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落内円は落ちている  作者: 七風


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397/562

ラッパーニコラ

### ニコラ様に煽られたい 本番


 前回の配信から、少し経った。


 エキドナの有料配信。


 今日も画面の向こうには、多くの視聴者が集まっている。


『今日は何するの?』


『またラップ?』


『この前のやつ面白かった』


『銀貨二枚払ってきたぞ』


『ニコラ様に煽られたい』


「はいは~い」


 ニコラがマイクを持つ。


 その隣にはDJ機材。


 そして――。


「今日は特別ゲストもいるよ~」


「俺だ!」


 ジャスティスが胸を張った。


『勇者きたw』


『前回コメントで煽ってた人』


『今日は直接やるのか』


『ジャスティス逃げなかったんだな』


「当然だ!」


 ジャスティスが腕を組む。


「前回はコメント欄だったからな」


「うん~」


「今日はちゃんと俺もマイクを持ってきた!」


「へ~」


「おい、なんだその反応」


 ニコラは笑った。


「じゃあ、今日は本当にやるんだ~?」


「ああ!」


「負けても泣かない~?」


「泣かない!」


「途中で逃げない~?」


「逃げない!」


「じゃあ、いいよ~」


 ニコラがDJ機材に手を伸ばす。


 低いビートが流れ始めた。


 前回より少し速い。


 そして、ニコラが軽く首を揺らす。


「今日のルールは簡単~」


「お互いにラップして~」


「相手の言葉を拾って~」


「上手く返したほうが勝ち~」


『もうラップバトルじゃん』


『前回より本格的』


『世界初のラップバトル始まった』


『ジャスティス頑張れ』


『ニコラ様が本気出しそう』


「じゃあ、最初のお題~」


 ニコラがコメントを見る。


「『勇者ジャスティス』だって~」


「いきなり俺かよ!」


「人気者だね~」


「そういう問題じゃない!」


 ビートが一段強くなる。


 ニコラがマイクを握る。


「じゃあ、いくよ~」


 少し身体を揺らして。


「勇者が登場 堂々参上

 名前はジャスティス 気分は最強

 剣を掲げて 決め顔上々

 今日も自信は 絶好調~」


 視聴者がざわつく。


『おお』


『前より明らかに上手くなってる』


『ちゃんとリズムに乗ってる』


 ニコラは止まらない。


「だけどジャスティス ちょっと聞いて

 その勇者って 誰が認定?

 王国? 騎士団? それとも殿下?

 確認してみたら どこにもないんだ~」


「おい!」


 ジャスティスが即座に反応する。


『www』


『そこ攻めるのかw』


『自称勇者問題』


 ニコラが笑う。


「自分で名乗って 勇者を宣言

 それでも本人 気分は満点

 肩書き豪華で 態度も堂々

 でも証明書だけ どこにもないよ~?」


「あるわけないだろ!」


「なんで~?」


「勇者の証明書なんて聞いたことない!」


「じゃあ自称なんだ~?」


「そういう言い方するな!」


『完全に煽られてるw』


 ジャスティスはマイクを握った。


「……いいだろ」


 ビートが続く。


「今度は俺の番だ!」


 ジャスティスが少し考えてから、口を開く。


「ニコラは眼鏡で 頭は切れる

 だけど最近 ラップばかりしてる

 朝からビートで 夜までマイク

 仕事はどうした? 大丈夫か?」


『おお!』


『ジャスティス返した!』


『ニコラの仕事攻撃きたw』


 ニコラが一瞬止まる。


「……」


 マドカが横で笑う。


「ニコラ、仕事って言われたよ」


「聞こえてるよ~」


「どうする?」


「う~ん」


 ニコラが少し考える。


 そして。


「で~?」


『出た』


『で~?』


『ニコラ様スイッチ』


 ビートが変わる。


 ニコラの声も少し低くなる。


「仕事してるよ~ 今もしてるよ~

 銀貨を払って 見てるの誰~?

