおお!」
「DJニコ!」
「うおおお!」
「声小さいよ~!」
「うおおおおお!」
「いいね~!」
そして突然。
「じゃあ、今からちょっとだけ意地悪するね~?」
客席が笑う。
「今日ここに来た人~」
ニコラが指を差す。
「『昔のトライアングルのほうが好き』って思ってる人~?」
少し静かになる。
ニコラがニヤッと笑った。
「……帰らなくていいよ~?」
観客から笑い声。
「だって~」
ビートが入る。
「昔が好きでも 今日を見てる~
違うと思っても ここに残ってる~
だったら最後まで 見届けてみな~
気に入るかどうかは 終わってからだ~!」
歓声。
『今のいいな』
『煽ってるのにちゃんと客を巻き込んでる』
『ニコラこういうの向いてるな』
ニコラはさらに続ける。
「可愛いだけなら 他にもある~
踊るだけなら 他にもいる~
歌うだけなら 他にもいる~
だったら私たち 何をする~?」
マドカがマイクを取る。
「全部やる!」
ナナリーがギターを鳴らす。
アリシアが叫ぶ。
「私たちのやり方で!」
ニコラ。
「そういうこと~!」
ビートが爆発する。
四人が一斉に動く。
歌。
ダンス。
ギター。
DJ。
そしてラップ。
今までのトライアングルにはなかった音が、屋上いっぱいに響き渡った。
最後の曲。
四人が並ぶ。
ニコラがヘッドフォンを片耳にかける。
「最後だよ~!」
観客が声を上げる。
「まだ帰ってないね~?」
「帰らない!」
「じゃあ――」
ニコラが笑う。
「最後まで騒いでいって~!」
ビート。
ギター。
歌。
ダンス。
ラップ。
四つの音が重なる。
最後のサビが終わる。
そして――。
大歓声。
「トライアングル!」
「トライアングル!」
「DJニコ!」
「DJニコ!」
ニコラがヘッドフォンを外す。
「うぇーい!」
「うぇーい!」
観客も両手を上げる。
マドカが笑う。
「……すごいね」
ナナリーもギターを下ろす。
「うん。今までとは全然違う」
アリシアも客席を見る。
「でも、悪くないわね」
ニコラが満足そうに笑った。
「でしょ~?」
配信コメントも一気に流れている。
『最初どうなるかと思ったけど最高だった』
『今までと方向性変わったな』
『これはこれで好き』
『ニコラのラップもっと聞きたい』
『ナナリーのギター良かった』
『マドカとアリシアのダンスもいつもよりカッコよかった』
『二百人限定なのもったいない』
『次もっと大きいところでやってくれ』
ニコラはコメントを眺める。
「……もっとひろめたい~~」
マドカが笑った。
「じゃあ、次はもっと大きいところだね」
「うん~」
ニコラがヘッドフォンを首にかけ直す。
「もっと大きい音で~」
ナナリーが笑う。
「そこなんだ」
「うん~」
アリシアが苦笑する。
「でも、次は本当に大きな会場でもいいかもしれないわね」
四人は顔を見合わせる。
この日。
トライアングルは、今までとは少し違う場所へ踏み出した。
ゆるく、きゃぴきゃぴとしたアイドル。
それだけではない。
歌って。
踊って。
ギターを鳴らして。
ビートを刻んで。
ラップで煽る。
見たい人だけ見ればいい。
でも、残ったなら――。
最後まで一緒に騒げばいい。
トライアングル with DJニコ。
その最初の一歩は、二百人の屋上から始まった。




