ニコラ様に煽られたい 第3回
### ニコラ様に煽られたい 特別企画
## 幻影ニコラVSジャスティス
「というわけで!」
マドカがカメラの前で元気よく声を上げた。
「今日は特別企画です!」
『お?』
『特別企画?』
『またニコラ様に煽られるの?』
『ジャスティスいるじゃん』
『嫌な予感しかしない』
カメラが少し横へ向く。
そこにはジャスティスが立っていた。
「今日は俺が挑戦者だ!」
ジャスティスが胸を張る。
「相手は――」
その隣。
静かに立っているニコラ。
そして、その前方には――。
もう一人のニコラがいた。
幻影。
見た目はニコラそのもの。
けれど、こちらのニコラは一切喋らない。
「今日は、幻影ニコラとの模擬戦!」
マドカが説明する。
「本人じゃないからね。戦闘用の幻影だよ」
「そういうことだ」
ジャスティスが剣を抜く。
「俺も勇者だからな」
ニコラが隣で眠そうに頷く。
「うん~」
「……なんだよ」
「別に~」
「その反応、ちょっと不安なんだけど」
ニコラは答えず、幻影を見る。
幻影ニコラは無表情でジャスティスを見ている。
「……」
ジャスティスも構える。
「よし」
マドカが一歩下がる。
「それじゃあ――」
手を上げる。
「開始!」
ジャスティスが踏み込んだ。
「はっ!」
一瞬で距離を詰める。
剣が振り下ろされる。
幻影ニコラは――
スッ。
横へ移動した。
「なっ!?」
剣が空を切る。
ジャスティスが振り返る。
幻影ニコラは、少し離れた場所に立っていた。
そして。
両手を頭の上へ上げる。
片足を少し浮かせる。
満面の笑み。
――声はない。
ただ。
明らかに。
**「うぇーい」**
というポーズだった。
「…………」
ジャスティスが固まる。
マドカも固まる。
「……うぇーいしてる」
ニコラが普通に言った。
「何してんだよ!?」
ジャスティスが叫ぶ。
『wwwww』
『うぇーいw』
『幻影ニコラ喋れないのに煽り性能高すぎ』
『なんでそのポーズなんだよw』
『ジャスティス一発目からバカにされてる』
「今のは何なんだ!」
ジャスティスがニコラへ聞く。
「うぇーい~」
「代弁するな!」
ジャスティスが再び構える。
「今度は当てる!」
踏み込む。
斬撃。
幻影ニコラがしゃがむ。
頭上を剣が通り過ぎる。
そのまま横へ転がり、立ち上がる。
ジャスティスが振り向く。
「そこ!」
追撃。
幻影ニコラは後ろへ跳ぶ。
さらにジャスティスが追う。
一撃。
二撃。
三撃。
全て避ける。
「くっ……!」
ジャスティスの表情が険しくなる。
幻影ニコラは距離を取る。
そして――。
今度は両手を前へ突き出し。
指を曲げる。
口を大きく開ける。
目を細める。
――**がおー。**
「……」
マドカが実況する。
「がおーってしてる!」
『がおーwww』
『なんで戦闘中にがおーなんだよ』
『煽り方が幼稚園児』
『でも避け方はガチ』
『ジャスティス全然当てられてないぞ』
ジャスティスが震える。
「……」
「どうしたの?」
マドカが聞く。
「……あいつ」
ジャスティスが幻影を指差す。
「俺をバカにしてるだろ!」
幻影ニコラは――。
首を傾げた。
「…………」
そして。
両手を広げる。
「何のこと?」
と言わんばかりのポーズ。
「その仕草も腹立つ!」
ジャスティスが突っ込む。
ニコラが横で頷く。
「たぶん~、『何のこと~?』だね~」
「だから代弁するな!」
コメント欄がさらに加速する。
『ニコラ本人が通訳してるの草』
『幻影と本人の連携が完璧すぎる』