 仕事をしてない? それならなんで~

 私の配信に 客がこんなに~?」


『うおおお』


『確かにw』


『有料配信だから強いw』


「ぐっ……!」


 ジャスティスが詰まる。


 ニコラはさらに続ける。


「朝からラップ? 夜までラップ?

 それでも銀貨が 入れば仕事~

 ジャスティス今夜も コメント参加~

 でもお金は払って 見る側なんだ~」


『刺さったwww』


『勇者、客だった』


『正論すぎる』


「お前それは卑怯だろ!」


「ラップだよ~?」


「そういう問題じゃない!」


 マドカが笑う。


「ジャスティス、普通に負けてるよ」


「まだだ!」


 ジャスティスがマイクを握り直す。


「次は俺だ!」


「うん~」


「今度はちゃんと返す!」


 ビートが流れる。


 ジャスティスは少し考え――。


「ニコラはラップで 今日も絶好調

 眼鏡をかけて 態度も上々

 でもよく見れば 眠そうな顔

 そんな状態で 本当に大丈夫か?」


『あw』


『そこかw』


『眠そうなのは事実』


 ニコラが自分の顔を触る。


「眠そう?」


 マドカが頷く。


「うん。ちょっと眠そう」


「……」


 ニコラがジャスティスを見る。


「なるほどね~」


「どうだ!」


「じゃあ、返すね~」


 ビートが一段落ちる。


「眠そう? そうだね 眠いよ~

 でもジャスティス もっと眠いよ~

 勇者を名乗って 気合いは十分

 でもナナリー助けて もらったの誰~?」


「ぐっ!」


『ナナリーwww』


『そこ持ってきたか!』


『勇者、最近ナナリーに助けられたからな』


 ニコラは畳みかける。


「剣ならナナリー 魔法もナナリー

 歌えば人気で ファンもかなり

 勇者のジャスティス 何が上かな~?」


「おい!」


「ポーズ?」


「……」


「ポーズかな~?」


『wwwww』


『唯一の勝ち筋を煽るなw』


 ジャスティスが悔しそうに拳を握る。


「……俺だって強い!」


「うん」


「Aランクだ!」


「うん」


「ちゃんと戦える!」


「うん」


「勇者だ!」


「自称~?」


「そこ戻るのかよ!」


 コメント欄が爆発した。


『今日一番笑った』


『自称が強すぎる』


『ニコラ様、完全にジャスティスの扱い覚えてる』


 ジャスティスは悔しそうにマイクを見る。


「……」


 そして。


「なら、これならどうだ!」


 ビートに合わせて、自分から踏み込んだ。


「俺は自称でも 戦場じゃ本物

 魔物を相手に 逃げない男

 名前だけなら 誰でも言える

 だけど俺は 実力で見せる!」


 ニコラの表情が少し変わった。


「……」


 ジャスティスは続ける。


「お前はラップで 言葉を飛ばす

 俺は剣持ち 前へと出だす

 口だけじゃなくて 俺には実績

 だから勇者を 名乗ってるんだ!」


 マドカが目を丸くした。


「おお……」


『普通に上手くなってる』


『ジャスティスやるじゃん』


『ちゃんと韻踏んでる』


『前回とは別人』


 ニコラは黙ってジャスティスを見る。


 そして。


「……いいね~」


「だろ?」


「ちょっと楽しくなってきた~」


「俺もだ!」


「じゃあ――」


 ニコラが笑う。


「ここから本番ね~」


 ビートが変わる。


 今までよりも速い。


 ニコラの身体が自然にリズムを刻む。


「実力? 実績? それなら聞こうか

 勇者の仕事は 何を残そうか

 魔物を倒して 剣を振って

 それだけじゃないでしょ 何を作って?」


「……!」


「戦うだけなら 冒険者でもできる

 強いだけなら もっといる

 それでも勇者を 名乗るのなら

 その名前に 何を乗せる?」


 ジャスティスは答えられない。


 ニコラは笑った。


「私はラップで 今ここ勝負

 言葉を拾って 次へと連動

 ジャスティスは剣で 魔物を撃破

 私は言葉で ジャスティス撃破~」


『うおおおおお!』


