エキドナ新番組
### エキドナ情報塔・新番組
エキドナ情報塔。
その日、情報塔から新しい番組が始まった。
『本日より、新番組を開始します!』
映像結晶に映し出されたのは、いつもの配信とは少し違うスタジオだった。
中央には大きな机。
その周囲には何人かの出演者が座り、司会役の女性がその前に立っている。
そして、後ろには大きな板が置かれていた。
『新番組?』
『何やるんだ?』
『またエキドナが変なこと始めた』
『情報塔、最近いろいろやるなw』
司会者が笑顔で口を開く。
「この番組では、出演者の皆さんに様々なお題へ答えていただきます!」
「つまり、お笑い番組ですか?」
「そうですね。皆さんに楽しく笑っていただくための番組です!」
「なるほど」
出演者たちが頷く。
その様子を、少し離れた場所からニコラが眺めていた。
いつものように眠そうな顔。
そして眼鏡の奥の目だけが、少し楽しそうに動いている。
「ニコラも出ればいいのに」
マドカが声をかける。
「ん~?」
「こういうの好きそうじゃん」
「見るのは好きだよ~」
「やるのは?」
「ん~……」
ニコラは出演者たちを見る。
「今のところ、そんなに面白くないかな~」
「いきなり毒吐いた!?」
「だって~」
ニコラは悪びれない。
「みんな普通に答えてるだけじゃん~」
「まだ始まったばかりだよ」
「うん~。だから、これから面白くなるかもしれないね~」
その言い方が妙に辛辣だった。
コメント欄にもすぐ反応が入る。
『ニコラ辛辣w』
『まだ始まって数分だぞw』
『普通に期待してる顔なのが余計怖い』
『ニコラ出せ』
司会者が最初のお題を発表する。
「では、第一問!」
板に文字が書かれる。
――『こんな冒険者は嫌だ。どんな冒険者?』
「これは難しいですね」
一人目が手を上げた。
「すぐに仲間とはぐれる冒険者!」
会場から笑いが起こる。
「なるほど!」
司会者も笑顔で反応する。
次の出演者。
「依頼を受けたのに、目的地に着く前に帰る冒険者!」
また笑い。
「いいですね!」
その様子を見ていたニコラが呟く。
「……優しいね~」
「え?」
マドカが振り向く。
「みんな、ちゃんと笑える答えにしてあげてる~」
「どういう意味?」
「ん~?」
ニコラは少し考える。
「私だったら、もっと本人が嫌がるところを突くかな~」
「……」
「例えば~」
ニコラは出演者の一人を見る。
「『自分では一流だと思ってるのに、誰からも指名されない冒険者』とか~」
「ニコラ!?」
マドカが思わず声を上げる。
「それ、結構きついよ!?」
「そう~?」
ニコラは首を傾げる。
「でも、面白くない?」
コメント欄が一気に流れる。
『強いwww』
『初回からそれ言うのかw』
『ニコラの回答だけ温度が違う』
『笑わせるというより刺しにいってるw』
『本人が一番ダメージ受けるやつ』
ニコラはコメント欄を見て、少し笑う。
「ほら~。みんなこっちのほうが好きじゃん~」
「自分から煽ってるじゃん!」
「だって面白いし~」
番組は続く。
「では、次のお題!」
司会者が板を書く。
――『勇者が絶対に言わなそうな一言』
「これは分かりやすいですね!」
出演者の一人が答える。
「『今日は詠唱を短くします』!」
会場が爆笑する。
『勇者www』
『それは絶対ない』
『ジャスティスに聞かせたい』
マドカも笑う。
「これは面白いね」
「うん~」
ニコラも頷く。
「でも、もっとあるよ~」
「何?」
「『今日は俺より強い人の言うことを聞きます』とか~」
「絶対言わない!」
「『俺が間違ってました』とか~」
「言わないね」
「『目立つのは他の人に任せます』とか~」
「それもない!」
マドカが即答する。
ニコラは楽しそうに笑った。
「勇者って、結構いじりやすいね~」
『完全にターゲットにされてるw』
『ジャスティス逃げて』
『本人いないところでボコボコにされてて草』
『ニコラ、こういうの向いてるな』
さらに番組が進む。
出演者たちが答える。
笑いが起こる。
それなりに番組は盛り上がっていた。
そして最後のお題。
「では、本日の最後のお題です!」
司会者が板に書く。
――『エキドナで一番○○な人は?』
「これは自由度が高いですね」
出演者たちが考え込む。
「一番優しい人」
「一番頼れる人」
「一番強い人」
無難な回答が続く。
ニコラはそれを見ながら、ぽつり。
「……つまんないね~」
「また言った!」
マドカが笑う。
「だって~」
ニコラは机に頬杖をつく。
「『一番優しい人』なんて、言われたほうも困らないじゃん~」
「じゃあ、ニコラなら?」
「ん~?」
「何て答える?」
ニコラは少し考えた。
「『一番面倒くさい人』」
「誰?」
「それは言わない~」
「なんで?」
「ここで名前出したら、本人が番組見なくなるかもしれないし~」
「そこは気を遣うんだ……」
「うん~」
ニコラは笑う。
「でも、誰が一番面倒くさいかは、結構分かるよ~」
「怖い怖い」
『誰だよw』
『ニコラに聞きたい』
『絶対エキドナ内部事情じゃん』
『次回そのお題やってくれ』
ニコラはコメント欄を見る。
「次回?」
「うん」
「私が答えるの?」
「それは面白そう」
マドカが笑う。
ニコラは少し考えてから、
「じゃあ、出てもいいよ~」
あっさり答えた。
こうして。
エキドナ情報塔の新番組は、まずまずの反響を得て初回放送を終えた。
ただし――
視聴者の間では、番組そのものとは別に、一つの話題が盛り上がっていた。
『ニコラって、結構毒舌じゃね?』
『普段あんな感じなのに、言ってること刺さるw』
『次はニコラを回答者にしてくれ』
『ニコラの回答だけ聞きたい』
『あの眠そうな顔であれ言うの反則だろw』
ニコラ本人はというと。
「ん~……」
放送終了後、映像結晶を眺めながら、
「次はもうちょっと面白いお題にしてほしいな~」
と、のんびり呟いていた。
この時点ではまだ。
ニコラ自身も知らなかった。
自分の「毒」が、思っていた以上に視聴者から求められていることを。