『ジャスティス一人だけアウェー』
『戦ってるのは幻影なのに精神攻撃が本体から来てるw』
「行くぞ!」
ジャスティスが魔力を高める。
剣に光が集まる。
「今度は本気だ!」
マドカが少し身を乗り出した。
「おお……」
ニコラも少しだけ目を開く。
「へ~」
ジャスティスが地面を蹴る。
先ほどとは明らかに速度が違う。
幻影ニコラの横を斬る。
避ける。
反転。
さらに斬る。
幻影ニコラが腕を引く。
剣が頬をかすめる。
「当たった!」
ジャスティスが叫ぶ。
しかし――。
幻影ニコラは、その場で頬を指差した。
ほんの少し。
指先で。
「ここ」
と示す。
そして。
ジャスティスを見て。
ニヤッ。
親指を立てる。
――グッ。
「……」
マドカが目を丸くする。
「今の、たぶん……」
ニコラが言う。
「『惜しかったね~』」
「惜しかったじゃねえよ!」
ジャスティスが叫ぶ。
『煽ってるwww』
『無言なのに会話成立してる』
『幻影ニコラのジェスチャー力どうなってんだよ』
『ジャスティスのメンタル削れてるw』
ジャスティスは息を整える。
「……まだだ」
再び構える。
今度は魔法。
「――炎よ!」
巨大な火球が放たれる。
幻影ニコラは横へ跳ぶ。
爆発。
さらに二発。
三発。
追尾する炎。
幻影ニコラは走る。
壁を蹴る。
空中で身体を捻る。
炎がすぐ横を通り過ぎる。
着地。
そして――。
幻影ニコラはジャスティスを振り返る。
手招き。
**「こっちこっち」**
「……」
ジャスティスの額に青筋が浮かぶ。
「来いってことだな?」
ニコラが頷く。
「うん~」
「よし!」
ジャスティスが突っ込む。
幻影ニコラは待つ。
待つ。
さらに待つ。
そして。
ギリギリまで引きつけて――
スッ。
横へ避ける。
ジャスティスが通り過ぎる。
幻影ニコラはその背中を見ながら――
両手を腰に当てる。
首を傾げる。
そして。
肩をすくめた。
**「なんで当たらないの?」**
みたいな仕草。
「…………」
ジャスティスがゆっくり振り返る。
「お前……」
幻影ニコラはさらに追い打ち。
指一本を立てる。
左右に振る。
チッチッチッ。
「……!」
マドカが吹き出した。
「ダメってしてる!」
『チッチッチッwww』
『完全にバカにしてる』
『幻影だから声出せないのが逆に強い』
『ジャスティスかわいそうになってきたw』
ジャスティスは剣を握り直す。
「……もういい」
「お?」
「本気で勝つ」
ジャスティスの魔力が一気に膨れ上がる。
ニコラが少しだけ目を開く。
「お~」
幻影ニコラも構え直した。
今度はふざけない。
真正面から向き合う。
「行くぞ!」
ジャスティスが踏み込む。
速い。
先ほどまでとは比べ物にならない。
幻影ニコラも動く。
二人が交差する。
剣戟。
金属音。
ジャスティスの一撃。
回避。
反撃。
ジャスティスが受ける。
さらに一撃。
二撃。
三撃。
幻影ニコラの動きも速い。
「すご……」
マドカが思わず呟く。
『これ普通に戦闘じゃん』
『幻影ニコラ強すぎない?』
『ジャスティスもかなり強いぞ』
『Aランク勇者相手に普通についていってる』
『むしろ押してる』
ジャスティスが叫ぶ。
「――そこだ!」
大きく踏み込み、渾身の一撃。
幻影ニコラが受ける。
衝撃で床が砕ける。
「取った!」
ジャスティスが叫ぶ。
しかし。
幻影ニコラの姿が――
消えた。
「なっ!?」
背後。
幻影ニコラが立っている。
ジャスティスの肩を――
トントン。
「……!」
振り返る。