『今の綺麗!』


『ちゃんとラップになってる!』


『韻が気持ちいい』


 ジャスティスは悔しそうに笑う。


「……なるほど」


「うん~?」


「こういうことか」


 ジャスティスがマイクを握る。


「相手の言葉を拾って――」


「そう~」


「そこから自分の言葉にして返す」


「そうそう~」


「なら!」


 ジャスティスもビートに乗った。


「勇者を名乗るな? なら名乗り続ける

 認められなくても 俺は俺でいる

 自称だろうが 笑われようが

 それでも俺は 前へと進む!」


 ニコラの目が少しだけ開く。


「おお~」


『ジャスティスかっけえ』


『急に主人公になった』


『ニコラ様ちょっと驚いてるw』


 ジャスティスはさらに続ける。


「ラップを知らない? そんなの関係ない

 知らないなら今 ここで覚えりゃいい

 ニコラに負ける? それでもいい

 負けたら次に また勝負すりゃいい!」


 マドカが笑う。


「なんかジャスティスらしくなってきた」


「だろ!」


 ジャスティスが得意げに言う。


「……」


 ニコラがマイクを下ろした。


「……」


「どうした?」


「う~ん」


 少し考える。


「じゃあ、最後ね~」


「おう!」


 ニコラがビートを止める。


 一瞬だけ静かになる。


 そして――。


 再び音が鳴った。


「負けてもいい? それなら上等

 次があるって? それなら結構

 前向き発言 気分は上々

 だけど今夜は 私が頂上~」


 ジャスティスが構える。


「強さを語って 勇者を名乗る

 それだけじゃなくて 前へと進む

 その心意気は 確かに立派

 だから最後に 一つだけ言うわ~」


 ニコラが少し笑う。


「ジャスティス~」


「なんだ!」


「今日のラップ~」


 間。


「――ちょっとだけ、カッコよかったよ~」


「…………」


 ジャスティスが固まった。


『え?』


『褒めた?』


『ニコラ様が?』


『珍しい』


 マドカが笑う。


「よかったじゃん、ジャスティス」


「……」


 ジャスティスは顔を逸らした。


「……まあな」


「でも~」


「まだあるのかよ!」


 ニコラがニヤッと笑う。


「最後の最後に~」


 ビートが一瞬だけ跳ねる。


「勝つのは私~」


『wwwww』


「お前ぇぇぇ!」


 ジャスティスの叫び声。


 コメント欄が一気に埋まった。


『最高www』


『これがラップバトルか』


『初めて見たけど面白すぎる』


『ジャスティス普通に強かった』


『ニコラ様の最後の一撃が強い』


『勇者、次もやってくれ』


『銀貨二枚じゃ安すぎるだろ』


『世界初のラップバトル、終了』


 ジャスティスは肩で息をしながら、ニコラを見る。


「……次は勝つ」


「うん~」


「絶対勝つからな!」


「楽しみにしてる~」


「覚えてろよ!」


 そう言ってジャスティスはマイクを置いた。


 その横で、マドカが笑っている。


「二人とも、楽しそうだったね」


「うん~」


 ニコラは満足そうに頷く。


「ラップって、楽しいね~」


 こうして――。


 この世界で初めての本格的なラップバトルは終わった。


 誰もまだ、ラップというものを正確には知らない。


 けれど。


 言葉をリズムに乗せて。


 相手の言葉を拾って。


 韻を踏んで。


 笑わせて、煽って、返していく。


 その面白さだけは――。


 この日の配信を見た誰もが、理解していた。


 そして翌日。


 エキドナでは早くも――。


「昨日のラップ、真似してみたんだけど!」


「俺も!」


「韻ってどうやって踏むんだ!?」


「ニコラ様の配信もう一回見せて!」


 そんな声が飛び交うことになる。


 ニコラの暇つぶしから始まった遊びは――。


 少しずつ、この世界に新しい文化を作り始めていた。


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