有料配信 ニコラ
「というわけで~」
ニコラがマイクを持つ。
目の前にはDJ機材。
そして今日の配信は――有料配信。
『銀貨二枚払ったぞ』
『ラップって何?』
『なんか音楽やるの?』
『ニコラ様がまた変なこと始めた』
コメント欄には、まだ戸惑いが多い。
この世界では、ラップというもの自体がほとんど知られていない。
そんな中。
「今日は~、お題をもらって~」
ニコラが軽くビートを流す。
「それについて、ラップするよ~」
『ラップって説明しないんだ』
『分からないけど見てみる』
『銀貨二枚の価値があるのか?』
「じゃあ最初のお題~」
ニコラがコメントを見る。
「『冒険者』だって~」
ビートが少し強くなる。
ニコラはマイクを口元へ持っていった。
「冒険者~ 剣持って参上~
魔物を倒して 今日も退場~
依頼を受けて 報酬をゲット~
明日の酒代 もうすぐセット~
強さを語って 自信は満点~
だけど仲間が 実は本命~
一人じゃ無理でも みんなで最強~
それでも最後は 自分が最強~」
「…………」
『なんか始まった』
『これがラップ?』
『よく分からんけどリズムはある』
『冒険者への風評被害』
「はい、次~」
「早いな!」
コメントが流れる。
「『騎士』~」
ニコラはすぐにビートへ乗る。
「騎士~ 鎧がピカピカ~
歩けばカチャカチャ 音がガチャガチャ~
剣を掲げて 誓いは立派~
だけど重すぎ 動きはゆっくり~
守るぞ民を 正義を貫く~
魔物が来たら 隊列を組む~
号令かけて さあ突撃~
……その前に誰か 道を開けて~」
『最後ひどいw』
『騎士かわいそう』
『でもちょっと分かってきた』
『これ、普通に口喧嘩を音楽にしてる?』
ニコラが満足そうに頷く。
「こんな感じ~」
そのとき。
コメント欄に、一つの名前が表示された。
『ジャスティス:それラップかぁ?』
「……」
ニコラの動きが止まった。
『来た』
『勇者だ』
『ジャスティス参戦w』
『言っちゃったw』
続けてコメントが流れる。
『ジャスティス:なんか悪口をリズムに乗せてるだけに聞こえるぞ』
『ジャスティス:韻もそんなに踏んでないし』
『ジャスティス:俺でもできそうだな』
ニコラはしばらくコメントを見ていた。
「…………」
「へ~?」
『あ』
『ニコラ様の「へ~?」』
『これはまずい』
ニコラは少し首を傾げる。
「そうなんだ~?」
コメント欄には、ジャスティスの返事。
『ジャスティス:いや、だってそうだろ』
『ジャスティス:ラップってもっとこう、ちゃんと韻踏んだりするもんじゃないのか?』
ニコラはマイクを持ったまま、少しだけ笑った。
「…………」
「で~?」
コメント欄が一瞬、止まった。
『…………』
『来た』
『で~?』
『これ知ってるぞ』
『ニコラ様がちょっとイラッとした時のやつだ』
ニコラはビートを止めない。
「じゃあ~」
口元だけ笑う。
「ジャスティスがやってみれば~?」
コメント欄が一気に流れた。
『おおおおお』
『勇者逃げられないぞ』
『やってみろジャスティス』
『自分で言ったんだからやれw』
しばらくして。
『ジャスティス:……いいだろ』
『ジャスティス:元日本人を舐めるなよ』
「ふ~ん~」
ニコラが笑う。
「じゃあ、聞かせてもらおうかな~」
ジャスティスから、少し長いコメントが送られてきた。
『ジャスティス:
俺が勇者だ 剣を持ってる
魔物が出たら 俺が倒してる
ラップってやつも 知識はあるぜ
ニコラのやつより 俺のほうがやれるぜ』
マドカが横で画面を見る。
「……」
「どう?」
「いや……」
マドカが少し考える。
「普通にラップっぽくしようとしてる」
「でしょ~?」
ニコラが笑う。
「でも~」
ビートを少しだけ変える。
「まだまだだね~」
ニコラがマイクを持ち直した。
「勇者が登場 自信は上々~
言葉は豪快 気分は最強~
『俺ならできる』と コメント参上~
でもまだ一回も マイクを握ってないじゃ~ん?」
『www』
『刺したw』
『コメント欄でラップしてる勇者にそれ言うのかw』
ジャスティスから即座に返事が来る。
『ジャスティス:うるさい!』
「ほら~」
ニコラが笑う。
「ラップっぽく返してみて~?」
『ジャスティス:……』
少し間が空く。
『ジャスティス:分かった』
そして。
『ジャスティス:
マイクはないけど 言葉ならある
お前が煽れば こっちも返す
ニコラが強い? それは認める
でもラップなら 俺も負けねぇ』
「…………」
ニコラが少し目を細める。
今度は笑っていない。
「へ~」
そして――
「……ちょっと面白くなってきた~」
マドカが隣で笑う。
「ジャスティス、意外とできるじゃん」
『ジャスティス:だろ?』
ニコラはビートを上げた。
「じゃあ~」
楽しそうに笑う。
「次はちゃんと、ラップで勝負しよっか~?」