幻影ニコラは、ニコッと笑う。
そして。
両手を頬の横へ。
手を猫のように丸める。
首を傾げる。
――**にゃーん。**
「…………」
マドカが吹き出した。
「にゃーん!」
『にゃーんwwwww』
『ここで猫w』
『戦闘の途中で何してんだw』
『ジャスティス完全に遊ばれてる』
ニコラも淡々と頷く。
「にゃーん~」
「お前が言うな!」
ジャスティスが叫ぶ。
幻影ニコラはさらに猫ポーズ。
そのまま。
ちょこちょこ歩く。
「なんで猫歩きまでしてるんだよ!」
マドカは笑いながら実況する。
「ジャスティス、完全に遊ばれてます!」
「実況するな!」
ジャスティスが突っ込む。
しかし。
次の瞬間。
幻影ニコラの表情が変わった。
猫のポーズをやめる。
構える。
「……」
ジャスティスも気づいた。
「……来るか」
幻影ニコラが踏み込む。
一瞬。
ジャスティスの視界から消える。
「――!」
横。
避ける。
背後。
回る。
また背後。
ジャスティスが必死に対応する。
「くっ……!」
だが。
幻影ニコラの一撃がジャスティスの手元を弾いた。
剣が飛ぶ。
カラン。
「……」
ジャスティスが固まる。
幻影ニコラは飛んだ剣を見る。
ジャスティスを見る。
そして――。
両手を腰に当てる。
少し胸を張る。
首を傾げる。
それから。
自分の指を一本、ジャスティスへ向ける。
続いて。
床に落ちた剣を指差す。
最後に。
両手を広げる。
――**「どうするの?」**
「…………」
ジャスティスは何も言えない。
マドカが実況する。
「えっと……」
少し考える。
「たぶん、『もう終わり?』」
「…………」
ニコラが頷く。
「うん~」
「だからお前が代弁するなって!」
ジャスティスが叫んだ。
幻影ニコラは――。
さらに手招き。
「まだやる?」
ジャスティスは剣を拾った。
そして。
「……やる」
再び構える。
幻影ニコラも構える。
今度はジャスティスも笑っていた。
「……なるほどな」
「?」
「分かった」
ジャスティスが言う。
「お前、俺を本気でバカにしてるんだな」
幻影ニコラは――。
親指を立てた。
そして。
親指を下げた。
「…………」
「今のは?」
マドカが聞く。
ニコラが答える。
「『正解~』」
「くっそおおおおお!」
ジャスティスの叫び声が響いた。
コメント欄は爆笑で埋め尽くされていた。
『今日一番面白いw』
『無言の煽り強すぎ』
『幻影ニコラ、喋れないのに会話成立してる』
『ジャスティス頑張れw』
『でも普通に強いのが一番ヤバい』
『これニコラ本人が戦っても強いんじゃね?』
『ジャスティス勝てないだろこれ』
ジャスティスは肩で息をしながら、幻影ニコラを見る。
「……今日は俺の負けだ」
幻影ニコラは静かに立っている。
そして。
最後に。
片手を上げて――
ひらひら。
小さく手を振った。
「…………」
マドカが笑う。
「じゃあ、最後は『ばいばーい』かな?」
ニコラが頷く。
「うん~」
「……」
ジャスティスが空を見上げる。
「なんで負けた俺が最後まで煽られてるんだ……」
幻影ニコラは何も答えない。
ただ。
もう一度だけ。
楽しそうに――
**にゃーん。**
ポーズを取った。
『にゃーんwww』
『最後までそれかよw』
『幻影ニコラ最高』
『ジャスティスお疲れ』
『次は誰が挑戦するんだ?』
こうして――
特別企画。
「幻影ニコラVSジャスティス」
は終了した。
戦闘では、幻影ニコラが圧倒。
そして精神的にも、ジャスティスは完敗だった。




